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APRIL 2009 66
宇野修 ロジスティクスバンク代表
物流業のリスクマネジメント
物流業のリスクマネジメント
環境リスクを管理する
「ISO14001」は、I
S O( 国際標準化機構) が
一九九六年に定めた環境マネジ
メントシステム(Environmental
Management System= EMS)
の国際標準規格であり、環境被
害という側面からリスクマネジメ
ントの手法を示したものである。
その大きな特徴は、順守しなけ
ればならない法律その他の要求事
項が数多く存在することである。
実際、前号で解説した「ISO9001
品質マネジメントシステム」には、法的要
求事項が全く規定されていないが、「I S O
14001環境マネジメントシステム」には、
各種の法の順守が明確に規定されている。 し
かも、ISO14001の二〇〇四年版では、
規格要求事項として新たに「順守評価(規格
要求事項: 4.5.2.1 と4.5.2.2)」が追加されてい
る(図1)。 環境マネジメントにおいて、順法
性がいっそう重要になっていることを示唆した
ものと言える。
物流業の関わる環境関連法規はきわめて広
範囲にわたっているが、主なものを上げると図
2の通りである。 これに加えて、環境マネジメ
ントを実施するにあたり理解をしておかなけれ
ばならないものとして、循環型経済システム構
築のための原則「3R」がある。 3Rとは「リ
デュース(Reduce)」、「リユース(Reuse)」、「リ
サイクル(Recycle)」の略である。
このうちリデュースとは、製品などの省資源
化・長寿命化などを通じて廃棄物としての排
出を抑制することである。 これにはユーザー所
有の製品を修理し、製品の性能・機能を回復
させ継続使用するリペア機能を含んでいる。 近
年、物流企業が新しいサービスとして取り組ん
でいる領域の一つである。
またリユースとは、使用された製品のうち有
用なものを製品または部品として再使用してい
くことである。 物流業界で利用が広がっている
リターナブル容器もその一つだ。 さらにリサイ
クルとは、使用された製品や製品の製造に伴
い発生した副産物を回収し、原材料(マテリ
アル)として再生することである。
このように3Rは循環型経済システム構築
のための原則であると同時に、物流企業にと
って新しいビジネスチャンスとなり得る事業領
《第3回》
ISO14001環境マネジメントシステム
他社との差別化や主要荷主の要請をきっかけに日本でも
「ISO14001 環境マネジメントシステム」の取得に動く物流企業
が増えている。 その特徴は関連法規の順法性が重視されている
点にある。 企業活動による環境汚染を未然に防ぐためのリスク
マネジメントという観点からもISO14001 の取得は大きな意味を
持っている。
図1 ISO14001 2004 年版の規格要求事項
4.1
4.2
4.3
4.3.1
4.3.2
4.3.3
4.4
4.4.1
4.4.2
4.4.3
4.4.4
4.4.5
4.4.6
4.4.7
4.5
4.5.1
4.5.2
4.5.3
4.5.4
4.5.5
4.6
実行
(Do)
D
一般要求事項
環境方針
計画
環境側面
法的及びその他の要求事項
目的、目標及び実施計画
実施及び運用
資源、役割、責任及び権限
力量、教育訓練及び自覚
コミュニケーション
文書類
文書管理
運用管理
緊急事態への準備及び対応
点検
監視及び測定
順守評価
不適合並びに是正処置及び予防処置
記録の管理
内部監査
マネジメントレビュー
(経営者による見直し)
見直し
(Act)
A
計画
(Plan)
P
チェック
(Check)
C
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域と密接に関連していることを肝に銘じておく
必要がある。
EMSの仕組みと手順
� 稗咤錬隠苅娃娃韻罵弋瓩気譴討い襭釘唯�
の全体の仕組みを図3に整理した。 その具体
的な手順と物流企業における運用上のポイン
トは以下の通りである。
?環境方針の制定
� 釘唯咾老弍朕悗砲茲覦媚徂縮世�薀好拭�
トする。 その会社の環境パフォーマンスに関連
する意図および原則についての声明である「環
境方針」を制定するのである。
同時にEMSの構築作業を行うためのプロ
ジェクトチームもしくは環境対策室などの推進
部門を発足させることになる。
?環境目的と環境目的の設定
� 達錬欧虜鏝困箚超㌦[瓩僚綣蕕覆鼻�超㌍�
針から導かれる環境マネジメントの目的を明ら
かにして、具体的な数値目標を設定する(図
4)。 そのためにプロジェクトチームは「環境
側面の洗い出し」「環境影響評価」「著しい環
境側面」を特定する必要がある(図5)。
まずは事業活動体系表を作成する。 図6
図2 環境関連法規則(例)
■土地利用に関連する法律
●土地基本法
●国土総合開発法
●都市計画法
●工場立地法
●工業用水法
●建築物用地下水の採取の法規に関する法律
■公害等に関する法律
●特定工場における公害防止の整備に関する法律
●大気汚染防止法
●水質汚濁防止法
●湖沼水質保全特別措置法
●瀬戸内海環境保全特別措置法
●水道法
●下水道法1
●浄化槽法
●騒音規制法
●振動規制法
●悪臭防止法
●農地用の土壌の汚染防止等に関する法律
●土壌・地下水汚染の調査・対策に関する環境省指針
●公害健康被害の補償に関する効率
●電気事業法
●ガス事業法
●電波法
■化学物質に関する法律
●高圧ガス取締法
●毒物及び劇物取締法
●化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律
●労働安全衛生法
●特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律
●消防法
■廃棄物・リサイクルに関する法律
●再生資源の利用の促進に関する法律
●廃棄物の処理及び清掃に関する法律
■エネルギーに関する法律
●エネルギーの使用の合理化に関する法律
●エネルギーの使用の合理化に関する基本方針
■地方条例
●都道府県・市町村環境基本条例
●公害防止条例
■その他の要求事項
●業界の行動規範
●公的機関との同意事項
●規制以外の指針
図3 ISO14001 環境マネジメントシステムの構築・運用フロー(PDCA サイクル)
環境方針(P)
環境側面の洗出し
環境影響評価
著しい環境側面
法的その他の要求事項
?環境目的(P)
?環境目標(P)
?環境マネジメント
プログラム(計画)(P)
?運用管理(D)
?監視及び測定 ?順守評価
不適合及び是正並びに予防措置
?監査(C)
?経営者による見直し(A)
緊急事態への準備及び対応
EMSのサポート要素:体制及び責任/訓練・自覚・能力/コミュニケーション/マネジメント文書/文書管理/記録
4.1 一般要求事項 � 釘唯咾粒領�醗飮�複弌檻帖檻叩檻船汽ぅ�覽擇啖兮嚇��院�
図4 環境目的と環境目標の設定
図5 事業活動体系の整理から環境マネジメントプログラム作成までのプロセス
6 環境マネジメントプログラム
事業所の業務活動・作業・設備などを整理する
事業所の業務活動・設備ごとに、環境側面(環境に影響を及ぼす可能性の
ある要素)を洗い出す
環境側面の持つ環境影響を明確にし、環境影響を点数評価して、ランク付けする
ランク付けされた環境側面のなかで、手順書に定めた一定点数以上のものを
「著しい環境側面」として登録する
「著しい環境側面」は、原則として環境目的・環境目標を立てて改善に取組む
目標達成の計画をKP(I 業績評価指標)管理する。 5W1H
活用内容
*2008 年の使用量の10% 削減
*車両保有台数の10%をハイブリッド車にする
2008 年の使用量の5% 削減
2008 年の使用量の5% 削減
2009 年購入品目数のうち、環境配慮型製品の割合を15% 以上とする
あらゆる活動に対する環境意識を高揚させ、環境教育を実施する
環境目的環境目標(2009 年)
ガソリン使用量の削減
電気使用量削減
コピー用紙使用量の抑制
環境配慮型製品の割合の向上
環境保全活動への意識の高揚
活動プロセス
1 事業活動体系表
2 環境側面洗出し表
3 環境影響評価データ表
4 著しい環境側面登録表
5 環境目的・環境目標に取組む
宇野修 ロジスティクスバンク代表
物流業のリスクマネジメント
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は物流センターにおける事業活動の簡易体系
図である。 このように現状の業務プロセスを
フロー図にまとめる。 そして、各プロセスに
おける「環境に影響を与える要素」(ISO
14001では「環境側面」と呼ぶ)を列記
する。 それぞれの環境側面について、その影
響と関連法を整理する(図7)。
このとき、環境への影響は、使用する資源
を「インプット」、排出物を「アウトプット」
として分類する。 トラックの運転という環境
側面であれば、インプットは使用されるガソリ
ンであり、枯渇性資源の消費がその影響となる。
これらに関する対象法規制は、消防法、省エ
ネ法である。 アウトプットは排気ガスであり、
図6 物流センターにおける事業活動体系図
荷主の工場
トラック輸送
入庫
保管
出庫
出荷
トラック輸送
事務所フォークリフト
図7 物流センターにおける環境側面と環境影響
インプット
■トラックの運転
■フォークリフトの運転
■梱包作業
■事務所
■事務所
■事務所
ガソリンの使用
電力・軽油の使用
ストレッチフィルムの使用
冷暖房の使用
PCによる電力使用
ドキュメントの使用
トナーカートリッジの使用
枯渇性資源の消費
枯渇性資源の消費
枯渇性資源の消費
枯渇性資源の消費
枯渇性資源の消費
枯渇性資源の消費
*消防法
*省エネ法
*消防法
*省エネ法
*グリーン購入法
*省エネ法
*省エネ法
*グリーン購入法
排気ガス
排気ガス
振動
騒音
廃棄物
排気ガス
排気ガス
廃棄物
大気汚染
大気汚染
土壌汚染
大気汚染
大気汚染
土壌汚染
*大気汚染防止法
*大気汚染防止法
*振動規制法
*騒音防止法
*廃棄物に関する法律
*大気汚染防止法
*エネルギーに関する法律
*公害に関する法律
*廃棄物に関する法律
*公害に関する法律
アウトプット
図8 著しい環境側面の特定(例)
緊急時
非定常時
定常時
リスクレベル
(注2)
環境影響
環境側面
活動
人体への影響
資源の枯渇
汚染
ビジネス関係
発生し難い
発生し易い
リスク評価(注1) 許容可能レベル(注3)
頻 度危険度(影響度)
運用管理
資源の枯渇資源の枯渇
注1 リスク評価 1 点= 影響小 2 点= 影響中 3 点= 影響大
注2 リスクレベル=「危険度(影響度)」のリスク評価の合計点
注3 何点以上を「著しい環境側面」とするかについてはISO に規定がなく、各社が独自に判断する。
3 1 1 3 1 6 ○ ○
3 1 1 1 2 5 ○ ○
著しい環境側面
(6〜7点)
取るに足らないリスク
(1点以上)
許容可能なリスク
(2点以上)
許容不可能なリスク
(8点以上)
中程度のリスク
(3〜7点)
法的その他の
要求事項
最も発生し難い
ガソリン
の使用
トラックの
運転
ドキュメント
の使用
事務所
環境側面インプット環境影響対象法規制アウトプット環境影響対象法規制
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対象法規制は大気汚染防止法となる。
次に「著しい環境側面」の特定である。 図
7に示したように、リスク分析とリスクの許容
可能なレベルを評価し、点数の高いものを「著
しい環境側面」として特定する。 ちなみに何
点以上を「著しい環境側面」と位置付けるのか、
あるいは「著しい環境側面」をいくつ挙げる
かについてはISO14001の条文には規
定がなく、各社の裁量に任されている。 通常
は点数の高いものから三〜四項目を「著しい
環境側面」に挙げることが多い。
?環境マネジメントプログラムの策定
次に、環境目的と環境目標に基づいて、「環
境マネジメントプログラム」を作成する。 環境
マネジメントプログラムとは行動計画表のこと
である。 目標を達成するために、何を、誰が、
いつまでに、どこで、どのように(5W1H)
行動するのかを計画表に落とし込むわけであ
る。 ここまでが、PDCAサイクルのP(計画)
の段階である。
?運用管理
環境マネジメントプログラムを実行し、また
実行に必要となる資源の確保、教育、文書管理、
記録管理の作業を同時に進める。
?監視および測定
「著しい環境側面」を監視・測定する手順
(プロセスマップ)の確立と維持が必要となる。
プロセスマップには要求事項が設けられている。
パフォーマンス、運用管理ならびに組織の環
境目的・目標との適合性を追跡するための情
報を記録すること、監視機器の校正・維持お
よびその記録をとること、環境法規制への適
合性を定期的に評価する手順を確立・維持す
ることなどである。
?順守評価
順守評価とは、環境法規制への適合性を
定期的に評価し記録に残すことを指す。 IS
O14001がスタートした一九九六年版の
要求事項にはなかったが、二〇〇四年版で
新たに追加された(規格要求事項: 4.5.2.1 と
4.5.2.2)。
?監査
内部監査および第三者による監査を実行し、
EMSが有効に機能しているかどうかを検証す
る。 この監査により、不適合事項や改善を要
する分野が指摘されたら、是正処置を実行し、
EMSを規格要求事項に適合するように改善
することが要求される。
?経営者による見直し
監査の結果はトップマネジメントに報告され
て、「経営者による見直し」(マネジメントレ
ビュー)のステップを踏む。 必要に応じて環
境方針や環境目的の修正、監視および測定・
順守評価方法の改善が行われる。
以上述べたように、ISO14001のプ
ロセスもまた、環境マネジメントプログラムを
策定し(Plan)、それを運用管理し(Do)、監
視および測定/監査(Check)し、経営者に
よる見直し(Act)を行うというPDCAサイ
クルから構成されている。
このPDCAサイクルを繰り返し、継続的
改善を進めることによってEMSに磨きをかけ
ていく。 その結果として環境面における企業
の社会的責任を全うできる。 これらのシステム
を物流企業の経営戦略に取り込んで、普段の
仕事の一部として実行する組織を構築しなけ
ればならない。
参考文献
■『ISO14001環境マネジメントシステムと
監査の実務』大浜庄司著、オーム社、二〇〇二
年
■株式会社日本国際規格コンサルティング「JAB
認定 � 稗咤錬隠苅娃娃運該紺��ぅ魁璽后弩�
修資料(二〇〇三年二月開催)
宇野 修(うのおさむ)
1946 年生まれ。 青山学院大学卒。
英国航空、フライングタイガー航空、
エア・カナダ、ジャパン・シェンカー、
エクセル・ジャパンを経て、2008
年にロジスティクスバンクを設立、
代表に就任。 現在に至る。
http://www.e-logisticsbank.com/、
e-mail:uno-osamu@e-logistics
bank.com
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