2009年6月号
SOLE
SOLE
日本の原子力行政の現状と課題法制と規制の影響を研究者が解説
SOLE 日本支部フォーラムの報告
The International Society of Logistics
JUNE 2009 82
院の役割が説明されて
いる。
図2では、実用炉の 計画から廃止までに踏 むべき手続きが示され ている。
文科省の担当 する試験研究炉に関す る規制もほぼ同様の手 順を踏む。
それ以外に も、再処理事業の設置 から廃止までの手順お よび核燃料物資等の輸 送にかかわる安全順守 などにも、政府による 許可制が敷かれている。
稲村助教は、以上の ような原子力法制に関 する東京大学での研究 会『原子力法制研究会』 にも携わっており、そ こで得られた知見を今 回のフォーラムでご紹 介いただいた。
講演を総括すれば、 我が国の原子力法制は、 行政実務の積み重ねや 訴訟上の主張、判決、 法曹界の有識者による 意見をもとに作られて きたものであり、法体 系そのものがパッチワー クのような造作になっ 日本の原子力行政の現状と課題 法制と規制の影響を研究者が解説 SOLE日本支部では「大規模複 雑システムのロジスティクス研究」に 取り組んでいる。
その代表的テーマの 一つとなっている「原子力発電のロジ スティクス:保全の革新の研究」にお いては原子力法制も考慮しなければな らない。
四月のフォーラムでは東京大 学大学院の原子力国際専攻の稲村智 昌助教に「我が国の原子力法制の現 状と課題」、千葉工業大学社会システ ム科学部の高嶋隆太助教に「規制影 響分析の現状と適用可能性」と題し てアカデミックな立場からご講演をい ただいた。
その講演概要を紹介する。
硬直化する原子力法制 「原子力ルネッサンス」と呼ばれて いる世界的な原子力の見直しの中で、 日本における原子力工学関連の大学 カリキュラムが徐々に復活しつつある。
東大も一時途絶えていた原子力関連 の専攻として、二〇〇五年から大学 院工学系研究科の原子力国際専攻お よび専門職大学院原子力専攻を開講 している。
稲村助教はまさしくこの 専攻での教育を担う任にあり、高嶋 助教もこの専攻から千葉工大に移ら れた方である。
我が国の原子力発電所は現在約五 〇基以上が稼働を続けており、政府 のエネルギー政策の重要な柱の一つで ある。
原料のウランは、生産高第一 位と三位である豪州およびカナダから 主に輸入しているが、小泉総理の時 代には第2位の生産国であるカザフス タンとの協力関係強化にも力を入れ ていた。
図1は日本の原子力政策および安 全確保体制の主たる組織の概略図で ある。
原子力研究開発・利用政策 を決定する内閣府原子力委員会から、 安全確保に関する法整備の責任を持 つ原子力安全委員会、試験研究炉を 担当する文部科学省の原子力安全課 および経済産業省の原子力安全保安 図1 我が国の原子力安全確保体制 原子力研究開発 利用政策の決定 内閣府原子力委員会 内閣府原子力委員会 安全の確保に関する事項について企画し、審議し、および決定する 検査代行、報告 検査代行、報告 報告 監視 ・ 監査 検査等検査等 申請等許可、認可、 検査等申請等許可、認可、 検査等 諮問 答申報告 監視 ・ 監査 諮問 答申 直接事業者 を調査 直接事業者 を調査 (独)原子力安全基盤機構 (および指定機関) 検査等の一部を代行 (独)原子力安全基盤機構 検査などの一部を代行 文部科学省 原子力安全課 《学協会》 (民間基準等) 原子力学会 機械学会 電気協会…等 《第三者機関》 (求めに応じ、 事業社を監査) 《研究者機関》 (科学的知見の提供) 日本原子力研究開発 機構…等 製錬、加工、発電炉、使用済燃料貯蔵、再処理、廃棄等 事業者 (安全の確保のための規制の実施に関 する事項を除く) 原子力利用に当たっての安全問題に対 する取り組みの基本的考え方を示す。
(例:原子力政策大綱、原子炉等規制 法体系のあり方、原子力予算見積・配 分など) ●試験研究炉等の 安全規制 ●保障措置の実施 ●放射線障害防止 ●環境モニタリン グ 経済産業省 原子力安全・保安院 以下の安全規制 ●製錬 ●発電炉 ●廃棄物 ●加工 ●再処理…等 原子力安全規制 国 試験研究炉、核燃料物質等使用、国際規制物資使用等 監査責任 規制責任 第一義的責任 83 JUNE 2009 にならって、民間検査制度を導入 すべきである。
《9》輸入燃料体に比べ国産燃料体の チェック体制が厳しく、輸入燃料 体と同様、事業体による品質保証 制度に任せても良い。
燃料体は量 産品であり、製造業者に対する型 式認定制度を導入すべきである。
《 10 》実際の検査には多くの無駄がみ られる。
休日における検査未実施 など、検査の日程調整に柔軟性が ない。
また、検査官が事業者に検 査資料を準備させるなど、事業者 に負担を強いるのではなく、自前の 検査マニュアルと計画に従った検査 を実施すべきである。
さらに、検 査官の検査能力にも差がある。
検 査官の資格制度を導入し、検査の 質の保証に努める必要がある。
《 11 》文書の見直し頻度が多くない現 状にもかかわらず、文書審査の回 数が多い。
また、新規の検査に関 する手順が確立されておらず、事 業者の活動が制限され過ぎている。
学協会等の信頼のおける第三者機 関による検査と国による承認とい った手順の標準化が望まれる。
《 12 》保安規定にある「災害の防止上 十分でないと認めるときは許可を してはならない」のように、技術 的に具体的な規準がない文言も多い。
許可基準の具体化が必要である。
ている。
原発を取り巻く現在の環境 に柔軟に対応しているとは言い難い。
すなわち、今や定着しつつある原子 力技術に関しては、メンテナンスや運 転管理の技法が重要であるにもかか わらず法制には取り入れられておら ず、相変わらず原発導入時における 設計中心の思想となっている。
以下では各論として、「技術と法の 構造」および「社会と法制度設計」の 二つの観点から、我が国の原子力法 に重きが置かれすぎて過度に厳格 であり、運転後における段階的で 改善可能な規制といった弾力的な 法制度となっていない。
《4》原発事故や事案に対しては最悪 の事態を考える決定論的なシナリオ 策定の傾向にあり、確率論的観点 からの評価も重要である。
そのよ うな考え方は、特に大規模原子炉 冷却材喪失や水素制御に関する評 価を現実的なものにすることに役 立つ。
《5》内閣府安全委員会をはじめ、行 政庁における公聴会等重複した 審査が行われており、設置許可手 続きの簡素化が可能である。
また、 燃料体設計許可や取替炉心の安全 性確認では、繰り返しの安全審査 が不要だと思われるものもある。
こ こでも許可手続きの簡素化が必要 である。
《6》安全裕度の高いものや過去に行 われた解析を再度実施する場合が あり、このようなクロスチェックの 必要性を検証し、不必要な再検査 を省くべきである。
《7》工事計画認可は構造強度に偏重 しており、かつ定型的なものが多 く、その必要性や代替規制を検討 する必要がある。
《8》工事とその検査をすべて規制の 対象としており、米国機械学会等 制の課題を挙げる。
? 技術と法の構造 《1》原発施設に対する電事法と炉規 制法による二重規制には重複する 部分も多いため、新しい炉規制法 による規制の一本化が望まれる。
《2》指針類は原子力安全委員会の内 規であることが多く、法による統 制の観点から、炉規制法の下部規 定である政省令としての整備が望 まれる。
《3》プラントの運転 開始以降は、設置許 可や工事計画認可へ 後戻りすることなく、 運転管理段階での規 制によるべきであり、 段階的に応じて決め られる規制が必要で ある。
そのためには、 段階ごとの技術基準 を設けるべきである。
特に運転が安定化す る後段期での規制で は、前段において得 られた技術的知見や 運転管理実体を取り 入れ更新や改善が可 能なものとすべきで ある。
日本では設置許可 計画地点選定 原子炉設置許可申請 工事計画認可申請 工事着手 運転開始 廃止措置計画の認可申請 廃止措置の開始 廃止措置終了の確認申請 廃止措置の終了 図2 実用炉の計画から廃止まで 計画段階 建設段階 運転段階 廃止段階 事業者 行政庁 原子力安全委員会 第1次公開ヒアリング (経済産業省主催) 〈経済産業省審査〉 〈経済産業大臣同意〉 〈経済産業省審査〉 〈工事計画認可〉 使用前検査 溶接安全管理検査 燃料体検査 保安規定認可 定期検査 立入検査 保安検査 定期安全管理審査・評定 〈経済産業省審査〉 〈廃止措置の計画認可〉 措置命令 〈経済産業大臣確認〉 〈原子力安全委員会審査〉 諮問 答申 第2次公開ヒアリング (原子力安全委員会主催) 文部科学大臣同意 規制調査 JUNE 2009 84 な管理が必要であるが、その実例 が米国の原子力規制委員会(NR C)規則にある。
以上、稲村助教の発表内容を箇条 書きでまとめた。
次に登場した高嶋 助教は、規制の影響分析に関する具 体的な数値例を提示された。
米国では規制影響分析に評価式 原発等の原子力の平和利用は、国 際的なエネルギー供給と需要の環境下 における国全体のエネルギー戦略の一 つである。
〇二年のエネルギー政策基本法制 定や〇三年のエネルギー基本計画策 定を経て、〇七年に閣議決定された エネルギー基本計画が国の方針といえ る。
そこでは省エネの推進、多様な エネルギー開発と導入・利用、石油 の安定供給確保、エネルギー・環境 分野での国際協力、緊急時エネルギ ー対処、さらには電気・ガス事業制 度についての方針が記されている。
これらに関連するエネルギー法制等 の規制影響分析は、〇四年に総務省 が実施要領を作成して以来、各省庁 が試行してきたが、〇五年に総務省 がまとめた報告書に依れば、〇四年 から〇五年にかけての約九カ月にお ける実施例は七九件であり、その中 での定量的な分析の記載はわずか八 定には以下の歴史がある。
❶一九七〇年代の黎明期:安全性を 確認するための情報を住民が事業 体に求めた ❷九〇年代半ばの情報要求期:より 多くの情報提供が事業体に要求さ れた ❸九〇年代半ば以降の情報信頼要求 期:事業体の情報隠蔽や改ざんの 事実を踏まえて、情報の信頼性が 希求された 《7》上記の安全協定は、主として事 業体の責務のみが記された片務的 な性格が色濃く、住民への情報伝 達といった自治体参加型の双務的 なものとする努力が望まれる。
《8》原発に関しては「原子力安全」 (Safety)のみならず、「保障措置」 ( Safeguard)、「核セキュリティ」 (Security)の「三つのS(3S)」 を重要視することが、世界的な潮 流である。
先進国だけでなく、発 展途上国での核の平和利用が盛ん になるにつれ、3Sの原則に照ら した法制度の再確認が必要となる。
《9》情報管理は大変重要である。
九 九年のJCO臨界事故の反省か ら、炉規制法に導入された申告制 度は原子力安全のみならず、3S のすべてに関連する。
情報管理に は、相反する二つの側面(情報公 開と機微情報管理)があり、適正 事実上首長に拒否権のあることが 示唆されている。
《3》以上のような立地プロセスを事 業体に任せてばかりはおれず、柏 崎刈羽原発立地の際に国の資金に より県が立地調査した前例になら い、国が積極的に関与するべきで ある。
《4》以上のような状況は原発の停 止・再開に関してもそうであり、 地方自治体の首長の意向に翻弄さ れたり、その対応に長期間を要し たりといった意思決定上の不具合 が生じる可能性が大きい。
従来の 意思決定プロセスには、それまで の稼働実績や技術動向が配慮され ることが少なく、再開に向けた要 件やプロセスの明文化が必要である。
《5》上記の原発停止・再開プロセス における制度上の模範例が米国にあ る。
すなわち、一時的に設置され る監視パネルが再開のためのチェッ ク・オブ・リストを作成し、それに 基づいて原子力規制委員会の地方 局長が最終的な再開を認可するもの であり、それにより首長の過大な責 任を軽減させることができる。
《6》自治体と事業体との間の安全協 定には、両者ともに積極的な存在 意義を見いだしており、技術的安 全性と住民の安心感醸成の双方が 組み込まれたものである。
安全協 ? 社会と法制度設計 《1》立地プロセスとは、施設用地取 得および施設立地にかかわる地元 合意取得に関連する諸活動であり、 原子力施設の基本的許認可を申請 した時点で終了するものと考えら れている。
この立地プロセスは経産大臣の 指定措置が骨格を成しているが、 指定の申請には環境影響評価結果 が必要であり、また、関係する都 道府県知事および市町村長の間で の立地に関する合意や、第一次公 開ヒアリングを実施する必要がある。
《2》高レベル放射性廃棄物の処分施 設に関する立地プロセスは「特定放 射性廃棄物の最終処分に関する法 律」によって規制されている。
それには、?文献調査で調査地 区を選定する。
?主としてボーリ ング調査による概要調査を実施し、 精密調査地区を選定する。
?精密 調査により地層処分施設建設地点 を選定する、の四項目が規定され ているが、これは地層処分の実施 主体である原子力発電環境整備機 構(NUMO)の計画に従って行 われる。
また、上記法律には関連都道府 県知事および市町村長の意見を聴 取・尊重することが謳われており、 %以下という有様である。
しかし実際には、行政機関が規制 を新設、廃止または変更するための 政策については、「規制影響の事前評 価( Regulatory Impact Analysis: RIA)」を実施し、その評価書を作 成・公表することが義務付けられて いる。
高嶋助教は、以上のような日本の 現状に鑑み、具体的な評価式を完備 している米国の原子力規制に関する 影響分析を試みたということであった。
NRCにおける規制実施では、次の ような手順を踏む。
《1》問題提起と規制実施の目的の報 告。
《2》問題に対する代替方法(規制) について予備分析や検証を実施。
《3》安全目標の検証。
《4》費用や便益の試算や評価を実施 し、その評価結果を公表。
《5》最終決定を記述し、その根拠を 提示。
規制を行う場合は、次の基 準を満足させる。
❶公衆衛生と安全、共通の 安全保 障等の全体的な保全が維持される こと ❷規制によるコスト削減が、規制に よって生じる利便性の減少を上回る こと 《6》日付や手順を決め、規制を実行。
上記の4および5項の評価で考慮さ れるべき影響の要素は次のように分 類される。
?便益︵Value︶ ●公衆衛生︵事故時、通常時︶ ●労働衛生︵事故時、通常時︶ ●サイト内外の資産 ?費用︵Impact︶ ●産業︵規制実施時、規制実施後︶ ●NRC︵規制実施時、規制実施後︶ ●連邦政府 ●公衆 ?その他の定性的な要素 ●知識の改善 ●規制の効率性 ●独占禁止への影響 ●保障措置とセキュリティへの影響 ●環境政策への影響 ●上記以外の要素 高嶋助教が計算例として提示され たのが、加圧水型原子炉の格納容器 に取り付け、水素の燃焼が原因とされ る容器破損の防止を目的とした「P AR」と呼ばれる装置の導入規制で ある。
この具体的な事例に対し、上 記の各要素を計算した結果が提示さ れた。
そこでは、PAR未使用による事 故の発生確率増加が外部放射線量の 増加をもたらし、その除去その他に おける公衆衛生上必要となる換算貨 幣による増加、施設や労働者等への 被曝とその除去作業に関係する労働 衛生上の換算貨幣による増加といっ た費用・便益計算が算式に従って実 施されている。
その結果、貨幣価値の年間割引率 七%による現在価値換算で約七〇〇 〇万ドルのマイナス合計が算出され、 PARの規制導入にはゴー・サイン が出せない試算となった。
NRCによる算出式は米国らしく 大変ドライで、例えば1人当たり一レ ム(生物体における放射性粒子の吸 収線量の単位)の被曝に起因する費 用は二〇〇〇ドルとなっているが、考 えてみればこのような算出をしない 限り、事故の価値評価はいつまでた っても実現しない。
この計算で最も不確定要素と考え られるのが、割引率その他の経済指 標である。
米国における近年の経済 活動に多大な影響を与えている金融 工学理論の分野に精通している高嶋 助教は、リアルオプション(金融工学 のオプション理論を金融以外に応用し、 経営上の柔軟性を経済価値評価に織 り込むことを目的とした評価手法)の 手法を不確定要素を内包する原子力 規制の影響分析に応用したいと考え ておられるようである。
今回のフォーラムでは「技術と法 の構造」および「社会と法制度設計」、 ならびに「規制影響分析の現状と適 用の可能性」の観点から稲村、高嶋 両助教に講演いただいた。
両助教は共同での研究もされてい るようである。
日本の原子力行政に おける定量的で科学的、かつ現実的 な提案がお二人から生み出されんこと を祈りつつ、また今回の講演内容が 当支部の今後の研究活動に大きな糧 となることを信じつつ、四月のSO LEフォーラムの報告を終える。
※ S O L E︵ The International Society of Logistics︶は一九六〇年代に設立されたロジ スティクス団体。
米国に本部を置き、会員は 五一カ国・三〇〇〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日 本支部では毎月「フォーラム」を開催し、講 演、研究発表、現場見学などを通じてロジス ティクス・マネジメントに関する活発な意見 交換、議論を行っている。
85 JUNE 2009 次回フォーラムのお知らせ 次回フォーラムは6月22日(月)「S CMと経営戦略」西垣葵・元大阪大学大 学院経済学研究科講師の講演を予定して いる。
このフォーラムは年間計画に基づ いて運営しているが、単月のみの参加も 可能。
一回の参加費は6,000円。
ご希 望の方は事務局(sole-j-offi ce@cpost. plala.or.jp)までお問い合わせください。
図2では、実用炉の 計画から廃止までに踏 むべき手続きが示され ている。
文科省の担当 する試験研究炉に関す る規制もほぼ同様の手 順を踏む。
それ以外に も、再処理事業の設置 から廃止までの手順お よび核燃料物資等の輸 送にかかわる安全順守 などにも、政府による 許可制が敷かれている。
稲村助教は、以上の ような原子力法制に関 する東京大学での研究 会『原子力法制研究会』 にも携わっており、そ こで得られた知見を今 回のフォーラムでご紹 介いただいた。
講演を総括すれば、 我が国の原子力法制は、 行政実務の積み重ねや 訴訟上の主張、判決、 法曹界の有識者による 意見をもとに作られて きたものであり、法体 系そのものがパッチワー クのような造作になっ 日本の原子力行政の現状と課題 法制と規制の影響を研究者が解説 SOLE日本支部では「大規模複 雑システムのロジスティクス研究」に 取り組んでいる。
その代表的テーマの 一つとなっている「原子力発電のロジ スティクス:保全の革新の研究」にお いては原子力法制も考慮しなければな らない。
四月のフォーラムでは東京大 学大学院の原子力国際専攻の稲村智 昌助教に「我が国の原子力法制の現 状と課題」、千葉工業大学社会システ ム科学部の高嶋隆太助教に「規制影 響分析の現状と適用可能性」と題し てアカデミックな立場からご講演をい ただいた。
その講演概要を紹介する。
硬直化する原子力法制 「原子力ルネッサンス」と呼ばれて いる世界的な原子力の見直しの中で、 日本における原子力工学関連の大学 カリキュラムが徐々に復活しつつある。
東大も一時途絶えていた原子力関連 の専攻として、二〇〇五年から大学 院工学系研究科の原子力国際専攻お よび専門職大学院原子力専攻を開講 している。
稲村助教はまさしくこの 専攻での教育を担う任にあり、高嶋 助教もこの専攻から千葉工大に移ら れた方である。
我が国の原子力発電所は現在約五 〇基以上が稼働を続けており、政府 のエネルギー政策の重要な柱の一つで ある。
原料のウランは、生産高第一 位と三位である豪州およびカナダから 主に輸入しているが、小泉総理の時 代には第2位の生産国であるカザフス タンとの協力関係強化にも力を入れ ていた。
図1は日本の原子力政策および安 全確保体制の主たる組織の概略図で ある。
原子力研究開発・利用政策 を決定する内閣府原子力委員会から、 安全確保に関する法整備の責任を持 つ原子力安全委員会、試験研究炉を 担当する文部科学省の原子力安全課 および経済産業省の原子力安全保安 図1 我が国の原子力安全確保体制 原子力研究開発 利用政策の決定 内閣府原子力委員会 内閣府原子力委員会 安全の確保に関する事項について企画し、審議し、および決定する 検査代行、報告 検査代行、報告 報告 監視 ・ 監査 検査等検査等 申請等許可、認可、 検査等申請等許可、認可、 検査等 諮問 答申報告 監視 ・ 監査 諮問 答申 直接事業者 を調査 直接事業者 を調査 (独)原子力安全基盤機構 (および指定機関) 検査等の一部を代行 (独)原子力安全基盤機構 検査などの一部を代行 文部科学省 原子力安全課 《学協会》 (民間基準等) 原子力学会 機械学会 電気協会…等 《第三者機関》 (求めに応じ、 事業社を監査) 《研究者機関》 (科学的知見の提供) 日本原子力研究開発 機構…等 製錬、加工、発電炉、使用済燃料貯蔵、再処理、廃棄等 事業者 (安全の確保のための規制の実施に関 する事項を除く) 原子力利用に当たっての安全問題に対 する取り組みの基本的考え方を示す。
(例:原子力政策大綱、原子炉等規制 法体系のあり方、原子力予算見積・配 分など) ●試験研究炉等の 安全規制 ●保障措置の実施 ●放射線障害防止 ●環境モニタリン グ 経済産業省 原子力安全・保安院 以下の安全規制 ●製錬 ●発電炉 ●廃棄物 ●加工 ●再処理…等 原子力安全規制 国 試験研究炉、核燃料物質等使用、国際規制物資使用等 監査責任 規制責任 第一義的責任 83 JUNE 2009 にならって、民間検査制度を導入 すべきである。
《9》輸入燃料体に比べ国産燃料体の チェック体制が厳しく、輸入燃料 体と同様、事業体による品質保証 制度に任せても良い。
燃料体は量 産品であり、製造業者に対する型 式認定制度を導入すべきである。
《 10 》実際の検査には多くの無駄がみ られる。
休日における検査未実施 など、検査の日程調整に柔軟性が ない。
また、検査官が事業者に検 査資料を準備させるなど、事業者 に負担を強いるのではなく、自前の 検査マニュアルと計画に従った検査 を実施すべきである。
さらに、検 査官の検査能力にも差がある。
検 査官の資格制度を導入し、検査の 質の保証に努める必要がある。
《 11 》文書の見直し頻度が多くない現 状にもかかわらず、文書審査の回 数が多い。
また、新規の検査に関 する手順が確立されておらず、事 業者の活動が制限され過ぎている。
学協会等の信頼のおける第三者機 関による検査と国による承認とい った手順の標準化が望まれる。
《 12 》保安規定にある「災害の防止上 十分でないと認めるときは許可を してはならない」のように、技術 的に具体的な規準がない文言も多い。
許可基準の具体化が必要である。
ている。
原発を取り巻く現在の環境 に柔軟に対応しているとは言い難い。
すなわち、今や定着しつつある原子 力技術に関しては、メンテナンスや運 転管理の技法が重要であるにもかか わらず法制には取り入れられておら ず、相変わらず原発導入時における 設計中心の思想となっている。
以下では各論として、「技術と法の 構造」および「社会と法制度設計」の 二つの観点から、我が国の原子力法 に重きが置かれすぎて過度に厳格 であり、運転後における段階的で 改善可能な規制といった弾力的な 法制度となっていない。
《4》原発事故や事案に対しては最悪 の事態を考える決定論的なシナリオ 策定の傾向にあり、確率論的観点 からの評価も重要である。
そのよ うな考え方は、特に大規模原子炉 冷却材喪失や水素制御に関する評 価を現実的なものにすることに役 立つ。
《5》内閣府安全委員会をはじめ、行 政庁における公聴会等重複した 審査が行われており、設置許可手 続きの簡素化が可能である。
また、 燃料体設計許可や取替炉心の安全 性確認では、繰り返しの安全審査 が不要だと思われるものもある。
こ こでも許可手続きの簡素化が必要 である。
《6》安全裕度の高いものや過去に行 われた解析を再度実施する場合が あり、このようなクロスチェックの 必要性を検証し、不必要な再検査 を省くべきである。
《7》工事計画認可は構造強度に偏重 しており、かつ定型的なものが多 く、その必要性や代替規制を検討 する必要がある。
《8》工事とその検査をすべて規制の 対象としており、米国機械学会等 制の課題を挙げる。
? 技術と法の構造 《1》原発施設に対する電事法と炉規 制法による二重規制には重複する 部分も多いため、新しい炉規制法 による規制の一本化が望まれる。
《2》指針類は原子力安全委員会の内 規であることが多く、法による統 制の観点から、炉規制法の下部規 定である政省令としての整備が望 まれる。
《3》プラントの運転 開始以降は、設置許 可や工事計画認可へ 後戻りすることなく、 運転管理段階での規 制によるべきであり、 段階的に応じて決め られる規制が必要で ある。
そのためには、 段階ごとの技術基準 を設けるべきである。
特に運転が安定化す る後段期での規制で は、前段において得 られた技術的知見や 運転管理実体を取り 入れ更新や改善が可 能なものとすべきで ある。
日本では設置許可 計画地点選定 原子炉設置許可申請 工事計画認可申請 工事着手 運転開始 廃止措置計画の認可申請 廃止措置の開始 廃止措置終了の確認申請 廃止措置の終了 図2 実用炉の計画から廃止まで 計画段階 建設段階 運転段階 廃止段階 事業者 行政庁 原子力安全委員会 第1次公開ヒアリング (経済産業省主催) 〈経済産業省審査〉 〈経済産業大臣同意〉 〈経済産業省審査〉 〈工事計画認可〉 使用前検査 溶接安全管理検査 燃料体検査 保安規定認可 定期検査 立入検査 保安検査 定期安全管理審査・評定 〈経済産業省審査〉 〈廃止措置の計画認可〉 措置命令 〈経済産業大臣確認〉 〈原子力安全委員会審査〉 諮問 答申 第2次公開ヒアリング (原子力安全委員会主催) 文部科学大臣同意 規制調査 JUNE 2009 84 な管理が必要であるが、その実例 が米国の原子力規制委員会(NR C)規則にある。
以上、稲村助教の発表内容を箇条 書きでまとめた。
次に登場した高嶋 助教は、規制の影響分析に関する具 体的な数値例を提示された。
米国では規制影響分析に評価式 原発等の原子力の平和利用は、国 際的なエネルギー供給と需要の環境下 における国全体のエネルギー戦略の一 つである。
〇二年のエネルギー政策基本法制 定や〇三年のエネルギー基本計画策 定を経て、〇七年に閣議決定された エネルギー基本計画が国の方針といえ る。
そこでは省エネの推進、多様な エネルギー開発と導入・利用、石油 の安定供給確保、エネルギー・環境 分野での国際協力、緊急時エネルギ ー対処、さらには電気・ガス事業制 度についての方針が記されている。
これらに関連するエネルギー法制等 の規制影響分析は、〇四年に総務省 が実施要領を作成して以来、各省庁 が試行してきたが、〇五年に総務省 がまとめた報告書に依れば、〇四年 から〇五年にかけての約九カ月にお ける実施例は七九件であり、その中 での定量的な分析の記載はわずか八 定には以下の歴史がある。
❶一九七〇年代の黎明期:安全性を 確認するための情報を住民が事業 体に求めた ❷九〇年代半ばの情報要求期:より 多くの情報提供が事業体に要求さ れた ❸九〇年代半ば以降の情報信頼要求 期:事業体の情報隠蔽や改ざんの 事実を踏まえて、情報の信頼性が 希求された 《7》上記の安全協定は、主として事 業体の責務のみが記された片務的 な性格が色濃く、住民への情報伝 達といった自治体参加型の双務的 なものとする努力が望まれる。
《8》原発に関しては「原子力安全」 (Safety)のみならず、「保障措置」 ( Safeguard)、「核セキュリティ」 (Security)の「三つのS(3S)」 を重要視することが、世界的な潮 流である。
先進国だけでなく、発 展途上国での核の平和利用が盛ん になるにつれ、3Sの原則に照ら した法制度の再確認が必要となる。
《9》情報管理は大変重要である。
九 九年のJCO臨界事故の反省か ら、炉規制法に導入された申告制 度は原子力安全のみならず、3S のすべてに関連する。
情報管理に は、相反する二つの側面(情報公 開と機微情報管理)があり、適正 事実上首長に拒否権のあることが 示唆されている。
《3》以上のような立地プロセスを事 業体に任せてばかりはおれず、柏 崎刈羽原発立地の際に国の資金に より県が立地調査した前例になら い、国が積極的に関与するべきで ある。
《4》以上のような状況は原発の停 止・再開に関してもそうであり、 地方自治体の首長の意向に翻弄さ れたり、その対応に長期間を要し たりといった意思決定上の不具合 が生じる可能性が大きい。
従来の 意思決定プロセスには、それまで の稼働実績や技術動向が配慮され ることが少なく、再開に向けた要 件やプロセスの明文化が必要である。
《5》上記の原発停止・再開プロセス における制度上の模範例が米国にあ る。
すなわち、一時的に設置され る監視パネルが再開のためのチェッ ク・オブ・リストを作成し、それに 基づいて原子力規制委員会の地方 局長が最終的な再開を認可するもの であり、それにより首長の過大な責 任を軽減させることができる。
《6》自治体と事業体との間の安全協 定には、両者ともに積極的な存在 意義を見いだしており、技術的安 全性と住民の安心感醸成の双方が 組み込まれたものである。
安全協 ? 社会と法制度設計 《1》立地プロセスとは、施設用地取 得および施設立地にかかわる地元 合意取得に関連する諸活動であり、 原子力施設の基本的許認可を申請 した時点で終了するものと考えら れている。
この立地プロセスは経産大臣の 指定措置が骨格を成しているが、 指定の申請には環境影響評価結果 が必要であり、また、関係する都 道府県知事および市町村長の間で の立地に関する合意や、第一次公 開ヒアリングを実施する必要がある。
《2》高レベル放射性廃棄物の処分施 設に関する立地プロセスは「特定放 射性廃棄物の最終処分に関する法 律」によって規制されている。
それには、?文献調査で調査地 区を選定する。
?主としてボーリ ング調査による概要調査を実施し、 精密調査地区を選定する。
?精密 調査により地層処分施設建設地点 を選定する、の四項目が規定され ているが、これは地層処分の実施 主体である原子力発電環境整備機 構(NUMO)の計画に従って行 われる。
また、上記法律には関連都道府 県知事および市町村長の意見を聴 取・尊重することが謳われており、 %以下という有様である。
しかし実際には、行政機関が規制 を新設、廃止または変更するための 政策については、「規制影響の事前評 価( Regulatory Impact Analysis: RIA)」を実施し、その評価書を作 成・公表することが義務付けられて いる。
高嶋助教は、以上のような日本の 現状に鑑み、具体的な評価式を完備 している米国の原子力規制に関する 影響分析を試みたということであった。
NRCにおける規制実施では、次の ような手順を踏む。
《1》問題提起と規制実施の目的の報 告。
《2》問題に対する代替方法(規制) について予備分析や検証を実施。
《3》安全目標の検証。
《4》費用や便益の試算や評価を実施 し、その評価結果を公表。
《5》最終決定を記述し、その根拠を 提示。
規制を行う場合は、次の基 準を満足させる。
❶公衆衛生と安全、共通の 安全保 障等の全体的な保全が維持される こと ❷規制によるコスト削減が、規制に よって生じる利便性の減少を上回る こと 《6》日付や手順を決め、規制を実行。
上記の4および5項の評価で考慮さ れるべき影響の要素は次のように分 類される。
?便益︵Value︶ ●公衆衛生︵事故時、通常時︶ ●労働衛生︵事故時、通常時︶ ●サイト内外の資産 ?費用︵Impact︶ ●産業︵規制実施時、規制実施後︶ ●NRC︵規制実施時、規制実施後︶ ●連邦政府 ●公衆 ?その他の定性的な要素 ●知識の改善 ●規制の効率性 ●独占禁止への影響 ●保障措置とセキュリティへの影響 ●環境政策への影響 ●上記以外の要素 高嶋助教が計算例として提示され たのが、加圧水型原子炉の格納容器 に取り付け、水素の燃焼が原因とされ る容器破損の防止を目的とした「P AR」と呼ばれる装置の導入規制で ある。
この具体的な事例に対し、上 記の各要素を計算した結果が提示さ れた。
そこでは、PAR未使用による事 故の発生確率増加が外部放射線量の 増加をもたらし、その除去その他に おける公衆衛生上必要となる換算貨 幣による増加、施設や労働者等への 被曝とその除去作業に関係する労働 衛生上の換算貨幣による増加といっ た費用・便益計算が算式に従って実 施されている。
その結果、貨幣価値の年間割引率 七%による現在価値換算で約七〇〇 〇万ドルのマイナス合計が算出され、 PARの規制導入にはゴー・サイン が出せない試算となった。
NRCによる算出式は米国らしく 大変ドライで、例えば1人当たり一レ ム(生物体における放射性粒子の吸 収線量の単位)の被曝に起因する費 用は二〇〇〇ドルとなっているが、考 えてみればこのような算出をしない 限り、事故の価値評価はいつまでた っても実現しない。
この計算で最も不確定要素と考え られるのが、割引率その他の経済指 標である。
米国における近年の経済 活動に多大な影響を与えている金融 工学理論の分野に精通している高嶋 助教は、リアルオプション(金融工学 のオプション理論を金融以外に応用し、 経営上の柔軟性を経済価値評価に織 り込むことを目的とした評価手法)の 手法を不確定要素を内包する原子力 規制の影響分析に応用したいと考え ておられるようである。
今回のフォーラムでは「技術と法 の構造」および「社会と法制度設計」、 ならびに「規制影響分析の現状と適 用の可能性」の観点から稲村、高嶋 両助教に講演いただいた。
両助教は共同での研究もされてい るようである。
日本の原子力行政に おける定量的で科学的、かつ現実的 な提案がお二人から生み出されんこと を祈りつつ、また今回の講演内容が 当支部の今後の研究活動に大きな糧 となることを信じつつ、四月のSO LEフォーラムの報告を終える。
※ S O L E︵ The International Society of Logistics︶は一九六〇年代に設立されたロジ スティクス団体。
米国に本部を置き、会員は 五一カ国・三〇〇〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日 本支部では毎月「フォーラム」を開催し、講 演、研究発表、現場見学などを通じてロジス ティクス・マネジメントに関する活発な意見 交換、議論を行っている。
85 JUNE 2009 次回フォーラムのお知らせ 次回フォーラムは6月22日(月)「S CMと経営戦略」西垣葵・元大阪大学大 学院経済学研究科講師の講演を予定して いる。
このフォーラムは年間計画に基づ いて運営しているが、単月のみの参加も 可能。
一回の参加費は6,000円。
ご希 望の方は事務局(sole-j-offi ce@cpost. plala.or.jp)までお問い合わせください。
