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MAY 2009 50
他社に先駆け四〇年前に 全国オンライン網を整備
「運輸業界で初めてオンラインシス
テムを導入した」──。 これがトナ
ミ運輸のIT活用の?枕詞?になっ
ている。 実際、一九七二年に全国の
拠点を結ぶオンライン網を稼働させ
た。 総合物流業者として日本通運が
六九年にオンライン化を果たしたこと
を除けば、西濃運輸や福山通運とい
った大手特積み事業者よりも一〇年
以上早かった。
トナミが競合企業に先駆けて全国
規模の情報インフラを整備したのは、
経営トップの強い意志による。 五〇
年代に同社の社長を務めた綿貫民輔
氏(現衆議院議員、国民新党党首)
は、視察先の米国で物流業における
コンピュータの可能性を目の当たりに
した。 すぐさまこれがトナミの将来
にとって欠かせないツールであると
確信し、オンライン化を強く志向す
るようになった。
もっとも、当時のトナミには巨額
のIT投資に踏み切るだけの体力は
なかった。 この着想が具体化された
のは綿貫氏の渡米からおよそ二〇年
後のこと。 その間に綿貫氏はトナミ
の社長を務めるかたわら政治家とし
ての活動をスタートし、六九年の総
選挙で衆議院議員に初当選を果たし
ている。 トナミが約五年にわたる準
備期間を経てオンラインシステムを稼
働したときには、すでに活動の軸足
を政治に移していた。
それでも、「反対するものは会社を
去れ」とまで言って、この計画を牽
引したのは綿貫氏だった。 中核マシ
ンとして、当時の日本ではまだ知名
度の低かった米ユニバック(現ユニシ
ス)の汎用機を選んだことにも、氏
の意向が反映されている。 同社製の
汎用機が米国陸軍で使われていたの
を綿貫氏は現地で見ていた。
トナミで現在、情報システム事業
部の責任者を務めている石丸昌之取
締役上席執行役員は、「当社が兵站
作業、つまりロジスティクスにコンピ
ュータを使うのであれば、ユニバック
の汎用機が一番長けていると考えた
のだと思う」と述懐する。
このときトナミは資金面でも大胆
な経営判断を下した。 当時の資本金
に匹敵する八億四〇〇〇万円を汎用
機を購入するために投じた。 これと
は別に全国の拠点に配備する端末や
システム開発にも投資。 送り状の内
容を二四時間体制でコンピュータに
入力するため、約二〇〇人のデータ
センター要員も新たに雇い入れた。
高度成長期という時代背景が、強
気の投資を後押しした。 ところがシス
テムの稼働から一年半後の七三年一
〇月に第一次オイルショックが勃発。
他社に先駆けた野心的なIT活用を
汎用機にこだわる自前主義で実践
トナミ運輸
2000年に総額30億円を投じて高セキュリティの「コンピューターセンタ
ー」を新設し、情報インフラを集中管理できる体制を整えた。 基幹業務に
かかわるシステムは、汎用機を使った自社開発にこだわっている。 ロジス
ティクス分野ではWMSパッケージの利用で試行錯誤を繰り返すも、再び自
前主義に回帰した。
情報システム事業部長を務め
る石丸昌之取締役上席執行
役員
IT戦略
第26 回
◆本社組織 本社の情報システム事業部に計58人が所属。 内訳は、特積
み系の基幹システムを主に担当している「システム第一部」に約30人、セン
ター管理事業を中心に手掛けている「システム第二部」に17人、そしてプロ
バイダー事業を展開している「インターネット事業部」に9人。
◆情報関連会社 IT部門を分社・独立して発足した直系子会社はない。
だが03年にトナミグループ入りした京神倉庫の情報子会社「けいしいシステ
ムリサーチ」(KSR)が約90人の従業員がいる。 KSRのトナミグループ向け売
り上げは、年商20数億円の1割程度。 機能子会社というよりは、情報事業を
営む関連会社という位置づけ。
《概要》 1972 年に大手運送事業者の中でいち早く、全国の拠点を結ぶオンラインシステムを稼働
させた。 その後も、荷主のセンター管理業務を80 年代に一括受託したり、調達物流の一括管理を
任されるなど先進性を誇ってきた。
2000 年に総額30 億円を投じて「コンピューターセンター」を新設。 中核マシンに採用している
日本ユニシスの汎用機などハードの運用・保守まで自ら手掛ける体制に磨きをかけた。 少なくとも
今後も5 年間は同様の“自前主義”をつづける方針。
01年に外資系WMS ベンダーのパッケーッジを導入。 荷主1社向けに約6 年間使ったが結局、利
用を停止した。 自社で組んだシステムのほうが使い勝手もコストパフォーマンスも良いという判断だ
った。 年間IT コストは単体売上高の1%程度。
51 MAY 2009
化されれば、大幅な人員削減につな
がるのではないかと警戒していた。
そこに経営危機が襲った。 人員削
減どころか会社の存続自体が危ぶま
れる状況に直面し、労組の執行部や
オンライン化に懐疑的だった人たちの
態度は一変した。 「このままじゃダメ
だ。 せっかく導入したコンピュータな
んだから有効に使わなければいけな
い。 そういう風にすべてがコロッと
変わった」。 約二年前にIT部門の担
当になるまで三〇年にわたって組合
活動に従事していた石
丸取締役は、そう振り
返る。
ほどなく現場はコン
ピュータの威力を実感
しはじめた。 夜中まで
かかっていた請求書の
作成作業が、自動で、
しかも一気に処理され
ていく。 社員の多くが
仰天した。 当時から同
社のIT部門に在籍
しているシステム部第
一部長の谷井茂執行
役員が「基本的な仕組
みは今も変わっていな
い」というほど、この
オンラインシステムは
先進的なものだった。
3PLへのシフトで 再び大型投資を断行
その後も積極的にITを活用して
いった。 八二年には、ある染色物工
場の保管・配送を一括管理するため、
日本ユニシスのオフコンを使ったシス
テムを開発した。 これはトナミが荷
主から包括的に物流業務を受託した
最初の案件であると共に、システム
の分散処理という点でも初の経験だ
った。
八五年には、大阪府堺市に農業機
械の製造拠点を構えるメーカーから
調達物流の管理を一括受託した。 そ
れ以前は、調達先の企業がそれぞれ
に車両を仕立ててメーカーに納品し
ていたのを、トナミが一括元請けと
なってミルクラン方式で集荷するよう
に変更。 そのための仕組みも開発し
た。 同社に問い合わせればすべての
調達品目の状況が分かるようになっ
たことで荷主から高く評価された。
ロジスティクス事業を担当してい
るシステム第二部の土田保夫部長は、
「それまではメーカーが発注から納期
まで管理していたのを、当社が全面
的に肩代わりした。 メーカーで仕入
れを管理していた担当者は減り、在
庫も削減できた。 最初はごく一部の
拠点だけで手掛けていたが、徐々に
増えていった。 最近もこのメーカー
の宇都宮工場で新たに業務を開始し
ている」と説明する。
これらの事例は、まだ日本で3P
Lやシステム物流といった概念が定
着する以前の話だ。 当時のトナミは、
後に3PL企業として台頭してくる
企業からも一目を置かれる存在だっ
た。
大手カメラメーカー六社が九五年
から手掛けた共同配送もトナミが一
括受託している。 九七年に正式にス
タートしたこの共配プロジェクトにお
いて、トナミは配送の実務だけでな
く、情報システムの構築や中核センタ
ーの運営などを手掛けた。 現在では
カメラの流通が変わり物量は減って
事業環境が急激に悪化し、トナミの
経営は危機的な状況に陥った。 翌七
四年には社員に支払う一時金を用意
できず、従業員の積立金を担保に金
融機関から資金を融通してもらうと
ころまで追い込まれた。
大規模投資のタイミングとしては
最悪だった。 しかし、結果としてこ
の経営危機が、情報システムに対する
関係者の意識を変えることにつなが
った。 当初、同社の労働組合は、オ
ンライン化によって事務処理が合理
インフラ整備
特積み事業を支える基幹システム
発荷主着荷主
インターネット網
トナミ
ホストコンピュータ
貨物追跡
作業進捗管理
車両稼働管理
各種問合わせ
&データ交換
EDI
貨物追跡照会
運賃照会
作業支援
・誤仕分防止
・誤積込防止
・積残し防止
配達時刻照会
貨物追跡照会
各種問い合わせ
ホストコンピュータパソコンパソコン
携帯電話
L モード
集荷登録発送入力運行車出発持出入力配達完了
入力
運行車到着
入力
集配車・
携帯端末
集配車・
携帯端末
運行車・
携帯端末
運行車・
携帯端末
トナミ発店営業店サーバー営業店サーバートナミ着店
集荷指示
DoPa 網
専用線網
配車支援
・集配車
・運行車
作業支援
・誤卸防止
・荷卸洩防止
配車支援
・集配車
指紋認証で入退室をチェック2階建てで延床面積1900?
2000年に新設したコンピューターセンター
免震等を施したマシンルーム担当者がワンフロアに集結
MAY 2009 52
しまったが、業界プラットホーム事業
の先駆けともいうべき事業だった。
こうした実績を背景に、トナミの
IT部門は九八年に新たな大規模プ
ロジェクトに着手した。 総額三〇億
円を投じて「コンピューターセンタ
ー」を新設することを決めたのであ
る。 高度な災害対策とセキュリティを
施した専用施設を新設し、汎用機や
サーバーなどを集中管理する体制を
整える。 同時にホストコンピューター
や端末を総入れ替えし、約五〇〇〇
台の携帯端末も導入するという計画
である。
それまでのトナミは、ドライバー
に携帯端末を持たせてはいなかった。
集配業務で集まってくる送り状を拠
点に持ち帰り、これを各拠点に所属
する合計約一五〇人の担当者(※前
述した二〇〇人からは五〇人ほど減
っていた)がコンピュータに打ち込む
という手順をとっていた。 つまり送
り状の入力を人手で行っており、自
動化してはいなかった。
この方法には、集配データがシス
テムに反映されるまでに時間がかか
ってしまうという難点があった。 こ
れをリアルタイム化することが、新
たに携帯端末を導入した最大の狙い
だった。 そのためにNTTのDoP
aで集配データを即座に送信し、集
配業務の完了から数秒後にオンライ
ン上で確認できるという方法を選択
した。 今でこそ珍しい話ではないが、
〇〇年の稼働時にはヤマト運輸や佐
川急便などの宅配大手にも先んじた
動きだった。
このときの大型投資の最終的な狙
いを、石丸取締役は次のように振り
返る。 「路線事業の売上比率を下げ
て、今で言うところの3PLの仕事
をもっと増やさなければいけないと
いう意識を強く抱いていた。 そのた
めにはシステム活用のための施設を
整え、基幹システムの合理化も進め
る必要があった」
通信ネットワークの見直しによる
コスト削減も同時に実施した。 IP
電話の前身ともいうべき通信手段を
いち早く採用して年間約四〇〇〇万
円のコスト削減を図った。 この通信
ネットワークについては、さらに〇四
年になると専用線からNTTの「B
フレッツ」に移行。 現状ではすべて
インターネット網を使っている。
過去に何度も検討したが 子会社の設置は先送り
七二年にオンラインシステムを稼
働して以来、現在に至るまでトナミ
のIT活用は?自前主義?に軸足を
置いてきた。 二四時間・三六五日動
いている汎用機の運用から保守まで、
ほぼすべてを情報システム事業部の
面々が手掛けている。 システム開発に
ついても、汎用機にかかわる部分は
ほとんど社内で構築している。 今年
一月に迎えた汎用機の更改でも、向
こう五年間は使いつづけることを決
めた。
特積み事業の基幹システムについ
ては、とくに自前でやろうとする意
識が強い。 「基幹業務にかかわるシス
テムは自社でつくり、自前のホスト
で動かすことにこだわっている。 ユ
ニシスの汎用機の世界でCOBOL
のシステムを作ることにおいては、当
社は非常に高いレベルのスキルを持つ
人材を抱えている」と谷井執行役員
は強調する。
トナミと同様に自前でシステムを
構築している物流企業の多くは、I
T部門を分離独立させて情報子会社
を設置している。 だが同社は、こう
した動きには追随してこなかった。 九
六年からスタートしたインターネット
のプロバイダー事業すら、物流業とほ
とんど接点がないにもかかわらず社
内で手掛けている。
しかし近年になって、IT部門を
社内に抱えつづけることの限界も露
呈してきている。 運輸業の賃金体系
の下で、優秀な人材を確保・維持し
ていくことが徐々に難しくなってき
た。 「高いスキルを持つ人材ほど、自
分たちの賃金水準をIT業界と比較
する。 運送事業者とは決して比べな
い。 昨年一月に事務職系の賃金体系
を見直したが、このままでは運輸と
の差がどんどん広がってしまう」と
石丸取締役は危惧している。
トナミが〇三年に経営を引き継い
だ京神倉庫の情報子会社「けいしん
システムリサーチ」(KSR)も、現
在はグループの一員になっている。 も
ともと関西地区でユニシスのシステ
ム開発会社として活動していたKS
Rは、物流以外の仕事を中心に手掛
けてきた。 現在の年商二三億円のう
ち、トナミグループに関連する売上高
は一割程度。 物流事業者の機能子会
社というより、純粋にIT事業を展
開する会社といえる。
トナミグループは昨年一〇月、純粋
持株会社制へと移行している。 これ
によってトナミ運輸もKSRも、トナ
ミホールディングス傘下の事業会社
情報システム事業部でシ
ステム第一部長を務める
谷井茂執行役員
情報子会社
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パッケージ試すも 結局は自前主義に回帰
自前主義にこだわる
一方で、業務内容によ
っては既成のパッケージ
ソフトの導入も試みてき
た。 財務会計について
はKSRが以前から「シ
ステム
21
」というパッケ
ージを持っていた。 従来
のトナミは手作りの会計
システムを使っていたの
だが、現在ではグループ
全体で「システム
21
」を
採用している。
業務系のシステムで
も、約五〇〇〇台の携帯
端末に搭載するシステム
は外部のベンダーから調
達した。 物流センターの
管理システムも、以前は
時間をかけてすべて自社
で開発していたのだが、
〇一年に外資系WMS
ベンダーが提供する大規
模パッケージを導入した。
「パッケージを活用し
た方が素早く案件に対
応できると考えた。 当初
はこれをどんどん展開し
ていく方針だったのだが、実際に使
ってみると、われわれが扱っている
案件では規模が小さすぎてメリット
を得られなかった。 経営分析の機能
などは高く評価できるものだったが、
ベンダーに何か頼むたびに高いコスト
が発生してしまうのもネックだった。
結局、一社にしか導入せず、六年ほ
どで利用を止めてしまった」(土田部
長)
〇三年には、トナミが細かく要望
をまとめて、KSRにウエブ版の倉
庫管理システムをパッケージとして開
発させたこともある。 しかし、これ
も開発負担の軽減などで期待通りの
成果を得られなかったため活用を断
念した。 現在、事業分野のパッケー
ジ活用は、物流センターからのルート
配送に地図情報のパッケージを利用
している程度にとどまっている。
代わりに重視するようになった開
発手法が、自社システムを?パッケ
ージ化?していくというものだ。 シ
ステムを外販するためではなく、開
発実務を効率化するための工夫であ
る。 「やはり外部に委託するより自前
でやった方が、より早く、より性能
のいいシステムを作れる」と土田部
長。 試行錯誤の末にたどりついた結
論がこれだった。
この分野では、基幹システムで利
用している「COBOL」ではなく、
八五年からセンター管理システムな
どに使ってきた「プログレス?」と
いう簡易言語を主に使っている。 ま
だ業種業態ごとに雛形を揃えるまで
の整理はできていないが、機能のパ
ーツ化も進んできた。 このパーツを
組み合わせることで、ゼロから開発
するのに比べて四分の一程度の期間
でシステムを作れるのだという。
汎用機とオフコンを中心とする自
前主義を貫いているトナミの年間I
Tコストは、人件費などを含めても
単体売上高の約一%程度に収まって
いる。 節目では思い切った投資をす
るが、それ以外には大きな冒険をせ
ず、過去の蓄積や既存のノウハウを
活かそうとする姿勢が比較的ローコ
ストな運営につながっている。
しかし、変化を避けつづけること
はもはやできそうにない。 汎用機を
使った基幹システムにしても、情報
子会社を持っていないことにしても、
汎用機の次の更改期となる五年後に
はゼロから再検討することになりそ
うだ。 その際には「外注化などが難
しい組織や考え方ができてしまって
いる」(石丸取締役)というIT部
門の意識改革こそが、真っ先に必要
になるはずだ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之)
という横並びの位置づけになった。 今
後はIT部門の機能子会社化も、有
力な選択肢になっていくはずだ。
出荷
バース
トナミのWMS(倉庫管理システム)の概要
出荷予定出荷指示店舗配送指示
入荷実績 入庫実績
(ロケーション指定)
(ロケーション報告)
ベンダー(取引先メーカー)
入荷
(TC 品)
入荷
バース
納品書
ピッキング
リスト
納品書
入荷検品システム出荷検品システム
デジタルアソート
システム
荷受
入荷検品
入庫
ラベル
届先
ラベル
棚バーコード
トータル
ピッキング
DC 品保管出庫検品出庫配分出荷仕分
棚付
検品デジタルアソート
検品
○○店
117
届先
ラベル
○○店
117
方面・便別荷揃
店別
積込
配送
配送管理
システム
※導入計画中
配送先(店舗)
納品
伝票
配送
一覧
配送
指示書
出荷実績
入荷
(DC 品)
一次仕分
カテゴリ別積付
システム開発
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