ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2009年7号
ケース
米郵政庁(U.S. Postal Service) 郵政民営化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2009  40 郵政民営化 米郵政庁(U.S. Postal Service) 今年度60億ドル超の赤字を見込む 配達頻度の削減許可を議会に要請  住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築 施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達 成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
七〇年代以降、最悪の落ち込み  米郵政庁が五月に発表した二〇〇九年度の 第2四半期(〇九年一月〜三月期)の決算は、 売上高が前年同期比一〇・五%減の一六九億 三八〇〇万ドル(一兆六二六〇億四八〇〇万 円)で、最終損益は一九億二〇〇万ドル(一 八二五億九二〇〇万円)の赤字だった。
取扱 総郵便数も、四三七億八七〇〇万通で同一 四・七%の大幅減となった。
売上高が前年同 期比で一〇%以上落ち込むというのは、一九 七一年にそれまでの郵政省から現在の郵政庁 に組織が改正されて以降はじめてのことだ。
 同庁は〇七年度と〇八年度にも損失を出し ている(図1)。
ただし、同庁の国際部門を 担当するプラナブ・シャー副社長は次のよう に語る。
 「〇七年度と〇八年度の損失は、郵政庁の経 営状況が悪化したことによる損失というより も、〇六年の法改正によって、退職者の年金積 立金の負担が大きくなったために生じた側面 が強い。
郵便改正法(Postal Accountability and Enhancement Act:PAEA)が成立し たことで、郵政庁は将来の退職者の年金を前 もって積み立てることが義務付けられた。
そ の負担増によって損失が生じた。
もしその積 立金の義務がなかったならば、両年とも利益 を上げることができていた」  それに対して、今年度は将来の年金負担 を除いた真水部分でも赤字が出ている。
しか も、このままいけば通年の損失額が六〇億ド ル(五七六〇億円)を超えるとも予想されて おり、今期中に資金不足に陥る危険性まで指 摘されるに至っている。
 米郵政庁は〇六年に大きな転機を迎えてい る。
その位置付けについて、民営化の可能性 も含めて米国連邦議会で一〇年以上の議論を 重ねてきた結果、米郵政庁を米国政府の組織 としてとどめることで決着した。
民営化はも ちろん公社化も見送った。
 一八世紀後半に誕生した米郵政省は、七 〇年の郵便事業組織法によって米郵政庁に改 組された。
その際に郵政庁は行政府内の独立 官庁という立場になり、独立採算の義務に加 え、郵便事業においては利益を上げることも、 損失を出すことも許されないという『breakeven 』の原則が適用された。
 さらに〇六年に成立した新法
丕腺釘舛砲 って生まれ変わった米郵政庁は、郵便事業を 独占する代わりにユニバーサル・サービスを堅 持するという条件に加え、厳格な監視の下で、 柔軟な価格設定を行う手段を手に入れた。
独 立採算義務を維持しながらも、『break-even』 米郵政庁( USPS)が2年連続の赤字に陥ってい る。
さらに今期は不況の深刻化によって日本円にし て6000億円近くまで赤字額が拡大する見込みだ。
拠 点閉鎖や労働時間短縮などのリストラを急いでいる が今期中にも資金不足に陥る危険性がある。
これ を受けて米議会では週6日の配達を5日に減らす案な どが検討されている。
国際部門を担当する プラナブ・シャー副社長 41  JULY 2009 の原則という縛りから脱却して、利益を上げ て税金を納めることが求められる事業体にな ったことを意味する。
 一方でPAEAは米郵政庁に公務員である 同庁の従業員の将来の年金を積み立てること を義務付けた。
〇七年度の将来の積み立て分 の負担は八〇億ドル(七六八〇億円)を上回 り、〇八年度は五〇億ドル(四八〇〇億円) を上回った。
(これとは別に同庁は、両年と も単年度で二〇億ドル近い年金を実際に支払 っている)  その積み立て分がなければ、〇七年度と〇 八年度ともに三〇億ドル(二八八〇億円)前 後の最終利益が出ていたことになる。
米国の 政府機関の中で、従業員の将来の年金の積み 立てを義務付けられているのは、郵政庁のみ。
この負担が現在、同庁の経営の大きな足かせ となっている。
六〇億ドルのコスト削減を実施  昨年一〇月一日から始まった今年度はそ こにリーマンショックの影響が加わった。
〇 九年度上半期(〇八年一〇月〜〇九年三月 期)の損失は、年金積立の負担以外に二つ の要素が重なった結果だとシャー副社長は説 明する。
 「一つは〇八年秋口から深刻化している米 国内の不況の影響だ。
今回の不況は、郵政庁 が発足した七〇年代以降、最悪だととらえて いる。
過去の不況においては、取扱量がそれ ほど落ち込まない商品が必ずあった。
しかし 今回は、第一種郵便(通常郵便)もダイレク トメールも、定期刊行物や国際スピード郵便 も、軒並み大幅に物量が落ち込んでいる。
も う一つの要因は、公共料金や保険、住宅ロー ン支払いの請求書や領収書といった郵便物が、 ここ二年の間で急速に電子メールにとって代 わられてきたことだ。
この分は、景気が回復 したとしても戻ってはこない」  「二つの要因を合わせると、〇九年度の郵 便物の総量は、前年比で一二〇億〜一五〇億 通の減少になる見通しだ。
前年比で六〜七% の減少を意味する。
米郵政庁は過去一〇年以 上にわたり二〇〇〇億通強の郵便物を取り扱 ってきたが、今年度はその二〇〇〇億通台を 大きく割り込みそうだ。
その結果、通期では 六〇億ドル(五七六〇億円)を超す損失が予 想される」  その対策として米郵政庁は現在、大規模 なコスト削減を進めている。
全国に八〇カ所 ある地方郵便局は六カ所を減らし、 七四カ所 に統合した。
さらに地方郵便局における管 理職ポストを一五%削減し、 全従業員の約四 分の一に当たる一五万人の早期退職者を募っ ている。
 役員と全従業員の賃金上昇も凍結した。
従 業員の総労働時間も短縮する。
〇九年の第1 四半期だけでも延べ一億人時の時短を達成し ている。
従業員三万五〇〇〇人を削減したの とおなじ効果を生み出している。
一連のコス ト削減策によって今年度は約六〇億ドルの効 果が見込まれている。
 しかし、先にシャー副社長が挙げた、今年 度の六〇億ドルという損失予測は、このコス ト削減効果を織り込んだものだ。
それがなけ れば通期の損失額は一二〇億ドル(一兆一五 二〇億円)を超えることになる。
 現在、米郵政庁は財務体質改善のため、議 会に二つのことを要求している。
一つは郵便 法の改正以降、二年連続で赤字に陥る原因と なった、年金積立金制度の運用ルールの緩和 だ。
そしてもう一つは、これまで週六日だっ 図1 米郵政庁の売上高と最終利益(損益)の推移 1999 年度 2000 年度 2001 年度 2002 年度 2003 年度 (単位:百万) 62,726 64,540 65,834 66,463 68,529 363 △199 △1680 △676 3,868 201,644 207,882 207,463 202,822 202,185 売上高 最終利益(損益) 取扱総郵便数 2004 年度 2005 年度 2006 年度 2007 年度 2008 年度 68,996 69,907 72,650 74,778 74,932 3,065 1,445 969 △5142 △2806 206,106 211,743 213,138 212,234 202,703 売上高 最終利益(損益) 取扱総郵便数 JULY 2009  42 た配達日のうち、土曜日の配達をやめて五日 に減らすというものだ。
 三月に下院で年金の積立制度の緩和を求め る証言をした米郵政規制委員会のダン・ブレ ア委員長はこう語る。
 「PAEAでは、郵政庁に一六年まで将来 の退職者の分の年金を積み立てることを義務 付けている。
将来の年金を積み立てておくと いう法律の趣旨は、原則的には正しい。
しか し現在の郵政庁の財務状態を考えると、郵政 庁自身が議会に要請しているように、一時的 に年金の積立制度を緩和して運用することが 望ましいと考えている。
年金基金には〇八年 度末の時点で、三〇〇億ドル(二兆八八〇〇 億円)を超える残高がある。
郵政庁は〇九年 度も、さらに五〇億ドル(四八〇〇億円)以 上の金額を積み立てることが義務付けられて いるが、積立金を三〇億ドル(二八八〇億円) に抑えれば、二〇億ドル(一九二〇億円)の 資金が自由に使えることになり、資金繰りが 大きく改善される」 過去最高のオンタイム配送率  ブレア氏が委員長を務める「郵便規制委員 会」とは、PAEAに基づいて設立された独 立した連邦官庁で、郵政庁専門の規制当局だ。
以前は「郵便料金委員会」という名称で料 金設定だけを監視の対象としていたが、「郵 便規制委員会」では、その権限が大きくなり 「郵政庁の経営の透明性と説明責任を保証し を議会に提案した時には、多くの感情的な反 応があった。
それについてシャー副社長は次 のように説明する。
 「そうした否定的な反応の多くは組合や政治 団体からのものだった。
しかし、郵便物が大 幅な減少傾向にあることと、郵政庁の財務状 態を開示して窮状を説明した後では、多くの 利用者が、配送を五日間にすることで郵便料 金の値上げを避けることができるのなら、そ れを受け入れる用意があるというアンケート 結果がでている。
PAEAが成立した背景と して、我々郵政庁は利益を上げる民間企業と 同じような論理で行動をすることが求められ ていると理解している。
ならば、利用者であ る国民の過半数が週五日の配達を認めている にもかかわらず、赤字を出すような週六日配 達を続けるべきではないと考えている」  配達日の削減はユニバーサル・サービスの 義務にも反していないと、米郵政庁は認識し ている。
これまで米国の郵便事業は、一世帯 当たりに配達する郵便数に基づいて、配達日 数を週六日としてきた。
しかし今回の不況で 一世帯当たりに配達する郵便物の数は大きく 落ち込んでいる。
従来なら六日必要だったが、 郵便物の総数が減っている現在では、五日で も十分に対応できるという理屈だ。
 シャー副社長はサービスレベル自体は、むし ろ向上していると強調する。
 「郵政庁はコスト削減を進めると同時に、サ ービスレベルの向上についても実績を残してき て、不可欠で効率的なユニバーサル・サービ スを育成すること」をその任務としている。
 ブレア委員長は効率的なユニバーサル・サ ービスを維持するという立場から、郵政庁と 二人三脚で、議会に年金の積立制度に関する 規制緩和を求めている。
 郵政庁と郵便規制委員会が同じく歩調を合 わせているのが、郵便配達日数の削減だ。
郵 便物の落ち込みを勘案して、土曜日の配達を やめて、月曜日から金曜日の五日間にすると いうもの。
配達日数を一日削減することで、 さらに二〇億ドル(一九二〇億円)近いコス ト削減が可能となると試算する。
 期末に予測される六〇億ドルの損失のう ち、年金制度の緩和によって二〇億ドルの資 金が生まれ、配達日の削減によってさらに二 〇億ドルのコスト削減が見込まれている。
こ の二つの施策が議会で認められれば、残りの 損失については、借入金の上限枠に余裕があ るために急場をしのぐことができるとみられ ている。
 しかし、これは議会での法律改正が必要と なる。
今年に入って郵政庁が、配達日の削減 米郵政規制委員会の ダン・ブレア委員長 43  JULY 2009 た。
〇八年度では、第一種郵便のオンタイム 配送率は九七%、二日後に到着する郵便では 九五%、三日後に到着する郵便では九四%─ ─といずれも過去最高の数字を記録した。
わ れわれがコスト削減のためにサービスをない がしろにしているという批判は当たらない」 米国が郵政民営化をしない理由  しかし、米郵政庁に営利目的の民間企業と 同じ役割を求めるのであれば、ドイツやオラ ンダ、日本のように米国も郵政を民営化すべ きではなかったのか。
その方が、郵政庁とし ても議会や規制から自由になれるだけでなく、 株式の公開によって市場から資金を調達する 道が拓ける。
 米国政府はこれまで日本に対しては郵政民 営化を強く要請し、政治的圧力をかけ続けて きた。
その当の本人が同じ時期に、自国では PAEAを成立させて郵政民営化という選択 肢を排除したのは奇異に映る。
 これについては、シャー副社長、ブレア委 員長ともに、米国政府が日本に郵政の民営化 の圧力をかけたかを知る立場にない上、また 事実関係を把握していないと答えている。
加 えて、米郵政庁については民営化の必要はな いという考えでも一致している。
 シャー副社長はこう話す。
 「民営化は各国が抱える郵便問題を解決す る万能薬ではない。
そのことは、それぞれの 国で進める郵政事業の民営化の結果にプラス の点もあれば、マイナスの点もあることが証 明している。
先に述べたように米郵政庁は経 営の効率化とサービスレベルの向上の両面に おいて成果を上げてきた。
たしかに、米郵政 庁の経営は現在、厳しい状況にあるが、それ は政府傘下の事業体であるからという理由よ ($) 図2 第一種郵便(=封書)料金の国際比較 1.00 0.8 0.6 0.4 0.2 0 米国 出典:米郵政庁年次報告書2008年度版(一部割愛) (注)増加幅は1988年と2008年の料金を比較した数値 0.32 0.42 0.27 0.46 0.44 0.66 0.53 0.78 0.66 0.78 0.59 0.85 豪州英国フランスドイツ日本 31%増70%増 50%増 47%増18%増 44%増 2008年 1988年 りも、昨年来の不況の影響が大きい。
年金の 積立金や配達日数の削減については、議会を 通して国民の理解を得ることで解決できる問 題だと考えている」  図2は郵便料金の国際比較だ。
〇八年の 米国の一般郵便(第一種郵便)の料金は〇・ 四二ドルで(四〇・三二円)で、先進国中 最も安く、日本のほぼ半分の水準となってい る。
九八年と〇八年の料金を比べた上昇率も 三一%増で、ドイツの一八%増に次いで値上 げの幅が低く抑えられている。
これを見る限 り、確かに米国における郵便事業の効率性は、 民営化を進めてきた国の郵便事業と比べても 遜色がないと言える。
米国流イコールフッティング  また、米郵政庁は米国内で最大の輸送枠の 購入者でもある。
郵政庁が行う主な業務は、郵 便局における郵便物の受け取りと、郵便の配 達だ。
つまり郵便事業の最初と最後に重点を 置いており、その間にある仕分け作業や、出 荷の準備、幹線輸送などの多くは民間企業に 委託している。
 そのうち幹線輸送(航空輸送を含む)につ いては、フェデックスやUPSを含む大小の 輸送業者約一万七〇〇〇社に外注して、〇八 年度には約七〇億ドル(六七二〇億円)を支 払っている。
これらの民間物流企業にとって 米郵政庁は大手顧客であると同時に、EMS (国内・国際スピード郵便)に代表される「輸 視も規制委員会の設立によって強化されてい る。
郵便規制委員会のスタッフは総勢七〇人 と決して多くはないが、私を含む五人の委員 は、大統領の指名を受け、上院で承認されて いる。
委員会は、郵政庁の情報を開示するこ とで、郵便事業の運営の透明性を確保する役 割を担っている。
最大の権限は、郵政庁から 料金の値上げの申請を受けて三〇〜四五日の 間に精査して諾否を決める権限だ。
また、そ れに付随する権限として、郵政庁に(不当な 利益を上げているなどの)疑いがあれば議会 に召喚したり、料金に関する改善措置を指示 したり、罰金を科すなどの権限がある。
こう した公的な監視なしに、郵政庁に利益を上げ ることを認めるのなら、国民に不利益をもた らす結果となる可能性が高くなる」  米郵政庁の〇九年度末の資金繰りがどうな るのかは、議会の動きや景気動向などの要素 が絡み合うために予断を許さない。
しかし同 庁の動きをそうした単年度の決算という視点 で眺めるだけではなく、料金やサービスレベ ルという観点から日本の郵政民営化と比較し ながら、その動向を見守る視座が必要となり そうだ。
   (ジャーナリスト 早田虔太郎) 送サービス」においては競合関係にある(図 3)。
 米郵政庁が国内の郵便事業を独占しなが ら、民間企業と同様に利益を上げることを許 された理由について、ブレア委員長はこう説 明する。
「(混載輸送や宅配便市場を含めた 郵便関連市場という括りで見れば)郵政庁の シェアは八%程度に過ぎない。
独占という考 え方は必ずしも当てはまらない。
加えて、民 間企業との公正な競争を担保するための監 JULY 2009  44 一ドル=九六円で換算 (編集部注)本記事は、六月九日に駐日米国大使館 が主催して都内で行われた米国の郵便事業改革に関 するシンポジウムと、その前後に行われた本誌の単 独インタビューに基づいて書かれています。
図3 米郵政庁の商品群の市場占有商品と競争商品の区分け 《市場占有》商品 (郵便サービス) 《競争》商品 (輸送サービス) 間接的な競争 インターネット、電話、ファクスなど 直接の競争相手 フェデックス、UPS など ●第一種郵便(書簡、請求書、明細書、私信) ●スタンダード郵便(法人による宣伝、広告など) ●定期刊行物郵便(雑誌などの出版物) ●単品パーセルポスト ●国際第一種郵便 ●スピード郵便=EMS(国内・国際) ●プライオリティー郵便(国内・国際) ●パーセルセレクト ●パーセルリターン ●国際航空小包

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