ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年7号
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「需要管理にSCMの歩を進めろ」楢村文信 野村総合研究所 上級コンサルタント

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

3  JULY 2008 要自体を活性化しようとしているわ けです」  「商店街の魚屋では同じことを店の 主人がやっている。
どう料理すればお いしいか。
どんな食材と合うか。
その 日の天気やお客さんの家族構成など を考慮して、お勧めすることで需要 を活性化している。
仕入れ時から買 い手や売り方を想定している。
これ が優れていると売り切る割合が高く なる。
事業規模が大きくなると、そ うした機能が失われてしまう。
個人 の能力に頼ることができなくなるた め、改めて組織として需要創造の仕 組みを作る必要が出てくる」  「しかし、これまでのSCMには需 要そのものを創るという視点が欠け ていました。
生産や調達、物流のオ ペレーションを需要予測に合わせて いただけで、売り方の連動まで広が っていなかった。
そこがこれからの 大きなテーマになるはずです」 ──今回の不況では、多くの企業が 生産のブレーキをベタ踏みするだけ で、需給調整が全く機能しませんで した。
過去一〇年にわたって取り組 んできたSCMやIT投資はムダだ ったのでしょうか。
 「大量の在庫が余ってしまったわけ ですから、従来のSCMの限界が見 えてしまったということは、事実と して認めなければなりません。
ただ し、その影響は業種によっても違い ます。
最も大きな影響を受けたのは、 自動車や家電などの耐久消費財です。
それに比べると食品や日用雑貨など は影響が小さい」  「これを考える一つのポイントは、 購買サイクルです。
『一〇〇年に一度』 と不況が煽られたことで、すぐに必 要のない商品を購入するのはひとま ずやめておこうという消費者心理が 働いた。
その結果、耐久消費財は買 い換えサイクル自体が伸びてしまっ た。
一方、食品や日雑は生活必需品 ですから、財布の紐は堅くなっても、 購買サイクル自体の変化は小さい」 ──商品特性の違いで、SCMの成 否が分かれたということですか。
 「SCMはアパレル業界では『QR (クイックレスポンス)』、グロサリー では『ECR』として別々に方法論 化されました。
アパレル製品はシーズ ンごとにモデルチェンジを繰り返す売 り切り型です。
そのSCMではリー ドタイムの短縮が重要になります。
一 方のECRは補充型のサプライチェ ーンで、効率が重要になる」  「自動車や家電などのSCMは、Q Rに近い。
もともとQR型のサプラ イチェーンは需要変動の影響を受け やすいからリードタイムを短くしてき た。
しかし、今回のように、突然需 要が蒸発するような状況に対応でき るまでは作り込めていなかった」 ──需要予測の仕組みを修正すれば いいのでしょうか。
 「需要予測の精度をいくら上げても 一〇〇%当たるようにはなりません。
むしろ必要なのは需要の創造や活性 化、デマンドマネジメント(需要管理) です。
売り方に改善の余地がある」 ──具体的には?  「例えばユニクロは、今回の不況で も強さが一段と際立っています。
ユ ニクロは価格だけではなく販促にも 工夫があります。
色や柄の違う同じ ラインの商品を買うと安くするなど 条件を付けている。
低価格で色柄違 いを複数買って着回しを楽しむ。
そ れを経験してもらうことで、これま でと違う消費習慣を植え付ける。
需 楢村文信 野村総合研究所 上級コンサルタント 「需要管理にSCMの歩を進めろ」  世界同時不況はSCMに大きな教訓を残した。
港や倉庫を大 量の余剰在庫が埋め尽くす様は、これまでのアプローチの限界 を露呈させた。
需要を予測して生産を調整するだけでなく、需 要の創造とコントロールに歩を進める必要がある。
(聞き手・大矢昌浩) ならむら・ふみのぶ 1989年、神戸大学経済学 部卒。
P&G日本法人に入社。
ECRの普及活動に従事する。
2008年11月、野村総合研 究所入社。
同社ビジネスイノ ベーション事業部上級コンサ ルタントとして現在に至る。
本誌02年10月号〜03年9 月号に「ロジスティクス・リー ダーシップ論」を連載。

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