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JUNE 2009 18
米国のABL残高は五四兆円に拡大
在庫や設備、売掛債権を担保とした資金調達、動
産・債権譲渡担保融資(ABL)が急拡大している。
金融庁によると、日本の地域金融機関が実施したA
BLの融資残高は、二〇〇七年度に三一三三億円に
達し、前年度比五四%増の伸びを示している。 うち
動産を担保とした融資が約四五%を占め、一四一七
億円と前年から一〇倍以上に増加した(図1)。
米国では一九七〇年代に制度がスタートして以降、
ほぼ一貫してABLの融資残高が伸び続けている。
〇七年の実績は五四五〇億ドル(約五四兆円)。 同
年の米国企業の総借入残高二兆四七七七億ドルのう
ち約二〇%をABLが占める計算だ。 これに対して、
日本はまだ〇・一%を切っている。
金融機関のABL事業を支援するトゥルーバグル
ープホールディングスの小野隆一社長は「日本も米国
並みに企業融資残高の二〇%近くまでABLが拡大
してもおかしくはない。 現状でも都市銀行や政府系
金融機関の融資実績を含めれば、既に一兆円規模に
達しているとの見方もある。 数年内に一〇兆円程度
まではいくだろう」と予測する。
これまで日本の銀行融資は、企業の保有する不動
産と経営者の個人保証に多くを依存してきた。 しか
し、企業の資産に占める割合は、不動産よりも売掛
債権や在庫、機械設備のほうがずっと大きい。 その
ため不動産を持たない企業は、返済能力を十分に備
えていても、資金調達が容易ではなかった。
〇五年一〇月に施行された動産譲渡登記制度によ
って、この問題に解決の糸口が見つかった。 動産の
二重譲渡や無断売却のリスクを回避できるようにな
ったことで、ABLの道が拓けた。 金融庁や経済産
業省がこれを積極的に推進している。 〇七年六月に
関連企業七〇社を集めてABL協会を発足させたほ
か、同一〇月には信用保証協会の保証付ABLも可
能にした。 環境整備が進んだことで融資も活発化。 今
や衣類、食品、家電品から、部品、工作機械に至る
まで、ありとあらゆる動産が担保に利用されている。
もっとも財務諸表上の棚卸資産が、そのまま担保価
値として認められるわけではない。 在庫を担保として
設定するにあたっては、第三者の専門機関が在庫の時
価を評価する。 その役割を担っているのがNPO法人
の日本動産鑑定だ。 〇七年一〇月に設立してから現在
まで既に一〇〇件を超える鑑定を行っている。
同法人では一つの在庫に対して二通りの時価を鑑
定している。 融資先の事業が継続した状態における
販売価格「流通価格」と、借入金の返済ができずに
処分した場合の「処分価格」だ。 その幅のなかで金
融機関が融資額を設定する。 融資先の在庫を金融機
関が一括処分する場合には、流通価格を大きく下回
ることになることから、この方式がとられている。
同法人の久保田清理事長は「金融機関の立場から
ABLを見た時に、最も大きな課題になるのが、在
庫の時価評価と保全の問題だった。 このうち評価に
ついては既にメドが立った。 後は保全だ。 それには
日々在庫を直接ハンドリングしている物流会社の力を
借りる必要がある」という。
不動産と違って動産は担保の保全が難しい。 IC
タグで在庫を追跡する実証実験も行われているが、現
実的とは言えない。 そこで高度なWMS(倉庫管理
システム)を持つ物流会社が在庫をモニタリングする
ことを期待されている。 いざという時には金融機関
に代わって在庫を差し押さえる役割も果たす。
千葉県市川市に本社を置く中堅倉庫会社のナカノ
動産担保融資(ABL)は使えるか
米国のABLは今や54兆円に達し、企業の総借入残高の
2割を占めるに至っている。 今後は日本でも利用が広がっ
ていくのは必至だ。 そこに新たなビジネスチャンスを見出
した物流企業は、いち早く動き出している。 しかし、金
融サービスを物流事業と統合するうえで、クリアすべき課
題も少なくない。 (大矢昌浩)
第3部
特集1
19 JUNE 2009
商会は、ABLの可能性に着目し、久保田理事長の
呼びかけに、いち早く反応した物流会社の一つだ。 も
ともと同社はセンターフィーの発生する流通センター
の運営を得意としている。 センターを通過する商品
の在庫量だけでなく、上代・下代の販売価格もシス
テムで把握している。 現状のWMSをそのままモニ
タリングに使用できる。
同社創業者の沼澤宏社長は「まずは既存の荷主に
対して提案を始めるつもりだが、ABLの存在自体
がまだ知られていないこともあって、本格的に普及
するまでには少し時間がかかると見ている。 それで
も、他社に先駆けて体制を整えておくことで、AB
Lが本格的に浸透し始めた時には優位に立つことが
できる」という。
センコーはABL用WMSを開発
センコーでは昨年十一月、ABLの第一号案件を稼
働させている。 センコーが在庫管理と全国配送を一手
に担っている荷主に対して、ノンバンクがその商品在
庫と売掛債権を担保に融資を実施した。 荷主、センコ
ー、ノンバンクで三者契約を結び、センコーがモニタ
リングした在庫情報をノンバンクに提供する。
この案件をベースにセンコーは、ABLに対応し
た動産担保管理システムも開発した。 既存のWMS
をベースに、在庫量の変動に応じて「動産の再評価」
や「出庫停止」を金融機関にアラートする機能を付
加したもの。 在庫の消費期限や賞味期限、製造日な
どから、価値の低下を把握することもできる。
同社の高橋久雄専務執行役員ロジスティクス営業
本部長は「従来から当社は3PL事業に金融機能を
取り込もうと様々な試みを重ねてきた。 ABL以外
にも売掛債権の早期回収、つまりファクタリングや債
権担保融資、それらを組み合わせたスキームなどを
提供できる基盤が既に整っている」という。
同社は〇六年一〇月に金融サービス子会社のロジ
ファクタリングを設立している。 センコーが五一%
の株式を握り、ノンバンクのオリックスやフィンテッ
ク・グローバルが共同出資した。 昨年春に同社の最
初の案件が立ち上がった。 荷主は某日雑メーカー。 工
場からの出荷時点でロジファクタリングに所有権を移
管し、在庫をセンコーのセンターで保管して、それを
納品先に出荷した時点で、メーカー側に代金を入金
する。 販売先は約五〇社。 与信には保証会社を噛ま
せることでリスクを回避し、保証料は実費をメーカー
側が負担するというスキームだ。
順調にビジネスは回転した。 そのまま展開すれば取
扱規模も急拡大することが見込まれた。 しかし、半
年程度で運用を取りやめた。 その理由は、名目上と
はいえセンコーが販売者になることで、万が一、商
品の品質事故等が起きたときに責任を問われる可能
性があると気付いたからだ。 本業の物流と違うとこ
ろでリスクを負うのは適切でないという判断だった。
営業活動も試行錯誤が続いている。 当初は3PL
事業の主要荷主となっている大手チェーンストアに提
案を持ちかけた。 ところが大手チェーンストアはいず
れも金融機関等とファクタリングのスキームを構築済
みで、ニーズがあるのはむしろベンダー側と分かった。
高橋専務は「当社の強みは全国ネットワーク。 当社
が地方の中小ベンダーをチェーンストアとマッチング
することで流通を活性化したい。 最近では問屋を外
したメーカーと小売りの直接取引も増えている。 そ
こでも当社の金融サービスが活かせる。 既に案件の
相談はたくさんいただいている」と手応えを感じて
いる。
トゥルーバグループ
ホールディングスの
小野隆一社長
センコーの高橋久雄
専務執行役員
ナカノ商会の沼澤
宏社長
図1 05年度以降、在庫担保融資が急拡大している
日本の地域金融機関のABL融資実績
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
03年度
1102
1737
1998 2029
3133
04年度05年度06年度07年度
うち在庫担保融資
(億円)
1417
47 131
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