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JULY 2009 48
〇九年度に六五億円のコスト削減
近鉄エクスプレスは二〇〇九年三月期、大
幅な減収減益を強いられた。 連結売上高は前
期比一〇・九%減の二六〇三億三〇〇〇万
円、経常利益は三八・四%減の九二億三〇〇
万円、純利益は六二・〇%減の三四億七八〇
〇万円。 主因は?日本単体の業績が低迷した
こと、?国内関係会社および海外拠点の業績
が〇九年三月期第4四半期以降、急激に失速
したこと、?円高に伴う為替換算の影響が発
生したこと、の三点である。
国内の減益は、?前半は航空会社に支払う
燃油サーチャージ(FSC)の大幅値上げに
よる原価率上昇、?後半は世界的な景気減退
による航空貨物需要の急減、に起因している。
〇九年三月期第4四半期以降、運賃原価率改
善や費用削減に一段と努めたものの、減益要
因を補うには至らなかった。
一〇年三月期は売上高は前期比二〇・九%
減の二〇六〇億円、経常利益は二九・四%減
の六五億円、純利益は九・二%増の三八億円
を計画している。 世界同時不況による事業環
境の激変を前提とし、厳しい環境変化に耐え
得る経営基盤の強化を打ち出した点は評価で
きよう。
具体的には、昨年一〇月に開始した合理化
計画「KWE Innovation Project(KIP1)」
の組織、人事、制度の各分野における改革が
挙げられる。 一二年三月期までに連結売上高
の海外比率を七〇%(現在は約六〇%)まで
高めるため、日本の営業拠点の統廃合を加速し、
併せて、捻出した人材の海外シフトを加速させ
る考えだ。
さらに今年四月には「KWE Innovation
Project II(KIP2)」に着手した。 全社的
聖域なき合理化の追求を謳い、一〇年三月期
通期のコスト削減目標として日本単体で三〇
億円、国内関係会社および海外拠点で三五億
円、計六五億円を掲げた点が注目される。 人
件費などを削減するとともに、柔軟な人材配
置を行うことで経費構造をスリム化し、経営
体質の強化を急ぐ。 日本発輸出航空貨物量が
半減しても、確実に利益を確保し得る体制を
目指すという。
みずほ証券では、現下の経済情勢において
は同社の業績低迷は短期的には避けられないも
のの、一一年三月期以降、海外拠点主導で増
収増益基調に再び転化すると予想している。 中
長期的には日本を代表するフォワーダーとして、
国際物流拡大の恩恵を受け得るとみている。
近鉄エクスプレス
中長期的には増収増益基調を回復
環境激変への対応力にも期待
業績は低迷を余儀なくされている。 日本発
航空輸送需要が頭打ちになっていたところへ
世界同時不況が追い打ちをかけた。 中長期的
には国際物流の拡大に伴い、増収増益基調に
戻ると予想されるが、さらなる成長のために
は海上貨物やロジスティクス事業の拡大とサ
ービスの「小口化」・「可視化」が求められる。
國枝 哲
みずほ証券 エクイティ調査部
運輸セクター シニアアナリスト
第51回
49 JULY 2009
航空輸送の優位性薄れる
航空貨物輸送は〇五年頃まで、景気変動や
貨物の在庫循環による短期的な振れを伴いつつ
も、国際貨物が主導するかたちで総じて拡大基
調にあった。 ?高速輸送サービスに対する顧客
ニーズの拡大、?ハイテク関連貨物の輸送需要
の拡大、等が追い風となっていたためである。
しかしながら、その後、日本発着の国際航
空貨物需要は頭打ち傾向に転じ始めた。 ?製
造業のグローバリゼーションに伴う国内生産拠
点の空洞化(現地調達率の向上)、?製造業に
よる海外生産の安定化(SCMの高度化)に
伴う「緊急輸送需要」の後退、?航空貨物輸
送を刺激する新しい販売商品等の低迷(ゲー
ム機やデジタルカメラなどの欧米市場向け戦略
商品が中国等アジア地域に移転)、等に起因す
ると考えられる。 加えて、燃油価格の高騰も
15
10
5
0
-5
100
80
60
40
20
0
(10 億円) (%)
00/3 02/3 04/3 06/3 08/3 10/3 予想12/3 予想
(年/月期)
(年/月)
近鉄エクスプレスの地域別営業利益と同海外比率。 海外を強みに業績を伸ばしてきた
出所:みずぼ証券エクイティ調査部作成
海外比率(右軸)
100
80
60
40
20
0
-20
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-80
-100
01/1 02/1 03/1 04/1 05/1 06/1 07/1 08/1 09/1
500
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
近鉄エクスプレスの航空貨物輸出混載重量前年比伸び率と株価指数の推移
(%)
出所:JAFA(航空貨物運送協会)資料およびBloomberg よりみずぼ証券エクイティ調査部作成
(2001 年1 月=100)
重量伸び率
株価指数(右軸)
アジア・オセアニア
欧州・アフリカ
米州
日本
JULY 2009 50
運賃の高い航空輸送を敬遠する流れを加速さ
せた。
日本発航空貨物需要は、特に?製造拠点の
海外展開、?少子高齢化社会の到来、等に鑑
み、今後も大きな成長は見込み難いと思われ
る。 従って、航空フォワーダーは?事業成長を
求めて海外展開を加速させること、?海上や
鉄道、トラックなどを組み合わせた複合輸送
サービスの開発と販売の強化を行うこと、な
どが求められる。
近鉄エクスプレスは予てより?営業販売力、
?海外展開力、等に定評があり、これらを強
みに業績を拡大してきた実績がある。 国内物
流各社との比較においては、日本を除く海外
部門が全社収支を牽引し、競争力の源泉とし
て位置付けられてきた。 今後はさらに、成長
著しいアジア発貨物の取り込みに注力し、商
圏を拡大する必要があると考えている。
新たな商品開発力も必要となる。 航空貨物
輸送に期待された「速達性」は、SCMの高
度化とともに、その優位性を失いつつあるた
めである。 みずほ証券では「小口化」と「可
視化」というキーワードが、対策の糸口につ
ながるものとみている。
「小口化」については、DHL、フェデック
ス、UPS、TNTに代表される欧米インテ
グレーターが既に「エクスプレス」としてサー
ビスを提供している。 これに対して昨年四月、
近鉄エクスプレスと日本通運、および全日本
空輸は巻き返しを図り、国際エクスプレス事業
会社「オールエクスプレス」を設立した。
また「可視化」は貨物輸送の「定時性」や
「確実性」を担保するために重要な役割を果た
す。 SCMの高度化は、荷主における物流業
務への重要性認識の帰結とも言えるものであ
る。 「いつ」「どこで」「何が」「どうなってい
るか」の疑問に応える「可視化」は、顧客満
足度の向上につながる。
「物流提案力」を具備したフォワーダーが「小
口化」と「可視化」を追求するためには、「国
際ネットワーク力」と「情報システム力」が不
可欠だ。 これには優秀な人材の育成と確保が前
提となるため、近鉄エクスプレスは人材育成へ
の経営資源の投下を惜しむべきではないだろう。
インテグレーターに柔軟性で対抗
前述した?SCMの確立、?燃油価格の高
騰、等を背景に、荷主は国際物流では海上輸
送への志向を一段と強めている。 さらには輸
送、荷役、保管といった基本的な物流業務だ
けでなく、流通加工(商品の梱包、簡単な部
品の組み立て等)や在庫管理、情報処理など
も含めた物流業務全般を一括して外部委託す
る傾向にある。 結果、近鉄エクスプレスは、航
空貨物以外の業務をさらに拡大させることも
求められている。
この点について、同社は既に、事業戦略の
見直しに着手している。 「グローバル・ロジス
ティクス・パートナー」への転換を強く打ち出
し、海上貨物とロジスティクスの両事業の強化
を推進してきた。 〇九年三月期の海上貨物事
業の売上高比率は一九・六%、ロジスティク
ス事業は一八・六%を占めるなど一定の成果
を見せ始めており、この傾向は今後さらに強
まるものと期待される。
一方、欧米インテグレーターは近時、M&A
を通じて業容を拡大している。 書類や商品サ
ンプル輸送で培ったノウハウとネットワークを
駆使して企業物流分野への拡大も志向し、 近
鉄エクスプレスなどフォワーダーの事業領域を
脅かしている。 ただしインテグレーターの一貫
輸送サービスには相応の優位性があるものの、
一般的に、サービス内容がパッケージ化され、
顧客の個別ニーズへの柔軟性に欠ける部分が
散見されるとの指摘もみられる。
このため、近鉄エクスプレスは得意とするテ
ーラーメードサービスを通じて、陸上ネットワ
ークから倉庫、トラック、ITシステムなどを
効率よく組み合わせ、顧客のニーズに最適な
物流システムの提案に一段と注力することが
求められている。 みずほ証券では、同社はこ
のような対応をしなやかに且つ強力に推進し
得る企業文化と事業基盤を保持しているもの
と期待している。
くにえだ さとる 一九九〇
年日本興業銀行(現みずほコ
ーポレート銀行)入行。 産業調
査部、市場投資調査部、株式投
資室でガラス・土石製品、運輸、
自動車産業などを担当し、ポ
ートフォリオマネジメント部で
債券流動化を推進。 二〇〇三
年より現職。 一橋大学商学部卒。
著者プロフィール
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