2009年7月号
海外Report

欧米SCM会議?米ウォルマートの呼びかけを契機にサプライチェーンに活動領域を拡大カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト

JULY 2009  56  「カーボン・ディスクロージャー・プロジェク ト」は、総資産五七兆ドルにも上る、世界の 有力機関投資家たちが主導して設立した非営 利団体で、企業に対し環境情報の開示を求め ている。
これまでに収拾した情報量は同分野 で世界最大規模を誇る。
さらに二〇〇七年に はウォルマートの依頼を契機に、その調査対象 をサプライチェーンにまで拡大した。
新設した 組織「サプライチェーン・リーダーシップ・イ ニシアチブ」の最高開発責任者を務めるニー ゲル・トッピング氏がその取り組みを語る。
(取材・構成 横田増生) 有力グローバル企業の八割が協力  まずはカーボン・ディスクロージャー・プロ ジェクト(CDP)という組織について説明 します。
CDPは二〇〇〇年に英国で生まれ た世界規模の非営利団体(NPO)です。
事 業の母体となるのは四〇〇社近い機関投資家 で、保険会社や証券会社、年金基金団体など が含まれます。
総資産は五七兆ドル(五四七 二兆円)で、これらの機関投資家は世界規模 の株式公開企業に資金を提供しています。
 CDPはそうした機関投資家たちの事務局 として、世界の三〇〇〇社以上の大企業に対 して、温室効果ガスをどれだけ排出している のか、どのように制御するつもりなのか、取 引先のサプライヤーにはどのような対応を求 めるのか──などについてアンケートを配布 するという方法で情報を収集して、その結果 を発表してきました(図1)。
調査を始めた のは〇二年からとなります。
 企業の環境対策の優劣は、その企業の業 績や将来性に多大な影響を与える要因である ため、機関投資家にとっては大きな関心事と なっています。
しかし、これまで企業側から の情報公開は、満足のいく水準に達していま せんでした。
そこでわれわれのようなNPO を仲介役として、情報を集めることにしたの です。
 CDPの目的は、温室効果ガスが原因と なって引き起こされる気候変動によって、企 業価値や企業活動が被る損失を、最小限に抑 欧米SCM会議? 米ウォルマートの呼びかけを契機に サプライチェーンに活動領域を拡大 カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト 図1 CDP の仕組み 3000 社を 超す大企業 アンケート レポートの 作成・発表 アンケート 調査の送付 調査を委託 CDP 385 社の 機関投資家 総資産 57兆ドル 57  JULY 2009 えることにあります。
企業に情報公開を促す ことで、企業とその株主である機関投資家が 環境問題に対処するためのプラットフォーム を作ることを目指しています。
 〇七年には、アンケートを送った企業の三 分の一に当たる一三〇〇社がわれわれに回答 を寄せています。
われわれの保有する情報は、 企業の温室効果ガスに関する情報量としては、 世界最大規模のものとなります。
 環境問題に対する関心の高まりを受けて、 回答する企業の割合は年々上昇を続けていま す。
今後も上昇すると考えています。
またC DPの収集したデータは、機関投資家だけで なく、コンサルタントや学者、政府関係者な どが幅広く利用して、地球温暖化防止に役立 てています。
 企業の意識を高める方法の一つとして、CD Pの年次総会などには各界の著名人を招いて、 環境に関するスピーチをしてもらっています。
〇七年には、ビル・クリントン元米大統領や ニューズ・コーポレーションのルパート・マー ドック会長、ウォルマートのジョン・フレミ ング最高購買責任者( Chief Merchandising Officer)を招きました。
 その中でも、印象に残っているのは、クリ ントン氏の「環境問題への対応は、第二次世 界大戦後で最大のビジネスチャンスだ」という 発言でした。
これまで環境問題は往々にして 回避すべきリスクといった否定的な側面から 語られることが多かったのですが、クリント ン氏のメッセージは、環境問題に積極的に取 り組むことがビジネスの拡大につながる、と いうものでした。
 〇七年は、CDPが大きな発展を遂げた年 でもありました。
北米や日本、英、仏、独な どの先進国に加え、ブラジルやインドといっ た次世代を担うBRICsにも調査が浸透し ました。
とりわけ従来は、環境保護において それほど積極的ではないというイメージが強 かった北米において、目覚ましい成果を残す ことができました。
 われわれが「グローバル五〇〇傑」と呼ん でいる企業群に関していえば、アンケートを 依頼した企業のうち七七%が回答を寄せてく れました。
その中でも、北米の企業からの八 〇%超える高い回答率が目立っています。
そ の回答からハイライトの部分を抜き出すと次 のようになります(複数回答可)。
■八〇%の企業が気候変動をリスクとみなし ている ■八二%の企業が環境に対する配慮による経 営環境の変化をビジネスチャンスととらえて いる ■七六%の企業が排出削減のプログラムを実 施している ■四六%の企業が排出ガスの取引を企業戦略 として取り入れている  環境問題はもはや、一部の?環境オタク? が騒ぎたてる瑣末な問題という認識を超え、企 業経営の中核を占める課題となってきたこと がわかります。
 また同年の調査結果では、環境問題を企業 活動に対するリスク、つまり負の要因である とみる企業よりも、ビジネスチャンスとして とらえる企業のほうが多くなっています。
こ れは先のクリントン氏のメッセージが企業側に も浸透してきたことを表しています。
 CDPが活動を始めた頃は、企業の環境対 策の担当者といえば、コンプライアンス関係の 事務方が多かったのですが、最近では調達部 門のトップや工場担当者が環境対策のトップ を兼任する例も増えてきました。
環境問題と いう切り口から企業活動を見直すことで、業 務プロセスからムダやムリを排除し、業務効 率を高めることができると認識されてきたか らだと考えられます。
ウォルマート流の環境対策  〇七年のもう一つの大きな収穫は、CDP がサプライチェーン領域における温室効果ガ ス調査の端緒をつかんだことでした。
 始まりは〇六年秋のウォルマートからの接 触でした。
ウォルマートは、CDPが行った 最初の三回の調査では回答をしませんでした。
〇六年の四回目で同社は初めて回答を寄せた 後、CDPに直接コンタクトをとってきたの です。
 同社のプロジェクト開発部のジム・スタン ウェイ部長は、CDPの調査に初めて回答し たことで、自社の環境問題の現状についてた くさんのことを学ぶことができた、と語って います。
 同社にとって最大の発見は、トラック輸送 JULY 2009  58 によって排出される温室効果ガスよりも、食 品売り場で使われる冷却剤から発生する温室 効果ガスのほうが、量が多いということでし た。
それ以降、ウォルマートは冷却剤の「カー ボンフットプリント(炭素排出量)」や、それ 以外の形で排出される温室効果ガスを削減す ることに力を注ぎ始めました。
 しかしウォルマート一社で取り組んでも効 果は限定的です。
そこで同社は、CDPに対 して同社のサプライチェーン全体でどれだけ冷 却剤が使われているのかについての調査を手 伝ってほしい、と依頼してきたのです。
 しかし売上高で四〇〇〇億ドル(三八兆四 〇〇〇億円)を超え、世界約六万社のサプラ イヤーと取引のあるウォルマートのサプライ チェーンをすべて調査するには、多大な困難 が伴います。
そこでCDPはウォルマートが 販売する商品のうち、DVD、歯磨き粉、石 鹸、ビール、牛乳、掃除機、炭酸飲料──の 七品目を対象として、ベンダーも四〇社強に 絞って、試験的な調査を始めました。
 実際に調査を始めると、いろいろなことが わかりました。
まずはウォルマート流のやり 方です。
ウォルマート流のやり方とは、細部 を詰めてからプロジェクトに取り掛かるので はなく、とりあえず走り出してから細部を調 整していくというものでした。
私の同僚の一 人が「まずはピストルを撃ってみて、それか ら狙いを定めるといったやり方だなあ」と表 現したことが印象に残っています。
 この試験的調査で、ウォルマートは、自社 のサプライチェーン上での温室効果ガスの排 出パターンや排出量の大枠、サプライヤーの環 境対応の優劣を学びました。
 同社の経営陣の一人はこう語っています。
 「今回の調査の結果、われわれと取引のある ニューイングランド州にある酪農業者が、自社 で排出する温室効果ガスだけでなく、前後の 業務で発生する温室効果ガスにも注意を払い、 削減に取り組んでいることがわかった。
こう した分析を続けていくことは、ウォルマート がサプライチェーン全般における温室効果ガ スの排出削減に本腰を入れていることを伝え る有効な手段となるだろう」  私個人のことを少し述べさせていただくと、 このウォルマートとの試験調査からCDPに 参加しました。
CDPに来る前は、世界的な 自動車部品メーカーでサプライチェーン業務 を担当する上級副社長を務める傍ら、環境問 題にも強い関心を抱いてきました。
 ウォルマートの取り組みが契機となり〇七 年秋、CDPのなかにサプライチェーン・リー ダーシップ・コラボレーション(SCLC)が 立ち上がり、パイロット調査を行うことにな りました。
商品をウォルマートに納品するメー カーがCDPと一緒になって、サプライチェー ン全体を通した温室効果ガスの排出量を測定 し、削減につなげていくことを目標としてい ます(図2)。
 このパイロット調査に〇七年十二月までに 参加したメーカーは、テスコ、ユニリーバ、ネ スレ、ヒューレット・パッカードなど十二社で す。
参加したサプライヤーは三〇〇社強でし た。
そのうち九〇%は、CDPのプロジェク トに初めて参加する企業でした。
パイロット調査に協力し本格化  パイロット調査の結果は〇八年五月にまと まりました。
回答した企業は全体の四四%で、 従業員一〇〇〇人以上の大企業では五三%、 従業員一〇一〜一〇〇〇人の中規模企業で は四一%、従業員一〇〇人以下の中小企業で は一六%──となりました。
 調査結果に表れたいくつかの特徴は以下の ようになります。
■回答率は、CDPが調査用紙を配布するよ り、メーカー自らがサプライヤーに配布し た方が高くなる傾向がみられた。
■サプライヤーに事前の説明を行うと回答率 が高くなった。
■複数のメーカーから調査を依頼されること になったサプライヤーの回答率は六八%で、 図2 SCLC の仕組み サプライヤー アンケート の回答 レポートの 作成・発表 アンケート 調査の送付 調査を委託 CDP 荷主企業 59  JULY 2009 平均より二〇ポイント以上高かった。
この ことは今後、SCLCの会員企業が増える のに従い、回答率が高くなる可能性が強い ことを示唆している。
■多くのサプライヤーにとって最初の回答と なったため、回答の多くは、われわれが 「スコープ1」と呼んでいる、温室効果ガス の直接排出量や、「スコープ2」の自社の電 力消費量などにとどまっており、「スコー プ3」となるサプライヤーの活動の前後の サプライチェーンに関する温室効果ガスの 排出量までは回答できていなかった。
 参加したメーカーの中でもデルのサプライ ヤーは一〇〇%の回答率となりました。
デル は、今回のパイロット調査が始まる以前から、 積極的に環境問題に取り組んでいました。
 自ら環境対応のISO14001の認証を 取得し、〇七年半ばにはサプライヤーを巻き 込んだサプライチェーン全体での温室効果ガ スの削減に着手していました。
デルがサプラ イヤーに対してアンケートの回答を義務づけ ることはありませんでしたが、デルの環境に 対する問題意識の高さを知っていたサプライ ヤーは自主的に回答しました。
 このパイロット調査の成功を受けて、〇九年 には三〇社以上の荷主企業の参加を得て、サ プライチェーンに関する本格的な調査が発表 されることになっています(上囲み)。
今後 は、こうしたサプライチェーン全体で温室効果 ガスの排出を減らそうとする取り組みが、さ らに広がってくるものと考えています。
1 ド ル = 96円 で 換 算  この報告書には三四社の荷主企業が参加し、二 三一八社のサプライヤーが対象となった。
サプライ ヤーの回答率は二七%で、そのうち七一%は温室 効果ガスに関する数字を初めて外部に公表した、と 答えている。
 調査の結果、回答したサプライヤーのうち四四% が温室効果ガスの削減計画を実行していることが わかった。
削減計画の内容としては、エネルギー の効率的な利用=二三三社、サプライチェーン業務 の効率化=一七九社、エネルギーの再利用=九九 社、カーボン・オフセットを利用=二九社など── となった。
 環境問題に関して、会社の役員会が責任を持っ ているのかどうかという質問に対しては、五四% が「はい」と答え、三〇%が「いいえ」と答えて いる。
環境問題はリスクか、それともビジネスチャ ンスかという設問では、環境問題を「政府などの 規制によるリスクとしてとらえている」と答えたサ プライヤーが五七%であるのに対して、「ビジネス チャンスとしてとらえている」とするサプライヤー は七一%であった。
(複数回答可)  同様に「企業活動に関するリスクとしてとらえて いる」が五六%で、ビジネスチャンスが五三%。
「企 業活動全般にわたるリスクとしてとらえている」が 六二%で、ビジネスチャンスは七一%──となった。
 サプライチェーンにおける環境問題への取り組み はまだ緒についたばかりだ。
しかしいくつかの先 進的な企業は、環境問題への取り組みで他社との 差異化を図ろうという明確な意思があることが読 み取れた。
 今回、この調査に参加した荷主企業の多くは、そ の参加理由を、サプライヤーの意識を高めることと、 荷主企業がサプライヤーの環境問題への取り組みを 重視しているというメッセージを伝えることにあっ たと述べている。
最初の調査から、詳細で正確な 温室効果ガスの排出データを求めていたわけではな い。
しかし次年度以降の調査では、回答率もデー タの精度も上がると予測している。
 調査に参加したIBMは「われわれがCDPの 調査に参加した意図は、われわれのサプライヤーが どんな行動をとるべきかを論理的に考える手法を探 す手がかりとなると考えたからだ。
その手法とは、 サプライヤーの業務において、エネルギーを有効利 用することで合理的に温室効果ガスの排出を減らす ことにつながるような手法だ」と答えている。
 また米製薬メーカーのエクセロンは、さらに一歩 踏み込んで、「他のすべての条件が同じならば我々 は、より?グリーン?なサプライヤーとの取引を望 む」として、環境対応をサプライヤー選別の指標の 一つにしたいと述べている。
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