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その物流政策に特集2
トラック優遇でフェリーが沈む
高速道路料金の引き下げが内航フェリー業界を圧迫して
いる。 陸上輸送に旅客・貨物を奪われ、輸送量が大幅に
減少している。 このままいけば廃業や減便、航路網の縮
小が加速するのは必至。 フェリーというインフラが失われ
ようとしている。 (梶原幸絵)
JUNE 2009 24
一〇〇〇円乗り放題でピンチに
「高速道路料金の引き下げは天下の愚策だ。 モーダ
ルシフトという流れに逆行している」とフェリー業界
では怒りの声が上がっている。 フェリーは年間二四〇
〇万人、車両一〇〇〇万台の輸送を担う重要な輸送
インフラだ。 モーダルシフトの受け皿でもある。 それ
が今、存亡の危機に立たされている。
政府は昨秋、総合経済対策の一環として、高速道
路料金の平日深夜・夜間割引の拡充などを行った。 さ
らに今春、普通車で土日祝日一〇〇〇円均一、全車
種で平日昼間三割引など大幅な引き下げを実施。 事
業者向け大口・多頻度割引も拡充された。
その影響をまともに受けたのがフェリー業界だ。 一
〇〇〇円乗り放題の値下げ初日となった三月二八日 ・
二九日やゴールデンウィークには、フェリーに積載す
る乗用車の輸送量が前年同期に比べ半減した航路が
多くみられた。
有人・無人トラック、シャーシなどの貨物輸送も同
様だ。 長距離フェリー(航路距離三〇〇キロ以上)・
RORO船(フェリーと同様の荷役形態の貨物船)の
トラック航送台数は既に昨年度下期から大きく減少し
ている。 三月の実績は前年同月比二四%減の八万八六
五九台、昨年度全体では前年度比十二%減の一二四
万六三六台だった(図1)。 景気後退による物量減少
に高速料金値下げが追い打ちをかけた。
これまでフェリーのトラック航送運賃は高速道路を
利用した場合と同程度に設定されていた。 しかし「高
速料金がここまで下がると対抗できない。 フェリー業
界の旅客・貨物の減り方は半端ではない。 このまま
ではとてももたない」と前・日本長距離フェリー協会
会長の岡本豊商船三井フェリー社長は音を上げる。
第1部
商船三井フェリーの
岡本豊社長
もともとフェリー業界は国内貨物量の減少、燃油価
格の高騰が影響し、不振が続いていた(図2)。 頼み
の綱のモーダルシフトもかけ声ほどには進まず、追い
風にはならなかった。 その結果、減便、航路休止、合
併や廃業が相次いでいる。 国土交通省によると、二
〇〇七年四月時点のフェリー(離島航路を除く)の航
路数は四六航路。 〇六年四月に比べて八航路減少し
た。 今年四月以降も本州〜四国間の航路で廃業する
船社が出てきた。 寄港地を減らす動きもある。
流通科学大学商学部の森隆行教授は「このままい
けば航路はさらに減少するだろう。 モーダルシフトの
受け皿がなくなってしまう。 環境問題を別にしても、
フェリーというインフラを失うことで、輸送モードの
選択肢が一つなくなることになる。 リスク管理とい
う側面からも複数の輸送インフラの確保は必要であり、
これは行政の責任だ。 トラックとの競合をまったくの
自由経済に任せ、しかもメリットを一方にしか与えな
いというのはフェアではない」と指摘する。
政府がトラック事業者支援のために確保した財源
は、フェリーとは比較にならないほど大きい。 高速道
路料金引き下げの財源は昨年度第二次補正予算で盛
り込まれた五〇〇〇億円と、政府与党が〇七年に合
意した道路関連施策費二兆五〇〇〇億円の計三兆円
だ。 五〇〇〇億円は二年間、二兆五〇〇〇億円は〇
八年度からの一〇年間で投入される。
これに対して内航海運やフェリー、地方の鉄道・バ
ス・離島航路など「地域交通の活性化等」として〇
九年度補正予算に盛り込まれたのは四一四億円に過
ぎない。 同補正予算には地方自治体向けに一兆円の
臨時交付金も計上されている。 この中からもフェリー
への支援が期待されているが、用途は各地方自治体
が決めるため、どれだけフェリー支援に投入されるの
25 JUNE 2009
かは不透明だ。
フェリー業界は国・地方自治体に港湾施設使用料の
減免やフェリーの利用者に対する助成を強く要望して
いる。 商船三井フェリーの岡本社長は「個人的には税
金を使って国に助けてもらうことをいいと思っている
わけではない。 助成があってもなくても共同運航や
共同配船をさらに進め、競争力の向上は続ける。 そ
して適正利益を残して利用者に還元する。 ただ、そ
れ以前に現在はイコールフッティングになっていない」
と強調する。
コスト削減も限界に
実際、これまでフェリー各社が手をこまねいていた
わけではない。 例えば一時期、総コストの四割の水準
にまで上がっていた燃料費。 減速運航や省エネ設備の
導入、サンドブラスト(船底研磨)などさまざまな手
を打った。 荷役の合理化も実施した。 「これ以上どこ
をいじればいいのかというほどギリギリのところまで
きている」と岡本社長はいう。
もともと海運業は固定費が大きい。 コスト削減には
限界がある。 人件費も重くのしかかる。 フェリー運航
に必要な乗組員数は法律などで規定されている。 と
ころが、これが機関室の無人化など船舶技術の進歩
に追いついていない。 規制によって、技術的には可
能な運航要員数よりも多くの人員を配置せざるを得な
いのが現状だ。
さらに政府の施策からはトラック、鉄道、海運、航
空といった各輸送モードの位置付けがまったくみえな
い。 岡本社長は「政府には国家的なビジョンがない。
海運へのシフトを進めていくのか、それとも逆なのか。
国として環境その他の要素を含めて将来を見据えて考
えるべきだ」と不満を抱えている。
40
30
20
10
0
01年度02年度03 年度04 年度05 年度06 年度
(万台)
(万台)
07年度08 年度
京浜〜北海道
阪神〜中九州
北陸〜北海道
阪神〜北海道
阪神〜南九州
08年度
07年度
京浜〜南四国
中京〜北海道
表東北〜北海道京浜〜北九州
北関東〜北海道
北陸〜北九州
阪神〜南四国 東四国〜北九州
図1 長距離フェリーの07年度・08年度月間トラック航送 図2 長距離フェリーの01年度〜08年度トラック航送台数(航路別)
台数の推移(全航路計)
14
12
10
8
6
4
2
0
図1、図2:日本長距離フェリー協会の統計をもとに本誌作成
4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月
京浜〜南九州
京浜〜東四国
中京〜表東北
阪神〜北九州
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