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AUGUST 2009 42
国際物流
日本ロジテム
インドシナ東西回廊で定期便の運行開始
AFTAの関税撤廃をにらんで先手打つ
住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築
施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達
成した。 現場で分別を行い、集荷拠点を経由して
自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること
で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。 さらに部
材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に
ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を
めざしている。
ベトナム進出のパイオニア
日本ロジテムは一九九四年に日本の陸運会
社として初めてベトナムに進出した。 八六年
に採択した「ドイモイ(刷新)」政策によって
従来の計画経済から市場経済への転換を図っ
たベトナムに対して、日本政府が九二年にO
DA(政府開発援助)を再開。 日系企業の投
資機運が高まりつつあった頃だ。
日本ロジテムの海外進出はベトナムが初め
てではない。 これ以前にも台湾、香港、タイ
などに、主要荷主の事業展開に合わせて進出
している。 だがベトナムへは、それまでと違
い単独で出た。
ベトナムは人口が八六〇〇万人を超え、東
南アジアではインドネシアに次いで多い。 しか
も平均年齢が若く、経済成長への大きな潜在
力を秘めている。 そのことを現地視察で実感
した当時の中西弘毅専務(現社長)が帰国後
に社内で強く進出を訴えた。 「出る以上はど
こよりも早く」という経営判断のもと実行に
移された。
もっとも当時はまだベトナムに進出してい
る日系企業の数は少なく、十分な量の物流業
務を受託できる環境にはなかった。 その一方
で第一次ベトナムブームの先駆けとなる日系
企業の社員たちが、視察のため現地を頻繁に
訪れていた。 そこで物流事業だけでなく旅客
運送事業との二本立てで現地事業を設計した。
現地でバス・タクシー事業を運営する国営
企業、およびトラック運送事業を営む国営企
業との三社による合弁会社を九四年四月に設
立。 同年九月には会社を二つに分割し、旅客
運送会社の「ロジテムベトナムNO1」と、貨
物運送会社の「ロジテムベトナムNO2」を
それぞれの合弁相手と設立して、本格的に事
業を開始した。
「NO1」が視察で工業団地を訪れる日系
企業の社員の送迎を行い、「NO2」が工場
建設用の資材を搬入する。 工場が稼働を始め
日本ロジテムは今年3月、タイのバンコクから第2
メコン国際橋を経てベトナムのハノイに至る、イン
ドシナ半島の東西経済回廊で定期便の運行を開始し
た。 船便で12日かかる輸送日数を最短3日に短縮し
た。 2015年AFTA輸入関税撤廃後に予想される
域内輸送需要の拡大をにらみ先手を打った。
インドシナ半島における陸上輸送網の本格展開
アジア・ハイウェー東西回廊
タ イ
バンコク
ラオス
ラオスサワンナケット
ベトナム
ハノイ
東西回廊で定期トラック輸送を開始
輸送日数は海路輸送の4分の1へ短縮
ベトナム
【バンコク】
カンボジア
東西経済回廊
タイ
【ハノイ】
【ダナン】
【サワンナケット】
【ホーチミン】バンコクからハ
ノイまで陸路な
ら3日で
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ると「NO2」が原料・部品の調達、製品の
輸出や国内での配送業務を受託し、「NO1」
が現地駐在員家族の引っ越しや通勤・通学を
サポートするという具合に、二社が相互に補
完しあいながら事業を拡大していった。
九〇年代の後半に入ると日系企業のベトナ
ム進出が本格化した。 トヨタ自動車、ホンダ、
松下電器産業(現パナソニック)などが、九
六年に相次いでベトナム生産を開始、これに
続いて関連産業の日系メーカーの工場が次々
に稼働し始めた。
ベトナムは南北に長い地形で、北部の首都
ハノイと南部の商都ホーチミンの二大都市間
は陸路で一八〇〇キロ近い距離がある。 ハノ
イやその周辺には主に四輪車や二輪車の工場
が立地し、ホーチミンには家電品などの工場
が進出した。
物流会社の「NO2」はまずこのハノイと
ホーチミンに営業拠点を設けて、二つの都市
間の輸送網を構築した。 ハノイで乗用車やバ
イクを積んでホーチミンのディーラーへ配送し、
帰りにホーチミンにある家電品の工場などで
製品を積んでハノイに戻る。 南北に拠点を設
けることで、長距離ルートの復荷を確保した。
その後、さらに中部の港湾都市ダナン、北
部のハイフォンにも営業拠点を開設した。 各
地の倉庫では製品の保管や輸送だけでなく、
サプライヤーからの委託で工場の生産計画に
合わせて部品をJIT配送したり、サプライ
ヤーの工場を集荷に回るミルクランなど、日
本国内と同様のサービスも提供している。
輸送力不足が足かせに
二〇〇〇年頃からベトナムでは、乗用車や
バイクの市場が成長期に入り工場の生産台数
が急激に増えた。 これに伴って「NO2」の
売り上げも年々二五〜四〇%増という勢いで
拡大した。 「NO2」では毎年、新たな自社
倉庫や借庫を手当てしトラックの増車を行っ
てきた。 だが旺盛な輸送需要の伸びには追い
つかず、需要がピークを迎えるテト(旧正月)
の前には、毎年のように輸送力不足を露呈さ
せていた。
日本ロジテムで海外の法人を管轄する国際
部では、供給力不足を解消するためにコンテ
ナの改造やラックを使った輸送システムの考案
など支援を行った。 まず、四〇フィートコンテ
ナを改造してバイクを二段積みできるようにし
た。 これで積載効率が大幅に上がり、コンテ
ナ一本にバイクを四八台積めるようになった。
車両の回転率も上げた。 従来はコンテナが
ハノイを出発してホーチミンへ行き、帰り荷を
積んで再びハノイに戻るまで一週間かかって
いた。 月間に四往復しかできない。 そこでツ
ーマン運行を導入し、片道を二日半で走りハ
ノイ〜ホーチミン間を五日で往復する体制に
切り替えた。
乗用車の輸送にも工夫を凝らした。 ベトナ
ム国内の四輪車の輸送は、船ではなく主にト
ラックで行われる。 しかも、ベトナムでは四
輪車を外から積み荷が見えないタイプの車両で
輸送することが義務付けられているため、キ
ャリアカーではなく四〇フィートコンテナが一
般に使用される。
通常の方法ではコンテナに乗用車を二台し
か搭載できない。 そこで「マザーラック」と
いう特殊なラックを使うことにした。 乗用車
をマザーラックに載せてラッシングベルトなど
でタイヤや車体を固定し、コンテナに積み込
む。 その際にラックの後方をリフトアップし
て、コンテナ内に乗用車がラックごと傾斜し
た状態のまま固定する。 積み荷を傾斜させる
ことでデッドスペースが減り、普通乗用車で
三台、小型乗用車なら四台まで積むことが可
能になる。
マザーラックは神戸に本社のあるロッコー
エンジニアリングが開発したもの。 国際部で
「マザーラック」に乗用車を載せてコンテナに積み込む。 ラッ
クの後方をリフトアップすることで積載率が1.5 倍に
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は早くからこれに注目して導入を検討、メー
カーのロッコーエンジニアリングとともに現地
で実際の輸送ルートでの試験輸送を繰り返し、
改良を重ねながら実用化をめざしてきた。 ベ
トナムは道路が未整備なため、輸送中の振動
や横揺れで積み荷がダメージを受けないよう
品質面の検証を慎重に行い、顧客の承認を得
たうえで〇六年から運用を開始した。
これまでに「NO2」は一三四台のマザー
ラックを導入している。 ラックは折りたたむ
こともできるため、帰り便でラックを回収し、
ハノイ方面へ行く家電製品などと混載して戻
り、効率よく運用している。
だがこうした工夫だけでは供給力不足の解
消は充分とは言えず、日本ロジテムは抜本的
な対策を検討していた。 そんな矢先に千載一
遇のチャンスが訪れた。 外資に対する規制緩
和だ。
それまでベトナムの物流事業に外資が進出
するには、現地企業との合弁しか方法がなか
った。 しかも外国企業の出資比率は四九%
までに制限されていた。 日本ロジテムの場合、
外資初の進出企業として優遇され、「NO2」
を設立した際には特例として六五%の出資が
認められていた。
それでも、合弁事業である以上は制約が少
なくなかった。 日本ロジテムが倉庫や車両に
新たな投資をしたくても、合弁相手が資金を
調達できないと、出資比率の三五%が崩れて
しまう。 それが供給力不足の一つの原因にな
いはインドシナ半島全域を視野に入れた国際
陸上輸送網の構築にあった。
インドシナ半島では、ベトナムのダナンから
ミャンマーのモーラミャインまで半島を東西に
横断するハイウエー「東西経済回廊」の建設が
日本のODAにより進められている。 〇六年
十二月には、東西の往来を隔てていたメコン川
に「第二メコン国際橋」が開通した。 それま
でタイ〜ベトナム間の輸送は空路か海上ルート
を利用するのが通常だった。 橋の開通によって
タイ東北部のムグダハンとラオスのサワンナケ
ットが結ばれ、陸路での輸送が容易になった。
日本ロジテムではかねてから東西回廊を利
用した国際間の貨物輸送を今後の事業展開の
柱にするべく構想を温めていた。 ベトナムで
はすでに主要な都市に営業拠点を持ち、タイ
のバンコクにも子会社の拠点がある。 東西回
廊に陸上輸送網を築くことで二国間での輸送
需要の開拓が可能になる。
ただし橋が開通しても、タイ〜ラオス〜ベ
トナム間をトラックがスムーズに通行できるよ
うになったわけではない。 三国はタイとラオ
ス、ラオスとベトナムの国境通過を簡素化す
るために協定を結び、税関の審査を合同で行
うワンストップサービスや、国境で積み替えを
せず同じトラックで輸送できるトラックパスポ
ート制度の実施を段階的に進めている。
だが制度面が整ったとしても、タイからベ
トナムまでを一台のトラックで運行するのは
事実上難しい。 まずタイでは車が右ハンドル
っていた。
ところが〇六年に入り、WTOへの加盟を
めざすベトナム政府が規制を緩和し、一年間
に限って外資の全額出資による法人の設立を
認める方針を打ち出した。 日本ロジテムはこ
のチャンスを逃さなかった。 同年六月、ベト
ナムに「NO2」に続く二つ目の物流会社「ロ
ジテムベトナムコーポレーション(LVC)」を
全額出資で設立した。
外資一〇〇%のLVCにはフォワーディン
グのライセンスが認められなかったが、倉庫
や車両への投資を制約を受けずに行うことが
できるようになった。 LVCが倉庫などに投
資をし、物流関連事業のあらゆるライセンス
を持つ「NO2」がLVCから倉庫を借りて
物流業務を受託するという事業展開が可能に
なった。
ラオスで保税倉庫を運営
こうしてベトナムでの事業環境を整えたう
えで、同社は〇七年一〇月、隣国のラオスに
合弁で「ロジテムラオス」を設立した。 ラオ
スにはまだ日系荷主企業は少ない。 進出の狙
国際本部の飯島隆国際部長
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ップしたときには、この陸上ルートが脚光を
浴びた。 航空便を使うと通関の時間を含めハ
ノイまでのリードタイムは二日。 陸上ルート
はそれよりも一日長くかかるものの料金はは
るかに安い。 このメリットが改めて注目され、
リードタイムの短い貨物を航空輸送から陸上
輸送へシフトするケースが出てきた。
こうした動きを受けて日本ロジテムは今年三
月、バンコク〜ハノイ間で週一便の定期運行を
開始した。 現状ではバンコクからハノイまでの
輸送需要はあるものの、ハノイからバンコクに
戻る貨物はほとんどない。 それでもあえて積
極策をとったのは、インドシナ半島における中
長期的な事業展開をにらんでのことだ。
同社は海外戦略の照準を二〇一五年に定め
ている。 ASEAN自由貿易地域(AFT
A)では、一五年までにベトナムなど新規加
盟四カ国も含む全域で輸入関税が完全に撤廃
される。 それに合わせて域内の水平分業が進
み、国別に生産品目を再編・統合する動きも
出てくると予想されている。
「その結果、部品はもちろん完成品の陸上
貨物輸送の需要も一気に増える可能性がある。
それが究極の狙いだ」と飯島部長は強調する。
ローカル企業をグループ化
同社は昨年十一月、海外戦略の基軸となる
ベトナムに新たに子会社「ロジテムベトナムホ
ールディングス」を設立した。
事業会社の「NO2」とLVCは現在、ハ
ノイ、ホーチミン、ダナンに合わせて約十三
万平方メートルの倉庫を保有し、自社便だけ
で二八〇台の車両を運行している。 他に旅客
運送会社の「NO1」も四五〇台の車両を保
有する。 従業員数は合わせて二〇〇〇人近い。
新会社はこれらの事業会社を統括し資産を一
元管理する。
それと同時に現地のローカル企業に投資を行
うというもう一つの大きな使命を負っている。
これまでは輸送品質を重視して毎年事業会
社で増車を行い、傭車の利用はできるかぎり
抑えてきた。 しかし、すべてを自社所有する
やり方では事業拡大に限界がある。 近い将来
は3PL的な事業展開の必要性も出てくると
同社は考えている。
そこで今後は現地の優良な運送会社に資本
参加して、社員教育などを直接支援し、グ
ループ企業として育成を図る方針に転換する。
その役割を担うのが新会社だ。
既に昨年から現地子会社の社員教育も本格
化している。 「今まで会社が急成長するなか
でともすれば管理面がおろそかになってしま
っていた。 この時期に一から教育をやり直し
て管理を徹底し、基本の業務をきちんとこな
せる会社にしたい」と飯島部長は話す。
ベトナム進出のパイオニアとしてインドシナ
半島の陸上貨物輸送でも先手を打った同社は
今、ローカル企業のグループ化による次の事
業展開に向けて基盤固めの時を迎えている。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
で走行するのに対してベトナムとラオスでは
左ハンドルだ。 言語も国によって異なり、ト
ラブルが発生した時などコミュニケーションの
障害となる恐れがある。 こうした実態を考慮
するとむしろ中間のラオスで積み替えを行う
方が現実的だ。
そこで同社は橋の開通から一年足らずとい
うタイミングでラオスに法人を設立した。 「単
なる積み替え拠点が狙いならもっと貨物が動
き出してからでもよかったが、保税倉庫のラ
イセンスを取るため早いうちに出ることにし
た」と執行役員で国際本部の飯島隆国際部長
は説明する。
ロジテムラオスは、タイとの国境沿いにあ
るサワンナケット・セノ経済特区の保税エリ
アで最も早く保税倉庫事業の認可を取得し、
三万平方メートルの敷地に二棟の保税倉庫を
設けて営業を開始した。
バンコクで貨物を積んだトラックが東西回
廊の第二メコン国際橋を渡ってラオスに入
り、サワンナケットの保税倉庫で積荷を降ろ
し、ベトナムから来たトラックに積み替えて
目的地に向かう。 東西回廊の終点のダナンか
らは、ベトナムの「NO2」のトラックがハ
ノイとホーチミンへ定期運行しており、その
ルートを活用することもできる。
バンコクからハノイまで海上輸送では十二
日程度かかる。 これに対し、東西回廊を利用
すれば三日で運行が可能だ。 昨年秋にバンコ
クで国際空港が占拠され航空便の運航がスト
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