ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年3号
特集
物流不動産ファンド プロロジス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2009  16 プロロジス ──アセットの過半を売却し再スタート  米国本社の株価暴落を受け、日本のアセットの過半と 中国における全事業をメーンスポンサーのシンガポール政 府系ファンドに売却、開発案件も凍結した。
それでも依 然として十分な資金力は維持している。
市況動向を見な がら早ければ今年中にも日本で新たなファンドを組成し、 積極投資に打って出るという。
   (聞き手・石鍋 圭) 拡大路線に急ブレーキ ──昨年末、中国での全事業と日本の一部の施設を シンガポール政府系の不動産投資会社GICリアル エステートに売却すると発表しました。
 「厳しい環境に対応するため、バランスシートを強 固にする必要が出てきました。
日本においてはこれま で、ファンドの持ち分をプロロジス二割、GIC八 割で保有していましたが、その二割の持ち分を売却 する形です。
売却額は十三億ドル(一一七〇億円) で、一連の取引は今年二月一〇日に完了しました。
売却後も施設の運営・管理、つまりプロパティ・マ ネジメント(PM)業務は引き続き請け負う予定です」 ──売却に先駆けて、開発案件のホールドや一般管 理費の削減も発表している。
これまでの拡大路線に 急ブレーキがかかった格好です。
御社は常々、グロー バルで四〇〇〇憶円規模のコミットメントがあり、 資金繰りには何も問題ないと強調していたはずですが。
 「その点に関しては今でも変わっていません。
コミッ トメントの期間も二年近く残っており、何の支障もな く調達することができる。
むしろ問題なのは、『我々 には問題がない』ということをマーケットに認知して もらえなかったことです。
米国本社の株価は大幅に下 落しました。
昨年の九月末時点では四〇ドルを超え ていた株価が、あっという間に一〇ドル、五ドルと下 がってきた。
もちろん株式市場全体も下がっていまし たが、我々の株価の下落幅は常軌を逸していた」  「確かに我々は世界中で大型買収を繰り返し、同 時に各国への進出を急速に推し進めてきました。
グ ローバル・プラットフォームを華々しく構築する裏側 では、ライアビリティ(負債)が増えていたのも事 実です。
しかし、その比率は決して大きいものでは なかった。
にもかかわらず、折からの金融不安と相まっ て投資家心理が過剰に冷え込んでしまった」  「ただ、いくら『問題はない』と説明してもマーケッ トの理解を得ることができないのであれば、従来の方 針を貫くことはできません。
変わる必要がある。
導 き出した答えが、アセットの売却によるバランスシー トの強化だったのです」 ──アセットを売却するにしても、何故、最重要マー ケットの一つと位置付けていた日本市場が対象に?  「まず、GICというパートナーに恵まれたことが 大きい。
今回の売却は、株価の暴落に一刻も早く 歯止めをかけるためにも時間をかけるわけにはいかな かった。
幸いなことに、GICとプロロジス・ジャ パンのつながりは深い。
日本における唯一のファンド・ パートナーとして活動してきたため、組み込まれてい る物件には既に精通している。
改めてデューデリジェ ンスを行なう必要がなかったのです。
そして、彼らは アジアにおけるプロロジスの資産に興味がある。
要件 はそろっていた。
本格的な交渉開始から契約の締結 までは正味二週間ほどしかかからなかった」  「また、米国や欧州の資産を売却しようにも、マー ケットが著しく傷んでいて買い手がつかない。
ついた としても安値で買いたたかれる可能性が高い。
そこ へいくと日本の不動産はまだ相対的に健全だった。
GICもアセットの価値を理解しているため、買い 叩かれることもない。
様々な角度から検討した結果、 日本のファンド持ち分と中国事業をGICに売却す るという選択に至ったのです」 ──山田さんご自身は日本法人の代表として忸怩た る思いがあるのでは。
 「それは正直あります。
聞いた時は何故日本なんだ と。
一方で、売却してバランスシートの強化に貢献 山田御酒 プレジデント兼日本共同CEO Interview 特 集物流不動産ファンド いま何が起きているのか? 17  MARCH 2009 できるのは日本の資産しかなかったという誇りもあ る。
両方ですね」 ──今回の売却により日本における総延べ床面積は 五〇〇万平方メートルから一七〇万平方メートルま で減ることになります。
資産規模は大幅に減少する。
 「我々にとって重要なのは、ユーザーに優れた施設 を提供し、その施設をしっかり管理・運営すること。
確かに施設の所有権は無くなりますが、先ほども申 し上げた通りPM業務は引き続き我々が行う予定で す。
ビジネスの根幹は何も変わっていない」 ──日本においてはGICがアセット・マネジメン ト(AM)会社を設立し、買い取った資産の運用を 行うそうですね。
御社の社員も一部その新会社へ移 籍すると発表されています。
 「はい。
その新会社から我々がPM業務を請け負う という形をとるわけです。
新会社のスタート時の体制 は、全員当社から移籍する社員で構成される予定です。
弊社のファンドビジネスに関わるディビジョンが移る というイメージ。
詳細は早晩発表される予定ですが、 おそらく三〇人規模になるでしょう」 新たなファンドを組成する ──ところで手元に残った物件に関しては現在自社 で保有しています。
今後はどのように運用していくの でしょうか。
 「持ち続ける可能性もありますが、おそらく新たに ファンドを起ち上げて、そこに組み込むという形にな るでしょう。
実は今回の売却や開発のホールドを発 表する以前から、水面下では話が進んでいたのです。
国内外の機関投資家からもお声をいただいていた。
一時的に立ち消えになっていましたが、現在も 『一 緒にやろう』というお言葉はいただいている。
経済 状況を見ながらということになりますが、早ければ今 年中にも滑り出す可能性はある」 ──ホールド案件の開発再開のタイミングは?  「年内にいくつかは動き出す予定です。
まだ詳細は 申し上げることはできませんが、すでにテナントも決 まっていて許認可が下りている案件もある」 ──徐々にではあるが拡大路線に回帰していく?  「今はバランスシートを拡大しないということを マーケットにアナウンスしたばかり。
新たに用地を仕 入れて従来のようにガンガン開発するというのは時期 尚早かもしれません。
当面は、先述したようなホー ルドされている案件を動かすというのがメーン。
ただ、 状況が変わればこの限りではない。
本社CEOのウォ ルター・ラコウィッチも『日本に関しては市況が回 復次第、積極的に打って出る』と明言しています。
本来であれば、今ほど開発に適した時期はないのです。
土地の値段も建築コストも下がっている。
そして、 多くの同業者が資金難で動けないという状況。
我々 は開発しようと思えばいつでもできる。
今はちょうど、 競争者がほとんどいない中で事業展開を進めてきた 〇二年、〇三年あたりの状況に戻りつつある。
しかも、 今動き出せば、一度経験している分、当時より圧倒 的なスピードで事業を展開できる」  「ただ、新規開発を進めるにしても、従来の姿勢と は若干異なるものになるでしょう。
例えばテナントの 決まっていない大型の案件に二〇〇億、三〇〇億投 資して、商品になるまで二、三年かかるような案件 は控える。
テナントが決まっている専用型や、マル チテナント型でも面積の七割は入居が決まっている ような底堅い案件、資金がムダにならない案件をやっ ていく。
できれば今年中にそういった積極的な投資 ができる波をつくりたいと思っています」 プロロジス (日本法人) 新アセット・ マネジメント会社 ●経営トップに米プロ ロジス前会長のジェ フリー・シュワルツ 氏が就任予定 GIC ・出資・設立リアルエステート ・資産運用(AM) 業務を委託 社員の一部が 移籍 施設の 管理・運営(PM) 業務を委託 ファンド持ち分を 会社概要売却(完了) プロロジス  世界最大の物流不動産開発会社。
米国本社はセキュ リティー・キャピタル・インダストリアル・トラストと して1991年に設立。
94年にニューヨーク証券取引所 上場。
98年にプロロジスに社名変更。
2008年9月30 日現在、22カ国236地域に2898棟の物流施設を構え ている。
総運営資産額は4兆842億円にのぼる。
日本 法人は99年に設立。
02年と05年にGICとファンドを 組成。
積極的に開発・投資を行い、日本の物流不動 産市場をけん引してきた。
09年2月、米国本社の株価 暴落を受けて、ファンド持ち分を全てGICに売却した。

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