ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年7号
物流指標を読む
第7回 運賃大暴落は起こらない

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2009  72 物流指標を読む 運賃大暴落は起こらない 第7 回 ●トラック事業者の大量廃業で供給過剰は緩和 ●既存事業者も青息吐息で値下げを許容できず ●燃料価格の上昇機運も運賃下落の歯止め材料に さとう のぶひろ 1964 年生まれ。
早稲田大学大学院修了。
89年に日通 総合研究所入社。
現在、経済研究部研 究主査。
「経済と貨物輸送量の見通し」、 「日通総研短観」などを担当。
貨物輸 送の将来展望に関する著書、講演多数。
不毛な値下げ競争から撤退  前回、トラック運賃の動向を示す指標として、日 本銀行の企業向けサービス価格指数(CSPI)、 (社)全日本トラック協会が実施している「トラッ ク運送業界の景況感調査」における運賃・料金水 準判断指標、日通総合研究所が実施している「企 業物流短期動向調査」(日通総研短観)における 運賃動向指数の三つを紹介した。
さらに、これら 三つの指標が時に異なるベクトルを示すことがあ るが、なぜそのような現象が起こるかについて考 察した。
 今回は、その続編として、今後一年程度先まで のトラック運賃の動向について予測してみたい。
 日通総合研究所が今年三月に発表した「二〇〇 九年度の経済と貨物輸送の見通し(改訂)」による と、今年度の営業用トラック輸送量は、前年度比 で六・七%減と大幅な減少が見込まれている。
ま た、国内企業物価指数(注:企業間で取引される 製品の価格を示す指数)についても、同四・四% 減の低下が予測されている。
こうした予測値を勘 案すると、今年度のトラック運賃は大幅な低下に なるはずであるが、果たしてそうだろうか。
低下 するというのは衆目の一致するところであろうが、 筆者は、それほど大きくは低下しないのではない かとみている。
 たとえば、「企業物流短期動向調査(〇九年三 月調査)」では、四〜六月見通しのトラックの『運 賃動向指数』は、一般トラックがマイナス六、特 別積合せトラックもマイナス五とそれぞれほぼ四年 ぶりにマイナスに落ち込む見通しとなっている。
た だし、値下がりを予想している割合は、一般トラ ックについては一六%、特別積合せトラックにつ いては十三%とそれほど大きくはない。
前述のと おり、貨物輸送量の大幅な減少ならびに国内企業 物価の低下が見込まれているわけであるから、も っと多くの荷主がトラック運賃の低下を予想して もおかしくない状況にあるにもかかわらず、一〜 二割にとどまった。
それはなぜなのか?  その理由を推測すると、第一に、トラック輸送 の供給力が必ずしも過多にはなっていないことが あげられる。
景気の急激な悪化を受けて、このと ころ市場から退出するトラック事業者が後を絶たな い。
また、〇七年六月の道路交通法改正以降、大 型車の教習を中止した教習所が続出したことなど を受けて、このところ大型免許の取得者数が激減 していることに加え、若年労働力人口の減少とい う構造的な要因もあって、とくに大型トラックの ドライバー不足が一部で顕在化しつつあることも 供給力の低下につながっている。
 第二の理由は、体力の低下から運賃の値下げを 許容できないトラック事業者がかなりの数にのぼ るとみられることである。
 そして第三に、従来のように、潜在需要があっ て、運賃を引き下げれば貨物を獲得できるのなら ばいざしらず、需要が?蒸発?してしまった昨今 の状況下においては、不毛な運賃引下げ競争には 参加しないトラック事業者も少なからずいること などがあげられる。
 さらに、もう一点気になるのが燃料価格の動向 である。
石油情報センター資料によると、軽油価格 (インタンク納入価格、軽油引取税込、消費税抜 73  JULY 2009 高騰がある。
昨年末に一バレル三〇ドル近辺まで 落ち込んでいたWTI価格は、その後半年間で二 倍以上に急騰した。
本稿執筆時点においては、ニ ューヨーク商業取引所のWTI価格(七月物)は、 中心限月ベースで昨年十一月以来七カ月ぶりに七 〇ドルを上回る水準に達している。
 今般の原油価格の高騰は、専門筋の見解による と、昨年度における急騰局面のように、ファンド 筋などの大量の投機マネーが原油先物を買ってい るからではなく、むしろアジア経済の回復を見込 んだ実需筋の買いによるものらしい。
さらに、商 品市場で?鶴の一声?と称されるゴールドマン・ サックスが六月上旬に、原油価格の高騰を予測す るレポートを発表したこともここにきての買いに 拍車をかけている。
 その内容は、原油価格は三カ月後に七五ドル、〇 九年下期に八五ドルに達し、二〇一二年には再び 一〇〇ドルを突破するというものだ。
もっとも、安 い価格で大量に先物を買っておき、市場の買いを 煽るレポートを発表して値段を吊り上げ、大儲け するというのが彼らの手口であるから、短期間の うちにそこまで原油価格が急騰するかどうかは分 からない。
しかし、前述のとおり、燃料価格はす でに反騰しており、原油価格の動向次第では、再 び高騰する可能性も否定できない。
運賃上昇の条件とは  以上が、今年度のトラック運賃は低下するであ ろうが、それほど大きくは低下しないと考える根 拠である。
 最後に、トラック運賃がどのような局面で上昇 しているかについて簡単に分析してみたい。
 トラック運賃に限らず、財・サービスの価格水 準を決定するのは、一般的には需給関係であるこ とは言うまでもない。
トラック輸送市場(営業用) においては、九〇年十二月の貨物自動車運送事業 法の施行に伴う参入規制の緩和を受けて、事業者 数が増加の一途を辿る(注:九〇年三月末の三万 九五五五社から〇八年三月末には六万三一二二社 と一・六倍に増加した)一方で、貨物輸送量(ト ン数)については事業者数ほどの伸びとはならな かった(注:八九年度の二二・九億トンから〇七 年度には二九・三億と一・三倍にとどまった)。
こ のように、供給の伸びが需要の伸びを大きく上回 ったこともあって、道路貨物輸送のCSPIの動 向をみると、九五年七月にピークを打ち、その後、 横ばいないしは若干の低下傾向で推移したが、〇 六、〇七年については小幅な増加に転じている。
 その間、貨物輸送量の伸び率が事業者数のそれ を大きく上回った時期もあったが、運賃は上昇し なかった。
その時期は、日本経済がデフレ下にあ った時期とほぼ一致する。
そこで、国内企業物価 指数の動きも加味して分析してみたところ、国内 企業物価指数が前年同期比でマイナスである時は、 貨物輸送量が増加していても、CSPIは上昇し ていないことが分かった。
国内企業物価指数がマ イナスという状況下では、荷主の売上高も伸びな いため、当然荷主からの運賃引下げ要求が厳しく なる。
ゆえに、需給が多少タイトになっても、運 賃は上昇しなかったということである。
そこには、 荷主の方がトラック事業者よりも上位にいるとい う両者の力関係が垣間見れる。
き)の全国平均値は、昨年八月(一四六・二円/ ℓ)をピークに大幅に下落し、今年三月にはピー ク時の半値に近い七七・三円/ℓまで落ち込んだ が、四月には八カ月ぶりに上昇し、前月比で一・ 七円高の七九・〇円/ℓとなった。
また、給油所 の軽油販売価格もこのところ毎週じわじわと上昇 している。
 こうした燃料価格上昇の背景には、原油価格の CSPI・国内企業物価指数・営業トラック輸送量の推移(前年同期比:%) 1〜3 4〜6 7〜9 10〜12 1〜3 4〜6 7〜9 10〜12 1〜3 4〜6 7〜9 10〜12 1〜3 4〜6 7〜9 10〜12 1〜3 4〜6 7〜9 10〜12 1〜3 4〜6 7〜9 2003 2004 2005 2006 2007 2008 (年月) 8 6 4 2 0 -2 -4 国内企業物価指数 CSPI 営業トラック輸送量

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