2009年3月号
物流指標を読む

経済と荷動きの急降下が始まった

物流指標を読む MARCH 2009  84 底が全くみえない状況  冒頭から自画自賛で大変恐縮であるが、私が 調査を担当している「企業物流短期動向調査(日 通総研短観)」が、物流面からみた景気動向の指 標として、大いに注目を浴びている。
同調査は、 荷主企業(製造業、卸売業)二五〇〇事業所に 対してアンケート調査を行い、その結果をとりま とめたものである。
定点観測している国内向け出 荷量「荷動き指数」は、景気動向と密接に連動 する傾向にあることから、最近では一般紙や経済 誌などでもしばしば取り上げられるようになった。
 たとえば、図は国内向け出荷量『荷動き指数』 (出荷量が対前年同期比で「増加する」と回答 した事業所割合から「減少する」と回答した事 業所割合を引いた数値)の推移を示したものであ るが、二〇〇七年一〇〜十二月実績で天井を形 成したあと、以降、まっさかさまに転げ落ちている。
先日、内閣府の景気動向指数研究会は、〇二年 二月から続いた戦後最長の景気拡大期が〇七年一 〇月に頂点に達し、同十一月から景気は後退期に 入ったと正式に認定したが、天井の位置が一致し ていることがお分かりいただけるだろう。
 さて、この国内向け出荷量『荷動き指数』で あるが、〇八年四〜六月実績がマイナス一八、七 〜九月実績がマイナス二三とマイナス幅が拡大し ていき、一〇〜十二月実績ではマイナス五七と、 前期実績より三四ポイントもの大幅な下降となっ た。
また、〇九年一〜三月見通しでは、さらに 八ポイント低下してマイナス六五と見込まれてお り、底が全くみえない状況にある。
 これは裏話であるが、前回(〇八年九月)調 査の際、九月上旬に調査票を発送しており、全回 答の約半数を九月中旬くらいまでに回収していた。
言い換えれば、前回調査に回答してくれた荷主企 業の半数は、七〜九月実績(見込み)のなかにリ ーマンショックの影響を織り込んでいなかったと いうことであり、したがって、前回の調査結果では、 実態よりもやや高めの数値が出ていたと考えられる。
 そのため、今回の調査結果がかなり悪いもの になると想像はしていたが、ふたを開けてみたら、 その想像をはるかに超える大幅な下落となってし まった。
ちなみに、前回調査における一〇〜十 二月期の見通しはマイナス二五であったが、実績 ではそれを三二ポイント下回っており、荷主企業 にとっても想定外の悪化だったことになる。
リー マンショック後、日本経済がすさまじい勢いで悪 化していることが読み取れよう。
 実は、本調査において、実績ベースで荷動き指 数がマイナス五〇を下回ったことはこれまでなか った(注:本調査は、二〇〇一年度まで年二回 (上・下期別)実施していたが、〇二年度より 年四回(四半期別)の実施に変更された)。
最大 のマイナスを記録したのが、一九九八年度上期お よび下期のマイナス四八であり、次いで〇二年一 〜三月のマイナス四〇であった。
 ちなみに、九八年度はアジア通貨危機の影響で、 実質GDP成長率がマイナス一・五%と戦後最大 のマイナス成長になった年であり、〇一年度はデ フレ不況下で同マイナス〇・八%となった年である。
「荷動き指数」の水準から判断すると、現在の日 本経済は、九八年、〇一年の両年度よりもさら 経済と荷動きの急降下が始まった 企業物流短期動向調査 日通総合研究所 第3 回 ●リーマンショック以降の荷動き指数は歴史的な下落幅 ●底を打ってもプラス水準に戻すまで最低1年半は要す ●政府は早期に大規模かつ有効性の高い財政出動を実施せよ さとう のぶひろ 1964 年生まれ。
早稲田大学大学院修了。
89年に日通 総合研究所入社。
現在、経済研究部研 究主査。
「経済と貨物輸送量の見通し」、 「日通総研短観」などを担当。
貨物輸 送の将来展望に関する著書、講演多数。
85  MARCH 2009 に厳しい状況にあるものと考えられる。
 それでは、景気や荷動きはいつ回復が見込める のか? 残念ながら、私はこの問いに対する明確 な回答を用意できない。
おそらく、名立たる経済 学者・エコノミストたちも同様だろう。
なにしろ、 前述のように、景気についてもまた荷動きについ ても、底が全くみえない状況にあるからだ。
 常識的に考えると、国内における生産活動が急 速に冷え込んできたのは昨年一〇月からであるか ら、少なくとも今年の九月頃までは引き続き現状 のような大減産に見舞われることになろう。
 問題はその後だ。
鉱工業生産指数や荷動き指 数を例にとった場合、果たして底を打って回復に 向かうのか、さらに一段の下げがあるのか。
私の 予測では、急落の反動でマイナス幅がいったん縮 小する可能性もなくはないが、おそらくは仮に底 を打ったとしても、そこから当面はL字型の底を 這うような推移になるものとみる。
 日本は米国より?重症?  マイナス水準で底を這うということは、経済が さらにどんどん縮小していくことであるから、非 常に恐ろしい事態だ。
もちろん、いつかはプラス 水準に戻すであろうが、過去の経験則にしたがう と、大底を脱してからプラス水準に戻すまで、か なり長い期間を要すると考えられる。
 たとえば、先に荷動き指数が大きく低下した二 時点の例を示したが、両時点からプラスに反転す るまでに要した期間についてみてみよう。
まず九 八年度のケースであるが、九八年度下期にマイナ ス四八と底を打った後、翌九九年度上期にはマイ ナス十一と、マイナス水準ながら前期比で三七ポ イント上昇し、下期にマイナス六となり、翌〇〇 年度上期にプラス二とプラス水準に浮上した。
 すなわち、底打ちからプラス水準へ浮上するま で約一年半かかった計算になる。
次に〇一年度 のケースであるが、〇二年一〜三月にマイナス四 〇と底を打った後、緩やかにマイナス幅が縮小し ていき、プラス水準に浮上したのは〇三年一〇〜 十二月であった。
底打ちからプラス水準へ浮上す るまで7四半期を要した計算になる。
このように、 両ケースとも大底を脱してからプラス水準に戻す まで、一年半から二年弱を要している。
 今回の景気悪化は、?一〇〇年に一度の危機? であり、過去の経験則がそのまま当てはまるとは 考えられないが、仮に〇九年七〜九月に底が入っ たとしても、経済が安定し、荷動きが回復するのは、 最速でもさらに一年半から二年先ということだ。
もちろん、〇九年七〜九月に底を脱する保証もな ければ、底打ちから一年半から二年先ぐらいで回 復できるという保証もない。
 それでは、このまま経済と荷動きは縮小の一途 を辿るのか。
回避する術が決してないわけではない。
先にあげた九八年度のケースで、荷動き指数は九 八年度下期に底を打った後、翌九九年度上期に急 上昇した。
これは、当時の小渕政権が行った大規 模な財政出動の結果を受けて、景気の底割れを回 避できたからである。
 当面、国内民需と外需に回復が見込めないなか で、唯一の頼みの綱は財政出動のみである。
先月 号で、「日本の財政・金融当局は、常に何枚かの カードを手持ちにしておき、小出しにカードを切 っていくというスタンスをとるのが常である。
こ こは米国のように、やるべき対策はすべてやると いうスタンスが求められよう」と書いた。
繰り返 しになるが、政府は大規模な財政政策、金融政 策の実施など、すみやかに有効性の高い景気対策 を打つべきである。
 IMFが先ごろ発表した〇九年の世界経済見 通しによると、日本は米国よりも大きなマイナス 成長が予測されている。
すなわち、サブプライム ローン問題の震源地である米国よりも日本の方が ?重症?であると診断されているということだ。
もう待ったなしである。
20 10 0 -10 -20 -30 -40 -50 -60 -70 荷動き指数 ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? 2005 2006 2007 2008 2009 国内向け出荷量『荷動き指数』の推移 注)  線は各期に入る前の時点の見通しにおける『荷動き指数』(2009 年? 期の『荷動き指数』は今回調査時点の見通し)、実線は各期の途中の時点 で判断した実績見込みの『荷動き指数』(2008 年?期の『荷動き指数』は 今回調査における判断)。
出所)「企業物流短期動向調査」(日通総合研究所) △4 2 5 10 10 9 5 10 12 16 14 13 10 △6 △2 △5 △18 △23 △57 △65 △25 △2 △12 △6 5 4 3 3 0 8 8 見通し 実績

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