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AUGUST 2009 34
一括物流
ヨークベニマル
生鮮品のインフラ刷新を軌道に乗せ
加食と日雑の統合センターに再挑戦
住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築
施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達
成した。 現場で分別を行い、集荷拠点を経由して
自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること
で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。 さらに部
材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に
ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を
めざしている。
徐々に集約されてきた業務委託先
福島県を中心に一五六店舗を展開してい
るセブン&アイグループの食品スーパー、ヨー
クベニマルの物流インフラ整備が進んでいる。
商材を生鮮品、加工食品、住居・日用品の
三系統に分け、それぞれの店舗納品を集約す
るための「一括物流センター」を現時点で計
十一カ所運営している。
その内訳は、生鮮センターが五カ所(郡山、
仙台、栃木、山形、茨城)、加工食品を扱う
グロサリーセンターが三カ所(福島、宮城、茨
城)、そして住居・日用品についてはイトーヨ
ーカ堂と相乗りのセンターが三カ所となって
いる。 今年十一月には六カ所目となる生鮮セ
ンターを福島県いわきに稼働させ、来年三月
をメドに四カ所目のグロサリーセンターを栃木
に設置することも決まっている。
センターの運営はアウトソーシングを基本と
している。 ヨークベニマルが主体的に運営し
ている生鮮と加食の計八センターのうち、生
鮮四カ所をニチレイロジグループのロジスティ
クス・ネットワーク(以下、単にニチレイロジ
と表記)に委託。 残り一カ所を日本アクセス
に任せている。 加食三カ所はすべて菱食の運
営だ。 新たに稼働する二カ所も、それぞれニ
チレイロジと菱食に委ねる。
生鮮はニチレイロジ、グロサリーは菱食が
メーンパートナーとなっている。 しかし、ヨ
ークベニマルが意図的に運営委託先を集約し
てきたわけではない。 「これまでの経緯のな
かで結果的にこうなった。 新しい拠点を立ち
上げるときには、その都度コンペをする。 そ
れは今後も変わらない」と同社・物流部の平
栗嗣久総括マネジャーは説明する。
ヨークベニマルの物流は、ヨーカ堂から少な
からぬ影響を受けている。 両社の提携は一九
七三年に遡る。 このとき社名を紅丸商事から
ヨークベニマルに変更した。 その後、二〇〇
六年九月にセブン&アイホールディングスの完
全子会社となるが、それ以前からヨーカ堂と
は物流面などで非常に親密な関係にあった。
実際、生鮮センターの情報システムや、店
舗納品に使うカートラックなどのマテハン類の
ほとんどに、ヨーカ堂と同じものを使用して
いる。 ただし、アウトソーシングの考え方に
は若干の違いが見受けられる。
ヨーカ堂は運営事業者の間で競争原理が働
くことを狙って意図的に委託先を分散させ
る傾向が強い。 ヨークベニマルは、その点に
はこだわっていない。 平栗総括マネジャーは、
「委託業者の数が問題だとは思っていない。 セ
ンターごとにきちんと運営を管理し、評価で
1997年に加工食品と日用品を同じ一括物流セン
ターで扱おうと試みて失敗した。 その経験を教訓と
して、2003年から生鮮センターの刷新に着手。 約3
年かけて中核2拠点を新設し、運営を軌道に乗せた。
さらに来年3月に稼働予定の「北関東グロサリーセン
ター」では、再び加食と日用品の物流統合に挑む。
ヨークベニマルの平栗嗣久物
流部総括マネジャー
35 AUGUST 2009
きるようにしていくことが物流部門の役割と
考えている」という。
失敗を糧に一括物流を推進
ヨークベニマルの物流部門には忘れられな
い記憶がある。 九七年に菱食と組んでグロサ
リーセンターを構築したとき、加食と日用品
を一緒に在庫型で扱おうとして運営が破綻。
現場が大混乱に陥ってしまった。 この一件は
マスコミにも大きく取り上げられた。
物流軽視が招いたセンター運営の破綻と理
解した向きもあったようだ。 しかし真相は、
むしろ物流に対する関係者の思い入れの強さ
が招いたトラブルだった。
ドミナント戦略を強く意識した出店からも
うかがえる通り、ヨークベニマルの物流に対す
る意識は高い。 三〇年前から自前のプロセス
センター(生鮮品加工センター)を構え、か
つてはその同じ場所で加食や日用品の物流も
手掛けていた。 その後、事業規模が大きくな
り、温度帯やカテゴリーごとに物流拠点を分
割してもメリットを出せるだけの物量を確保
できるようになったことから、九七年のグロ
サリーセンターの新設を決めた。
このときヨークベニマルは、主力商材であ
る生鮮品以外のカテゴリーをできるだけまと
めて扱うことで物流効率を高めたいと考えた。
菱食もまた取扱品目の拡大をめざしていた。
もともと欧米では加食と日用品が「グロサリ
ー」として同じカテゴリーに区分されている。
無理な組み合わせだとは思えなかった。 さら
にはサプライチェーン全体の効率を考えると、
日用品も在庫型で処理したほうが有利という
判断でも両者は一致した。
ところが実際に扱ってみると、加食と日用
品では全く勝手が違った。 在庫品をピース単
位でピッキングする作業が追いつかず、大量
の欠品を招いてしまった。 その後、日用品を
通過型にすることで何とかセンター運営を立
て直したものの、ヨークベニマルの物流部門
にとっては苦い経験となった。
それだけに、施設の老朽化と狭隘化に伴い、
基幹拠点である郡山センターを再構築する話
が持ち上がったとき、担当者の心中は複雑だ
った。 今度はヨークベニマルの屋台骨である
生鮮品のセンターだ。 トラブルは許されない。
そうした中で〇三年春、新たに物流事業部長
に着任した大竹正人氏(現常務執行役員)と
平栗総括マネジャーを中心とする「物流刷新
プロジェクト」が発足した。
ヨーカ堂の生鮮品システムを採用
ちょうどその頃、「郡山市総合地方卸売市
場」の隣接地が空いているという話がヨーク
ベニマルに持ち込まれた。 同市場は、郡山市
が旧市場を集約して〇二年四月に開設したば
かりの施設で、約二〇万平方メートルの敷地
に青果棟や水産棟などが集積していた。 そこ
に隣接する市の造成地を使わないかという打
診だった。 こんな好条件はめったにない。 ト
ントン拍子で話が進み、新・郡山センターの
立地が決まった。
プロジェクトでは郡山センターの刷新と並ん
基幹拠点「郡山センター」の概要
所在地:福島県郡山市、敷地面積:約2万6000
?、延べ床面積:1万5400?(1・2階合計)、取
扱種目:生鮮・デイリー・冷凍食品など、機能:
TCおよびDC(冷凍品)、商品供給先:福島県内
を中心に58店舗(09年5月末時点)、稼働:05
年11月、業務委託先:ロジスティクス・ネットワ
ーク(ニチレイロジグループ)
トヨタ流の「見える化」 マテハンに頼らない庫内
惣菜製造の子会社も入居 ヨーカ堂と共通のカート
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で、同じように狭隘化の進んでいた「仙台セ
ンター」の対応策も検討された。 敷地に余裕
があったことから、当初は施設を拡張して当
座を凌ぐという意見もあった。 しかし、それ
では問題の先送りにすぎない。 むしろ郡山セ
ンターと仙台センターの二カ所を、将来を見
据えた基幹センターとして抜本的に見直すべ
きという方針でまとまった。
庫内運営も白紙の状態から考えた。 旧郡山
センターでは、店別仕分けに自動仕分け機を
使っていた。 だが加食と違って生鮮品はかた
ちや重さのバラツキが大きいため、自動化機
器の能力を十分に発揮できないことが多い。
ヨーカ堂の生鮮センターを見学したところ、
ハンディターミナルとカートラック(店舗での
品出しまで考えた台車)という軽装備で、人
手中心の作業ながら高い生産性を実現してい
ることを知った。 そこで新センターには同様
の仕組みを採用することを決めた。
受発注などの情報システムにも、ヨーカ堂
が野村総合研究所と開発した「生鮮センター
システム」を導入することにした。 同システ
ムを上位系として、その下に同じくヨーカ堂
が使っているハンディターミナルを中心とする
倉庫管理システムをぶら下げる。
並行して現場実務の運営を委託する物流業
者の選定作業を進めた。 郡山と仙台の旧セン
ターの運営を委託していた日本通運や、他の
拠点を任せていた西野商事(現日本アクセス)
などに声を掛けた。 さらに新顔として、ヨー
台に「2S」(整理・整頓)や「見える化」な
どトヨタ流の改善手法を身につけるための指
導を受けた。 このときヨーカ堂が組織した計
一〇人の改善チームの中には、実はヨークベ
ニマルの社員も二人含まれていた。
こうした伏線もあって、ヨークベニマルは
〇四年七月から正式に豊田自動織機に物流コ
ンサルを依頼することになった。 指導期間は
三カ月。 二人の専属コンサルが派遣されてき
て、ヨークベニマルの物流部門と一緒に「新
センタープロジェクト」を発足させた。
カ堂のセンター運営で実績のあったニチレイの
低温物流部門(現ニチレイロジグループ)に
も物流コンペへの参加を要請した。 その結果、
郡山・仙台ともニチレイロジを運営パートナ
ーとすることが決まった。
〇三年末までにはおおよその方針が決まり、
〇四年にいよいよプロジェクトを実行段階に
移そうとしたとき、突然、経営トップからス
トップがかかった。
「その頃の店舗数は一二〇ぐらいだったが、
中期的には二〇〇店舗をめざしていた。 われ
われの計画で、お客様の視点から見た?ある
べき物流?を実現しながら二〇〇店舗体制を
達成できるのか。 再検討してみてはどうかと
いうのがトップからの指示だった」と平栗総
括マネジャーは振り返る。
トヨタ流のコンセプトを物流に導入
改めて?あるべき物流?という大きな課題
を与えられたプロジェクトは、原点に戻って
構想を再検討しはじめた。 計画をコスト面か
ら強化するため、ヨーカ堂の物流部門にも相
談を持ちかけた。 そうこうするうちに、トヨ
タの関係者をメンバーに加えて、ヨークベニ
マルの物流コンセプトを再構築したらどうか
という話が持ち上がってきた。
その当時、ヨーカ堂は豊田自動織機のコン
サルティングを受けながら「店舗作業改善プ
ロジェクト」に取り組んでいた。 〇三年四月
から半年間、ヨーカ堂の大宮店(埼玉)を舞
卵
8℃帯仕分場3℃帯仕分場
郡山センターの構内レイアウトの概要(1F)
デイリー
銘店・納豆/
練物・牛乳・水物
精肉
原料
製品
カット
野菜
ライフ
フーズ
仕分場
ライフ
フーズ
低温荷捌室
センター
CP 室
置き場
5℃帯
仕分場
鮮魚
原料
製品
デイリー
中華/生麺・漬物/
洋和菓子・飲料/デザート
青果
花・果実・野菜
青果【イフコドーリー】果実・野菜
出荷集積エリア
横持ち
商品
入荷検品
エリア
入荷検品エリア
出荷集積エリア
出荷集積エリア
検品済待機エリア
事務所
入口
1〜9番バース
卵・デイリー・その他
16
〜
13
番
バース 青果
14〜16番 出荷バース
バース
青果
33〜40番
精肉・鮮魚
カット野菜
空コンテナ置き場
建物面積 1F 約11,000?
2F 約4,450?
3 温度帯 3℃、5℃、8℃
37 AUGUST 2009
物流部門が自らの業務範囲として意識すべき
領域だった。
「それまでの物流部門の管理対象は、セン
ターから店着までという狭い範囲に限られてい
た。 売り場における陳列などの後工程はほと
んど考慮していなかった。 これを川上のメー
カーや産地から、お店のオペレーション、そ
して最後はお客様の手元に商品が渡るまでと
いう視野で幅広く見て、物流の全体最適がど
うあるべきなのかを考えるように変わった」
と平栗総括マネジャーは述懐する。
トップが参加する報告会も二回開催し、物
流の基本コンセプトをまとめた。 この作業が
〇四年末までかかったことで、新センター構
想の具体化は当初の予定よりほぼ一年間遅れ
てしまった。 しかし、これによって判断の原
則が明確になった。 この基本コンセプトに基
づいてヨークベニマル、ニチレイロジ、豊田
自動織機の三者がスクラムを組んで新センタ
ー構想を具体化していくことになった。
加食と日用品の統合拠点に再挑戦
〇五年十一月にヨークベニマルの生鮮の新
たな基幹拠点、新・郡山センターが稼働し
た。 稼働一年目はコスト面でかなり苦労した
が、二年目から運営は安定した。 〇六年四月
には予定通り「仙台センター」も動き出した。
同年一〇月になると、茨城県内を中心にカ
バーするエリア拠点として「茨城センター」が
稼働。 さらに今年三月には栃木県のエリア拠
点「栃木センター」も稼働した。
一連の生鮮センターの刷新は軌道に乗った。
しかし、稼働から四年近く経つ郡山センター
は、六〇店舗というキャパシティに対し、早
くも供給先が五八店舗となっている。 このま
までは今年十一月に限界に達してしまう。
そのために、いわき地区のエリア拠点「い
わきセンター」を新たに稼動させるのは冒頭
で述べた通りだ。 郡山センターから供給して
いる一五店舗を「いわきセンター」の管轄下
に移し、基幹センターの負担を軽減する。
「いわきセンター」の運営については、例
外的に最初からニチレイを指名した。 同セン
ターには、〇七年にヨークベニマルが業務・
資本提携した藤越が所有していた物件を使う。
この施設に手を加えて二〇店舗程度をカバー
できるようにする。 その運営業務をニチレイ
ロジに委ねたのは、すでに彼らが運営してい
る「茨城センター」と連携させることでコス
ト効率を高めることが狙いだという。
そして、来年三月に栃木で稼働予定の「北
関東グロサリーセンター」では、加食だけで
なく日用品も扱う。 ヨークベニマルにとって
十二年ぶりの総合センターであり、しかも運
営パートナーは菱食だ。 ただし日用品は、在
庫型ではなく通過型で扱う。 このセンターの
運営を成功させることが、ヨークベニマルの
物流部門と菱食が九七年の名誉挽回を果たす
うえで越えるべき関門となる。
(フリージャーナリスト・岡山宏之)
まずはトヨタ流の「現場・現物・現実」の
観点から旧郡山センターが抱えていた課題を
徹底的に抽出した。 すでに決まっていた新セ
ンターの立地などは据え置きながら、将来の
「二〇〇店舗体制」をにらんだコンセプトを再
構築していった。 その後、指導期間は半年間
に延長され、結果として完成した報告書と物
流コンセプトの骨子が左図だ。
新センター構想の大枠については、トヨタ
のコンサルを経ても大きな変更はなかった。 一
方で明確に変わったのが、ヨークベニマルの
05 年に生鮮センターを刷新した目的
商流産地
工場
市場
ベンダー
物流
センター
今までの物流
お客様売り場
陳列
計画のベースはお客様満足とお店での運用、ここから組み立てることによ
り全体最適化を目指すものとする
これらのことを実現させるために!
※生鮮センター運営で最も実績のあるニチレイ、トヨタ生産方式の導入のために豊田自動織
機、そしてヨークベニマルの3 社によるプロジェクト体制で新生鮮センター計画を推進
1.お客様満足
鮮度と味の追求できる集荷体制の確立
2. 従業員にとって
女性化を意識した重さ対応
作業改善につながる納品体制
3.ローコスト運営
ムダ、ムラ、ムリを省くトヨタの思想を入
れることでローコストを実現
4. 将来的に目指すもの
・産地工場ベンダーからお店お客様まで
のトータルな物流における全体最適化
によるトータルコストの削減を目指す
・弛まない改善活動が継続できる組織仕
組み作り
・伝票レス(EDI 化)
・流通団地内に生鮮加工業者の誘致
お客様満足
鮮度味
YB 物流
業務範囲
基本コンセプト
後工程を考えた前工程〜TPS 思想の実践
将来ヨークベニマル(YB)が目指す物流(全体最適のための物流部)
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