ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年9号
特別寄稿
緊急調査 08 年度決算ロジスティクス指標分析在庫量は2008年12月をピークに急減世界同時不況が日系メーカーの課題を露呈

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SEPTEMBER 2009  40 緊急調査 08 年度決算ロジスティクス指標分析 ?見える化?が在庫調整に一定の成果  今回の世界同時不況で最も大きな影響を被った のは、自動車、電機などのアッセンブリー型製造 業である。
このうち自動車については既に新聞や 雑誌等で繰り返し取り上げられているため、それ を除いたアッセンブリー型製造業について、世界 同時不況前後の財務指標の動きをロジスティクス の観点から見てみよう。
 対象とするのは東証業種区分が機械(事務用機 械器具、機械部品、産業用機械、製造設備、半 導体製造装置)、電気機器(総合電機、家電、電 子部品、電子部品─半導体、産業用電機機器)、 精密機器(光学・医療機器)で、一昨年度の売 上高が一〇〇〇億円以上のアッセンブリー型製造 業である。
 これらの企業全体の昨年度の対前年売上高は一 三%減、営業利益は八〇%減という極めて厳しい 結果となっている。
海外売上高比率が対象企業合 計で五〇%、平均でも四九%と、極めて高いこれ ら業種において、欧米の景気後退が業績に及ぼし た影響が大きかったことは想像に難くない。
 各業種別の営業利益率、在庫日数、売掛日数、 買掛日数、「CCC(キャッシュ・コンバージョ ン・サイクル、編集部注:企業の運転資金の効率 を測る指標の一つで、原材料の代金支払日から、 その原材料を使って生産した製品の販売代金を回 収するまでの日数。
本誌〇九年六月号参照)」を 表1、表2に示した。
 このうちオペレーションの収益性を示す営業利 益率は、年間ではプラスの業種が多いが、第4四 半期のみで見るとほとんどがマイナスで、事業環 境の厳しさを物語っている。
日数関連の指標で特 に目立つのは第4四半期を前期と比較した時の買 掛日数の極端な減少である。
四半期ベースで買掛 日数が減っているのは購買を絞っているからであ る(四五頁囲み記事も参照のこと)。
 他の指標についても昨年度は年度中に事業環境 が急変したため、年度末と各四半期決算では、そ れぞれの数値が大きく乖離している。
こうした場 合に企業実態を外部から分析するには、四半期ご との決算短信の動きを見る必要がある。
そこから 昨年度の在庫管理は概ね次のように推移したと説 明できる。
 景気が好調だった第1四半期は、昨年度末と比 較して在庫の積み増しを行った。
第2四半期では 在庫を昨年度末の状況に戻した。
世界同時不況 に見舞われた第3四半期は、各社とも急激に在庫 が積み上がった。
しかし今年三月末には、それら の在庫を削減して、ほぼ昨年度末の水準に戻すこ とができた(図1)。
 今回の対象企業のうち耐久消費財を中心に製造 し、かつロジスティクスが優れているといわれる 数社にインタビューを行ったところ、各社とも一 〇月に不況を察知してトップが号令を出し、急速 な生産調整に着手したという。
その結果、在庫日 数は十二月末をピークとしてその後は急速に削減 され、今年三月末には生産調整はほぼ一段落した との回答を得た。
 このクラスの規模の他の企業においても、多く が在庫と販売状況の変化を見て、急速に舵取りを 行ったと推測される。
売り上げが数割という単位 で急速に落ち込む中、年度末までに在庫を削減す るために行った担当者の苦労は想像に難くない。
梶田ひかる アビームコンサルティング 経営戦略研究センター マネージャー  08年度決算の結果を見る限り、売上高1000億円以上のアッセン ブリー型日系メーカーは、世界同時不況の発生から半年以内に在庫 調整を済ませている。
サプライチェーンの“見える化” が一定の成 果を挙げた格好だ。
その一方、直面する不況は日系メーカーのロジ スティクスの課題をいくつも露呈させている。
在庫量は2008年12月をピークに急減 世界同時不況が日系メーカーの課題を露呈 41  SEPTEMBER 2009 各社の管理実態には大きな差  今回の調査を開始するに際し、筆者はアッセンブ リー型製造業の多くは在庫が過剰になっているはず と予想していた。
だが、各社の決算短信が発表さ れるにつれ、認識を改めさせられることになった。
業種によって若干の違いはあるが、全体として在 庫調整はかなりスピーディに処理されたと言える。
 このことから、SCMにおいて長らくテーマと されてきた「可視化」、「見える化」の第一段階は、 レベルの差こそあれ、実現されたと評価できるだ ろう。
可視化が進んだ背景には、連結会計とSO X法がある。
これに対応するため、この規模の企 業ではほとんどが注文、販売、在庫などの状況を グローバルかつデイリーで把握できるようになっ ている。
 しかし、業種全体で見れば在庫調整 はうまくいっているように見えても、そ の内情は企業によって大きく異なってい る。
とりわけ在庫削減がロジスティクス の考え方に則って行われたかという点に 関して、筆者は次のような疑念を抱いて いる。
■■財務の締めの影響  四半期ごとの在庫の動きを見ると、財 務状況が注目される半期末、年度末に は各社とも在庫を絞る傾向が顕著に現れ ている。
三月決算と比べて企業数は少 ないが、十二月決算の場合には、十二 月末に在庫が少なくなり、四半期末と なる三月末には逆に在庫の増える傾向が ある。
 財務諸表の見栄えを良くするために、 期末に在庫を絞るというクセが、依然と してまだ多くの企業に残っているという ことだ。
これは在庫を市場の需要変動 に常に連動させることを目指すロジステ ィクス管理の考え方とは逆行している。
■■在庫削減方法の問題  昨年末から今年にかけて世間では大 総合電機 家電 事務用機械器具 機械部品 電子部品 電子部品‐半導体 光学・医療機器 産業用機械 産業用電気機器 製造設備 半導体製造装置 アッセンブリー業平均 表1 アッセンブリー型製造業の運転資金関連指標─会計年度比較 4.0% 58 80 81 64 0.0% 59 72 66 68 4.6% 60 59 64 56 -0.9% 62 53 46 65 6.0% 53 60 58 56 2.3% 55 57 52 59 7.2% 59 74 67 66 3.0% 61 83 46 90 7.4% 54 74 59 70 -0.2% 52 63 40 74 14.3% 58 82 60 72 1.4% 61 61 41 68 10.9% 109 87 81 103 7.0% 113 78 70 104 9.1% 109 98 80 115 -0.8% 112 89 63 123 6.5% 91 100 83 104 3.0% 89 95 69 109 14.1% 127 105 92 128 8.9% 144 90 60 141 10.4% 139 94 102 119 2.1% 153 80 65 143 総合電機 家電 事務用機械器具 機械部品 電子部品 電子部品‐半導体 光学・医療機器 産業用機械 産業用電気機器 製造設備 半導体製造装置 業種分類 営業利益率 在庫日数 売掛日数 買掛日数 CCC 2007 年度 営業利益率 在庫日数 売掛日数 買掛日数 CCC 2008 年度 表2 アッセンブリー型製造業の運転資金関連指標─第4 四半期比較 図1 日系アッセンブリー型製造業の在庫推移(2007 1Q 〜 2008 4Q) 7.1% 47 64 66 51 -0.9% 54 68 60 64 4.3% 66 61 65 61 -11.5% 65 61 51 74 6.0% 53 61 57 58 -4.4% 59 67 58 66 7.6% 58 69 64 63 -3.8% 85 79 58 100 5.5% 56 79 61 74 -20.6% 67 89 48 109 9.6% 56 81 58 73 -35.1% 61 84 53 92 10.3% 99 80 72 95 2.5% 117 82 68 113 7.8% 104 87 72 107 -25.5% 102 96 63 128 9.4% 73 79 67 83 2.5% 82 84 59 101 14.7% 114 89 69 114 -0.8% 155 101 56 172 8.4% 136 91 92 121 -8.5% 202 113 95 201 総合電機 家電 事務用機械器具 機械部品 電子部品 電子部品‐半導体 光学・医療機器 産業用機械 産業用電気機器 製造設備 半導体製造装置 業種分類 営業利益率 在庫日数 売掛日数 買掛日数 CCC 2007 年度第4 四半期 営業利益率 在庫日数 売掛日数 買掛日数 CCC 2008 年度第4 四半期 250 200 150 100 50 0 (日) 07 1Q 07 2Q 07 3Q 07 4Q 08 1Q 08 2Q 08 3Q 08 4Q 2007 年度売上高が1000 億円以上の上場企業で東証業種区分が機械・電気機器・精密機器 ロジスティクス能力比較が困難な一部業種(プラント製造、アミューズメント機器製造)を除く 業種区分は各社の最も売上高の大きいセグメントの属する業種に割り当てている SEPTEMBER 2009  42 統一している段階だと推測される。
企業(事業 部)によっては、製品コードの統一すらなされて いないところもある。
比較的取り組みの進んでい る企業であっても、近年になって買収した海外子 会社などは、コードの統一から外れたまま放置さ れているケースが多く見られる。
 もちろん本社でSKU単位まで把握できていな い状態でも、グローバルに在庫削減を進めること は、ある程度までは可能である。
売上高、棚卸資 産といった費目単位でデイリーの実態がわかると いうレベルでも、売り上げが急激に落ちているこ とや、在庫過剰分がどれくらいの金額になってい るのかはわかる。
 極論を言えば、経営トップが「コストを削減せ よ」、「在庫を削減せよ」と指令するだけで、具体 的な方策は事業部や子会社にそれぞれ考えさせる という方法であっても、全く機能しないわけでは ない。
ところが実際にはそれさえも行わなかった 企業が珍しくないようだ。
 先に紹介した「昨年一〇月にトップが生産調整 の指示を出した」という企業など、全体から見れ ば、ほんの一握りに過ぎない。
多くは事業部単 位、工場単位で状況を察知し、各部門の判断で 対策を開始し、後になってトップからコスト低減、 在庫削減の指示が出た、というところであろう。
その一〜二カ月の差が結果的には、各社の年度末 の財務諸表を大きく左右する原因となった。
露見したロジスティクス問題  業績の悪化は、好調なときには見えなかったロ ジスティクスの諸問題を露呈させる。
今回の世界 同時不況では、日系メーカーの次のような課題が しく増えている。
 設備機器関連のメーカーは一般に受注生産方式 をとっている。
それにもかかわらず在庫が増加し たのは、注文を受けて生産に着手した後にキャン セルが多発したことが原因であるようだ。
その結 果、設備機器メーカーの多くは今年度に入っても 在庫調整に追われる状況にある。
■■規模による違い  今回の不況では、大手メーカーの不振が各所で 取り上げられたが、中小に比べて大手のほうがダ メージが大きかったというわけではない。
企業規 模とロジスティクスのコントロールのしやすさの関 連を調べたところ、在庫の推移、営業利益率推移 などに大きな特徴は見られなかった。
 しかし、売上高の下落率については顕著な違 いが見られた。
前述の通り、今回の分析対象と した企業群では、全体で売上高が対前年マイナス 十三%であったが、一昨年度の年商が一〇〇〇 億以上で昨年度に一〇〇〇億以下となった企業 群では、売上高が三割以上も下落している。
規 模の小さな企業ほど、大きく不況の波を受けたこ とになる。
■■可視化レベルの違い  可視化のレベルも、企業によって大きな差が ある。
グローバルな在庫の実態をSKU( Stock Keeping Unit)単位で把握するには、製品だけ でなく部品のコードまでグローバルに統一する必 要がある。
しかし、それを実現している企業は残 念ながら多くはない。
 現状のマジョリティはおそらく製品のみコード 手メーカーの派遣切り問題が大きくクローズアッ プされた。
同様に在庫についても、かなり強引な 削減手段がとられている。
 たとえば原材料・部品メーカーでは、今年度に 入ったとたんに、昨年度末に先送りされていた注 文がどっと押し寄せたという話が多く聞かれた。
総量発注の残りを次年度に回して必要な購買まで 先送りし、売れ筋製品の在庫もぎりぎりまで絞る ことで、棚卸資産を無理矢理下げた可能性が高 い。
購買量そのものを絞った結果が、おそらく表 2における第4四半期の買掛日数低下の理由であ ろう。
 ただし、支払いサイトを変更して買掛期間を長 期化したり、売掛期間が長期化されたというケー スは、今回の調査対象となった企業においては見 られなかった。
これは調査対象が年商一〇〇〇億 円以上の大手企業であり、コンプライアンスが徹 底されているためだと考えられる。
この規模以下 の中小企業では、買掛・売掛期間の長期化はか なりの割合で行われたと想定される。
■■業種による違い  不況の波は川下から川上に向けて押し寄せる。
今回の分析結果にも、そのことがよく表れてい る。
耐久消費財メーカーは年度末までに在庫調整 を終えている。
だが、そのサプライヤーとなる部 品メーカーは、第3四半期よりも第4四半期の方 が、微増ながら在庫日数を増やしている。
 さらに上流に位置する、耐久消費財や部品を製 造するメーカーなどに製品を納めている設備機器 関連のメーカーでは、いっそうその傾向が顕著に なっている。
年度末の在庫が昨年度と比較して著 43  SEPTEMBER 2009 日系メーカーが直面する課題  アッセンブリー型製造業の市場環境の急速な変 化は、世界同時不況の前から始まっていた。
グロ ーバリゼーションの進展によって、サプライチェー ンをスピード化し、条件の変化に対応する柔軟性 を持たせることが、強く求められるようになって きているのである。
これに伴い、ロジスティクス 管理のあり方も大きく変容を迫られている。
 ここではアッセンブリー型製造業を、完成品(耐 M&Aなどで、急速に事業規模を拡大した。
生産 拠点・生産能力は大幅に増加した。
そこに行き過 ぎのあったことが、今回の不況で明白になってし まった。
 生産拠点の新設・統廃合は、ロジスティクスの 管轄外と思われる読者も多いであろう。
しかしな がら、グローバル競争においては、生産能力のコ ントロールはロジスティクス管理部門の担当する 領域であることが常識となっている。
■■リードタイムの長期化  アッセンブリー型製造業は製造原価に占める人 件費の割合が高いため、グローバリゼーションに よってロジスティクスのフローが距離的に長く伸び る傾向がある。
ただし、柔軟にネットワークを組 み替え、新たな輸送技術を活用し、輸出入処理シ ステムを高度化させることで、リードタイム自体 はかなり短縮できる。
ところが、急速な生産拠点 の増加や販売先の変化に、ロジスティクス・ネッ トワークの組み替えが追いついていない。
■■海外販社の需給管理機能の脆弱性  図2に、海外売上高比率と在庫日数との関連を 示した。
海外売上高比率が高いほど在庫日数が多 いという傾向が、顕著に現れている。
奇妙といわ ざるを得ない結果である。
海外売上高比率の高い メーカーでは、たとえば欧州向け製品は東欧など 欧州域内での生産に切り替えてきている。
それだ けリードタイムは短縮され、在庫は減るはずであ る。
それが逆の結果を招いているという事実は、 海外販社の需給コントロールの脆弱さを物語って いる。
浮かび上がることになった。
■■ロジスティクス改善活動の停滞  今回調査対象とした企業群では、特に二〇〇 〇年代に入ってからロジスティクス管理の低迷が 目立っていた。
組織改革がその主な原因だ。
日本 の大手メーカーの多くは物流子会社を保有してい る。
そこに管理機能を移管し、本体からロジステ ィクス管理部門を無くすケースが相次いだ。
 本体にロジスティクス管理部門を残した場合で も、その管理対象は輸配送や輸出入関連が中心と なってしまい、生産・販売など社内の複数部門間 での調整を要する需給適正化等の活動は行わなく なってしまっている。
後に本社ロジスティクス管 理部門を復活させたところもあるが、メンバーの 顔触れは入れ替わり、過去に培ったノウハウは継 承されていない。
 顕著な一例が、サプライヤー集約や部品共通化 である。
これらの施策は九〇年代後半に家電メー カーを中心に着手されたものである。
当時、ロジ スティクスにおいて次に行うべき施策と言われ、 他業界にも広がるものと思われていたにもかかわ らず、好景気に入ったとたんに見向きもされなく なっていた。
それが今年度に入って、家電メーカ ーで改めて取り組まれ、他業界でも着手されてい る。
継続的な改善活動が行われてこなかった証拠 であろう。
■■生産能力増加に関するチェックの弱さ  現在の設備過剰は、なるべくしてなったと言 わざるを得ないところがある。
日本のアッセンブ リー型メーカーはここ数年、積極的な海外進出や 10% 未満 10〜30% 30〜40% 40〜50% 50〜60% 60〜70% 70〜80% 80%以上 200 180 160 140 020 100 80 60 40 20 0 07 4Q 08 1Q 08 2Q 08 3Q 08 4Q 図2 海外売上高比率と在庫日数推移 (在庫日数) 緊急調査 08 年度決算ロジスティクス指標分析 SEPTEMBER 2009  44 通信機器、発電機など、企業間で販売される機 器を指す。
この分野でも、サプライチェーンのス ピード化に対応すべく、すでにさまざまな取り組 みが行われている。
たとえば機器をコンポーネン ト化して在庫し、ユーザーニーズに応じてコンポ ーネントを組み合わせて短納期で納品する体制を とる企業が出てきている。
 さらに近年急速に増えているのが、設備をフル セットで一括供給するいわゆる「ターンキービジ ネス」である。
(編集部注:ターンキーとは、カ ギを回すとすぐに動く、完成品としてすぐに利用 できるという意味)  従来、完成品メーカーは製造ラインの新設・増 設に当たって、それぞれの設備の細かな仕様を検 討し、各設備機器メーカーに発注してきた。
それ だけ時間と費用が多くかかった。
それに対してタ ーンキー方式は、製造設備一式を購入して、ただ ちにその生産を開始できる。
設備によっては、原 材料の供給や副産物の処理までを一括で手がける ケースも出てきている。
 ターンキービジネスは二〇〇〇年代前半から、 欧州メーカーを中心に通信機器や半導体などの分 野で行われてきた。
それが近年では発電設備な ど、他の分野にまで急速に拡大してきている。
そ れが完成品メーカーにまで影響を与えている。
 たとえば、欧州メーカーによってターンキー型の 太陽光発電製造設備が登場したことで、これまで 市場を牽引してきた日系メーカーの太陽光発電パ ネルのシェアは急速に落ちている。
その結果、日 系の設備機器メーカーは特に急拡大する新興市場 で苦戦している。
これはすなわち、グローバル市 場でのシェアを失いつつあるということである。
としてしまうのである。
 もちろんこの問題は、すべての製品に当てはま るわけではないし、ロジスティクスのみで解決で きる話でもない。
しかしながら、日系完成品メー カーがロジスティクスの管理対象領域である供給 能力の確保に課題を抱えていることは否定できな い事実である。
部品メーカー 需要予測  世界同時不況の影響で、部品メーカーは現在「ラ ッシュオーダー」に悩まされている。
受注から納品 までのリードタイムが極端に短く、かつ大量のオー ダーが増加している。
これに応えられる能力がな ければ、売上機会をみすみす逃してしまうことに なる。
 部品メーカーの仕組みは受注生産を基本に構築 されているが、それのみでは顧客の要求に応えら れない。
そのため実際には営業の販売計画をベー スとした見込み生産が従来から行われてきた。
た だし、耐久消費財の見込み生産が統計を用いた需 要予測をベースにしたものであるのに対し、部品 メーカーの見込み生産は、端的に言えば営業の指 示通りの数量を作るものであった。
そのため、こ の業界には需給管理部門が存在しない企業が多い。
 その仕組みでは、今直面している「ラッシュオ ーダー」には対応できない。
解決策として考えら れるのが、耐久消費財で行われているような需給 管理の導入である。
需要予測をベースとした見込 み生産への変革が部品メーカーに求められている。
設備機器メーカー ターンキービジネス  ここでいう設備機器とは、生産設備のみならず 久消費財)、部品、設備機器の三つに分類し、そ れぞれの顕著な動向を簡単に紹介しておこう(図 3)。
完成品メーカー スピード化  完成品メーカーの抱えている最も大きな課題は、 変化のスピードに対応できていないことである。
ここ数年の「ものづくり白書」でも、この問題は 大きく取り上げられている。
 日系メーカーは、新たな製品の種を蒔き、育て る段階では比較的優位にある。
しかしながらその 後、市場が急激に拡大する成長期を迎え、低価格 製品を投入して大量販売が必要になる段階でシェ アを落としてしまう。
ボストンコンサルティング グループのプロダクトポートフォリオでいう「金の 成る木」を「スター」にさせられずに「問題児」 図3 ハイテク産業のSCM に起きている変化 アッセンブリー型製造業 市場変化の スピード化 新興国市場 の急成長 サプライチェーンのスピード化・柔軟化 部品メーカー ラッシュオーダー ( 短納期大量納品) 設備機器メーカー コンポーネント化 「ターンキー」販売 完成品メーカー 開発・生産の スピード化 45  SEPTEMBER 2009  そして二つ目が徹底した標準化である。
標準化 は柔軟な事業の組み替えを実現する有力な武器と なる。
買収した企業にこの標準を適用することに より、早期に買収効果を得ることが可能になる。
 日系家電メーカーの強力なライバルとなってい るサムスン電子の強さの秘訣は標準化の徹底にあ るともされている。
同社ならずとも、グローバル で急速に規模を拡大し成長している企業であれ ば、必ずと言っていいほど取り組んでいる施策で ある。
 グローバルな標準化の推進は、業務コストを低 減し、可視性を高める。
さらにはグローバルなシ ェアードサービスの導入、需給管理や生産計画の 一元化などの大胆なコスト低減策の実施につなげ ることができる。
 世界各地の市場の独自性と標準化は決して相反 するものではない。
現地の市場特性や労働環境、 法規制などに対応する一方で、可能な限り標準化 を徹底することにより、時代のスピードに対応し た、柔軟なロジスティクスが実現可能となるので ある。
方向性についてはすでに多くの指摘がなされてい る。
これらに加え、次の二つを提案することで本 稿の締めとしたい。
 一つはロジスティクス管理の強化である。
これ まで指摘してきたように、今回の調査対象となっ た業界では、ロジスティクス管理の弱体化が目立 っている。
グローバリゼーションの目的は最適地 生産・最適地販売の実現である。
そのためには早 急にロジスティクス管理を強化する必要がある。
 ユーザーはサプライチェーン全体をカバーするソ リューションを求めるようになってきている。
「機 械売り」から「ソリューション提供」への転換が 設備機器メーカーの一つの方向性である。
いま取り組むべき二つの施策  このほかにも、研究開発投資をペイできる規模 の確保やグローバルシェアの拡大、そのための人 材の確保など、日本の製造業がこれから進むべき  世界同時不況に見舞われた昨年度は各所で在庫 過剰が叫ばれていた。
ところが、今回の調査対象 となった各社の年度末の決算指標を従来通りの方 法で分析しても、その影響は見えてこない。
年度 末のバランスシートの値をもとに、年間売上高や 売上原価を用いて算出した在庫、売掛、買掛、C CCの各日数が、前年よりも著しく減少した企業 が多発したのである。
 からくりはこうだ。
日本企業は三月期決算が多 いため、世界同時不況の影響をちょうど下半期に 受けている。
仮に下半期の売り上げが前年比で二 割落ちたとすると、年間売上の減少幅は一割だ。
しかし、売れ行きに合わせて下半期に在庫を二割 削減すれば、期末時点の在庫金額、売掛金、買 掛金は前年度より二割減る。
その結果、年間売上 高をベースに計算した在庫、売掛、買掛の各日数 は一割強も少なくなってしまう。
年度後半で購買 を一割絞れば、買掛日数はさらに一割減る。
 これと同様に、経営財務指標であるROE (Return On Equity:自己資本利益率)やROA (Return On Asset:総資産利益率)についても、 対売上高営業利益率が低下しているにもかかわら ず、値の悪化が少ない企業がみられた。
売上減に 連動した運転資金の圧縮に加え、現金の減少、有 価証券の下落などにより、分母となる資産そのも のが減ったことが原因だ。
 つまり、昨年度は急激な自己資本比率の低下が ROAやROEを高止まりさせたのであって、収 益性が維持されたわけではない。
多くの企業で株 主への貢献指標として採用されているROEが、 経営実態を見誤らせる原因になる可能性がある。
この問題は市場関係者からもかねてから指摘され ている。
 いずれにせよ企業業績はもはや、年度末の状況 のみでは判断できなくなってきている。
今回の世 界同時不況が経済のグローバル化・スピード化に より起こったのだとすれば、経営実態数値の把握 もまた、スピード化する必要があるといえる。
08 年度決算の奇妙な現象 梶田ひかる(かじた・ひかる) 一九八一年、南カリフォルニア 大学OR理学修士取得、同年 日本アイー・ビー・エム入社。
九一年、日通総合研究所入社。
二〇〇一年、デロイトトーマツ コンサルティング(現アビーム コンサルティング)入社。
現在 に至る。
電気通信大学大学院情 報システム学科学術博士。
中 央職業能率開発協会「ロジス ティクス管理」のテキスト監修 のほかSCM関連の著書多数。
緊急調査 08 年度決算ロジスティクス指標分析

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