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MAY 2009 82
物流指標を読む
回復見込めない“L字型” 推移
2009年度の経済と貨物輸送の見通し 日通総合研究所
第5 回
●国内総輸送量は40年ぶりに50億トン割れ必至
●海運・航空ともに大崩れの様相呈す国際貨物輸送
●下落幅は徐々に鈍化するも、その後も底這い傾向
さとう のぶひろ 1964 年生まれ。
早稲田大学大学院修了。 89年に日通
総合研究所入社。 現在、経済研究部研
究主査。 「経済と貨物輸送量の見通し」、
「日通総研短観」などを担当。 貨物輸
送の将来展望に関する著書、講演多数。
先行きは誰にも予測できない
日通総合研究所は、三月末に「二〇〇九年度
の経済と貨物輸送の見通し」を発表した。 本見
通しは、昨年末に発表した見通しの改訂版である
が、十一月以降における国内外の経済情勢の急
激な悪化を受けて、経済成長率および貨物輸送
量の予測値を大幅に下方修正している。 後で詳述
するが、実質GDP成長率は四・三%減、国内
貨物輸送量の増減率は七・〇%減、国際航空貨
物の輸出量にいたっては三二・八%減と予測して
おり、かなり悲観的な見通しとなっている。
ただし、足下の経済や貨物輸送の動向をみて、
果たしてこの程度の落ち込みで済むのかと考える
向きもあろう。 たとえば、四月一日に日本銀行
が発表した短観(〇九年三月調査)では、大企
業製造業の業況判断指数(DI)がマイナス五八
と、一九七五年五月に記録したマイナス五七を下
回って過去最悪となった。
また航空貨物運送協会(JAFA)の調査に
よると、二月の国際航空の輸出混載貨物量は五六・
四%減、輸入混載貨物量は三〇・九%減と信じ
難い落ち込みになっている。 さらには、不況時に
絶対的な強さを発揮していたヤマト運輸の宅急便
でさえも、〇九年度は初めてのマイナス成長にな
ったという驚きのニュースも飛び込んできた。
こうした実態を目の当たりにすると、景気や物
流量が今後さらに勢いを増して下落するのではな
いかと危惧する気持ちも分からないではない。 た
だし、現在の局面を冷静に捉えると、景気の落
下スピードが速すぎたため、企業や個人がいっせ
いに自己防衛の行動に走り、消費や生産などを必
要以上に抑制しているものとみられる。 その結果、
?合成の誤謬?により、経済が収縮しすぎてし
まっている。 一時的なものにとどまるかもしれな
いが、その反動は秋以降必ず出てこよう。
もっとも、決して楽観できる状況にはないこと
もまた事実である。 何しろ、これまで日本経済を
支えてきた米国の需要が?蒸発?してしまったの
だから。 したがって、日本経済の底入れは案外近
いかもしれないが、そこから回復感の乏しい長い
道程が待っていると考えるべきであろう。
ちなみに、東洋経済新報社がまとめた、主要
な二七のシンクタンクによる〇九年度の実質GD
P成長率の予測値(二月実施)をみると、最大
値が一・〇%減、最小値が七・二%減と、その
差は六・二ポイントと非常に大きい。 こう言って
しまえば身も蓋もないが、これから先のことは誰
も正確に予測できないということなのだ。
以下で、日通総研の見通しについて紹介する。
総括すると、景気、物流量とも〇八年度下期あ
るいは〇九度上期に最大のマイナス幅を記録し、
マイナス幅は徐々にマイルドになっていくが、当
面は底を這うようなL字型の展開が続く。 一〇年
一〜三月期には貨物量がプラスに転ずる輸送機関
もありそうだが、それはあくまでも急激な減少に
対する反動によるものであって、本格的に回復す
るまでにはまだ時間を要する。
日本経済
〇九年度の日本経済は、景気対策による公的
需要の押し上げ効果はあるものの、国内民需と外
需による景気下押し圧力が一段と大きくなるため、
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減のあと、〇九年度も七・〇%減と大幅な減少
が続く。 これは、第一次オイルショック時の一九
七四年度における十一・〇%減に次ぐマイナス幅
だ。 また総輸送量は四六・八億トンで、六九年
度以来四〇年ぶりの五〇億トン割れが必至であり、
ピークであった九一年度(六九・二億トン)を約
三二%下回る水準まで落ち込むものと予測される。
品類別にみると、消費関連貨物は、個人消費
の冷え込みを受けて、日用品などを中心に六%台
半ばのマイナスとなろう。 生産関連貨物について
は、設備投資の停滞が続くなかで、鉱工業生産
にさらに一段の落ち込みが見込まれるため、機械・
機械部品や鉄鋼は二ケタの減少が避けられず、ま
た化学製品、石油製品、紙・パルプも低調に推移
することから、トータルでは一五%前後のマイナ
スとなろう。 建設関連貨物は、公共投資がプラス
に反転することから、一%程度の小幅な落ち込み
にとどまるものとみられる。
国際貨物輸送
〇九年度の外貿コンテナ貨物(主要九港)の輸
出は、夏場以降は在庫調整の終了などに伴う世界
経済の持ち直しを反映して、中国や新興国向け貨
物を中心に減少幅は縮小していくものとみられる
が、力強い回復は期待できないため、上期は三〇%
を超えるマイナスになる。 下期に入って、一〇〜
十二月期は減少幅が縮小するものの水面下の動き
から脱することはできず、プラスに転ずるのは一
〜三月期になってからであろう。 年度全体では一
九・六%減と過去最大の減少幅となり、絶対量
では〇二年度水準近くまで落ち込むものとみられ
る。 輸入は、個人消費の低迷がより色濃くなる
ことから、主力貨物である食料品、衣料品など
の消費財は水面下の動きを余儀なくされる。 機械
機器類についても、設備投資のさらなる減少の影
響を受け、年間を通じてマイナス基調で推移する
ことから、年度全体では三年連続のマイナスが必
至で、八・四%減と輸出と同様に減少幅は過去
最大になろう。
〇九年度の国際航空の輸出は、在庫調整の影
響は上期で終了するものの、その後の外需の持ち
直しに力強さが見込めないことから、三路線と
も年間を通じて引き続き減少傾向を辿る。 とくに、
自動車部品については米国の自動車需要低迷が
長引くこともあり、回復は遅れるものと予測され、
半導体などIT関連貨物も、プラスに転ずるのは
一〜三月期以降となろう。 こうしたことから、年
度全体では三二・八%減と大幅な減少になるもの
とみられる。 輸入は、主力である消費財については、
生鮮貨物に持ち直しの兆しがみられるものの、増
加に転ずるまでには至らず、生鮮貨物以外の食料
品や衣料品なども、内需の低迷を背景に低調な荷
動きとなろう。 さらに、IT関連貨物などの機
械機器類は、設備投資の低迷を反映して消費財
以上に落ち込むことから、年度全体では二〇・二%
減と五年連続のマイナスになるものと見込まれる。
企業物流短期動向調査
国内向け出荷量『荷動き指数』は、〇九年一
〜三月実績(見込み)ではマイナス七五となり、
過去最低水準であった前期(〇八年一〇〜十二月)
実績よりさらに一八ポイント下降した。 四〜六月
見通しではマイナス七四と強含み横ばいが見込ま
れ、当面はL字型の推移が続くだろう。
戦後最大の落ち込み幅を更新する四・三%のマイ
ナス成長となる見通しである。
景気回復は海外経済の好転による輸出増加に大
きく依存せざるを得ないが、その間、設備投資の
減少・雇用情勢悪化による個人消費の低迷とい
う内需の厳しい調整局面に直面することになろう。
世界経済の持ち直しを背景に、景気は〇九年度後
半には季節調整ベース(前期比ベース)で下げ止
まりが見込めるものの、年度内に前年比ベースで
マイナス基調を抜け出すことは困難な状況にある。
米国をはじめとした海外経済の低成長が長期化す
る可能性が高いため、輸出の高い伸びによる力強
い回復は期待できそうになく、本格的な回復は一
〇年度以降に先送りされることになろう。
国内貨物輸送
総輸送量(トン数)は、〇八年度の六・八%
荷動きの見通しと実績(見込み)の『荷動き指数』
荷動き指数
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
-60
-70
-80
2005 2006
? ? ? ? ? ?
2007
? ? ? ?
2008
? ? ? ?
2009
? ?
1. 調査対象は製造業・卸売業の主要2,500 事業所とした。
2『. 荷動き指数』とは「増加」の割合から「減少」の割合を引いたもの。
3. 点線は各期に入る前の時点の見通しにおける『荷動き指数』(2009
年?期の『荷動き指数』は今回調査時点の見通し)、実線は各期の
途中の時点で判断した実績見込みの『荷動き指数』(2009 年?期
の『荷動き指数』は今回調査における判断)。
4. 今回調査は2009 年3月中旬に実施し、1,093 社から回答を得た。
注)
5
2
10
8 8 5
10 9 12
10 16
14
13
5 4 3
3
-2
-5
-6
-12
-18 -25
-23
-57
-75 -74
-65
-6
-2
10
実績
見通し
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