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佐高 信
経済評論家
AUGUST 2009 68
メディアの描く「現実」とナマの現実に乖離
があるのは致し方ないのかもしれないが、こ
れほどまでにと思わせるのが『創』八月号掲
載の「ドキュメント雨宮革命」である。 雨宮
処凛がある大学に招かれ、学生に次の四つの
質問をした。
一、将来、自分がホームレスになる可能性が
あると思いますか。
二、年末年始に開設された「派遣村」につい
てどう思いましたか。
三、あなたが感じた格差社会エピソードをひと
つ。
四、家なし、仕事なし、所持金一〇〇円、残
高ゼロ円、親とも恋人とも友達とも切れ
ている状態になった時、まずどうやって
現状を打開しようと思いますか。
それに対する答えに雨宮は驚いたが、メデ
ィアは驚く感性をもっているだろうか。
まず、「ホームレスになる可能性があると思
う」と答えた学生は六二人中、三七人。 コメ
ントの一つを挙げると──
「新卒で就職できなくてフリーターになった
ら、ますます就職できなくて、四〇才くらい
になると、アルバイトもできなくなって、そ
うなるとホームレスになるか、生活保護をも
らうしかない」
これが二年の男子学生である。
雨宮は「自分の世代と比較してもトンデモ
ないことだ」と思う。 バブルが崩壊し、就職
氷河期とかいう言葉が登場し始めた雨宮が
二〇歳の頃でも、自分が将来ホームレスにな
るのでは、と感じている若者はほとんどとい
っていいほどいなかったからである。
メディアが現実をしっかりとつかんでいなか
ったから、小泉・竹中のエセ改革に踊り、若
者たちをも踊らせた。 いまなお、それを反省
していないのが、特に『朝日』と『日経』で
ある。 それについては、高杉良と私の共著『罪
深き新自由主義』(金曜日)に詳述したので参
照してほしい。
次に「派遣村」の問題だが、この質問に対
しては「自己責任」派とそうでない派がはっ
きり分かれた。
前者派の二年の女子学生が興奮する。
「働こうと思えばいくらでも働ける。 今も福
祉や介護では人が足りない。 予測不可能の大
不況だったとはいえ、他人の施しを堂々と受け、
更に公的扶助を請求するなど厚顔無恥の極み。
余計なプライドが邪魔して就職できないくせに、
大事な所でプライドを捨てる。 実に愚か。 一
人で解雇されればオロオロ必死に職を探すの
に、集団心理は恐ろしい。 TVに出てる暇が
あるなら仕事を探せ、と言いたい。 税金を払
わないような奴が、公的援助を求めるなんて、
正直許せない。 全て自己責任。 努力を怠った
結果がこれ。 だから、正直『派遣村』なんて
要らないと思う。 何故、できることから始め
ない? 別にハンディキャップもない働き盛り
が、揃いも揃って何やってんだ馬鹿!と言い
たい。 そもそも沢山雇っても仕事が無いんだ
から、経営者の気持ちも考えて欲しい」
この学生は中小企業の経営者の娘なのか?
雨宮は、どうしてこれほど「赤の他人」に
怒ることができるのかと驚き、それはきっと
「派遣村」、あるいは失業者の存在が彼女の実
存的な部分を脅かすからだろう、と推測して
いる。
一方で、派遣村の試みを理解し、企業や政
治に対する怒りを持つ学生も多かった。
「派遣と関係ない人たちは、派遣社員にな
った労働者を責めていたけど、派遣制度をつ
くって、派遣社員として雇い、いらなくなっ
たらすぐ捨てる会社を許していた政府、官僚
に問題があったと思います」
ズバリとこう指摘したのは二年の女子学生。
最後の質問に関しては「自殺する」「罪を
おかして刑務所に入る」と答えた学生が六二
人中十二人にのぼった。 政治家や相田みつを
はこの人たちにも道徳を説くのか?
六割の学生が将来ホームレスになることを危惧
その異常さに驚く感性をメディアは持つのか
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