2009年5月号
keyperson

日本ロジスティクス研究所 市川隆一 社長

MAY 2009  2 いる。
JPEXには、それとは別の 宅配便型の営業が必要です」 ──二強市場にJPEXが参入して いくことで、料金相場にはどのよう な影響が出ますか。
 「営業力の強化には時間がかかりま す。
それまでJPEXは価格競争に 出るしかないはずです。
そうなると 三社がすべて疲弊していく。
ヤマト・ 佐川の二強時代は、お互いの価格帯 も分かっていたので料金相場は比較 的安定していた。
しかし、それが崩 れる可能性がある」 ──〇三年四月の公社化以降の郵政 の戦略はどう評価しますか。
 「公社化と同時に発売した『エクス パック五〇〇』は、他の宅配会社に は痛かった。
専用封筒に詰め放題で 全国一律五〇〇円ですから、重量比 で見たときの宅配便相場を崩す要因 になりました。
郵便を独占し、規制 に守られた状態で宅配便の競合商品 を出してきたわけで、他の宅配会社 は歯噛みした」 ──しかし、当時の郵政には定価販 売しかできないという縛りがありま したから、単価は五〇〇円です。
大 口法人向け宅配便の実勢相場よりも 高い。
 「そんなことはありません。
当時の あの荷物で五〇〇円は相場よりも安 カギは郵便インフラの活用 ──日本郵便と日本通運の宅配便事 業が統合され「JPエクスプレス(J PEX)」が誕生しました。
どう評価 されていますか。
 「ヤマト、佐川に続く二番手グルー プ同士が統合すれば確実にメリット は出ます。
荷主から見たときの選択 肢も増える。
これまでの『ゆうパッ ク』と『ペリカン便』は、二強に比べ ると明らかに見劣りがしました。
部 分的な選択肢にはなってもパートナ ーにはなり得ていなかった。
宅配便 の大口ユーザーとなっている通販会 社にとって、事実上、パートナーは二 社しか選択肢がなかった」  「今のところ日本郵政が物流事業 でどういう方向性をとっていくのかよ く見えていませんが、今後、郵便の 基盤を拡充し、それを宅配便と組み 合わせて通販会社のニーズに対応さ せていくのであれば、大手二社にと ってもかなりの脅威になります。
と りわけ地方においては、郵便と消費 者の親和性はとても高い」  「荷主側にも郵便のプラットフォー ムに対しては一定の評価があります。
郵便局での荷物の受け取りや郵便の 決済機能には魅力がある。
しかし宅 配便と一般郵便とのシナジーがない のであれば、JPEXの付加価値は 高くない。
郵政三事業と郵便局がバ ラバラになってしまえば、競争力を 失ってしまう。
大手二社にとって敵 ではなくなります」 ──現状ではヤマト・佐川に、それ ほどの危機感はないようです。
 「営業力の差は歴然としていますか らね。
民営化以降、郵政の幹部クラ スは大手二社と比べても、むしろ積 極的なぐらいに荷主企業の経営層を 回っていますが、今のところは表敬 訪問の域を出ていない。
実務レベル まで話が降りてきていません。
宅配 便はパッケージ化された商品ですが、 大手荷主に対しては細部のカスタマ イズが発生します。
しかし、そのレ ベルの提案が郵政にはまだできてい ない。
実務をコーディネートできる営 業マンが育っていないのでしょう」 ──郵政はともかく、日通には法人 営業ノウハウの蓄積もあります。
 「日通の法人営業はあくまでも倉庫 事業や輸送を含めた総合物流を受託 するための組織であって、ペリカン便 の獲得につなげようという活動には なっていません。
ヤマト・佐川の営 業とはアプローチが違う。
郵便事業 本体の営業も、3PL志向になって 日本ロジスティクス研究所 市川隆一 社長 「JPEX誕生が価格競争の引き金に」  「ゆうパック」と「ペリカン便」を統合するJPエクスプレス (JPEX) が事業を開始した。
宅配便市場にヤマト運輸、佐 川急便の“二強”に対抗し得る第三の軸ができた。
大口ユーザ ーにとっては選択肢が一つ増えたことになる。
しかし、その実 力には二強とまだ大きな開きがある。
JPEXは当面、価格以 外に訴求力を持ち得ない。
       (聞き手・大矢昌浩) 3  MAY 2009 かった。
しかも、そのころ宅配会社 は全国一律運賃をやめる方向で動い ていました。
宅配会社は大昔から特 定の大口顧客に対しては全国一律運 賃を打ち出していました。
しかし、そ れは遠隔地向けの荷物の比率を調べ たうえで、荷主の管理が楽になるよ うに、宅配会社として赤字の出ない レベルの料金を設定したものでした」 ──方面別の荷物の量や商品の形状 は、時間と共に変化するわけだから、 全国一律を続けていればいずれ、ど んぶり勘定になってしまう。
 「そのために宅配会社も方面別はと もかく、荷物の容積・重量を正確に 反映させた料金に変えていこうと動 いていたわけです。
エクスパックがそ こに水を差した格好です。
エクスパッ クの封筒に書類を詰め込むと相当な どう処理するか。
限られた時間のな かで荷物を配送し集荷するノウハウ は二社にしかない。
そうしたノウハウ を定型化するには、一定以上の物量 が必要ですから」 ──ヤマト、佐川、JPEXの三社 以外の宅配便は今後どうなっていく と予想しますか。
 「宅配便は三社あれば十分です。
取 り残された宅配便会社にはJPEX に統合されたいという気持ちがある はずです。
しかし、今回のペリカン便 もそうでしたが、特積事業者の宅配 便のインフラは路線便と一緒になっ てしまっているため分割ができない。
宅配便事業独自の資産は恐らく情報 システム程度だと思います。
一方で 特積事業自体も赤字体質に陥ってい る。
結局、宅配便を含めた特積事業 全体のリストラという枠組みで、遅 かれ早かれ整理を強いられることに なるはずです」 重量になりますからね。
それだけ郵 政公社には影響力があったとも言え ます。
取扱個数はペリカン便よりも少 なくても、宅配市場における存在感 はずっと大きかった」 特積(路線便)市場も再編へ ──資料を見るとヤマトの「宅急便」 の平均単価は年々下がる傾向にある とはいえ、まだ六四〇円程度を保っ ています。
他社と比べて一〇〇円以 上高い。
これはどう考えればよいで しょうか。
 「ヤマトの単価が高いのは、一般消 費者に定価で販売している宅配便が 一定の割合を占めていることが理由 です。
そのため定価取引の比率が減 ってきことに伴って単価も下がって きている。
一方で通販会社など大口 法人顧客の単価は、従来からヤマト と佐川は全く同じ水準です。
最後は、 その顧客が絶対に必要なのか、そう でないのかというギリギリの判断で価 格を決めている」 ──一方で日通もペリカン便の単価 を発表していますが、これが昨年度 は五〇〇円を切っている。
ヤマトは もちろん、定価取引のC to Cがない 佐川と比べても安い。
 「ペリカン便は二〇〇〇年に最後の 攻勢をかけたときに、極端な低価格 戦略に出ました。
当時のヤマトや佐 川よりも一〇〇円近く安い価格を打 ち出してシェアの拡大を図った。
そ こで単価が崩れてしまった。
結果と して他の宅配会社もこれに巻き込ま れて宅配便の相場が下がっていきま した」  「結局、当時から既にペリカン便は 価格でしか勝負できなくなっていた。
九〇年代までペリカン便はヤマトや 佐川と並ぶ有力プレーヤーとして世 間的には認知されていました。
とこ ろが、実際の配送力は既に二強から 大きく引き離されていた。
そのため 倉庫業務は従来通り日通に委託する けれども、そこから出荷する宅配便 は、ペリカン便をやめて、他の宅配便 に切り替えるという荷主がいくつも 出てきた。
日通は恐らく宅配便が企 業物流の中心的輸送モードになると は考えていなかったのでしょう。
総 合物流のメニューの一つに宅配事業 を位置付けた戦略の失敗だったと思 います」 ──B to B市場については  「宅配便のB to B市場は既に決着 が付いている。
ヤマト・佐川以外の 会社がこれから入っていこうとして も相当に厳しい。
都市部のオフィス に配送するには、どのように車両を 使うのか。
同じビル内の縦の搬送を いちかわ・りゅういち  法政大学大学院経営学修士 課程修了。
大手物流会社を経て 2007年10月に日本ロジスティ クス研究所設立。
社長に就任。
現在に至る。
多摩大学大学院客 員教授を兼務。
研究テーマは「商 いの不確実性とロジスティクス 最適化」 750 700 650 600 550 450 大手宅配便の平均単価の推移 (単位:円) 12 年度 13 年度 14 年度 15 年度 16 年度 17 年度 18 年度 19 年度 20 年度 宅急便 ゆうパック 佐川急便 ペリカン便 本誌調べ 642円 605円 532円 496円

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