ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2009年2号
メディア批評
世襲知事による不正の疑惑解明に尻すぼみ世襲社主の下?戦?の覚悟がない中国新聞

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高 信 経済評論家 FEBRUARY 2009  82  ここに私が監修し、選んだ一冊の本がある。
中国新聞社報道部『ある勇気の記録』(現代 教養文庫)である。
中国新聞は一九六三年春 から、およそ二年間にわたって「暴力追放」 の集中的なキャンペーンを展開し、一九六五 年の菊池寛賞を受賞した。
それは最初、青春 出版社から刊行されたのだが、絶版になって いたのを私が一九九四年に「ベスト・ノンフ ィクション」に入れたのである。
 南々社編の『藤田広島県知事は、4期 16 年 を「カネ」で買ったのではないか?』(南々 社)によれば、その後の同紙は、先代社主の 自宅に散弾銃を撃ち込まれたり、報道部長宅 の壁にコールタールを撒かれたりしても、そ れに負けずに記事を書きつづけてきたのである。
ところが、世襲の現社主になって、知事選疑 惑も追及できなくなった。
 それを聞いて私は伝統は消え失せたのかと 悲しくなったのだが、前掲の本で、南々社の 西元俊典のインタビューに答えて、こう言った。
 「広島は、まさに世界に知られている都市で、 平和は、平和を侵すものとの戦いの中でしか 生まれてこない。
のんべんだらりとつくれる ものではない。
もちろん中国新聞は、(原爆 投下の)八月六日に記者が平和について書く と思うけど、その時に内心忸怩たるものがな いのか。
それと藤田知事との戦いは違ったも のではない。
核廃絶や平和憲法などと別問題 ではない。
藤田知事の不正疑惑を追及せずし て、平和なんてものは守れない。
それはスト レートにつながっている。
別物ではない。
独 裁とかそういうものから戦争は始まるわけで、 腐敗した世襲県政との戦いなくして平和は守 れない。
一方でその世襲県政をそのままにし ておいて平和なんか語ってほしくない。
そして、 今の自民党、公明党の自公政権、あるいは三 代続いている世襲議員の首相について、記者 たちは二世、三世って、その問題を書くわけ ですが、自分の新聞社のオーナーの二世、三 世の問題は意識していないのか」  この中の?世襲県政?とは、藤田知事の父 親が参議院議長をやり、自分もその後を継い で参議院議員となり、途中で知事に転身した ことを指す。
 元宮城県知事で慶大教授の浅野史郎もイン タビューに応じて語っているように、広島県 議会は二度辞職勧告を決議しながら、百条委 員会を設置することはできなかった。
つまり 及び腰だったのである。
 元中国新聞編集局長で広島市長も務めた 平岡敬によれば、この疑惑の解明に中国新聞 は明らかに「尻すぼみ」となった。
買収され たのではないかという疑惑の県議一〇人につ いても徹底的に追及できなかったのである。
 中国放送は実名報道に踏み切って徹底追及 したが故に、中国新聞の弱腰はいやでもクロ ーズアップされた。
 平岡は「社運をかけてやるくらいの上層部 の決意」があったのか聞きたいとして、こう 語る。
 「今回の疑惑解明の報道でいえば、まず、 編集局長、報道部長、デスクが自分の首をか けてやるくらいの気概がいる。
それがあるか どうかが、本当のジャーナリズムの批判精神 をもっているかのリトマス試験紙になります。
こうした取材は、広島にある地方メディアに とって?戦(いくさ)?だという認識が重要 です。
 世論をバックにして、地域のため、県民の ためを最優先にするという方針にもとづき、 編集幹部は、戦略を練り、戦術を立てて、記 者の役割分担を定め、明確に指示を出し取材 に臨むべきです。
『知事の不正疑惑解明』と いう錦の御旗をかかげ、戦後綿々と続く県政 の金権体質の闇の構造に切り込むいいチャン スだった」  感動をもって『ある勇気の記録』を読み、 それをベスト・ノンフィクションに入れた私 にはショックな「尻すぼみ」である。
世襲知事による不正の疑惑解明に尻すぼみ 世襲社主の下?戦?の覚悟がない中国新聞

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