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MAY 2009 36
SCM
江崎グリコ
生産計画を週次に変更し生販を統合
スタートから8年で在庫を2割削減
生産・販売計画を月次から週次へ
江崎グリコが二〇〇〇年にSCMに取り組
んだ動機はコスト削減ではなかった。 第一の
狙いは、欠品の防止にあった。 SCM本部の
小嶋雅彦ロジスティクス部長は次のように説
明する。
「今でこそ改善されたが、かつての当社は欠
品が多いメーカーとして?有名?だった。 少し
店頭で売れ行きがいいと、すぐに欠品してし
まう。 これを無くしてほしいという要望を販
売部門は凄く強くもっていた。 とは言え、そ
のために滞留在庫が増えてしまうようではい
けない。 いかに(販売の)現場の動きに応じ
て商品をつくっていくかが、SCMを導入し
た一つの狙いだった」
もう一つ、大手コンビニエンスチェーンなど
への対応という狙いもあった。 コンビニの多
くは一週間単位で店頭の商品を見直している。
陳列された新商品が、わずか四週間で取引停
止になってしまうこともある。 メーカーだけ
が従来通り月次で生産計画を作っていてはと
ても対応できない。
テレビCMなどで集中的に宣伝を施す新商
品は、需要予測がきわめて難しい。 また定番
商品についても、月次の生産効率を高めよう
とする意識が強いと在庫を多めに抱えがちだ。
需要の変動に対応しやすい体制を整えて、欠
品の防止と、在庫水準の適正化を図っていく
必要があった。
江崎グリコの従来の生産計画は、営業部門
が策定する販売計画の影響を強く受けていた。
マーケティングの力でヒット商品を生み出そう
とする意識の高さは同社の強みでもあるのだ
が、サプライチェーンの効率運営という意味
では課題があった。 営業部門の願望や意志が、
生産活動にそのまま反映されていたことが欠
品や過剰在庫の一因になっていた。
そこで二〇〇〇年に社内に「ロジスティク
ス委員会」を発足させた。 生産、資材、物流、
営業、情報システムといった関係部署の社員
が参加して、約一年にわたり新たな管理手法
に関する検討を重ねた。
その結果、それまでは営業部門に引きずら
れていた生産計画の策定を、過去の実績や在
庫状況に基づくものに転換するという方針が
定まった。 具体的には、月次だった計画周期
を週次に短縮して、需要予測や計画の精度を
高めていくことになった。
実際に週次の生産・販売計画(週次生販)
が可能であることを確認するため、まずは主
力商品の「プリッツ」でテストを実施すること
にした。 当初は専用システムもなければ、組
欠品防止と在庫削減を両立するため、2000年に
ロジスティクス委員会を発足させた。 その3年後に
は新な生販システムを稼働。 月次だった生販計画
を週次に短縮した。 07年にはSCM本部を新設。 資
材・生産・ロジスティクスを集約する組織改革を行
った。 スタートから約8年を経て、管理対象品目の
在庫水準は2割余り減っている。
SCM本部ロジスティクス部の
小嶋雅彦部長
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織も未整備だった。 市販の表計算ソフトで作
った簡単な仕組みを、営業部門と工場の間で
やりとりする日々がつづいた。
基本的な考え方として、過去の実績に基づ
く需要予測と、特売など営業の意志の入って
いる需要予測を明確に分離した。 従来はこ
れを一緒くたに扱っていたうえ、顧客から特
売情報などを入手する時期が遅かったことで、
需要予測の誤差を招いていた。
新たな週次生販では、まず三週間前に特売
情報などを確定する。 そして在庫量などを勘
案しながら二週間後の販売量を予測。 これに
基づいて生産活動や資材調達を実施していく
というアプローチに変えた。 さらに向こう六週
間分の予定数量を関係者に開示することで、
営業や工場、資
材部門が計画
的に業務をこな
せるようにする。
約一年間に
わたって「プリ
ッツ」で実験を
重ね、運用手法
を模索していっ
た。 その経験を
通じて週次でも
きちんと生販計
画を回せ、しか
もより鮮度のい
い商品を顧客に
提供できるという確信を深めた同社は、〇一
年六月に「ロジスティクス部」を新設。 需給
調整の機能をここに集約して、週次生販を全
社的に展開していく体制を整えはじめた。
生販システムを構築し全面展開
もっとも全社的に週次生販を導入するとな
ると、専用の仕組みがなければ対応できない。
そこで関係業務を統合的に管理できる「生販
システム」を新たに構築することにした。 ロ
ジスティクス部とIT部門が共同でシステム
の構築作業を進め、〇二年一〇月にはITパ
ートナーとしてNECを選択した。
当時はSCMのパッケージソフトを提供す
る外資系ITベンダーがすでに日本にも進出
し、多くの有力企業が導入していた。 そうし
た中でNECを選んだのは、計画系は手作り
で、実行系はパッケージを使うというNEC
の提案を評価したためだ。 計画系にパッケー
ジを採用すれば大幅なカスタマイズが避けら
れず、開発期間やコストでかえって不利にな
るという判断だった。
江崎グリコがSCMの対象としている商品
は菓子・冷菓(アイスクリーム)・食品の三分
野からなる。 「プリッツ」や「ポッキー」など
有力な定番商品を持つ一方で、売上規模の小
さい商品も数多く抱えている。 地域限定や季
節限定などの派生品が豊富にあり、総アイテ
ム数は一〇〇〇以上に上る。
新製品を発売する頻度も高い。 これは菓子
業界で一般的に見られる慣行だが、どんどん
目先を変えることで有力小売業の店頭スペー
スを確保し、売り上げにつなげているという
現状がある。 単品あたりの売上規模が小さい
ために、週次生産では生産ラインの切り替え
ばかり増えてしまって採算の合わない品目も
少なくない。
アイスクリームに至っては、実需に即した
生産という考え方そのものがそぐわない。 典
型的な季節商品であるアイスは、夏場のピー
ク期の需要に合わせて生産設備を持つことは
不可能だ。 このため毎年二月ぐらいから作り
貯めをして、ピーク期の販売損失を防いでい
る。 だが、これが実績のない新商品となると、
どれだけの量を作るのかはマーケティング上の
判断でしかない。
欧米流の融通の利かないパッケージソフト
で多様な商品を管理するのは現実的ではない。
こうした判断から、計画系システムについて
は需要予測の部分にだけパッケージ(NEC
製)を活用し、それ以外は個別で開発すると
いう選択をした。 一方、実行系についてはパ
ッケージ(同)を全面的に採用して、カスタ
マイズを最小限に抑えることにした。
新たな生販システムは〇四年の年明けに稼
働。 これによって週次生販が本格的にスター
トした。 「プリッツ」の実験と同様、常に二週
間後の計画を確定しながら、その後の四週間
分の予定(変更あり)を開示する。 この六週
間分をワンセットにして、毎週、予定値の確
環境の変化
●鮮度志向
●製品寿命の超短命化
●多品種少量販売
●キャッシュフロー経営
SCM 構築の必要性
●在庫を基点とした補充生産を計
画・実行できる仕組みの構築
●週次による生販運営(計画立
案・調整)の実行
週次生販を中心とした生販業務改革が必要
欠品なき在庫削減の実現による利益創出・経営体質強化
2004 年に新たな生販システムを導入した背景と目的
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定と修正の作業をローリングしていく。
具体的には、毎週月曜日の夜、あらかじめ
定めてある基準在庫と、販売計画、需要予測
に基づいて、システムで計画を策定する。 こ
れを火曜日以降、ロジスティクス部のメンバー
が修正・確定し、この確定値に基づいて資材
の発注計画や、各地の拠点に横持ちするため
の配車計画を展開。 そして二週間後に工場が
生産するという手順である。
関連部署をSCM本部に集約
ロジスティクス委員会の発足から、生販シ
ステムの稼働までに約四年かかった。 週次で
計画を回していくツールは整ったが、これは
実際に欠品を減らし、在庫を抑制していくた
めの出発点でしかなかった。 製造部門による
多品種少量生産への対応や、資材調達の週次
化など実務を変えていく必要があった。
しかし当時、製造・資材・ロジスティクス
の各部署は、それぞれに独自に活動する意識
が強かった。 生販システムの稼働後も、製造
部は生産効率を高めることを追求し、資材部
もまとめて業務をこなすことによるコストメ
リットを求めるなど、依然として自分たちの
論理で動いていた面があった。
これを改めるため、SCMに関連する組織
の見直しを進めた。 まず〇六年六月に製造の
責任者が資材部長を兼ね、その二カ月後には
ロジスティクス部長も兼務するようにした。 そ
れから半年後の〇七年一月には新たに「SC
理さえ施せば保存が利くため、生産時にはど
うしても効率を優先しがちだ。 とくに新商品
については、売れ行き次第で大量の在庫を抱
え込むことになる。 〇六年三月期がまさにそ
うだった。 〇五年秋に発売した新商品の販売
が低迷し、アイスの在庫が大幅に積み上がっ
た。 たまたま食品の在庫水準も悪化したこと
から、菓子の在庫が減ったにもかかわらずト
ータルの在庫は増えてしまった。
それでもグラフを見る限り、江崎グリコの
在庫は過去七、八年間、順調に減りつづけて
M本部」を発足。 傘下に製造部・資材部・ロ
ジスティクス部」の三部門を集めた。 さらに
ここに工場で新しい生産技術の開発などを担
当している技術開発部も加わった。
「調達から販売に至る流れを一貫して見たい
というのが基本としてあった。 われわれロジ
スティクス部としては在庫を削減したい。 一
方、製造部はやはり生産効率を高めていこう
とする。 こうした違いをトレードオフと捉え
てしまうと何も問題は解決しない。 ここに技
術開発部を加えて、技術によって問題を解決
していこうというのがSCM本部を設置した
狙いだった」と小嶋部長は説明する。
品目で異なる在庫削減の度合い
一連の改革によって、SCM本部が管轄し
ている菓子・冷菓・食品の在庫は、〇一年三
月期を一〇〇とすると、現状では約二割減っ
ている(次ページグラフ参照)。 生販システム
の導入を本格化したこともあって、〇四年三
月期は一気に減った。 翌〇五年三月期に再び
増えているが、これには理由がある。
実は週次生販がスムーズに機能しているの
は、現在でも一部の菓子に限られている。 こ
のため菓子の在庫だけを見れば、〇五年三月
期も前期比で微減だった。 にもかかわらず菓
子・冷菓・食品のトータルで見ると増えてし
まったのは、菓子以外の在庫水準が著しく悪
化したからだ。
アイスには賞味期限がない。 厳格な温度管
ホストシステム
買掛
発注管理
需給計画系
実行系
需給バランス
生産概要計画
特注計画
需要予測
新製品
販売計画
出荷計画配分計画配車計画
配車システム
製品在庫
所要時間計算
生産日程計画
基準情報管理
納入依頼
発注確定
発注予定
入出荷実績
実績管理
システムの導入範囲
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なる三月末時点のピンポイントの在庫だ。 そ
れが減っていないのは、春先にアイスの備蓄
生産などで在庫を積み上げているためだ。
これは経営レベルで決算時点での在庫水準
が重視されていないことの現れとも言える。 実
際、小嶋部長は、「初夏の機会損失を回避す
るため、三月末のアイスの在庫をこれからも
っと増やしていく可能性がある」と言う。
さらなる効率化に必要な意識改革
最近、江崎グリコの社内ではアイテムを絞
り込む動きが具体化している。 販売金額が小
さいために週次生産に乗せられない商品など
を減らしていけば、自ずと在庫水準は改善さ
れる。 ただし、この動きはSCM本部から働
きかけたものではない。
「残念ながら在庫削減のために取扱品目を
減らそうという考えは、今のところ当社には
ない。 いま進んでいる話は、マーケティング
部門が営業利益率を高めていく狙いで、既存
の主力商品をもっと底上げしようとしたこと
からスタートしている。 仮にこれで在庫が減
ったとしても、その結果でしかない」と小嶋
部長。
伝統的にマーケティングを重視してきた江
崎グリコの社内では、営業部門が強い発言権
を持っている。 生産部門が主導して作り上げ
てきたSCMの枠組みの中でも、依然として
営業部門の意向が幅をきかせている。 このよ
うな?マーケティング偏重?の打破がSCM
部門の次のテーマだ。
実は小嶋部長は、昨年一〇月にロジスティ
クス部長に就任するまで、「広域マーケティン
グ部」で大手コンビニやチェーンストア向けの
営業を長らく担当していた。 従来、ロジステ
ィクスの責任者を務めていたほぼ全員が生産
畑の出身者だったことを考えれば、異例の人
事だった。
さらに小嶋氏の異動と同じタイミングで、資
材部長にも菓子の営業部門にいた人材が就任
している。 いま二人は手を携えながら、製造
主導だった同社のSCMに新風を吹き込もう
としている。 こうした人材が、SCMの立場
で営業部門に真っ向から発言していけば、従
来とは異なる成果を期待できるはずだ。
二人が手始めにメスを入れようとしている
のが、新製品の「全国一斉販売」という慣
習の見直しだ。 需要予測が困難な新製品を全
国規模で一斉に店頭に並べようとすれば、事
前に大量の在庫を用意する必要がある。 万一、
予測が外れれば、それだけ滞留在庫を抱えて
しまう。
リスクを回避するため、よほどの大型商品
でなければ一斉販売は止めて、段階的な立ち
上げに切り替えるように関係者に働きかけて
いる。 こうした活動を通じて、江崎グリコの
SCMを真の意味で全社的な動きに高めてい
くことができるのか。 今後の在庫水準を左右
するポイントといえそうだ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之)
いるように見える。 しかし、同じ期間の有価
証券報告書に記載されている売上高と棚卸資
産を見ると、在庫水準は決して右肩下がりで
はない。 一進一退を繰り返しながら横ばいで
推移している。
グラフに掲載したのはSCM本部が毎週測
定した在庫水準を一年分ならした数値。 それ
に対して有価証券報告書の棚卸資産は期末と
江崎グリコの連結業績と菓子・食品・冷菓の在庫水準(単体)の推移
2,800
2,700
2,600
2,500
売上高(億円)
5
4
3
2
1
0
営業利益率(%)
01年
3
月
02
年3月
03
年3月
04
年3月
05
年3月
06
年3月
07
年3月
08
年3月
01年
3
月
02
年3月
03
年3月
04
年3月
05
年3月
06
年3月
07
年3月
08
年3月
連結売上高
営業利益率
110
100
90
80
70
(2001 年3 月期を100 とした推移)
100.0
96.2
94.2
80.1
84.7
82.7
81.2
79.8
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