*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
クレームの頻発で立ち往生
日本のオフィス通販市場で、コクヨはプラス系のア
スクルに大きく水を空けられている。 しかし、中国
市場では立場が逆転する。 コクヨの現地法人、国誉
商業(上海)が展開する「易優百(イージーバイ)」
は、主な販売地域とする上海、北京でそれぞれシェ
ア二位に食い込み、米国のステープルズ、オフィスデ
ポを追い上げている。 独自に構築した物流インフラが
有効な差別化手段となっている。
イージーバイはカタログやウェブ上に約六〇〇〇品
目を揃えて翌日配送を実施している。 道路混雑が激
しく、駐車規制の厳しい上海市内では、電動自転車
を使った専用配送便を走らせている。 カタログ発行
部数は現在二〇万部。 月間二万事業所からの受注を
処理している。 昨年の売上高は前年比五割増の二五
億円。 利益面ではまだ赤字だが、遅くとも二〇一三
年の黒字化を目指している。
国誉商業の井上雅晴董事総経理は「現在は非常に
厳しい投資段階にあるが、中国ビジネスはある日突
然、急激に市場環境が変わる。 そのときにこれまで
苦労してきたことが強みになり、将来的には勝つこ
とができるはず。 中国で成否を分けるのはスピード。
悩んでいる時間をあとから取り戻すには莫大なコスト
と労力がかかる。 思いついたらすぐに実行に移すこ
とが重要だ」と指摘する。
実際、コクヨは中国のオフィス通販ビジネスでは
日系企業の先駆け的な存在だ。 中国政府が外資一〇
〇%の独資企業に流通業を開放したのは二〇〇四年
十二月末だが、実施細目の施行の遅れが予想された
ため、香港企業に対する規制緩和措置を利用した方
が早いと判断。 翌〇五年三月には香港法人、コクヨ
中国市場の通販ロジスティクス
中国政府が外資に流通業を開放した2004年末以降、
巨大市場を狙って現地で通販ビジネスに乗り出す日系
企業が相次いでいる。 成功のカギを握るのは代金回収
と物流だ。 自社で運営するか、それともアウトソーシ
ングか。 物流パートナーには誰を選ぶのか。 試行錯誤
が繰り広げられている。 (梶原幸絵)
インターナショナルアジアの一〇〇%出資で国誉商業
を設立した。 同六月には上海でカタログ通販の開始に
こぎ着けている。
しかも、同社が販売ターゲットにしたのは中国企業。
コクヨのブランドが浸透している日系企業を対象にし
た方が、立ち上げは容易になる。 しかし、それでは
ニッチ商売の域を出ない。 事業規模がすぐに頭打ち
になることは見えていた。 そのため販売する製品の
大部分を中国国内から調達し、価格帯を現地の量販
店とコンビニの中間に設定した。
まずは認知度の向上を図るため、営業マンの訪問
や電話での営業活動を展開し、カタログの配布を進
めた。 カタログ内容も日本とは変えて、各商品の使
用法を写真で丁寧に解説するなど、わかりやすさと
見やすさに工夫を凝らした。 その結果、一年余りで
一定の顧客数を確保できるようにはなった。
しかし、そこで問題になったのがコールセンターで
の受注から配送までのインフラだ。 事業展開のスピー
ドを優先するため、それまでコールセンターと物流は
完全にアウトソーシングしていた。 倉庫運営と配送は
現地に進出していた日系の大手物流企業をパートナー
に選んだ。 ところがピッキングのミスやドライバーと
客先のトラブルなどが頻発。 中国の物流業者を試し
てみても結果は変わらなかった。
クレームの原因を調べていくうちに、現状を放置す
れば、どんどんサービス品質が落ちてしまうことが判
明した。 中国のオフィス向け代引き配送は、発注担当
者が開梱し現品をチェックした後、別の財務担当者が
現金を支払うかたちが一般的だ。 それだけ一件当た
りの配送には時間がかかる。 それに対してドライバー
の収入は一日当たりの配送件数で決まる。 そのため、
やる気のある、優秀なドライバーほどイージーバイの
第8部
MAY 2009 32
海伯力物流の倉庫。 基本的な仕組みはコクヨ
が日本で行うオフィス直販の倉庫と同様。 マ
テハンは導入せず、人手によるピッキングで効
率を上げている
コールセンターは国誉商業本社と海伯力物流
倉庫と同じ建物に移転し、連携をスムーズに
している
貨物を敬遠するようになっていた。
物流を一から作り直す必要に迫られた。 そこで目
を付けたのが、上海でイージーバイと同様のオフィス
通販を手がけていた海伯力国際貿易(上海)だった。
事業規模はそこそこだが、優れた配送機能を持って
いた。 実は現在、上海市内でイージーバイが展開して
いる自転車配送も元々は海伯力が行っていたものだ。
同業者の物流機能を取得
海伯力の親会社は日本でプリンターのトナーカート
リッジなどサプライ品を販売するハイブリッド・サー
ビス。 折良く同社は中国のオフィス通販事業の売却先
を探していた。 そこでコクヨは〇六年一〇月、まず
はオフィス通販事業の譲渡を受けた。 さらに〇七年三
月には海伯力の物流部門を継承して設立された海伯
力物流(上海)の増資を引き受けた。 この資本参加
に伴い、国誉商業は海伯力物流に社長を派遣。 イー
ジーバイの倉庫・配送業務を同社に移管し、物流体
制の整備に乗り出した。
サービスレベルの目標は、翌日に確実に届けること
に置いた。 「競合他社には当日配送を行っている業者
もあった。 またコスト的には当日配送も翌日配送も変
わらない。 しかし、当日配送にすれば納期順守率が
落ちるリスクが高まる。 顧客のニーズは当日配送より
も、顧客対応や納期を確実に守ることにあると判断
した」と井上総経理は説明する。
受注の締め切り時間は一八時。 遅くとも二三時ま
でにはピッキングを終え、上海向けは市内のデポ、蘇
州・無錫向けは翌日の朝にユーザーに向けて出荷す
る。 井上総経理をはじめ管理者が毎日現場作業に入
り、作業方法を組み立てていった。 上海での物流整
備は約一年で完了し、ミスピッキングはほぼゼロに
なった。 翌日配送率は九九%を超え、配送員のサー
ビスレベルも向上。 クレームは激減した。 独自のWM
Sを整備し、リアルタイムで在庫を把握できるように
もなった。
作業効率も大幅に向上した。 倉庫を移管した当初
は庫内作業員として一〇〇人を抱えていた。 さらに
繁忙期には営業マンなども応援に入り、最大一五〇
人で午前一時頃まで出荷処理を行っていた。 それが
現在は物量が倍以上に膨れ上がっても、作業員四〇
人で繁忙期でも二三時までに出荷できる体制になっ
ている。
こうして受注から出荷、配送までの自社インフラ
を整えたコクヨは、昨年から規模拡大のために新事
業を始めている。 ギフト通販や個人向けのカタログ通
販、日本企業向けのテスト販売サービスなどだ。 「中
国ビジネスの第一フェーズは知名度向上、第二フェー
ズはインフラ整備。 ようやく第三フェーズの事業拡大
が可能になった」と井上総経理はいう。
上海で苦労した経験は確実に同社のノウハウになっ
ている。 実際、上海に続いて〇六年一〇月に事業を
開始した北京では、倉庫を中国の大手OA用品メー
カーの子会社、配送を日系大手物流業者にアウトソー
シングしたが、うまく立ち上げることができた。 ど
こで問題が起きるかあらかじめわかっていたからだ。
北京は上海に比べて市内の面積が広いため、配送
は自転車ではなくトラックを使うことにした。 ただし、
上海のような他社との混載配送ではなく、専用便を
仕立ててドライバーの収入を保証した。 コストは高く
つくが、配送品質を維持するには必要な投資だと割
り切った。
配送の再委託も禁止した。 繁忙期に限り、国誉商
業が指定した協力会社を利用するように指示している。
国誉商業(上海)の
井上雅晴董事総経理
33 MAY 2009
初に委託していた倉庫では、アナログ管理で正確な在
庫把握ができていなかった。 出荷処理能力にも限界
があり、社員総出で土日に出荷作業を行ったり、ロ
ケーションの変更を行ったこともあった。 受注の増加
とともに対応は限界にきていた。
そこで住友商事の物流子会社、住商グローバル・ロ
ジスティクスの倉庫に移転することを決めた。 システ
ムも同社のWMSを中国向けにカスタマイズして利用
することにした。 WMSの運用の調整と受注システ
ムとの連携などに約半年をかけ、昨夏、ようやく新
体制を本格稼働させた。
通販業務では注文のキャンセルや変更など、必ずイ
レギュラーが発生する。 そうした中でも短時間で出荷
できるようになった。 受注から出荷までのリードタイ
ムも短縮できた。 しかも誤出荷はゼロに近い。 WM
Sの稼働前は人手でダブルチェックを行い誤出荷を防
いでいたが、件数が増加すれば対応できない。 現在
は人とWMSの両方でチェックすることで確実な管理
を行っている。
同社が事業を開始したのは〇七年。 試行錯誤の末、
今では日本と同等のレベルで受注から出荷、返品ま
での業務を処理しているという。 現在の中国の登録
会員数は三〇万人以上に上り、売上高は前年に比べ
倍以上で推移している。 二月はウェブを通じた販促
活動を強化したこともあり、新規受注が過去最高を
更新した。
梅林総経理は「時間はかかったが、必要な仕組み
は整った。 販売の方向性もみえてきた。 最初は千趣
会の商品が受け入れられるかもわからなかったが、商
品に対する評価をいただいた。 第一段階としては成
功といえる。 今年は次のステップとして一気に販売攻
勢をかける」と手応えを感じている。
昨年末には倉庫契約更新時の値上げ要求や配送業者
の事業再編があったため、別の日系物流業者に倉庫・
配送ともに切り替えたが問題は起こっていない。 「自
社配送を経験したことでアウトソーシングのノウハウ
も分かってきた」と井上総経理は説明する。
宅配会社の代引き配送にも安心感
現地物流企業のサービスレベル自体、年々向上して
いる。 中国全土を対象にアパレルの通販を展開してい
る千趣会は、登録会員数が五割以上を占める上海向
けでは配送を日系の上海大衆佐川急便物流に、それ
以外を現地の大手民間宅配会社、宅急送快運に委託
している。 いずれも代引き配送が基本だ。 リードタ
イムは上海向けであれば二.三日。 受注の翌日、遅
くとも翌々日には倉庫から出荷している。 上海以外
の地域でも一週間以内で配送可能だ。
「中国で代引き宅配を利用することに対して、当初
はトラブルなどの懸念もあったが、これまでのところ
大きな問題もなく動いている」と千趣会の現地法人、
上海千趣商貿の梅林真知子董事/総経理はいう。 代
引きサービスが使えることが分かれば次はコスト。 以
前、一部で中国郵政のEMS(スピード郵便)を利用
したこともあったが、代引手数料が割高で品質にも大
きな差がないことから現在は利用していないという。
中国全土の消費者を対象にする以上、自社配送網
を組むわけにはいかない。 しかし中国で代引決済に対
応している配送業者の選択肢は限られる。 配送機能
は同業他社と横並びになることが避けられない。 そ
のため物流面での差別化は「受注にいかに迅速に対
応して出荷するかがポイントになる」と梅林総経理
は指摘する。
同社がその武器とするのがWMSだ。 事業開始当
上海千趣商貿の梅林
真知子董事/総経理
MAY 2009 34
|