ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年8号
特集
第1部 民主党が勝つと何が起こるか

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2009  10 政官業のトライアングル崩壊  トラック輸送振興議員連盟(トラック議連)は自民 党国会議員の約七割が所属する日本最大の議員連盟 だ。
二〇〇二年に設立され、現在は古賀誠衆議院議 員が会長を務める。
同議連のメンバーらには毎年、ト ラック協会関連の政治団体から多額の献金が提供され ている。
 各都道府県が地方トラック協会に与えている運輸事 業振興助成交付金の一部が政治団体を経由して自民 党議員に流れている。
交付金の金額は合計で年間約 一八〇億円に上るとされる。
一部は基金として積み 立てられ、〇六年度末時点で計一三二八億円がプー ルされている。
 トラック議連は献金の見返りとして、事業者の声を 行政に反映させて、各種の交付金・助成金の予算確 保に尽力している。
昨年の国土交通省主導によるト ラック運送業の燃料サーチャージ制導入でも、公正取 引委員会を抱き込むのにトラック議連が政治力を発揮 したとされる。
またトラック協会は国交省の有力な天 下り先ともなってきた。
 しかし次の衆議院総選挙で民主党の政権奪取が実 現すれば、政・官・業のトライアングルに深い亀裂が 走るのは必至だ。
 交付金は一九七六年に軽油引取税の税率が引き上 げられたことに端を発している。
トラック事業者のコ スト負担が増すことに配慮したものだ。
当初は五年間 限定とされた暫定税率が、その後も更新されている ことで、交付金も毎年継続されてきた。
しかし民主 党は暫定税率の廃止を公約に掲げている。
これによ って交付金は足がかりを失う。
 交付金がなくなれば、トラック協会の財政は一気に 逼迫する。
全日本トラック協会の収入の約九割は地方 トラック協会から吸い上げた拠出金だ。
そして地方ト ラック協会は収入の七割程度を交付金に依存している。
交付金が消えれば天下りを受け入れる余裕はなくなる。
政治団体を通した献金も止まる。
そもそも自民党が 野党に転落すれば献金をする意味自体がなくなる。
 民主党は暫定税率廃止のほかに、特別会計の原則 廃止も公約に掲げている。
特別会計とは国の一般会 計とは別に、事業分野別に各省庁が所轄する予算だ。
歳入としては一般会計からの繰り入れのほか目的税 や手数料などの独自財源を持つ。
その規模は〇八年 度で一般会計の八三兆円に対して三六八兆円に上っ ている。
 いったん特別会計に入った資金は各省庁と政治家の 裁量で使い方が決められる。
天下り先や地元選挙区 に配分できる。
一般会計と違って予算が余ったら内 部留保しておくこともできる。
政府は否定している が、その結果、霞ヶ関には巨額の?埋蔵金?が眠っ ているという指摘がある。
 この特別会計を廃止することで予算を透明化して ムダな支出をやめる。
同時に省庁別の縦割り行政の 弊害を払拭する。
それが民主党の主張だ。
国交省が 管轄し、物流インフラの整備に充てられている「社会 資本整備事業特別会計」は、真っ先にその槍玉に上 がることになる。
 同特別会計は、道路整備、港湾、空港整備という 事業別の?財布?に分かれている。
その中身が族議 員、国交省所管局、物流業界を固く結びつけている。
そこに荷主が口をはさむ余地はこれまでほとんどなか った。
荷主は物流インフラの最終的な利用者ではあっ ても、常に部外者の立場に置かれてきた。
 政権交代は荷主不在の物流行政にメスを入れる格好 民主党が勝つと何が起こるか  次の総選挙で民主党が政権を取ったら日本の物流行 政は大きく転換する。
50年続いた自民党、霞ヶ関、物 流業界の蜜月は終わる。
同時に規制緩和政策が後退し 労働規制が強化される。
パートと正社員の同一賃金・ 同一労働が進み、物流現場の風景まで一変する。
(大矢昌浩) 第1 部 政治と物流──荷主主導に舵を切れ 11  AUGUST 2009 のチャンスになる。
ただし、問題がある。
民主党は物 流の国家戦略を全く持ち合わせていない。
高速道路 料金の無料化をはじめ目先のコスト削減をアピールす る施策を打ち出すばかりで、産業の活性化や国際競 争力強化に向けたビジョンがない。
官僚主導との決別 をスローガンとする手前、霞ヶ関をブレーンに使うこ ともできない。
 経済政策の方向性を欠いたまま、中曽根内閣以来 の規制緩和政策は大きく揺り戻されることになる。
民 主党の鳩山由紀夫代表は「政権交代の暁には郵政民 営化の見直しを真っ先に行う」と公言し、六月一六 日の党首討論では日本郵政の西川善文総裁の罷免ま で明言している。
既に水面下では生田正治前総裁の 再登板などの憶測情報まで飛び交っている。
 正式に民主党政権が成立した場合には郵政民営化 法はいったん凍結され、日本郵便と郵便局との再統 合が検討されることになるだろう。
その結果、郵便 事業が一〇〇%政府出資の状態に置かれることにな れば、民営化したといっても実質的には特殊法人と 変わらない。
民間事業者とのイコールフッティングを 担保するため、日本郵便と日本通運の宅配便事業統 合も仕切り直しを迫られる。
 今年四月に日通から「ペリカン便」事業の移管を受 けたJPエクスプレスは、一〇月に日本郵便の「ゆう パック」事業も吸収し、新ブランドによるサービスを 開始する計画だ。
そのブランド名を当初は五月末まで に発表する予定だったが、「かんぽの宿」譲渡問題か ら鳩山邦夫総務大臣の辞任に至る一連の騒動に振り 回されて七月現在、まだ発表できずにいる。
このう え政権交代まで起きれば事業統合自体が危うい。
 労働規制も大幅に強化される。
六月二六日に民主 党、社民党、国民新党の三党は共同で、労働者派遣 法改正案を衆議院に提出している。
しかし、解散の 近づいた影響で今国会では結局、十分な審議の時間 を持てないまま与野党案とも廃案になった。
しかし、 民主党が政権を取れば三党の共同案がそのまま成立 する可能性が高い。
派遣全面禁止・最低時給は一〇〇〇円に  三党案には雇用期間が二カ月以下の労働者派遣の 全面禁止や製造業派遣の原則禁止、罰則の大幅な強 化などが盛り込まれている。
企業側には極めて厳しい 内容だ。
物流現場では実質的に派遣が一切使えなく なる。
パートを直接雇用するか、現場運営を全て業務 請負に委託するしかない。
 しかも民主党はパート・契約社員の待遇を正社員と 同じにして同一賃金・同一労働を実現することを目指 している。
そのために時間外勤務手当の割増率を現行 の二五%から五〇%に改定する。
全国最低賃金は時 給八〇〇円に設定。
その後三年をメドに一〇〇〇円ま で引き上げることを公約に掲げている。
 極端な労働規制の強化には民主党内にも異論の声 がある。
派遣の禁止は働き方の選択肢を減らす。
労 働者にとって必ずしもプラスになるとは限らない。
雇 用の流動化が抑制されることで労働需要自体が減っ てしまう恐れもある。
人件費の水準が上がれば事業 を維持できなくなる企業だって出てくる。
しかし民主 党も今さら後には退けない格好だ。
 政権交代によって、これまで半世紀にわたって続い てきた政官業の癒着は解けるかも知れない。
ハコモノ 政治や省庁縦割りの弊害も改善される可能性がある。
しかし、それと同時に物流行政は迷走し、現場は人 件費の増加と労務管理で混乱する。
果たしてどちら がマシなのか。
難しい判断が迫られている。
雑収入 0.4% 雑収入 0.2% 雑収入 4.4% 揮発油税 18.9% 一般会計から受入 55.4% 一般会計から 受入 68.5% 一般会計から受入 28.2% 2.8% 特別会計間の受入 手数料・ 負担金・ 保険料等 21.6% 手数料・ 負担金・ 保険料等 29.2% 手数料・負担金 ・保険料等 4.3% 前年度剰余金受入 1.0% 前年度剰余金受入 2.1% 前年度剰余金受入 5.2% 空港使用料 収入 借入金 40% 17.8% ●2008 年度特別会計 各分野別歳入の内訳 空港整備勘定 5428 億円 港湾勘定 3241 億円 道路整備勘定 3兆6100億円

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