ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年7号
ケース
キリンビール グループ統合

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2009  32 グループ統合 キリンビール グループ企業の需給・物流機能を吸収 運用体制を整備して子会社に業務移管  住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築 施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達 成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
SCM機能を子会社と分担  キリンビールは今年三月、物流子会社・キ リン物流への大幅な業務移管を実施した。
そ れまでSCM本部物流部の管轄下にあった地 域レベルの需給・物流管理業務がすべて子会 社へ移った。
 キリンビールでは近年、物流部門の生産性 向上とサプライチェーンの効率化を目指して ?グループロジスティクス戦略?を進めている。
サプライチェーンの管理にかかわる業務を物 流部門に集約して組織を強化し、飲料メーカ ーのキリンビバレッジなどグループ企業の物流 機能をいったんキリンビールの組織に統合し たうえで、最終的には業務をすべて子会社に 移管するというシナリオだ。
 これに沿ってキリンビールは物流機能の統 合を段階的に進め、グループ企業の各地域に おける需給管理や物流管理業務をキリンビー ルに集約していた。
それを今回、キリン物流 へ業務移管したことで、グループロジスティ クス戦略は一つの節目を迎えたことになる。
 同社の目指すグループロジスティクスとは、 いわばグループをあげた物流部門の構造改革 にほかならない。
改革に着手した時期は一〇 年ほど前にさかのぼる。
酒類販売の規制緩和 とともに組織小売業の売上構成比が急速に高 まっていた時期だった。
酒類流通の主導権を 強めつつあった組織小売業はメーカーに対し て、単独の商品でなくカテゴリー全体の提案 力を求めるようになってきた。
 キリンビールではこれに応じるため総合酒 類メーカーへの道を模索した。
その手始めと してグループが一体となったマーケティング活 動に乗り出した。
ただしマーケティング活動 は物流抜きには進められない。
グループのマ ーケティング活動を支援し、販売力の伸びて いる新チャネルの物流ニーズに効率よく対応 するために、新たな物流戦略が必要だった。
 同社は洋酒メーカーのキリン・シーグラム (現キリンディスティラリー)や、非アルコー ルながら、食品系問屋ルートによる組織小売 業向け販売のウエートが大きいキリンビバレッ ジなど、グループ企業の物流業務を集約する ことで効率性を追求する戦略をとった。
 グループロジスティクスの第一ステップは、 業務統合後の受け皿となる物流子会社の体制 整備だった。
二〇〇〇年一月に、それまで地 域別に七社あった運輸子会社を統合し、全国 ネットワークを持つキリン物流を発足させた。
同社をキリンビール、キリンビバレッジ、キ リン・シーグラムの三社の物流元請けとして、 グループの配車窓口を一社に集約した。
 さらにキリンビールは同年四月までに工場 の構内作業や出荷業務まで、すべてキリン物 流にアウトソーシングした。
子会社に対する最 初の本格的な業務移管がここで行われた。
そ れまで構内の物流業務は工場の管轄下にある キリンビールの社員によって運営されていた。
子会社への業務移管に伴い、工場物流の管轄 キリンビールがグループ企業との物流統合を進め ている。
今年3月にキリンビバレッジとともに地域レ ベルの需給・物流管理業務を子会社のキリン物流に 移管、受注以降のすべての業務を一元化した。
07 年にグループ入りしたメルシャンとは物流ネットワー ク相互利用を進め、年間3億円のコスト削減を実 現している。
33  JULY 2009 が倉庫などの施設とあわせて物流部門(当時 は物流本部)に移った。
 続く翌〇一年には、グループ企業からキリ ンビールへの業務移管がスタートした。
この年 にまずキリンビバレッジとキリン・シーグラム の受注業務をキリンビールに集約した。
さら に二年後の〇三年にはキリンビールを始め三社 の受注業務をすべてキリン物流へ移管した。
 これと相前後して〇二年の秋から、キリン ビバレッジで地域(ブロック)の需給管理や 物流管理を担当していた社員がキリンビール へ出向するかたちで、キリンビバレッジから キリンビールへの業務移管が始まった。
 この前年の〇一年にキリンビールでは、そ れまで各支社に属していた地域需給管理や販 売物流管理の担当者が物流本部の管轄下に移 っていた。
この組織がキリンビバレッジから 業務委託を受ける形で、両社の地域の物流業 務を担当することになった。
 キリンビールは全国を七つのブロックに分け て需給管理を行っている。
工場は全国に十一 カ所あり、本社物流部の需給管理担当者が需 要予測をもとに工場別の生産計画を立てる。
 工場はビールの主要な出荷拠点でもある。
各 工場が地域の需要に応じて自らの製造品だけ でなく、ほかの工場からも必要な製品を引き 取って(調達して)品揃えし、ユーザーへ出 荷している。
その際に、日々の販売状況を見 ながら生産計画や在庫推移をもとにブロック 単位で工場間の転送指示を行ったり、工場以 外の物流拠点に対する在庫配分を行うのが各 ブロックの地域需給や販売物流管理担当の役 割だ。
ビールと清涼飲料を統合  キリンビバレッジも同じように全国を七ブロ ックに分けて需給管理を行っている。
ただし、 すべての製品を自社工場で生産しているビー ルとは異なり、飲料の製造は自社工場のほか 複数のパッカー(飲料受託製造会社)にも委 託している。
ビールに比べて、パッケージア イテムを含めた総アイテム数が多いうえ、ラ イフサイクルが短く改廃が頻繁に起こる。
 このため飲料の需給管理はビールよりも複 雑だ。
それでも、その運用体制はビールとほ ぼ同じ形をとっている。
本社の需給担当者が 市場動向や他社製品との競合要因をにらみ ながら生産計画を立て、製品ごとに自社また は委託工場に生産数量を割り当てる。
地域の 需給担当は本社が決めた大枠の計画をもとに 日々の在庫配分を行う。
 この体制のもとで、地域が担当する両社の 需給・物流管理業務だけを統合した。
カテ ゴリーが違えば物流の特性や需給管理のやり 方も異なる。
それをあえて一緒にしたことで、 現場レベルでは様々な化学反応が起きた。
 これまで異なるカテゴリーの物流を担当し てきたスタッフ同士が、互いの商品や市場の 特性を理解し、共同化できる部分の知恵を出 し合う。
そんな活動が〇二年の秋から六年余 りに渡って蓄積されていった。
これはグルー プの物流業務を子会社へ移管して、より大き な効率化の果実を摘み取るうえで、欠かすこ とのできないステップだった。
 こうして今年三月、ビールと飲料の地域需 給・販売物流管理業務がキリンビールからキリ ン物流へ移管された。
メーカーの物流部門と 物流子会社の役割分担は次のように変わった。
 まずビールとビバレッジの本社が需要予測 と工場別の生産計画の立案までを担当する。
これをもとにキリン物流が各地域の需要に応 じて工場の製品を引き取り、地域内の拠点に 在庫を配分する。
従来はキリンビールとキリン 物流で重複している業務もあったが、受注・ 工場間転送・配車計画・出荷までをキリン物 流が一手に引き受けることになり、業務を効 率化しやすくなった。
 キリンビールの吉田泰訓物流部長は「メー カーとは立場の異なる物流子会社に業務を一 任することで、グループ外の貨物と積み合わ せるなど効率化の最適解を求めやすくなるは ず」と期待する。
 過去に行なわれた出荷作業や受注業務の移 キリンビールの吉田泰訓物流 部長 JULY 2009  34 管と違い今回は物流の領域を超えたアウトソ ーシングだった。
各市場の需要に合わせて適 切な在庫数を確保し、欠品を防ぎながら安定 供給を行うという、SCM機能の一部を子会 社に委ねたにほかならないからだ。
 ビールの場合、本社物流部の需給担当が新 製品を除くすべての製品の需要を予測し、旬 単位で各工場の製造ライン別の生産計画と転 送計画を立てる。
販売数量は日々変動するた め、本社需給担当は販売状況を見ながら毎日、 生産数量の変更を工場に指示する。
 新体制ではキリン物流の地域需給担当が、 この日別の生産計画をもとに、本社の立てた 旬別の転送計画を日別の計画に落とし込んで、 いつどの工場からどの製品をどこへ転送する かを判断し、その手配まで行う。
 キリン物流はキリン本社の生産計画や需要 予測を、システム上で閲覧することを許され ている。
出荷状況や在庫推移をもとに独自に シミュレーションを行い、本社の生産・転送 計画に対する修正案をシステム画面上で提案 することも可能だ。
 本社の計画では、ある製品の首都圏の販売 が増えるという予測のもとに中部ブロックの 工場から転送を行うことになっているとする。
しかし、キリン物流が出荷状況から予想ほど は伸びないと判断すれば、ブロック間転送を せずにブロック内の工場間で増産などの数量 調整を行うよう提案する、といったことが日 常的に行われている。
と、それを車両に一台ずつ割り当てる配車業 務を同時に行い、その都度ピッキング作業や 出荷準備を開始する方法へ変更する。
 キリンビールではこのプロセス改革を、従来 のバッチによる作業との対比から?セル方式 への転換?と称している。
新しい業務プロセ スをL 10 でサポートし効率化を図る。
 プロセス改革とともに作業の標準化も進め ている。
従来は物流拠点ごとに個別の倉庫管 理システムを導入していたため、作業方法や 手順がまちまちだった。
これを標準化し今年 四月までにキリンビールの全工場のWMSを 一つのシステムに統一した。
来年一月の時点 では受注・配車・請求業務までをL 10 で運用 し、WMSとインターフェースをとることに より、在庫引き当て業務まで含めて出荷関連 業務を一元管理する計画だ。
 物流部の小林信弥物流企画担当主査は「業 務の標準化とL 10 の稼働で、一つ一つのアク ティビティーに対するコストの抽出が可能にな る。
それによってどこにメスを入れるべきか がわかり、改革の成果を生みやすくなる」と 期待している。
 キリンビールは〇六年三月から営業本部・ SCM本部・生産本部の三本部体制をとって いる。
従来の物流本部がSCM本部に衣替え し、その傘下に物流部のほか、三本部間の横 断的な取り組みによってコスト削減を進める SCM推進部と、原料資材を調達する原料資 材部が加わった。
 「生産数量を決めるのはあくまで本社だが、 転送の抑制などコスト削減につながるオペレ ーションを、現場を管理する子会社が自ら考 え組み立てていける形を狙っている」と物流 部の吉田雅哉物流企画担当主幹は説明する。
来年一月には新システムも稼働  キリンビールでは、子会社への業務移管に 続くグループロジスティクスの施策として現 在、キリンビバレッジと共同で新物流情報シ ステム「L 10 」の開発に取り組んでいる。
出 荷関連業務のプロセス改革を実施し、これに 合わせて来年一月までにキリンの工場やビバ レッジの物流センターでL 10 を稼働させる計 画だ。
 ビールの工場では、昼ごろからオーダーが 入っていても、夕方までピッキング作業を始 めないことが多い。
追加や取り消しなどのオ ーダー変更を見越して、受注が確定するまで 作業開始を延ばす傾向にあるためだ。
 しかも受注データがある程度溜まってから 車両単位にオーダーをまとめ、バッチでデータ を出荷現場に送ってピッキングや配車作業を 開始するという業務プロセスをとるため、作 業が後倒しになりやすい。
手待ち時間が発生 するうえ、積み込み作業が始まるまでトラック が構内に待機するという現象が常態化し、車 両の回転率悪化の原因になっていた。
 これを改善するため、受注データを随時処 理して、オーダーを車両単位にまとめる作業 35  JULY 2009 キリンビールのワイン事業をメルシャンへ、メ ルシャンの焼酎、RTD、洋酒、梅酒事業を キリンビールへ移管した。
メルシャンと物流網を相互利用  この相互事業移管に伴って、物流部ではメ ルシャンの工場で製造される焼酎など、ワイ ン以外の製品の需給管理を担当することにな った。
管理の領域も拡大し、グループロジス ティクスの対象が一気に広がった。
 業務提携が発表されてから〇七年七月に相 互業務移管が実施されるまで半年余りの期間 に、物流部ではメルシャン側の担当者とプロ ジェクトを組織し、新しい事業体制における 需給体制や物流体制についての検討を行った。
 キリンビールは従来、ビール以外の酒類につ いて二通りの物流体制をとっていた。
出荷単 位の大きいRTDの物流はビールと一緒。
需 給もビールと同様に地域の担当者が管理して 必要な数量をビール工場へ引き取り、ユーザ ーへ直送する形だ。
 一方、洋酒などは少量多品種型で輸入品が 多いため、港湾地区に拠点を持つ大手倉庫会 社の物流網を使い全国へ供給していた。
また ビールのように地域で需給を管理する「引き 取り方式」ではなく、本社が地域別に在庫配 分を決める「送り込み方式」をとっていた。
 メルシャンから移管された製品のうち、RT Dはビールの物流網に統合することがすんなり 決まった。
問題はこれ以外の酒類だった。
 メルシャンはワインや焼酎などほとんどの製 品を国内の自社工場で製造し、物流網を一本 化していた。
一工場で集中生産し、北海道・ 首都圏・関西・九州地区の全国六カ所に設け た物流拠点に在庫を持って市場へ供給する体 制だ。
キリンビールの物流部では、メルシャ ンから焼酎や洋酒の管理が移管された後もそ の物流体制は、それまで通りメルシャンのネ ットワークを利用して、メルシャン側で管理 するワインと共同化しておいたほうが得策だ と判断した。
そこで倉庫会社の物流網を廃止 し、メルシャンの物流網へ一本化して新体制 のスタートを切った。
 一連のメルシャンとの相互事業移管によっ て物流面では、主にRTDの物流網を統合し た効果として年間に三億円の物流コストを削 減できた。
さらに事業統合の効果を高めるう えで、今後どこまで物流の統合を進めるかが 中長期的な検討課題だ。
 現状ではキリンビールの焼酎類とメルシャ ンのワインを同じ拠点で保管し同じ車両で輸 送していながら、物流管理は両社が別々に行 っている。
吉田主幹は「個人的にはグループで 組織や管理が重複するのは無駄だと思う。
い っしょにできるものはなるべく統合したほう がいい。
ただし統合の効果をきちんと出すこ とが重要。
当面はこれまでの(キリン物流へ の業務移管による)グループロジスティクスの 基盤を固めることが先決だ」と話している。
(フリージャーナリスト・内田三知代)  物流部は今年三月の業務移管により、地方 組織のない本社部門だけの組織になった。
物 流戦略の統括と需給管理が主な役割だ。
物流 部ではビール以外に、洋酒やRTD(缶チュ ーハイなどの低アルコール飲料)、焼酎などの 需給も担当している。
総合酒類戦略のもと〇 一年にキリン・シーグラムの営業を統合したの を受けて、この形になった。
さらに〇六年十 二月にはメルシャンがキリンビールの子会社と なり、翌年七月に相互の事業移管が行われた。
来年1 月には新情報システム「L10」を稼働させて「セル方式」への転換を図る 全データ確定後の作業開始《バッチ式》 受注・ 車単位調整 ・手作業 ・人の判断 出荷・配車 データの バッチ送信 ・手作業 ・人の判断 データ受信ごとの作業開始《セル式》 ●ピークにあわせた人員の確保/深夜  作業増 ●構内における車両待機増/回転率悪化 ●人の判断業務によるミスの発生 ●作業の平準化による作業員の有効活用 ●構内待機時間の削減/車両回転向上 ●情報システムによる判断補助でのミ  ス削減 状況を都度確認 現状 受注 配車・ 車単位の 同時調整 出荷 必要データの可視化 2010 年以降 逐次送信 逐次送信 システム補助

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