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規制緩和は終わっていない
──昨年末の世界恐慌を受けて、規制緩和政策から
保護行政への揺り戻しが始まったとの声が出ています。
「物流分野に関しては、基本的に規制緩和は今後も
続いていくと思います。 今は経済環境が著しく落ち込
んでいるため一時的なアジャストはあるでしょうが、合
理化・効率化は決して終わったわけではありません」
「ただし、規制緩和の影で?強者の論理?が横行し
ているのであれば、もう少し監視の目を光らせなけれ
ばならないのも事実です。 常識外に低すぎる運賃の
強要などは認めるわけにはいきません。 規制緩和が
弱者に理不尽な経営を強いるようなことがあれば、厳
しく見直す必要があります」
──ですが物流事業者の淘汰や運賃の値下げは、規
制緩和のそもそもの目的の一つです。
「非常に難しいところだけれど、そこはバランスを
とるしかない。 規制緩和が薬となり、日本のGDP
に対する物流コストの比率は下がってきています。 そ
れを実現するために、合理化に耐えられない会社が
市場から退場するのは、やむを得ないところがある。
その流れは今後も必要でしょう」
「しかし、淘汰が許されるのは健全な競争の下にお
いてのみです。 市場の競争に公正さがなければ、淘
汰のメカニズムもうまく働きません。 経済的規制を緩
和するのであれば、それと並行して社会的規制を強
化する必要があります。 しかし日本は、そのチェック
がやや遅れた、あるいは十分でなかった部分は否めま
せん。 その歪みが顕在化している状況です」
──今後は社会的規制を強化する必要がある?
「多くの方がその必要性を感じ始めています。 公正
取引委員会の存在感も近年大きくなっている。 ただ、
公取委が今の状態で十分かと言われれば?否?です。
体制などを含め、今後も健全な競争に必要な機能に
ついて議論を深める必要があるでしょう」
──トラックに比べ、港湾の分野では規制にメスが
入っていないように見えます。
「私は旧運輸省時代に港湾を担当していたので、そ
の辺の事情は理解しているつもりです。 港湾は歴史
的な背景などもあって、一筋縄ではいかない分野で
す。 トラック業界に比べれば、規制緩和の余地もあり
ましょう。 それでも以前に比べれば自由な競争を実現
しやすい環境にはなっています。 トラックにせよ港湾
にせよ、サプライチェーンに関わる分野は、今後も正
しい形での規制緩和を進める必要があります」
──しかし、規制緩和の推進力は低下しています。
「経済状況の問題が大きい。 小泉内閣の時も大変で
したが、現在はその比ではありません。 雇用の状態
も悪い。 失業率が五%を超えている時代に、競争や
淘汰を全面に打ち出す意見はなかなか社会に受け入れ
られない。 『市場から淘汰された者はどうすれば良い
のか』という声に対して、明快な答えがすぐには見つ
からない。 しかし失業率が沈静化して経済が正常化
すれば、規制緩和を求める声が再び大きくなるはず
です」
──物流政策について、日本は官僚主導で政治家に
ビジョンがないように思います。
「私は必ずしもそうは思いません。 例えば物流と密
接な関係にあるFTA(自由貿易協定)やEPA(経
済連携協定)は、まさに政治主導で進められている。
省庁横断の総合物流施策大綱も、担当大臣同士のイ
ニシアチブによるところが大きい。 政治家が構想を描
き、法案を通し、行政が具体的に詰めていくという
プロセスは守られています」
「健全な競争には社会的規制が必要だ」
AUGUST 2009 18
物流業界の規制緩和は今後も続く。 生産性の低い企
業が淘汰されることで市場は活性化する。 ただし、健
全な競争環境が整備されなければ、淘汰のメカニズム
は十分に機能しない。 公正取引委員会を始めとした監
視機能の強化を検討する必要がある。
泉 信也 自民党参議院議員(航空対策特別委員長)
第 3 部 議員が語る物流政策の争点
政治と物流──荷主主導に舵を切れ
──それでも縦割り行政の弊害は払拭されていません。
「そういったことを為し得るのは、やはり政治の力
だけです。 それだけ政治には大きな責任もある。 し
かし誤解を恐れずに言えば、私は官僚の縦割りは当然
だとも思っています。 とりわけ若い官僚は他の省庁と
の兼ね合いなど気にせず、自分の担当分野を一生懸
命勉強し、『これがベストの施策だ』と自信を持って
強く打ち出すべきです」
「港湾の担当者であれば、『港湾については自分た
ちが一番のプロフェッショナルなんだ』という自負が
なければ、とても良い施策など打ち出すことはできま
せん。 外に対して強く主張もできない。 そんな行政
でなければ信頼されるはずもありません」
「ただし、少なくとも局長クラスの官僚ともなれば、
省益ではなく国益を優先させることが求められます。
下から上がってきた施策や意見を、大臣や副大臣など
と相談して国益を最大化させる選択をする。 これが
あるべき姿です。 一口に?縦割り行政?といいます
が、重要なのは、その任にある者が責任を果たすこ
となのです」
安全財源の確保は必要
──縦割り行政は、縦割りの予算を背景にしていま
す。 そのため自民党も昨年、物流関連の予算を社会
資本整備事業特別会計に一本化しました。
「私は一本化には反対でした。 物流目的を達成する
ためには、安定的に財源が確保されていなければな
りません。 福祉の問題を見ても明らかですが、誰もが
社会にとって必要とわかっているにもかかわらず、十
分な投資ができていない。 財源が無いためです。 同
様に道路や港も社会に不可欠です。 予算を一本化す
ることで、各分野に必要なインフラ投資ができにくく
なる可能性が出てきてしまう」
「予算や財源の縦割りを見直せば、政策の縦割りも
改善するだろうという考え方にも疑問が残ります。 確
かに、『港を作ったが道路が繋がっていない』といっ
たことはあります。 まさに縦割り行政の弊害なので
すが、それは予算を一本化すれば改善されるという
問題ではない。 必要なのは関連施策の進み具合を関
係者間で調整することです」
──港や空港の数は既に多過ぎます。 しかも大半が不
採算です。
「空港や港の必要数に関しては議論もあるでしょう
が、社会的に必要なインフラが収支のみによって評価
されることには違和感を覚えます。 もちろん黒字に
越したことはありませんが、重要なのはその地域に
住む人々のニーズを満たすことです。 たとえ不採算で
も、人々の要望を満たすためであれば投資すべきこと
もある。 それこそが政治であり行政なのです」
「これまで日本は一極集中ではなく、国土の均衡あ
る発展を選択してきました。 ここにきて、国土計画
が転換期を迎えていることは確かです。 中国や韓国、
シンガポールといった国々の台頭を受け、日本の国際
的な物流競争力は低下している。 『スーパー中枢港』
のように集中投資型の戦略に切り替えるタイミングが、
やや遅れたことも認めなければなりません」
「私は国土の均衡ある発展は今でも必要だと考えて
います。 しかし、それは金太郎飴のように、どこを
切っても同じ顔が出てくるといったものではありませ
ん。 ある地域は港、ある地域は空港、ある地域は文
化といったように、特性に合わせて発展していけばい
い。 それに必要な社会整備資本はしっかり整備する。
誰も彼もが道路やハコモノを欲しがっていては、日本
の物流力はどんどん低下してしまいます」
19 AUGUST 2009
泉信也(いずみ・しんや) 1937年、福岡県
生まれ。 62年、旧運輸省に入省。 第四港湾建
設局長、大臣官房審議官などを経て退官。 92
年、参議院初当選。 以来、参議院三選を果た
す。 国土交通副大臣、経済産業副大臣、国家
公安委員長などを歴任。 昨年8月には自民党
航空対策特別委員会の委員長に就任している。
PROFILE
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