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FEBRUARY 2009 24
日 陸
──化学品用ISOコンテナを武器に
危険物の物流と化学品用ISO タンクコンテナなどの容器レンタ
ルが事業の柱。 タンクローリー車からコンテナトレーラーへのシ
フトが追い風になっている。 陸海空の複合一貫輸送や海外での輸
送・保管事業にも進出。 化学品メーカーとの安定的な関係を作
り上げ、毎年着実に売り上げを伸ばしている。 (聞き手・梶原幸絵)
物流の技術革新を先取り
││直近の二〇〇八年九月期の業績は?
「売上高が二二八億六八〇〇万円で前期比約一
〇%増。 経常利益率は七・六%です。 〇七年九月
期の創立六〇周年に向けて、〇五年九月期からの三
カ年計画では、利益率を維持した上で毎年一〇億円
の売り上げアップを図り、売上高を二〇〇億円まで
引き上げました」
「現在の中期計画では最終年度となる一〇年九月
期に売上高二四五億円を目指しています。 〇八年九
月期はその初年度に当たりますが、目標を達成でき
ました。 ただし今期(〇九年九月期)に入って特に
十一月から世界同時不況の影響がでています。 以前
にもオイルショックやバブル崩壊がありましたが、今
回が最も深刻だと思います。 今年は物量が大きく落
ち込む可能性もある。 それでも中期計画の目標を修
正するつもりはありません」
││売り上げを事業別にみると、運送部門が四割、
倉庫部門が三割、残りが化学品用のISOタンクコ
ンテナや特殊容器のレンタル・販売です。 このうち
何が事業拡大の要因になっているのですか。
「ISOタンクコンテナのレンタル・販売が特に伸
びています。 タンクローリーからコンテナの陸上輸送
へのシフトが進んでいるんです。 ローリー車は八〇
〇〇〜一万リットル程度。 それに対してコンテナな
ら二万四〇〇〇リットルを一度に運べる。 しかもタ
ンクローリーは車両と荷台が一緒になっているので帰
りは空で走るしかない。 コンテナであればトラクター
ヘッドとシャーシを切り離せるので、ムダな輸送を回
避できる。 トラック、鉄道、海運と複数の輸送モー
ドで使える。 輸送コストを削減できるわけです」
││化学品に特化した事業展開は、何がきっかけだっ
たのでしょうか。
「元々当社は戦後の復興期に石油や化学品を運ぶ鉄
道貨車をレンタルする事業からスタートしています。
工場に鉄道の引き込み線を敷いているような石油化
学会社に対して、それぞれの製品に合う仕様の鉄道
貨車を作って貸していたんです。 ピーク時には一三〇
〇台近くの鉄道貨車を所有していました」
「ところがその後、国鉄の赤字の要因として貨物輸
送の中でも貨車扱いが大きいということから、貨車
輸送は廃止の方向に向かっていきました。 これに対
応して当社も自動車を使った陸上輸送に業態を徐々
にシフトしていきました」
「そして一九八〇年代に入って今度は海上輸送で
使う国際規格のISOタンクコンテナに目を付けた。
当時、日本国内では規制があってISOコンテナを
陸送することができませんでした。 ところが国際間の
輸送や海外での現地陸送では既に普及していた。 し
かも液体貨物輸送にまで」
「ISOコンテナは世界的に統一された規格であり、
容量も大きい。 これは合理的だと八五年にISOコ
ンテナを運ぶための二四トンシャーシを開発して、国
内での通行許可を取得しました。 国内第一号でした。
われわれが突破口を開いたことで、日本国内でIS
Oコンテナの陸送ができるようになったのです」
││しかし、ISOタンクコンテナの運用を始めてか
ら既に二〇年余りが経っています。 競合他社も出て
きているのでは。
「この一〇年で顕著になってきています。 価格競争
も始まり、厳しくはなっています。 顧客でもある化
学品メーカーの物流子会社も自分で運営する力を付
けてきています。 それでも先行者利益はまだあります。
菅原務 社長
注目企業トップが語る強さの秘訣総合13位
25 FEBRUARY 2009
当社は化学品や危険物に対する知識が豊富です。 危
険物を取り扱うにはIMDGコードという国際海上
危険物規則があるだけでなく、消防法などの周辺法
を顧客にアドバイスできるスペシャリストでなければ
いけません。 ただ運ぶだけでは商売にならない」
「安全技術と業務品質が当社の競争力の源泉です。
そこは他人に任せられない。 そのためドライバーも
自社で抱えています。 危険物の事故は大惨事につな
がります。 当社はもちろん、荷主企業も信用が落ち
るというだけでなく会社の存続にまでかかわってしま
う。 コストだけでパートナーを選ぶことはできなんで
す。 日陸でないとダメ。 そう言われる関係を作って
きました」
「当社としても現場を協力会社に任せた方が儲かる
のかもしれませんが、よほどしっかりした協力会社で
ないと利用できません。 右から左に流すだけではダメ
なんです。 自らきちんと仕事ができないと危険物を
扱う仕事は請け負えない。 それに顧客のために効率
化や改善を進めようとしても、自社で現場を運営し
ていればそうした方向を追求できますが、よその会社
ではなかなか難しい」
││確かに、危険品の物流は新規参入の比較的難し
い分野なのかも知れませんね。
「当社には危険物に対する知見がありました。 その
上で九〇年には英国のインターフロー社を買収し、
国際複合輸送に乗り出しました。 ISOタンクコン
テナの洗浄・メンテナンスも含めた一貫輸送を提供
しています。 メーカーのアウトソーシングに対する
ニーズに応え、3PLにも力を入れています。 〇四
年には上海に保税危険物倉庫を開設し、〇六年には
同じ上海で危険物輸送事業を開始しました。 上海の
倉庫事業は既に累損を解消し、黒字化しています。
今期も順調に推移しています。 輸送事業の方は、ま
だ始まって間もない段階ですが既に軌道に乗ってき
ています」
医薬品物流にも進出
││それでもメーンとする石油化学業界は不況の影
響を避けられません。 中期計画を達成するには、新
たな施策も必要では。
「もちろん売り上げを確保するためには既存荷主の
需要の掘り起こしと新規分野の拡大が必要です。 既
に手は打っています。 例えば医薬品。 危険物と同様、
取り扱いの難しい荷物でわれわれの強みが活かせる。
また〇八年にはIATA公認貨物代理店資格を取
り、航空貨物の取り扱いも開始しました。 これで総
合物流業者としてやっていくために必要な、陸海空
の機能が揃いました」
││M&Aは計画にありますか。
「選択肢の一つとしてあり得ます。 将来のあるべき
姿にかなう、効果的な将来を作れるような相手であ
れば検討します」
││コスト削減については。
「品質にかかわるコストは削れません。 これは保管・
輸送業務だけでなく事務方でも同じです。 プロとして、
とことん業務品質は高めていく。 ただし、競争力の
ある料金のためには工夫も必要です。 業務改善・改
革によってコストを削減し、損益分岐点を引き下げ
る努力を徹底する」
「〇四年に子会社の日陸輸送と日陸倉庫を吸収合
併したのも業務改善の一環です。 顧客に対して窓口
を一本化すると同時に、全体のプロセスを見て効率
化を図っていく狙いです。 新たなビジネスモデルを作
り上げる意気込みでやっていきます」
鉄道貨物輸送の衰退をバネに業態転換
1946年に日本陸運産業として創業した独立系企業。 当初は
石油化学品用の鉄道貨車のレンタルや販売をメーンとしていた
が、タンクローリー車へのモーダルシフトが進んだことから運送
業・倉庫業に比重を移した。 80年代には化学品の海上輸送に
用いるISOタンクコンテナに着目。 国内の陸送許可を一番乗り
で取得して新サービスを開花させた。
90年にはタンクコンテナの複合一貫輸送を運用する英国のイ
ンターフロー社を買収。 NVOCC(非船舶運航業者)事業に乗
り出した。 90年に米国、97年にシンガポール、99年にジャカ
ルタ、2002年に上海と、それぞれ現地法人を設立。 08年に社
名を現在の日陸に変更した。 同年にはIATA貨物代理店認可を
取得。 医薬品物流の拡大も図っている。
本誌解説
物流企業番付《平成21年版》
20,000
15,000
10,000
5,000
0
1,800
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
単体業績推移
(単位:百万円)
07 年
9月期
20,417
1,719
売上高
(左軸)
当期利益
(右軸)
03 年
9月期
04 年
9月期
05 年
9月期
06 年
9月期
7,714 7,505
18,673
19,696
831 794
707
438
04年10月、日陸輸送と
日陸倉庫を吸収合併
菅原務(すがわら・つとむ)
1964年早稲田大学法学部卒業、同年日本陸運産業(現日陸)
入社。 財務部長などを経て88年、取締役に就任。 96年常務取締役、
2000年から現職。 1941年1月30日生まれ、岩手県出身。
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