2009年4月号
特集

儲かる中国物流 4PL子会社設立し中国物流を統合

APRIL 2009  10 第1部 競争優位のための物流戦略  当初、トヨタは中国市場で、フォルクスワーゲ ン(VW)やホンダなどライバルの自動車メーカ ーに出遅れたと言われていた。
しかし、ここ数年 のトヨタは進出を本格化させ、勝負をかけている。
生産規模の拡充につれて順調に生産販売台数を伸 ばし、高い利益率を実現するなど、現在では卓越 した競争優位を示している(図1)。
 その競争優位の源泉は強い商品力と優れた生産 システムに帰すると評価されることが多い。
しかし、 それだけではない。
生産・販売と連動する物流シ ステムの高度化、効率化もトヨタの中国市場にお ける重要な成功要因であることは明らかである。
 トヨタの中国事業は現在、一〇%のシェア獲得 という目標に向け、新たな段階にさしかかっている。
本稿執筆の最中にも、広州トヨタ(GTMC)の 第二工場建設と四川トヨタ(SFTM)の工場移 転・規模拡大が発表され、また長春での新工場建 設や上海地域で新工場を設立するという観測も強 まっている。
 こうした「攻め」の事業展開を支える物流戦略 と物流システムの構築は、トヨタにとって重要な 課題である同時に、競争優位を実現するための差 別化手段ともなっている。
 トヨタのみならず、日産もホンダも中国市場に おける物流システムの構築に当たり、日本国内で 開発した仕組みや蓄積してきた技術・ノウハウを 現地に積極的に導入している。
例えばホンダは、 日本国内と同様、完成車の幹線輸送モードに鉄道 を選択し、そのために鉄道貨物駅に隣接する広域 物流拠点の設立や、専用鉄道車両の導入など、日 4PL子会社設立し中国物流を統合  2007年7月、トヨタは天津に物流会社を設立した。
それ まで中国の各事業会社が個別に管理していた物流を統合す ることが狙いだ。
そこでは荷主企業に代わって複数の3PLを 統括管理するLLP(リード・ロジスティクス・プロバイダー =4PL)型のフレームワークが採用されている。
天津 長春 広州 西安 成都上海 トヨタの中国ロジスティクス戦略  中国市場で10%のシェア獲得を目指し、トヨ タのロジスティクス戦略が加速している。
中国 全土の物流を統合管理する4PLを設立。
独自 の基準で3PLを選別し、日本や米国で開発した 物流技術を現地の環境に柔軟に適応させること で、かんばん方式の定着を図っている。
トヨタの中国における拠点・輸送ネットワーク(TFGL社資料より) 儲かる中国物流 Part? Li, Ruixue 1970年、中国安徽省生まれ。
92年、 南京大学卒。
2004年3月、名古屋大学大学院博士課 程修了。
同4月、富山大学経済学部専任講師。
06年、 同助教授。
07年より現職。
08年9月より米ミズーリ大 学セントルイス校ビジネススクール客員研究員として渡 米。
専攻はSCMおよび物流システム論。
李 瑞雪 富山大学 経済学部 准教授 11  APRIL 2009 特集 本と同様の様々な仕組みを取り入れている。
 一方、トヨタは中国では内航海運を完成車輸送 モードとして起用している。
海運を活用するとい う点は、これもトヨタの日本国内でのやり方と重 なる。
また調達物流におけるかんばん方式や、後 述する中継地物流システムなども日本に範を取っ たものである。
 しかし、技術やノウハウのソースは日本に限定 するものではない。
例えば、ミルクラン集荷シス テムについて、トヨタは日本ではなく、米国で その運用ノウハウを蓄積した。
また、欧米の大手 企業の間で広がっているLLP( Lead Logistics Provider= 4PL)を活用したロジスティクス業 務の統合管理も、トヨタにとっては中国が初めて の試みである。
 中国の物流環境に適応可能なさまざまな要素技 術を柔軟に組み合わせながら、コスト効果的なロ ジスティクス体制を構築する││このアプローチこ そが、トヨタの中国における物流戦略の特徴の一 つと言える。
物流子会社設立までの紆余曲折  トヨタは二〇〇七年七月に中国で物流管理会社 の同方環球(天津)物流有限公司( Tong Fang Global〈Tianjin〉Logistics Co., LTD=以下、T FGL)を設立した。
中国の大手自動車メーカー、 第一汽車集団(FAW)、広州汽車集団(GAC) との三社による合弁であるが、トヨタの出資比率 が四〇%と最大であり、実質的にはトヨタ傘下の 物流子会社であ る。
 同社は天津経 済開発区に本社 を置き、天津、 広州、西安、長 春、成都に事務 所(分室)を設 けている。
登録 資本金は五〇〇 万米ドル。
トヨ タからの出向社 員は一九人で、 社長(総経理) を含む主要経営 ポストに就いている。
パートナーの第一汽車と広 州汽車からはそれぞれ一〇人と七人の社員が出向 している。
社員総数は昨年三月の時点で一八〇人 を数える。
 TFGLは発足までに長い時間を要した。
トヨ タは第一汽車集団、広州汽車集団の二大グループ とそれぞれ合弁という形で一〇数社の完成車製造 会社、エンジン製造会社、部品製造会社、完成車 販売会社を設立している。
 完成車工場だけで、長春、天津、成都、広州 の四都市に合計六拠点を稼働し、合わせて四四・ 六六万台(〇七年度実績)の完成車を製造・販 売している。
また、日本などから完成車(同年度 実績で約五万台)と部品の輸入も行っているため、 トヨタの中国における物流は相当なボリュームに のぼっている。
 中国の自動車市場で一〇%のシェア獲得を目指 すトヨタは、二〇一〇年頃に一〇〇万台の製造・ 販売体制を完成させる計画を進めている。
それが 実現すれば、生産部品だけで一日当たりの平均集 荷・納品量は四万立方メートルに達する見込みで ある。
 しかし、こうして膨張し続ける物流に対して、 トヨタはこれまで統合的に運営・管理する体制を もっていなかった。
完成車の製造事業会社はそれ ぞれ合弁相手が異なり、外資系製造業者に対して 自社製品以外の製品販売を禁ずる中国のかつての 法律上の制約から、事業会社ごとに調達、製造か ら販売、物流まで一貫体制を敷かざるを得なかった。
 物流業務も当然、事業会社ごとに管理運用され ていた。
その結果、非効率な物流オペレーション を余儀なくされ、中国市場にむけた統一的なロジ 60 50 40 30 20 10 0 9.81 5.24 11.62 18.35 13.44 30.8 49.92 44.66 27.46 8.78 万台 販売台数生産台数 2003 年度 2004 年度 2005 年度 2006 年度 2007 年度 図1 中国におけるトヨタ自動車の生産・販売規模 APRIL 2009  12 スティクス戦略の実施は困難であった。
 WTO加盟後の外資に対する規制緩和を受けて、 トヨタは数年前から中国市場でシェアード・サー ビス型の物流体制、すなわち中国に分散する各事 業体の物流業務を統合的に計画し、遂行する物流 管理体制への転換を検討していた。
当初は地域本 部であるトヨタ中国投資有限公司(TMCI)の 中に物流管理部を設置して、各事業会社の物流業 務を集約するという案があった。
 しかし、この案は、各事業会社の物流機能がト ヨタの完全子会社であるTMCIに移されること になるため、事業会社の中国側合弁相手から同意 が得られにくく、実現性に欠けると判断され、中 国側の事業パートナーに話を持ちかけることなく 消えた。
そもそも投資機能、調整機能、広報機 能を中心とするTMCIに、物流の実務執行が可 能かどうかも疑問であった。
 中国側の事業パートナーと合弁で物流企業を設 立するという案も浮上した。
しかし、第一汽車と 広州汽車のいずれと合弁物流会社を設立したとし ても、もう片方の合弁事業会社の物流業務を取り 込むことは困難だと予想された。
 第一汽車と広州汽車は互いに強いライバル意識 を持っている。
自らの経営機能の一部を相手の関 連企業に委ねることなど認めがたいはずだ。
事実、 トヨタと第一汽車の合弁で設立された販売会社・ 一汽トヨタ自動車販売(FTMS)は、広州トヨ タ(トヨタと広州汽車の合弁企業、GTMC)の 製品を取り扱うことができないままでいる。
 そこで、トヨタは第一汽車と広州汽車に対して、 三社による合弁を提案した。
三社合弁であれば、 利害を一致する共同体が形成できると考えたので ある。
しかし、第一汽車と広州汽車 を同じテーブルに着かせるのは簡単で はなかった。
結局、先述したTFG Lの発足までには三年にもわたる交渉 が必要であった。
 関係者の苦労はTFGLという社 名からも窺える。
トヨタ(TMC)のT、 第一汽車(FAW)のF、広州汽車(G AC)のG、ロジスティクス(Logistics) のLを合わせる形で社名の英文略記を まず決めておき、そしてT、F、G に対応する中国語の単語を探し出した 結果、「同方環球」という名称が誕生 したという。
 ちなみに「同方」の中国語の発音 表記(ピンイン)は「Tong Fang」。
「環球」は、Gから始まる妥当な中国 語が見つからなかったため、英語の Globalを中国語訳した「環球」を選 んだという。
 あえて出資各社の社名をTFGLの中国語表記 に反映させなかったのは、過度に長い社名になる のを避けたかったからだと、TFGLの経営者は 説明してくれた。
しかし、TFGLを寄り合い所 帯ではなく、中国市場でトヨタ系の各事業体に一 元的にロジスティクスサービスを提供するLLP型 の物流企業に育成するという、トヨタの狙いがこ のユニークな命名に込められたとみるのが妥当で あろう。
LLP型の業務フレームワーク  TFGLは〇七年一〇月の営業開始と同時に、 トヨタの中国における主要な事業体と物流業務の 一括受託契約を結んだ。
すなわち、トヨタと第一 汽車との合弁企業であるFTMS(一汽豊田汽車 銷售有限公司)、TFTM(天津一汽豊田汽車有 限公司)、SFTM(四川一汽豊田汽車有限公司)、 TFTE(天津一汽豊田発動機有限公司)、FT CE(一汽豊田〈長春〉発動機有限公司)、トヨ タと広州汽車との合弁企業であるGTMC(広州 豊田汽車有限公司)、GTE(広汽豊田発動機有 限公司)、トヨタの独資企業であるTMCI(豊 田中国投資有限公司)の八社である。
(注:調査時点で、TFGLがSFTMから委 図2 TFGL のフレームワーク トヨタ自動車 (人材派遣・物流技術支援・経営指導) トヨタと第一汽車TFGL の合弁企業 (FTMS、TFTM、 SFTM、TFTE、 FTCE) トヨタと広州汽車 の合弁企業 (GTMC、GTE) その他の事業体 (TMCI) 生産準備、 改善支援の 依頼 物流業 委託 ●物流企画 ●物流管理(運行 管理、キャパシ ティ調整など) ●物流調達(業者 の選定、料金交 渉) ●物流プロジェク ト管理 ●物流システム管 理 ●物流業務改善の 指導 選定、 管理、 指導 物流専門業者、3PL 13  APRIL 2009 特集 託を受けていたのはSFTM長春豊越の物流業 務だけだった。
SFTMの物流が全面的にTF GLに移管されるのは、〇九年に予定されてい るSFTM本体〈成都〉の工場移転完了後に なる見込みだという)  これらの事業会社は荷主企業として、その物流 業務をTFGLに委託することになった。
TFG Lは各荷主企業の物流企画から業務遂行までを一 手に請け負い、改善などのコンサルティング機能 も担う。
TFGL自身も輸送免許を取得し調査時 点でトラック六台を所有していたが、基本的に物 流の現場作業に関しては、物流専門業者、3PL 事業者にアウトソーシングしている 。
 TFGLは物流業者の選定と管理、料金交渉、 キャパシティの調整、物流の管理、業者の改善指 導、物流プロジェクト管理などについて責任を持つ。
トヨタ系の各事業会社の物流業務を統合すること によって、必要な現業アセットの安定調達、共同 物流による合理化、リードタイムの短縮と物流品 質の改善による顧客サービスの向上などの効果を 狙っている。
 このように、TFGLはトヨタ系の各事業会社 の物流元請業者として、生産販売活動と連動しな がら、完成車物流(販売物流)、生産部品物流(調 達物流)、補修部品物流(アフターサービス物流) に関わる諸業務全般を取り仕切っている。
米ゼネ ラルモーターズ(GM)におけるベクターSCM 社と同様の、LLP型の物流管理企業と言える。
(注:GMは米大手物流会社のCNFと合弁で 二〇〇〇年にベクターSCMを設立し、グロー バルロジスティクスの管理を全面的に移管した。
サプライチェーン改革および世界各地・各領域 で最適な3PLを選択し、それを管理すること が主な役割だった。
その後、GMは合弁を解消。
〇六年にCNFから社名変更したコンウェイの 持ち株を買収し、ベクターSCMを再び直轄の 物流子会社として位置付けている)  LLPたる事業者は、荷主企業にロジスティク スサービスを提供する個々の物流専門業者や3P L事業者に対して技術優位性を有しなければなら ない。
そのために、トヨタは本社の物流部門や現 地の各事業会社で物流業務に従事していた一九人 の物流スペシャリストをTFGLに送り込み、運 営に当たらせている。
 また、TFGLはトヨタと技術支援契約を結ん でいる。
TFGLは中国で自動車物流に特化した ナンバーワンの物流企業になることを目標として 掲げている。
 中国の日中合弁企業の多くは、物流業務につい ては中国側のスタッフに任せている。
しかし、ト ヨタはすべての現地法人において、自らの主導で 物流システムの構築を進めてきた。
それは物流シ ステムがトヨタ生産システム(TPS)に緊密に リンクする重要な経営要素であり、競争力の源泉 の一つだと認識するからである。
 実際、TFGLが設立する以前から、中国の各 事業会社にはトヨタ本社の物流部門から十数人の 物流エキスパートが派遣され、日本で蓄積された 技術やノウハウの移転と物流システムの構築、ト ヨタ流の物流技術の中国物流環境への適応に取り 組んできた。
かんばん方式の導入  トヨタの調達・生産システムのシンボルとも言 える「かんばん」も、トヨタは中国進出の初期段 階から、組立工場内だけでなく、サプライヤーと の間にまで使用してきた。
生産部品の調達情報は まず三カ月前に、サプライヤーに仮の生産計画を 内示し、一カ月前に(前月の二〇日前に)確定し た生産・調達計画を送る。
しかし、実際の注文は 毎日回ってくるかんばんで示される。
 既に一部のサプライヤーには、電子化された「e かんばん」が導入されている。
この場合、かんば ん情報はeメールでサプライヤーに送信され、サ プライヤーはそれを印刷し、納品書として納品函 に貼付する。
大半のサプライヤーには、まだ紙の かんばんが使われている。
前の便(集荷トラック) で届けられたかんばんを、次便か次々便で部品と ともに持ち帰るという仕組みである。
 生産部品の物流を管理する情報システムも導入 されている。
トヨタの開発したTLMS(Toyota Logistics Management System)である。
このシ ステムは既に中国の各生産拠点に導入されており、 TFGLにもシステムの利用権限が付与されてい る。
どの部品をどれだけ、いつ、どの便で集荷す るかといったかんばん情報は、TLMSによって 出力され、サプライヤーおよびTFGLに送られる。
 ほかに完成車輸送業務を管理するために、トヨ タの開発した「GYNS(グローバル輸送ネットワ ークシステム)」という情報システムがある。
販売 管理システムと連動するGYNSを通じて、完成 車の輸送計画、配車計画を作成し、輸送途中の追 跡や料金計算などを行う。
TLMSと同様、TF GLに同システムの利用権限が付与され、各生産 拠点(TFTM、SFTM、GTMC)と販売会 社(FTMS、TMCI)に導入済みである。

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