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FEBRUARY 2009 18
三菱商事ロジスティクス
──商社機能を物流事業に注ぎ込む
三菱商事子会社で国際物流のエム・シー・トランスインターナ
ショナル(McTI)と国内物流の菱光ロジスティクスを2006 年4
月に合併し、新たなスタートをきった。 いたずらに規模を追わず
収益性を重視し、投資や決済などの金融機能を物流サービスと組
み合わせた商社型の事業展開を図っている。 (聞き手・梶原幸絵)
「社内仕切制」で拠点別収益を検証
││McTIと菱光ロジスティクスの合併から三年
が経とうとしています。 効果は。
「1+1が2以上になっています。 国際物流と国内
物流を一つの会社にしたからこそ、さまざまな面で
効率的なかたちになったと評価しています」
「この三年間、収益基盤の強化と業態変革に取り
組んできました。 これには、かなりドラスチックな手
法を使いました。 それまで国内では首都圏を中心に
十三カ所・八万坪の倉庫を持ってオペレーションをし
ていましたが、このうち賃貸に出す部分を増やしてい
ます。 収益性、経営効率を考えると、自社でオペレー
ションをすることがすべてではありません。 自社の資
産価値に対してどういう収益を出せるのか。 ROA(総
資産利益率)を意識した経営をしたいと考えました」
「そこで収益性を測るために保有不動産の『社内
仕切制』と呼ぶ仕組みを導入しました。 自社保有倉
庫の帳簿上の価格をベースにするのではなく、それぞ
れの倉庫を借りた場合の賃料をコストとして社内で
仕切る。 それに基づいて倉庫オペレーションの収益
性を測るという方法です。 資産に頼らずに、実際の
競争力で評価するかたちに考え方を改めました」
││今まで儲かっていると考えていたビジネスでも、
評価が変わってくる。
「借庫であっても利益の出るオペレーションをする
のが、本来あるべき姿です。 われわれの付加価値を
出せるサービスを改めて一から作り上げていくことに
しました。 また『Exit Rule』と呼ぶ社内ルールも作
りました。 三年間にわたって赤字が続いている、収
益性が改善されないなど、いくつかの基準に該当し
た案件は、事業の中味自体を見直すというルールで
す。 利益の出ていない案件をイグジットすることが目
的ではありません。 改善すべきポイント、欠けていた
部分を意識する。 経営の目的の一つはあくまで収益
を生み出すことです。 これによって社員にとっては目
指すものがかなり明確になったと思います」
││業績面での効果は。 本誌の調べでは、二〇〇八
年三月期は売上高が一・六%の微減、当期利益が十
三・〇%増で減収増益になっています。
「〇八年三月期は自動車関連、工業財(化学品、
機械)が堅調だったのに対してアパレル業界の不振
などが影響し減収でしたが、これまでのところ、業
績はほぼ合格レベルに達していると自己評価していま
す。 統合前の二社の経常利益は合算すると約一五億
円でした。 それを統合初年度の〇七年三月期に二五
億円、〇八年三月期に三〇億円にする計画でしたが、
いずれもクリアできました。 保有不動産の活用を含
めた国内物流のシャープアップに加え、フォワーディ
ングの収益向上が大きかった。 それまでバラバラだっ
た船社からの運賃・スペースの仕入れをまとめること
でコストメリットを出しています。 現在の経常利益
率は六・七%。 七%が当面の目標です」
││今期については。
「〇九年三月期は経常利益を前期から三五億円に
引き上げるというかなり高いハードルを設けています。
実際、上期は過去二年を上回るペースできていまし
たが、不況の波が急激に押し寄せてきているため、
目標達成はちょっと苦しいかも知れません」
「〇八年十一月の物量は前月比三五%減でした。
当社は売り上げの半分近くを自動車関連が占めてい
ます。 それも昔は完成車が主体でしたが、ティア1、
ティア2の部品メーカーにもアプローチをかけて実績
を積み上げてきました。 ところが、自動車産業の荷
若松紀久雄 社長
注目企業トップが語る強さの秘訣総合7位
19 FEBRUARY 2009
動きが特に落ちています。 工業財もスローダウンしま
した。 円高も非常に大きい。 ドル建ての収入が五〇%
近くあるためです」
││回復できますか。
「不況は少なくとも三年は続くでしょう。 このため、
〇八年一〇月から経営指標の見方を変えました。 こ
れまでは右肩上がりの成長を前提として、ROE(株
主資本利益率)や投資性資産に対するリターンをか
なり意識していました。 しかしこれからはそうはいか
ない。 とにかく原点回帰です。 まずは損益分岐点の
見極め、限界利益率を強く意識した固定費の厳格な
管理など、古典的かつ守備型の経営手法で物ごとを
考え、判断し、行動に移していく。 大きなエラーをせず、
かたちを整えていく」
││攻め手としては。
「こういう時期だからこそ、物流改善ニーズは増え
ると思います。 それに応えられるようなソリューショ
ン力と実行力に磨きをかけて将来に備えていきます。
市況が悪いときだからこそ、チャンスもある。 しかも
今回はチャンスの期間が長く続くと見ています。 焦っ
て手を出すことなく虎視眈々と狙いたい」
「また、為替というコントロールが利かない部分の
影響が大きいというのは不安定です。 現状では売り
上げ・総利益ともに国際が約七〇%、国内が三〇%
ですが、長期的には収益ベースでの国際と国内の事
業ポートフォリオを五〇%、五〇%にもっていきたい」
保有資産を有効活用
││国内物流事業の拡大に向けての強化策は。
「不動産事業の拡充です。 例えば物流REITな
ど、金融機能も含めていろいろなメニューの出し方
があり得る。 現在、三菱商事が展開している産業R
EITや三菱商事本体には当社社員が出向していま
す。 そこで物流で得た知見を開発に生かすと同時に、
金融的なノウハウを蓄積して戻ってきてもらう。 それ
によって三菱商事本体との協力も含めて国内の物流
関連の不動産を伸ばしていきたい」
「商品別に当社の業績を見ると、〇八年三月期は
売上高の約四〇%が自動車関連、アパレル・消費財
が四〇%、工業財が一五%、不動産が五%でした。
これが収益ベースでは自動車が二八%、アパレル・
消費材が二二%、工業財が二三%、不動産が二六%
になります。 不動産の収益率は非常に高い。 先輩た
ちから預かった不動産をいい加減に扱わず、次につ
なげるような投資をしなければなりません」
「われわれの最大の特徴は商社型ロジスティクス
サービスプロバイダーであることです。 商社型とは、
商社の事業や機能とのシナジーを基本軸にすること
です。 物流機能を提供し、商社の事業の付加価値を
高めていく一方で、商社の持てる機能をすべて物流
に注入し、ソリューションを構築・提供するマーケッ
トイン型のコントラクト・ロジスティクス・モデルを
目指します。 量の多さで勝負をしようとは思ってい
ません。 質によって勝負する。 これが物流専業者と
の差別化の最大のポイントです」
││商社型の物流モデルとは具体的には?
「先ほどの産業REITや三菱商事のファイナンス
機能を使った船舶金融事業モデルはその具体例の一
つです。 船舶ファイナンスではSPC(特別目的会
社)を通じて貨物船四隻を保有し、船会社に用船に
出しています。 そうしたかたちで他社とは違った付加
価値を出していかないと、商社として物流事業を行
う意味合いは半減してしまいます。 商品の決済機能
を含めたサービスモデルがあってもいいでしょう」
逆風下で積極策に打って出る可能性も
三菱商事を後ろ盾として自動車、アパレル・消費財、
工業財の物流、およびアセットマネジメント(不動産)
事業をバランスよく網羅している。 三菱商事関連の物
流は約70%。 国際物流のMcTIと国内物流の菱光ロジ
スティクスを2006年4月に合併したことで、事業規
模を大幅に拡大すると同時に国際、国内の一気通貫
体制も整えた。
ただし、高い収益性を支える要因の一つとなって
いる物流不動産には目下、強烈な逆風が吹いている。
円高や自動車産業の需要低迷も痛いところ。 今期以降、
当面業績的には苦戦を余儀なくされそうだ。 それで
も圧倒的な資本力とブランド力は、近く予想される物
流子会社のリストラや物流業界再編の求心力になり得
る。 従来からM&Aには意欲を見せており、世界同時
不況下の数少ない買い手として積極策に打って出る
可能性もある。
本誌解説
1,673
過去3年間の単独業績推移
(菱光ロジスティクス)
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0
1,800
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
(単位:百万円)
06年
3月期
07年08年
14,030
44,938 44,198
772
1,480
06年4月、McTIと合併
売上高
(左軸)
純利益
(右軸)
物流企業番付《平成21年版》
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