ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年4号
ケース
物流IT コニカミノルタビジネステクノロジーズ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2009  42 物流IT コニカミノルタビジネステクノロジーズ 部品専用の需要予測システムを導入し 納期順守率の向上と在庫2 割減を両立 経営統合で急落したサービス品質  「あのときは在庫をそれなりに抱えていた のに納期達成率が急激に落ち込んでしまった。
お客様から非常に強いクレームを受けた時期も あった」──。
情報機器事業を手掛けるコニ カミノルタビジネステクノロジーズ(以下、コ ニカミノルタ)の部品サービス部で、補修部 品の需給調整を担当している細谷清美部品P SIグループ長はそう述懐する。
 同社は二〇〇三年に旧コニカと旧ミノルタ が経営統合して誕生したコニカミノルタホー ルディングスの中核事業会社だ。
合併から約 九カ月後にアフターサービスのための基幹シ ステムを統合したところ、従来は八〇%以上 を維持していた「納期達成率」(顧客からの 注文に対して納期通りに納品できた割合)が、 四五%程度まで急落してしまった。
 在庫量はそれなりに確保していた。
にもか かわらず、システムの処理が追いつかず発注 に対応しきれなくなった。
このときは人海戦 術で何とか乗り切ったが、アフターサービスの 仕組みを抜本的に見直さなければならないこ とは明らかだった。
 コニカミノルタは世界中でデジタル複合機 などの製造・販売事業を展開している。
グル ープの連結売上高一兆円のうち七割を情報機 器事業で稼ぎ出しており、同事業の売上高七 〇一〇億円(〇八年三月期)の過半を欧米市 場で確保している。
社内でアフターサービス事 業を担っている「部品サービス部」の売り上 げも同様の状況にある。
米国と欧州で六五% を稼いでおり、日本国内の取り扱いは一〇% にすぎない。
 補修部品の生産拠点の主力は中国にある。
中国国内に三カ所ある部品工場などで生産さ れた部品を、いったん深圳の「中国倉庫」(約 二万二〇〇〇平米)に集約。
ここから世界各 地に供給している。
欧州ではベルギーに、米 国ではケンタッキーに、それぞれ補修部品の 基幹倉庫を構えている。
日本でも愛知県豊川 市に「日本倉庫」(約一万七〇〇〇平米)が あり、国内生産の一部の部品についてはここ から欧米に直送している。
 管理している部品の品目数は約一四万点、 二二〇〇万個に上る(〇八年三月末時点)。
ア フターサービスの部品は、当該製品の生産が 終了してからも五〜七年間にわたり供給しつ づけなければならない。
そのための在庫を適 正量で維持し、顧客の要求を満たしながら月 平均五万件の受注を処理していくことが部品 サービス部に求められている。
 補修部品の特性上、販売促進や営業活動を 2003年に旧コニカと旧ミノルタが経営を統合した。
まったく異質の管理手法をとっていた両社の補修 部品部門のシステムを統合したところ、サービス品 質の大幅な低下を招いてしまった。
それぞれの手 法の良さを活かすため、サービスパーツ専用の需要 予測システムを導入。
これによって品質の向上と在 庫削減を実現した。
コニカミノルタビジネステク ノロジーズ・部品サービス部の 細谷清美部品PSIグループ長 43  APRIL 2009 展開することはない。
しかし、コニカミノル タの社内における部品サービス部の立場はプ ロフィット・センターだ。
「お客様が欲しいと きに必要なものを届ける一方で、われわれは 財務目標も持っている。
目標を達成するうえ でロジスティクスは重要な要素。
これをどう 変えていくのかという権限と責任もわれわれ が握っている」と部品サービス部の清水俊和 部長は説明する。
対照的だった二社の管理手法  冒頭で触れた混乱は、旧コニカと旧ミノル タの補修部品の需給管理システムを統合した 直後に発生した。
システムが予定通りに機能 しなかったことが最大の原因だった。
 そもそも従来の二社の管理手法には、両極 端とも言うべき違いがあった。
旧ミノルタは 需給調整のほとんどをコンピュータで自動化 していた。
「人間が介在することなくシステム が需要を予測し、発注計画をつくる。
そのま ま週末にはサプライヤーさんに手配が回って いた」(部品サービス部の金田仁志係長)。
こ れに対して旧コニカは、人手に依存したマニ ュアル中心の手法をとっていた。
 同じような精密機器を扱っていながら二社 の管理手法が大きく異なっていたのは、それ ぞれの製品の特性に起因している。
旧ミノル タの場合は、製品の生産台数が部品の需要に 比べて多く、生産部門が調達する枠内で補修 部品をまかなうことができた。
しかも商社な どへの販売構成比が高く、部品を直接供給し ている顧客の数が少なかった。
このため業務 を自動で処理することが可能だった。
 一方、旧コニカの場合は、製品の生産台数 に比べると、管理すべき部品の点数や量がず っと多かった。
担当者が判断しながら細かく 管理しなければ、部品を円滑に調達できない。
そうした事情からマニュアル中心の管理をず っと続けていた。
 経営の統合によって二社のアフターサービ ス部門が一つになったとき、どのような管理 手法に一本化すべきかを検討した。
旧コニカ 出身の細谷グループ長が「直感的に進んでい ると思った」と振り返るように、関係者の目 にはコンピュータで処理する方が先進的に映 った。
そこで旧ミノルタの手法をベースに新 システムを構築することを決めた。
 ところが、いざ〇四年八月に新システムを 稼働してみると思惑通りには機能しなかった。
中国倉庫からの出荷業務は混乱し、二四時間 体制で作業をしてもオーダーを処理しきれな い。
各地の販社は、納期の遅れを見越して安 全在庫を積み増しはじめた。
結果として、サ ービス率の急落と、在庫の増大という最悪の 事態に見舞われてしまった。
 このときの苦い経験から、「もっと人手をか けて、きちんと管理しなければいけないとい う課題が見えてきた」(細谷グループ長)。
コ ニカミノルタの需給調整に適したシステムを、 あらためて模索することになった。
専用ソフトで旧二社の手法を折衷  そんなとき日本ユニシスの営業担当者がサ ービジスティクス(SVG)の需要予測シス テムを提案してきた。
ITベンダーの名称が 「サービス」と「ロジスティクス」を掛け合わせ コニカミノルタビジネステ クノロジーズ・CS統括部の 清水俊和部品サービス部部 長 部品サービス部の拠点と物流フロー 中国ベンダー 国内ベンダー 日本 欧 州 北 米 石龍工場 第三地域 中国倉庫 深玔 愛知県豊川市 直送 ケンタッキー ベルギー 無錫工場 布吉工場 日本倉庫 連結PSI 管理対象の範囲 APRIL 2009  44 た造語であることからも明らかなように、こ の会社の提供するシステムは補修部品に特化 したパッケージソフトだった。
 さっそく過去のデータを使ってシミュレーシ ョンを実施してみたところ、需要予測や在庫 の推移などで興味深い結果を得ることができ た。
強い手応えを感じたコニカミノルタは検 討を重ねた末に、自分たちがやりたいことに 一番マッチするシステムとしてサービジスティ クスの導入を決めた。
 まずは主力市場である欧米向けの業務に導 入することになった。
〇五年一〇月に、計画 系の業務に携わっている社員を中心に約一〇 人からなるプロジェクトを発足。
コニカミノル タ物流や、販売会社のロジスティクス担当者 などとも情報交換を重ねながら、導入のため の作業を進めた。
 およそ一〇カ月後の〇六年八月にシステム が稼働すると、その直後から顧客に対するサ ービスレベルは上向いた。
しかし、在庫水準は すぐには改善しなかった。
目に見えて効果が 出てきたのは半年ほど経ってからだった。
「納 期達成率」は九〇%程度を維持できるように なり、在庫がじわじわと減りはじめた。
 システムの有効性を確信したコニカミノル タは、〇七年七月になると追加でいくつかの 施策を講じた。
まず販社の発注サイクルを月 次から週次に改め、計画業務のスピードアッ プを図った。
さらに船便を中心に策定してい た供給計画を、航空貨物を多用するように変 ーンテーマとなる。
個人的には二〇一一年ま でに連結在庫を四・〇カ月まで持っていきた い」と清水部長は考えている。
カスタマイズし過ぎたソフトを標準化  パッケージソフトの導入を柱とする改革は、 おおむね順調に推移している。
ただし、想定 外の問題も発生した。
システムを導入したと きコニカミノルタは、自分たちの業務のやり 方に合わせてソフトをかなりカスタマイズし 更。
輸送モードに応じて発注数量を柔軟に変 えられるようにした。
このとき同時に管理対 象の品目を見直したことから、下図では在庫 が増えているように見える。
だが在庫の減少 トレンドは変わらなかった。
 その約半年後には、サービジスティクスを適 用する領域をさらに拡大した。
前述したよう に補修部品では、製品の生産を停止してから も部品を供給しつづけなければならない。
部 品サプライヤーが生産を停止するタイミング で、残りの期間をまかなえるだけの部品在庫 をまとめて発注する必要がある。
この予測精 度を高めるため、国内ではじめてサービジス ティクスの「ライフサイクル・モジュール」を 採用した。
成果を確認できるまでにはあと数 年かかるが関係者の期待は大きい。
 一連のシステムを整備するため、コニカミ ノルタは約四億円を投じてきた。
その効果は サービス品質と在庫の推移にあらわれている。
〇四年に単体ベースで約六カ月分あったコニ カミノルタの在庫は現在、約四・三カ月分ま で減った。
次のステップでは販社まで含む連 結在庫を適正化していく。
もっとも数値目標 を設定するまでには、まだ至っていない。
 「サービスパーツというのは、月々のメンテ ナンス料を収受して部品は無償で出荷すると いった契約が少なくない。
このため販社まで 含めた連結在庫がどれだけあるのかを厳密に 把握するのは難しい。
これは今年に入ってか ら着手したばかりの課題だが、〇九年度のメ 納期達成率と在庫(単体)の推移 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 100 90 80 70 60 50 40 05年 4 月 05年 7 月 05年 1 0月 06 年1 0月 06 年1月 06 年4月 06 年7月 07 年1 0月 07 年1月 07 年4月 07 年7月 08 年1 0月 08 年1月 09 年1月 08 年4月 08 年7月 在庫月数(カ月) 納期達成率(%) ※納期達成率:顧客からの注文に対し、納期通りにどれだけ出荷できたかの割合 ※在庫回転月数:月末在庫金額に対する過去6カ月平均の受注金額の割合 SVGシステムの導入/ フェーズ1.0(’06 年8月) 消耗部品販社 直送開始(’07 年2月) SVGシステムの導入/ フェーズ1.5(’07 年2月) 在庫月数納期達成率 SVGシステムの導入 /ライフサイクル・モ ジュール(’07年12月) 45  APRIL 2009 た。
導入時期が早かったこともあって、当時 のシステムには日本企業に特有の商習慣など が反映されていなかったからだ。
 これが裏目に出てしまった。
パッケージの バージョンアップをしようとしたら、多額の コストが発生してしまうことがわかったので ある。
機能の向上を享受できないようではパ ッケージを導入した意味がない。
 そこでコニカミノルタは、新バージョンの標 準パッケージをあらためて全面的に導入し直 すという大胆な決断を下した。
今度はカスタ マイズを最小限にとどめ、自社の業務プロセ ス自体をシステムに合わせていく。
 そう決断した背景には、ITベンダー側の 柔軟な対応があった。
今回のバージョンアッ プに伴ってサービジスティクスは、日本企業か ら寄せられていた要望の多くを新バージョン に取り入れている。
コニカミノルタの提案も いくつも採用された。
こうした姿勢を高く評 価していることが、標準パッケージを導入し 直すという決定につながった。
 清水部長としては、今回のパッケージの再 導入を単なるシステムの話で終わらせるつも りはない。
「これからやるべきはプロセスの改 革。
本当にやりたいことを実現するには、わ れわれ自身の業務プロセスを変えていく必要 がある。
PDCAにターゲットの『T』とリ ザルトの『R』を加えたTPDRCAを回し ていく体制を整えていきたい」と意気込んで いる。
  (フリージャーナリスト・岡山宏之) 「Servigistics」のパーツ・マネジメント機能 サービス部品管理におけるトレードオフを解消 即納率向上 在庫削減 適正在庫・調達計画 ─事業部門・拠点・部品ごとに異 なる属性を加味したセグメント化と目 標サービス率設定 ─最適な需要予測手法の自動選択 ─需要変動に対応した在庫品目リス トの更新 ─工場・ベンダーへの発注内示の 提示による納期順守の促進 ─パラメータ精度向上を促す警告 欠品への迅速な対応推奨 ─(見込まれる)在庫不足に対する 警告と補充手段の自動推奨 ─代替輸送手段への切り替えの自動 推奨 余剰を極小化する在庫・調達計画 ─新規購買の最少化  ・互換/代替部品の有効活用  ・修理/横持ちを購買に優先 ─需要変動に対応した在庫品目リス トの更新 ─多階層拠点在庫の一括最適化に よる全社レベルでの安全在庫の圧 縮 ─低回転品の複数拠点での共有 ─発注計画や内示の自動調整(数 量や納期の変更)による、余剰 発生の未然防止 ─ライフサイクル管理 発生した余剰の有効活用 ─余剰在庫に対する警告と不足のあ る拠点への横持ち(転送)の自動 推奨 出所:サービジスティクスアジア  補修品に特化したパッケージソフト  サービジスティクスは〇四年三月に日本で活動 を開始した。
当時、アフターサービスのシステム は自社で構築するのが常識だった。
ところが今や サービジスティクスの顧客は世界中に広がり、国 内でも十数社の有力企業が導入している。
 補修品に特化してソリューションを提供してい る有力ITベンダーは、世界的に見ても数社しか ない。
中でもサービジスティクスは圧倒的なシェ アを誇っている。
以前から同様の機能をアピール していたITベンダーはあったが、ユーザーの評 価を得ることはできなかった。
 サービジスティク スアジアの清水博社 長は、「サービスパー ツの需要予測には 緻密な計算が欠か せない。
これをグ ローバルで一元管理 できるパッケージは 過去にはなかった。
日米欧のような主 力市場だけなら自 社システムで管理す ることも可能かも しれない。
だが新 興国までは手が回 らない。
こうした ニーズに当社が応え ている」と説明する。
 システムの機能に加えて、顧客から評価されて いるのが、同社の主催するユーザー交流会だ。
外 資系の大手ITベンダーがイベントでユーザーに よる事例発表を行うのは珍しくない。
しかし、た いていはオープンな場だ。
登壇するユーザー企業も、 外部の目を意識しながら発表する。
 これに対してサービジスティクスアジアは、非 公開のユーザー交流会を定期的に開催している。
アフターサービス事業には、製品で競合している 企業同士でも、ほとんど利害が衝突しないとい う特性がある。
この点に着目した清水社長が、非 公開の情報交換会を立ちあげた。
 サービジスティクスの側も、ここからユーザー の声を吸い上げる。
そして要望の大きい機能につ いては、米国本社に働きかけて、パッケージをバー ジョンアップする際に標準機能として取り込む。
こうした姿勢が顧客の信頼につながっている。
導入済みの企業 コンピュータ関連デル、サン・マイクロシステムズ、IBM、日本ユニシス、日立デー タシステムズ、EMC、クレイ、方正、東芝ほか 半導体製造装置日立国際電気、大日本スクリーン製造、ニコンほか 事務機器コニカミノルタ、東芝テック、グローリーほか 自動車・建設機械スバル、ホンダ、ボルボ、コマツ、マツダ、トヨタ自動車、スズキ、 BMW、フォード、ヒュンダイ、ダイムラークライスラーほか 家電ダイキン、三洋電機、モトローラ、フィリップスほか 航空・防衛エア・カナダ、ハネウェルほか 医療機器東芝メディカル、日立メディカル、AGFA ほか その他コカ・コーラ、フェデックス、USPS ほか 出所:サービジスティクスの資料から編集部が抜粋

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