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佐高 信
経済評論家
JUNE 2009 70
『夕刊フジ』の連載コラム「俺ひとり」を
愛読している。 筆者は作家の白川道で、二月
一四日付けのそれの見出しは「不愉快な番組」
である。
そこで白川は、久米宏が司会の「テレビっ
てヤツは」を取り上げ、なぜ、ホリエモンを出
演させるのかと問うている。
「刑事被告人である彼が有罪か無罪かは知ら
ぬ。 だが公共の電波を使っての一方的な彼の
弁舌、弁解などは聞きたくはない。 だいいち、
公平性に欠けるだろう。 もし彼にそれを許す
なら、すくなくとも彼とは反対の立場にいる
人間も出演させるべきだろう。 出させるほう
も出させるほうだが、出るほうも出るほうだ。
彼がこの手の番組に出演してオチャラけるのは、
すべてが落着した後のことだとおもう。 結局は、
一度は引退、もしくは休養宣言をした大物司
会者と、彼とは目立ちたがり屋という点で共
通の本性を持った人物とを配しての視聴率を
狙った番組構成ということなのだろう。 下心
が透けて見えて不愉快この上ない」
三月一〇日に出たホリエモンこと堀江貴文
の『徹底抗戦』(集英社)がベストセラーとな
ったが、自民党の推薦を受けて衆院選に立候
補した堀江が何と戦ったのか、私は最後まで
わからなかった。 戦っている気分になってい
ることはわかるが、民主党でも自民党でもよ
かった堀江が権力と戦ったとは、とても思え
ない。 堀江の選挙には、時の自民党幹事長・
武部某も応援に駆けつけたし、時の大臣の竹
中平蔵も駆けつけたのである。
大下英治は「ドキュメント堀江貴文」が副
題の『逆襲』(竹書房)に、その時の様子を
こう記す。
「坂本龍馬や伊藤博文も、二〇〜三〇代で日
本を動かした。 やるからには総理を目指す」
と大きく出た堀江は、「人気だけじゃないか」
という批判には不満で、
「劇場型選挙が悪い? ぼくの立候補で、多
くのひとが政治に興味を持った」
と居直った。
武部の応援演説はこうである。
「彼の姿を見て、いままでとちがう日本が始
まるという感じを受けた。 堀江君はわが弟で
あり、息子だ」
そして、竹中も次のように持ち上げた。
「彼はビジネスで成功しているのに、わざわ
ざリスクをとって、国のために戦おうとして
いる。 小泉首相とホリエモンと私が、改革の
スクラムを組む」
この時、竹中は郵政民営化の担当大臣だっ
た。 つまり、小泉「改革」のシンボルだった
のである。
しかし、いま、その「改革」が「改革」の
名に値しないものだったことが明確になって
いる。
拙著『小泉純一郎と竹中平蔵の罪』(毎日
新聞社)は発売一カ月で五刷となり、二万部
を超えたが、特に地方の書店からの引きが強
いという。 小泉が自民党の支持層を地方の保
守から都市浮動票に移したことを敏感に察知
したからだろう。 郵政民営化ならぬ郵政「会
社化」は結局、「かんぽの宿」の問題で明ら
かになったように郵政「私物化」だったこと
が天下周知の事実となった。
そのお先棒をかついだのが竹中であり、ホ
リエモンだったわけである。 地方の過疎化を
進めてしまったそれを反省するどころか、竹
中などは「改革」が不徹底だとか、「改革」
が止まってしまったなどと喚いている。
どこまでも恥知らずな奴だとしか言いよう
がないが、『徹底抗戦』で堀江は、ニッポン放
送株買収の資金がリーマン・ブラザーズだった
ことを明かしている。
今度の世界金融危機は、俗にリーマン・シ
ョックというこの会社の倒産によって惹き起
こされた。 そうしたことに目を向けず、マス
コミはただただ、視聴率を上げることだけを
目指している。
ホリエモンの一方的な弁解を垂れ流すTV番組
功罪の検証など二の次で関心は視聴率向上のみ
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