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79 OCTOBER 2005
一人親方の「天国と地獄」
?一人一車〞の軽トラ業者が宅配便会社の下請けで、
一個一四〇円、一日トータルで一〇〇個の配送をし
たとします。 これを日々履行するということは、一日
一〇〇回も車を乗り降りするということです。 はっき
り言って、これはキツイ。 一昔前の体育会学生のシゴ
キと大差ありません。 それなのに実入りは、一四〇
円×一〇〇個=一万四〇〇〇円から経費を引くと、高
校生のアルバイトと変わらないレベルです。
経営者として事業を継続してゆくためには、このよ
うな状況に陥らないことが大切です。 実際、距離制運
賃によるB
to
B(企業間)の配達に?一枚噛む〞立
場におさまることができれば、話は全く違ってきます。
本誌の中心読者となっている物流マネジャー氏や出
荷担当者のところには、社内の営業担当が、押しかけ
てくることがあるはずです。 物流センター長である
「あなた」のところへ彼が何をしに来たのかといえば、
「急な追加をお客さんに頼まれちゃって…」とか、「発
注ミスしちゃって」と、商品を取りに来た。
そして彼は白いカローラバンか、あるいはハイエー
スを運転して得意先へと急ぐ。 届け先の事務所が物
流センターの近くにあるとは限りません。 むしろ、そ
れは希。 この手の届け先が、どこにあるかはケースバ
イケースで、ロシアンルーレット状態です。 発地から
近くない可能性も高い。
これを、この社員サンになりかわって距離制運賃で
受注している軽トラ屋がいるわけです。 このような
「B
to
B配送」&「近くない届け先」&「距離制運賃」
の三点セットでビジネスモデルを組み立てることがで
きれば、軽トラ商売はかなりおいしい。 「一個で百数
十円」という路線業者の下請け宅配とは全く別モノと
化すのです。
ところが、これらの事情や仕組みを知らずに、?何
も分からないで、?軽運送のフランチャイズ(FC)
団体に言われるがままに、?何となく始めて、?何と
なく続けてゆく。 そうした人がたくさんいます。
FC団体では新規開業者に、多額の初期投資を強
いるのが普通です。 加盟者が使用する車輛にシバリを
入れるのです。 軽トラックをディーラーから直接買え
ば、新車であっても七〇万ちょっとからあります。 ところがそこにFC団体の「入会金」やら「加盟金」や
らが、いくつも積み上げられていき、車輛代金+入会
登録金等で結局、一〇〇万円〜三六〇万円(フラン
チャイズ団体による)の「プレミア付き新車」へと化
けていきます。
この流れで何となく業者になった人の多くは、プレ
ミア付き新車を売った側に反感を抱いていきます。 二
〇〇三年九月に「軽急便」の元加盟者が同社の名古
屋支店に立てこもって爆死した事件もその一つでしょ
う。 事件の詳細についてはマスコミの既報の通りです
が、これが特定のフランチャイズだけの問題だと考え
るのは間違いです。
私の見聞から言えば、プレミア付き新車を買わされ
たことに反感を抱いた人は、荷主に対しても「自分に
高い車を売りつける片棒をかついだ者」と決めつける
役所よりキツイFC団体の内部規制
軽運送のフランチャイズ団体を脱退。 トラックの色を塗り替え
て個人で再スタートを切った軽トラ屋を、業界の隠語で“脱帽さ
ん”と呼びます。 役所の規制は緩和されたものの、FC団体はい
まだに内規によって加盟者の活動に厳しい足かせをはめています。
それに気付いてFC団体を離れ自力営業に乗り出す人が増えてい
るのです。
第2 回
OCTOBER 2005 80
傾向があるようです。 こういう人が、よく出先=荷主
のところでトラブルを起こしています。 実際、某大手
FC団体はホームページ上で「客先でキレる加盟者が
いる」ことを認めています。
そんな人が発地へ引き取りに入る。 そして着地で荷
を渡す。 これは荷主からするとリスクです。 しかしF
C団体のマークは新規開業直後から使えるため、荷主
サイドではその人が「やっかいな人」かどうか見分け
がつきません。 なにがしかの事態を起こされて初めて
判明するわけです。
このようなリスクを避けるには、プレミア付き新車
ではない車輛で開業した者を使う方が安全です。 私は
日本軽運送学校での講義を通して、これまで多くの軽
トラ開業者と接してきました。 そこで気づいたのは、
フランチャイズ式の開業を指向する人には「他力本
願」の傾向があることです。 それに対してFC団体に
頼らず自己開業を目指す「自力本願」の人は、やる
気が違います。 講義でもどんどん質問してきます。
そして私は彼らに、次のようにアドバイスしていま
す。 軽トラ屋は運送業というより、客の求めに応じる
ことが仕事の代行的サービス業であること。 それゆえ
何事も自分で勝手に判断しないこと。 日頃から、荷主
さんにお伺いをたてるという雰囲気をかもしだして、
丁寧な表現=トークをすること。 そうやって荷主の意
向を引き出す。 引き出して、言われた通りに履行する。
もちろん着地でも「ドていねい」な接触をする。 それ
によってお客さんを喜ばせることができる。
これはほんの一例ですが、受講者の多くがアドバイ
スを実践して顧客を獲得しています。 彼らにはFC団
体の看板はありません。 「自分」という看板だけで真
剣勝負している自営業者です。 それゆえ本気度が高い。
「他力本願」の人より責任感が強くて安心なのです。
「脱帽さん」を知っていますか
幸い、昨今は行政サイドが「手作り開業」「自己開
業」の条件を整えてくれています。 かつて我々軽トラ
屋の商売にシバリを入れるのはお役所の役目でしたが、
最近は規制緩和でその面影も薄れてきました。 中古車
で起業するにしても、以前は車齢制限がありました。
しかしそれもなくなりました。 FC団体に数百万円も
支払わなくても、二〇万円の中古の軽トラで自己開業できるようになったのです。
なかには車検残三カ月の五万円の軽トラで、手作り
開業した人もいます。 その彼は「仕事が続いているか
ら」と、その車両のまま車検を通して継続しています。
車検が切れたら、また通す。 これを日本軽運送学校で
は「時限式おためし開業」と呼んでいます。 その大部
分が時限=車検切れになっても、車検を通して仕事を
継続しています。
手作り開業への追い風は車両規制の緩和だけでは
ありません。 運送業の営業区域規制がなくなったとき
は心の底からお役所に感謝したものです。 規制緩和で
緑ナンバーの運送業は営業区域(事業区域)の制約
が事実上なくなりましたね。 これは軽運送においても
同様です。 以前は営業区域を越境して他県に配達す
るたびに、同業他社が意見してきたものでした。
81 OCTOBER 2005
FC団体の加盟者の場合、文句をつけてくるのはラ
イバルのFCでなく、同じFCに所属する、いわば身
内が主でした。 それが合法になるのですから、FCに
加盟したままでも堂々と手広く商売ができるようにな
ったわけです。 営業区域規制自体がなくなれば、同業
他社も意見のしようがない。
本来であればそのはずです。 ところが一部のFCは、
法律とは別に様々な工夫を凝らして、いまだに加盟者
に対してシバリをかけています。 例えば、先輩同業者
の客には売り込み禁止という、通称「バッティング行
為の禁止」。 あるいはFCの内規で「加盟者は一人一
営業所に限定する」と定義したりする。 これによって
加盟者は自らの力で事業を拡大することが制限されて
しまいます。
顧客が増えてくれば、人を雇って手広くやろうとす
るのは当然です。 また拠点が増えれば、顧客予備軍と
の接触機会自体が増えていきます。 対象者とのチャネ
ルが開き、さらに顧客が増える。 そうやって事業が発
展していくのです。 規制緩和の昨今、国土交通省も
条件さえ揃えば、増車もOK、拠点だって複数OK
です。
しかしフランチャイズ団体は加盟者に足かせをはめ
ます。 新規開業者を募集する段階では、加盟後の事
業の発展を匂わせますが、実際には内規でさりげなく
加盟者の成長を制約する。 こうして「大きくなるのは
FC組織。 加盟者は一人一車で小さくなってろ!」と
いう事実上の仕組みが出来上がるわけです。
しかし、FCの看板が一切入っていない独立系の軽
トラ屋はFCの内規などお構いなしに荷主に売り込み
をかけてきます。 そしてFC系よりも安い金額を提示
する。 荷主はその業者に切り替える。 自由競争ですか
ら当然の結果です。 そんな顧客獲得法を「バッティン
グ行為」を禁じられていた後発のFC加盟者が目撃す
ることがあります。 その人は「なんだ。 FCの看板を
はずした方が客をつかめるのか」と気づきます。 そし
て営業ナンバーはそのままでFCから脱退する。 車体
を塗り直してFCの看板も消す。 まるで手作り開業者
と化す。 そんな軽トラ屋を我々の仲間内では「脱帽さ
ん」と呼んでいます。
軽トラ市場は五極構造
こうしてFCのシバリに耐えかねた人がFCを脱退していきます。 そのため最近では加盟者数が減少して
いるFC団体も出てきています。 ところが軽自動運送
事業として登録されている営業ナンバーの数自体は増
えています。 二〇〇三年秋の時点で一三万七〇〇〇
車と言われていたものが、二〇〇五年には約二〇万車
に急拡大しています(軽自動車検査協会統計より)。
これは手作り開業者や「プロ化した脱帽サンによる増
車」によるものでしょう。
このように、パッと見は同じ軽トラックでも、実際
の市場は現在、?「個建て運送」事業者、?距離制
運送事業者、?FC加盟者、?脱帽さん、そして?
手作り開業者という「五極構造」になっているのです。
これも国土交通省がもたらした規制緩和の恩恵?と
言えるのかも知れません。
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