2009年10月号
特集
特集
第5部 「手厚い物流サービスが小売をダメにする」
OCTOBER 2009 24
毎日発注しても欠品は減らない
──物流取引条件の課題は?
「納期や発注単位、付帯作業の在り方などが明確に
取り決められていないことです。
小売りからすればど んな注文の仕方をしても仕入れ価格が変わらないので、 物流サービスに対する要求がどんどんエスカレートし ていきます(図1)。
当然、卸売業者には大きなコス ト・作業負荷がかかりますが、そこはまさに血と汗 と根性で乗り切る。
そういった関係が商慣習として定 着しています」 「その結果としての過度な物流サービスが、むしろ 小売りの店頭をダメにしています。
例えば毎日商品が 届けば欠品が無くなると思われていますが大きな誤り です。
店頭で的確に販売動向をつかんで発注しない 限り欠品を防ぐことはできません。
ところが多くの店 頭では発注作業を軽視する傾向がみられます。
パート 社員に任せて、その人の記憶やカンを頼りに発注して いる店頭が珍しくない」 「取引条件が明確に設定されていないために、『い つでも、いくらでも発注できる』という意識が働い てしまうのです。
これではいつまでたっても発注精 度は上がりません。
同様に一個単位で配送されれば 在庫効率が改善するというのも間違いです。
売れな い商品まで発注してしまい、結果的に在庫効率は悪 いままです」 ──それでも手厚い物流サービスにはメリットもある はずです。
「現に短納期・多頻度小口の発注をしている店舗で も、欠品や過剰在庫が解消されていないケースは珍し くありません。
それどころか商品整理に時間を取ら れたり、仕様を少し変えただけの新製品でも次々と卸 に少量で納品させることにより、アイテム数が無作為 に増加して?アイテムの拡散?が起こってしまってい ます」 「同じチェーンの中でも、アイテムを絞り込まず多 頻度少量発注を繰り返す店とそうでない店を比べると、 売り上げ、コスト効率ともに明らかに違います(図 2)。
手厚い物流サービスが、かえって小売りにとっ てデメリットになっていることがあるのです。
非常に 大きなムダのある状態になっています」 ──是正する方法は。
「取引条件を明確にし、卸と小売りがそれぞれの 責任を果たすことです。
例えば?店着価格ではなく 物流費別の倉庫渡し価格を採用する?、?納期は翌日?、 ?当日オプションは三五〇円?、?発注は五個単位か ら?、?付帯作業には別途料金?などと決めておく。
特 に倉庫渡し価格にすれば、小売りは注文の仕方によっ て支払い物流費が変わるので、店舗の販売動向を検 証して効率的な発注の方法を考えるようになる。
結 果、余分な発注が無くなり過剰在庫や欠品の減少に 繋がるはずです」 ──取引条件の変更を小売りはすんなりと受け入れる でしょうか。
「卸側から新たな取引条件を提案する場合は、小売 りにもメリットを示すことが重要です。
例えば『毎日 配送を見直してくれれば納品価格をこれだけ引き下げ る。
さらに店舗での受け入れ業務が軽減され、無為 なコストが不要になる』というような提案をする。
卸 の存在意義は『リテールサポート』ですが、その意味 は小売りの言うことを何でも聞くということではあり ません。
特に今は小売りのコスト削減意識が高い時期 なので提案しやすい状況と言えます」 「小売り側でも現行の取引条件に疑問を持ち、改善 「手厚い物流サービスが小売をダメにする」 小売業のコスト削減意識が高まっている。
今こそ物流 の取引条件にメスを入れる時だ。
先進的な卸は既に着手 している。
取引条件の変更によって小売りが得られるメ リットを説得力のあるデータで明確に示すことで、WINWIN の関係を構築することに成功している。
(聞き手・梶原幸絵) 内田明美子 湯浅コンサルティング コンサルタント 第5部 25 OCTOBER 2009 を模索する動きが活発化しているようです。
そもそ も店舗の販売動向がわからない、詳細なデータもない、 売上予測にも自信が無い、だから当日配送や一個単 位の配送を要求するというのは商品の受け手としての 責任を果たしているとは言えません」 「セブン─イレブンの弁当一日三便配送やトヨタのJ ITなどは、商品の受け入れ側である彼らが十分に仕 組みを整備し、高い発注精度を備えているからこそ 機能しているものです。
それが無いまま表面だけを 真似ても、うまくはいきません」 ——理論はわかりますが、既存の商慣習を簡単に打 破できるものでしょうか。
「既に具体的な実例も出始めています。
ある食品卸 は物流ABC(Activity-Based Costing:活動基準原 価計算)を用いて顧客別採算を把握しています。
特 定の顧客が他の顧客と比較してコストがかかっている と判断した場合、『九時の時間指定をやめてもらえた ら、これだけ納価を安くできます』といった提案をし ている」 「顧客にとっては仕入れ価格が下がるというメリッ トがあるので、提言に対する関心は高くなる。
注目 すべきはその食品卸の営業マンが物流サービスのコス トをしっかり把握しており、サービス是正によるコス ト削減額の範囲内に納品価格の引き下げを抑えている ことです」 「また、あるカジュアル衣料卸は顧客の販売動向を 徹底的にリサーチし、それに合わせた納品をすること で物流サービスを是正することに成功しています。
以 前の顧客の発注方法は『自店に置いてあった商品が いくつ売れたか』というデータだけが頼りで、『一枚 売れたら一枚発注』という発注スタイルが普通でした。
卸側では多頻度少量の納品により物流コストが上昇し、 店頭では商品のサイズ・色切れといった欠品が多発し ていました」 「そこで店舗ごとのPOSデータと在庫データを分 析し、一週間単位の商品供給計画を顧客に提示。
こ れをベースとした納品を行うことにしました。
顧客の 発注は基本的に供給計画を確認し修正するだけで済 むようになり、店舗側の発注・品出し作業は軽減し、 店頭での欠品も無くなりました。
衣料卸側は一週間 分の商品をまとめて計画的に納品できるので、物流 コストの抑制に大きく貢献しました。
売上高物流費比 率はカジュアル衣料としては異例の四・六%を実現し ているといいます」 説得力のあるデータを示せ ──取引条件の変更は卸側から提案した方が良いので しょうか。
「もちろん効率化されればどちらからの提案でも良 いのですが、小売り側から申し入れると力関係上、納 品側に不利になりがちです。
そういう意味では卸が しっかりデータをもって提案する方がベターかもしれ ません」 ──そういった提案ができるのは、やはりある程度大 きな卸会社? 「そんなことはありません。
先述した実例の卸会社 も企業規模は決して大きくはありませんし、自分達 より規模の大きな小売りに提案している例はたくさん あります。
規模が相手より小さいから不利だという ことはありません。
重要なのは情報分析をしっかり やり、取引条件を変更することで小売りが得られる メリットを明確に示し、相手を納得させることができ るかどうか。
互いにWIN─WINの関係であること を示せるかどうかだと思います」 図2 物流サービスが店頭の在庫回転向上を阻害すること がある 図1 短納期・多頻度・小口の出荷が日常的に行われている 多頻度少量注文を繰り返しているB 店 同じチェーンのA 店と比べて売上0.6 倍、コスト1.7 倍 取扱アイテム数 注文行数 1 アイテム当たり売上 売上金額 出荷コスト/売上金額 納期出荷頻度出荷単位 24 時間未満 28.2% 週に5 回 以上 24.7% バラ 33.8% ケース 50.5% 週に3 回 〜4 回 26.3% 週に1 回 〜2 回 49.0% 内箱、 その他 15.7% 24 時間以上 47.0% 取り決め なし 24.8% 受注から24 時間未満の 納品が3 割弱ある 週5日以上(毎日)の納品が 4 分の1ある バラ単位の出荷(ケース箱 などを小分けしてすっかする もの)が3 分の1ある A店 36 アイテム 114 行 (1 個注文:6 行) 5,109 円 183,913 円 3.20% B店 63 アイテム 196 行 (1 個注文:95 行) 1,655 円 104,236 円 5.30% 出所:「中小商業者による物流効率化のための連携体の構築に 関する調査研究(2007 年度中小企業庁)」より
小売りからすればど んな注文の仕方をしても仕入れ価格が変わらないので、 物流サービスに対する要求がどんどんエスカレートし ていきます(図1)。
当然、卸売業者には大きなコス ト・作業負荷がかかりますが、そこはまさに血と汗 と根性で乗り切る。
そういった関係が商慣習として定 着しています」 「その結果としての過度な物流サービスが、むしろ 小売りの店頭をダメにしています。
例えば毎日商品が 届けば欠品が無くなると思われていますが大きな誤り です。
店頭で的確に販売動向をつかんで発注しない 限り欠品を防ぐことはできません。
ところが多くの店 頭では発注作業を軽視する傾向がみられます。
パート 社員に任せて、その人の記憶やカンを頼りに発注して いる店頭が珍しくない」 「取引条件が明確に設定されていないために、『い つでも、いくらでも発注できる』という意識が働い てしまうのです。
これではいつまでたっても発注精 度は上がりません。
同様に一個単位で配送されれば 在庫効率が改善するというのも間違いです。
売れな い商品まで発注してしまい、結果的に在庫効率は悪 いままです」 ──それでも手厚い物流サービスにはメリットもある はずです。
「現に短納期・多頻度小口の発注をしている店舗で も、欠品や過剰在庫が解消されていないケースは珍し くありません。
それどころか商品整理に時間を取ら れたり、仕様を少し変えただけの新製品でも次々と卸 に少量で納品させることにより、アイテム数が無作為 に増加して?アイテムの拡散?が起こってしまってい ます」 「同じチェーンの中でも、アイテムを絞り込まず多 頻度少量発注を繰り返す店とそうでない店を比べると、 売り上げ、コスト効率ともに明らかに違います(図 2)。
手厚い物流サービスが、かえって小売りにとっ てデメリットになっていることがあるのです。
非常に 大きなムダのある状態になっています」 ──是正する方法は。
「取引条件を明確にし、卸と小売りがそれぞれの 責任を果たすことです。
例えば?店着価格ではなく 物流費別の倉庫渡し価格を採用する?、?納期は翌日?、 ?当日オプションは三五〇円?、?発注は五個単位か ら?、?付帯作業には別途料金?などと決めておく。
特 に倉庫渡し価格にすれば、小売りは注文の仕方によっ て支払い物流費が変わるので、店舗の販売動向を検 証して効率的な発注の方法を考えるようになる。
結 果、余分な発注が無くなり過剰在庫や欠品の減少に 繋がるはずです」 ──取引条件の変更を小売りはすんなりと受け入れる でしょうか。
「卸側から新たな取引条件を提案する場合は、小売 りにもメリットを示すことが重要です。
例えば『毎日 配送を見直してくれれば納品価格をこれだけ引き下げ る。
さらに店舗での受け入れ業務が軽減され、無為 なコストが不要になる』というような提案をする。
卸 の存在意義は『リテールサポート』ですが、その意味 は小売りの言うことを何でも聞くということではあり ません。
特に今は小売りのコスト削減意識が高い時期 なので提案しやすい状況と言えます」 「小売り側でも現行の取引条件に疑問を持ち、改善 「手厚い物流サービスが小売をダメにする」 小売業のコスト削減意識が高まっている。
今こそ物流 の取引条件にメスを入れる時だ。
先進的な卸は既に着手 している。
取引条件の変更によって小売りが得られるメ リットを説得力のあるデータで明確に示すことで、WINWIN の関係を構築することに成功している。
(聞き手・梶原幸絵) 内田明美子 湯浅コンサルティング コンサルタント 第5部 25 OCTOBER 2009 を模索する動きが活発化しているようです。
そもそ も店舗の販売動向がわからない、詳細なデータもない、 売上予測にも自信が無い、だから当日配送や一個単 位の配送を要求するというのは商品の受け手としての 責任を果たしているとは言えません」 「セブン─イレブンの弁当一日三便配送やトヨタのJ ITなどは、商品の受け入れ側である彼らが十分に仕 組みを整備し、高い発注精度を備えているからこそ 機能しているものです。
それが無いまま表面だけを 真似ても、うまくはいきません」 ——理論はわかりますが、既存の商慣習を簡単に打 破できるものでしょうか。
「既に具体的な実例も出始めています。
ある食品卸 は物流ABC(Activity-Based Costing:活動基準原 価計算)を用いて顧客別採算を把握しています。
特 定の顧客が他の顧客と比較してコストがかかっている と判断した場合、『九時の時間指定をやめてもらえた ら、これだけ納価を安くできます』といった提案をし ている」 「顧客にとっては仕入れ価格が下がるというメリッ トがあるので、提言に対する関心は高くなる。
注目 すべきはその食品卸の営業マンが物流サービスのコス トをしっかり把握しており、サービス是正によるコス ト削減額の範囲内に納品価格の引き下げを抑えている ことです」 「また、あるカジュアル衣料卸は顧客の販売動向を 徹底的にリサーチし、それに合わせた納品をすること で物流サービスを是正することに成功しています。
以 前の顧客の発注方法は『自店に置いてあった商品が いくつ売れたか』というデータだけが頼りで、『一枚 売れたら一枚発注』という発注スタイルが普通でした。
卸側では多頻度少量の納品により物流コストが上昇し、 店頭では商品のサイズ・色切れといった欠品が多発し ていました」 「そこで店舗ごとのPOSデータと在庫データを分 析し、一週間単位の商品供給計画を顧客に提示。
こ れをベースとした納品を行うことにしました。
顧客の 発注は基本的に供給計画を確認し修正するだけで済 むようになり、店舗側の発注・品出し作業は軽減し、 店頭での欠品も無くなりました。
衣料卸側は一週間 分の商品をまとめて計画的に納品できるので、物流 コストの抑制に大きく貢献しました。
売上高物流費比 率はカジュアル衣料としては異例の四・六%を実現し ているといいます」 説得力のあるデータを示せ ──取引条件の変更は卸側から提案した方が良いので しょうか。
「もちろん効率化されればどちらからの提案でも良 いのですが、小売り側から申し入れると力関係上、納 品側に不利になりがちです。
そういう意味では卸が しっかりデータをもって提案する方がベターかもしれ ません」 ──そういった提案ができるのは、やはりある程度大 きな卸会社? 「そんなことはありません。
先述した実例の卸会社 も企業規模は決して大きくはありませんし、自分達 より規模の大きな小売りに提案している例はたくさん あります。
規模が相手より小さいから不利だという ことはありません。
重要なのは情報分析をしっかり やり、取引条件を変更することで小売りが得られる メリットを明確に示し、相手を納得させることができ るかどうか。
互いにWIN─WINの関係であること を示せるかどうかだと思います」 図2 物流サービスが店頭の在庫回転向上を阻害すること がある 図1 短納期・多頻度・小口の出荷が日常的に行われている 多頻度少量注文を繰り返しているB 店 同じチェーンのA 店と比べて売上0.6 倍、コスト1.7 倍 取扱アイテム数 注文行数 1 アイテム当たり売上 売上金額 出荷コスト/売上金額 納期出荷頻度出荷単位 24 時間未満 28.2% 週に5 回 以上 24.7% バラ 33.8% ケース 50.5% 週に3 回 〜4 回 26.3% 週に1 回 〜2 回 49.0% 内箱、 その他 15.7% 24 時間以上 47.0% 取り決め なし 24.8% 受注から24 時間未満の 納品が3 割弱ある 週5日以上(毎日)の納品が 4 分の1ある バラ単位の出荷(ケース箱 などを小分けしてすっかする もの)が3 分の1ある A店 36 アイテム 114 行 (1 個注文:6 行) 5,109 円 183,913 円 3.20% B店 63 アイテム 196 行 (1 個注文:95 行) 1,655 円 104,236 円 5.30% 出所:「中小商業者による物流効率化のための連携体の構築に 関する調査研究(2007 年度中小企業庁)」より
