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JUNE 2009 30
労務管理
フェデックス・グランド
10年越しの“一人親方”問題で敗訴確定
賠償金は20億ドルに拡大する可能性も
住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築
施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達
成した。 現場で分別を行い、集荷拠点を経由して
自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること
で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。 さらに部
材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に
ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を
めざしている。
一〇年越しの裁判に終止符
昨年十二月、フェデックスの「一人親方
( independent contractor :独立業務請負
人)」問題が一つの区切りを迎えた。
カリフォルニア州の最高裁判所は、フェデ
ックス傘下の陸上宅配便部門、フェデックス・
グランドから業務を請け負っているドライバ
ーが、事実上同社の従業員であることを認め、
フェデックスに対して原告である二〇三人の
ドライバー(元ドライバーを含む)に一四五
〇万ドル(一四億五〇〇〇万円)の支払いを
命じたのだ。
この判決を受けて今年二月、フェデックスは
ドライバーに対する賠償金一四五〇万ドルに、
弁護士費用の一二五〇万ドルを加えた、計二
七〇〇万ドル(二七億円)を原告側に払い込
んだ。 二〇〇三年から原告側の弁護人として、
同裁判を担当してきたリン・ロスマン・ファ
リス弁護士は次のように話す。
「フェデックス側は、何年にもわたりこの裁
判で勝訴するといいつづけてきたが、幻想は
とうとう終わりを迎えた。 ドライバーたちは、
一人当たり二〇〇〇ドル(二〇万円)から最
高で二八万ドル(二八〇〇万円)を受け取っ
た。 平均すると一人七万ドル(七〇〇万円)
になる。 このことは、現在、インディアナ州
で行われている集団訴訟にも追い風となる」
カリフォルニアの裁判に触発されて、フェ
デックスを訴えている同社の元ドライバーや現
役ドライバーは現在二万七〇〇〇人にも上っ
ている。 全米三〇州における訴えが集団代表
訴訟に併合され、インディアナ州で係争中だ。
ファリス弁護士は、この集団訴訟の主任弁護
人の一人でもある。
仮にインディアナの裁判所が、カリフォルニ
アと同様に一人当たり平均で七万ドルの支払
いを命じることになれば、その金額は一九億
ドル(一九〇〇億円)近くに達することにな
る。 ちなみにフェデックスの〇八年度(〇七
年六月から〇八年五月)の最終利益は十一億
ドル(一一〇〇億円)強。 集団訴訟の行方次
第でフェデックスは大きな経営ダメージを被る
ことになる。
フェデックスの一人親方問題は、元ドライ
バーのトニー・エストラーダ氏らが一九九九年
にフェデックス・グランドを訴えたことに端を
発する。 同社がドライバーを一人親方として
扱うことは違法であり、カリフォルニア州の
雇用法(Wage-and-Hour Laws)に定められ
ている、従業員に支払うべき費用を弁償する
ように求めたのである(図1)。
フェデックス・グランドのドライバーは契約
上は独立した事業請負人であっても、実際に
はフェデックスのロゴの入ったトラックを運転
し、フェデックスの制服を着て、フェデックス
の小包を配達している。 また、ドライバーの
細かい行動まで規定して従業員と同様に拘束
している。 それならば、フェデックスはトラ
ックの購入代金から燃料代、保険代、修理代、
フェデックス・グランドが、配送を委託する「一
人親方」のドライバーたちと争ってきた裁判で、フ
ェデックス側の敗訴が確定した。 フェデックスには
原告のドライバー1人当たり約700万円の支払いが命
じられた。 他にも同社は計2万7000人のドライバー
と集団訴訟を係争中だ。 その行方次第で大きなダ
メージを負うことになる。
31 JUNE 2009
税金などをドライバーに対して弁償するべき
だ。 それがエストラーダ氏たち原告側の主張
だった。 これらの経費のうちトラックの購入
代金だけでも一人当たり四万ドル(四〇〇万
円)を超える。
これに対してフェデックス側では、フェデッ
クス・グランドのドライバーは、ドライバーと
して雇われるよりも、その起業家精神によっ
て自ら選んで一人親方となったのであり、フ
ェデックス・グランドは、そうしたドライバ
ーたちに稼ぐことのできる機会を与えている、
と一貫して主張してきた。
九九年に始まった一連の裁判で最初の判決
が出たのは〇五年十二月のこと。 ロサンゼル
スの上級裁判所(Superior Court:日本の地
裁に相当)は、フェデックスはドライバーに
「従業員に対するのと同様のコントロールを作
り出していたし」、また「事実上、絶対的な
コントロール」を行使してきたとして、総額
五三〇万ドルをドライバーたちに支払うこと
を命じた。
続く二審のカリフォルニア州控訴裁判所
(Court of Appeal:日本の高裁に相当)でも
〇七年八月、「靴下の色からヘアスタイルにま
で及んでいた、フェデックス側のドライバーに
対する仕事のやり方に関するコントロールを
みれば、ドライバーはフェデックスの社員であ
ると結論付けることができる」と判決が下さ
れている。
この控訴審で裁判所はフェデックスに対し、
第一審の金額に六〇〇万ドル上乗せして、一
一〇〇万ドルを支払うように命じた。 フェデ
ックスは上告したが、〇八年十二月のカリフ
ォルニア州最高裁の判決で、フェデックスの
最終的な敗訴が決定した。 この間に経費の科
目が増えたことで、ドライバーへの支払金額
は結局、一審判決の三倍近くに膨れあがった。
しかし、持ち株会社であるフェデックス・
コーポレーションのフレデリック・スミス会長
兼CEO(最高経営責任者)は、カリフォル
ニアでの最初の敗訴の判決が出た〇五年度の
年次報告書でも、独立請負人という雇用形態
は、ドライバー自身、顧客、会社、株主にと
ってメリットがあると明言し、その姿勢を今
日まで変えようとしていない。
スミスCEOは「この一人親方という雇用
形態をめぐって少数のドライバーたちとの裁
判が続いている。 (しかし)われわれは引き
続き、われわれの(一人親方という)やり方
が、起業家精神をかきたて、また顧客に対す
るよりよいサービスを保証する手段だと主張
していく」と語っている。
もともとフェデックス・グランドが一人親方
に支払っている委託料は、航空宅配便のフェ
デックス・エクスプレスや陸上輸送のフェデッ
クス・フレイトの正社員ドライバーの給料より
高く設定されている。 また「一人親方」とい
っても、実際には自分の他にドライバーを雇
って複数の配送ルート(マルチ・ルート)を
受け持っている業務請負人もいる。 従って小
規模でも独立した企業体とみなすのが適切だ
というのがフェデックス側の見解だ。
しかし、ファリス弁護士は、フェデックス側
の主張は自らの雇用体系を肯定するために後
付けした理屈だと反論する。 「マルチ・ルート
を任されているドライバーの数はカリフォルニ
ア州で言えば全体の二割にも満たない。 カリ
フォルニア州の裁判で争ったドライバーは、シ
1985
1996
1998
1999
2000
2004
2005
2005.12
2007.8
2007.12
2008.10
2008.10
2008.11
2009.2
2009.4
2009.4
ロードウェイ・パッケージ・システム(RPS)がドライバーに「一人親方」を導入
RPSを含むロードウェイ・サービシーズが、持ち株会社カリバー・システムの下に再編
フェデックスがカリバー・システムを買収。 FDXを持ち株会社に
フェデックス・グランドのカリフォルニア州のドライバーが提訴
RPSがフェデックス・グランドに社名変更。 持ち株会社をFDXからフェデックス・コーポレーションに変更
フェデックス・グランドの一人親方が全米で1 万5000 人に達する
全米25 州で行われていた一人親方をめぐる31 件の訴訟が、インディアナ州での集団訴訟に併合される
カリフォルニア州の第一審裁判所が一人親方は違法と判断。 530 万ドルの支払いを命じる
カリフォルニア州の控訴裁判所が一人親方は違法との判決。 1100 万ドルの支払いを命じる
IRSがフェデックスの一人親方に疑問。 3 億ドルを超す追徴金の可能性を示唆
カリフォルニア州の最高裁が一人親方は違法との判断
IRSがフェデックスの一人親方を認めて、追徴金を不要とする
マサチューセッツ州のドライバーがチームスターズに加盟
カリフォルニア州最高裁の判決を受け、フェデックスが1450 万ドルをドライバーに支払う
ワシントン州の第一審裁判所の陪審員が一人親方は合法との判決
ワシントンDCの控訴裁判所が、フェデックス・グランドのドライバーは組合を組織することができないとの判決
図1 フェデックスの一人親方をめぐる略年表
JUNE 2009 32
ングル・ルートのドライバーだったが、インデ
ィアナの集団訴訟にはマルチ・ルートのドライ
バーも原告に加わっている。 この裁判に勝て
ば、フェデックス側の主張するシングル・ルー
トとマルチ・ルートの違いも意味がなくなる」
UPSより三割安い人件費
フェデックス・グランドの一人親方体制が確
立したのは今から二〇年以上も前に遡る。 同
社の前身となった陸運宅配会社、ロードウェ
イ・パッケージ・システム(RPS)が八〇
年代の半ばにドライバー個人と業務請負契約
を結び、配送網を組織した。 その後、九六
年には同社の親会社でLTL(特別積み合わ
せ)輸送大手のロードウェイ・サービシーズと
共に、新しい持ち株会社のカリバー・システ
ムズの下に再編された。
さらに九八年、フェデックスは北米の陸上
輸送網の強化を目的にカリバー・システムズを
買収。 二〇〇〇年に同社をフェデックス・グ
ランドに社名変更したが、RPS時代に築い
た一人親方をベースとした配送ネットワーク
はそのまま維持してきた。
持ち株会社のフェデックス・コーポレーショ
ンは現在、四つの事業会社を傘下に収めてい
る。 航空宅配貨物を取り扱うフェデックス・
エクスプレス。 北米における陸上の宅配貨物
を取り扱うフェデックス・グランド。 LTL輸
送のフェデックス・フレイト。 そして事務代
行業務などを含むフェデックス・サービシーズ
きた点は否定できない。
チームスターズ(全米最
大のトラック運転手労
働組合)によってドラ
イバー組合が組織され
ているUPSは九七年
に二週間にわたるスト
ライキに直面している。
しかし、一人親方は法
律上事業主であるため、
フェデックス・グランド
は組合運動を心配する
必要がない。
もしフェデックス・グ
ランドがドライバーを
従業員として、諸経費
を負担すれば年間で四
億ドル(四〇〇億円)
を超すコスト増となる
とチームスターズは試算している。 同様にフ
ェデックス・グランドのドライバーへの支払い
は、UPSに比べ三〇%安く済んでいる、と
する米経済学者の試算もある。 しかし、フェ
デックス側はいずれの数字も、単なる推論に
すぎないとはね除けている。
こうしたフェデックスの一人親方をめぐる
動向を追っていると、ドライバーの裁判に影
響を与え得る二つの流れが視界に入ってくる。
その一つは米国内歳入庁(IRS:日本の
国税庁に相当)の動きだ。 IRSは〇七年十
(旧フェデックス・キンコーズを含む)だ。
またフェデックス・グランドは、米国内のビ
ジネスエリアへの配送を担当する「フェデック
ス・グランドUS」、カナダとプエルトリコを
担当する「フェデックス・グランド・インター
ナショナル」、米国内の居住区向けの宅配を行
う「フェデックス・ホームデリバリー」、それ
に貨物の混載業務を行う「フェデックス・ス
マートポスト」の四社で構成されている(図
2)。
フェデックス・グランドの〇八年度の売上高
は、六八億ドル(六八〇〇億円)でフェデッ
クス全体の売上高の約一八%を占める。 現在、
同部門で働く一人親方は一三〇〇人ほど。 フ
ェデックス・エクスプレスとフェデックス・フ
レイトのドライバーはいずれも従業員で、フ
ェデックス・グランドのドライバーだけが一人
親方という契約となっている。
同じ組織内で同じようなドライバーの業務
を行いながら、二つの雇用形態があることも
フェデックス・グランドのドライバーたちの不
満の原因となっている。 ファリス弁護士は「会
社側はフェデックス・グランドのドライバーが
受け取っている手数料は、従業員のドライバ
ーに比べて多いというけれども、諸経費を差
し引けばフェデックス・グランドのドライバー
の方が条件は悪い。 これは同一労働・同一賃
金の原則に反する」と指摘している。
実際、一人親方を利用することでフェデッ
クスがこれまでライバルと比べて優位に立って
図2 フェデックスの組織図
FedExコーポレーション
FedExサービシーズ FedExフレイト FedExグランド FedExエクスプレス
FedEx
スマートポスト
FedEx
インターナショナル
FedEx
グランドUS
FedEx
ホームデリバリー
33 JUNE 2009
判決で、ドライバーは一人親方であり、従業
員でないために組合活動に参加する権利はな
いという判決を下した。 フェデックス側の勝訴
であり、フェデックスは「今回の判決は、フ
ェデックス・グランドのドライバーが一人親方
であるという当社の主張を確認するものだ」
というコメントを発表している。
しかしファリス弁護士は、三つの係争はい
ずれも争点が違うために、担当するインディ
アナ州での集団訴訟に直接的な影響はないと
する。 「われわれが争っているのは、フェデ
ックス・グランドのドライバーを従業員とし
て認め、州が定めた雇用法に基づき経費を支
払うかどうかという点だ。 一方、IRSは法
人税、またチームスターズは、労働組合権を
問題にしている。 いずれも法律や争点が違う。
三つの裁判で別々の結論が出ることもあり得
る。 IRSがドライバーを一人親方だと認め
たとしても、インディアナ州の裁判所がドラ
イバーを従業員として認めることに問題はな
い」とする。
オバマ政権誕生でフェデックスに逆風
しかし、ワシントン州の上級裁判所
( Superir Court :日本の地裁に相当)では
今年四月に雇用法に関する判決も下っている。
三〇〇人を超すフェデックス・グランドのドラ
イバーを、同社が一人親方として扱ったため
に残業代や制服代などを支払わないのは違法
だとして訴えていた裁判で、ワシントン州シ
アトルの陪審員はフェデックス側に違法行為
はなかったという判決を下したのだ。 同じ雇
用法をめぐってカリフォルニア州の最高裁とは
逆の判決が下ったことになる。
ファリス弁護士は、集団訴訟前に起こされ
たこうした裁判の大半では勝訴しているとし
た上で、ワシントン州の敗訴についてこう説
明する。 「陪審員はフェデックス側が巧みに作
り上げた契約内容に欺かれたのだと思う。 上
告して勝訴を手に入れる可能性は十分にある。
また、ワシントン州の訴訟と、インディアナ
での集団訴訟とは争っている内容も違うので、
直接影響を受けることはない」
ファリス弁護士は、今年、民主党出身のオ
バマ氏が大統領に就任したことは、労働者側
に有利に働くだろうと見ている。 オバマ大統
領は上院議員だった昨年、フェデックスの一
人親方と同様の雇用形態に批判的な態度を示
し、税法によって網をかける法案を提出して
いるという。
労働者側に立つ民主党政権の誕生を受け
て、米下院ではフェデックスの従業員が組合活
動に参加できるように、法律を改正しようと
いう動きも出ている。 この動きに対して、フ
ェデックス側ではボーイング機三〇機の発注
を撤回するとして牽制している。 インディア
ナの集団訴訟の判決が出るまで、フェデック
ス・グランドのドライバーをめぐる一連の騒
動は終結しそうにない。
(ジャーナリスト 早田虔太郎)
二月、フェデックスが〇二年に申告した数字
を見直した結果、同社が一人親方と位置付け
ているドライバーは従業員である可能性があ
るとして、その場合には三億一九〇〇万ドル
の追徴金が発生すると発表した。
ところが〇八年一〇月になって前言を撤回。
カリフォルニアで行われた一審、二審の判決
結果に反するかたちで、IRSは〇三年以降
の申告については今後も監査をつづけていく
と含みを持たせながらも、〇二年度の申告分
についてはドライバーが一人親方であること
を認め、追徴金の必要はないとした。
もう一つの流れは、一人親方を組合組織化
する動きだ。 全米労働関係法に基づき、団結
権、団体交渉権、不当労働行為の禁止など
の労働関係法を執行する連邦政府の独立行政
機関、全国労働関係委員会(National Labor
Relations Board :NLRB)は、これまで
数度にわたり、フェデックス・グランド傘下
のドライバーは従業員であるという決定を下
している。
〇七年には、フェデックス・ホームデリバリ
ーのドライバーは従業員であるため組合を組
織することができるという判断を下した。 こ
れに基づきチームスターズは、米国東部のマ
サチューセッツ州で組合活動を開始。 しかし
フェデックス側がこれに反発。 組合活動は違
法だとして裁判に訴えた。
同裁判でワシントンDCの控訴裁判所(日
本の高裁に相当)は、裁判官による二対一の
1ドル= 100円で換算
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