ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年10号
道場
第90回 「コンサルなんかに勝手なことはさせません。こっちからああだこうだいちゃもんをつけて追い返してやりますよ」

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湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第66回》 OCTOBER 2009  66 物流部長に着任したばかりだ。
追々わかるが、 この部長は大先生の好みのタイプだ。
 経営企画室の主任と物流部長が並んで座 り、その向かい側に課長が二人座っている。
一人が物流企画課の課長で現場以外のすべて を担っている「何でも屋」だ。
柔軟な思考の 持ち主と自認しているが、周りからは日和見 とも空気読み過ぎとも言われている。
要する に、その場の雰囲気や流れに合わせるタイプ だ。
ただ、転んでもただでは起きないしたた かさも持っているとも言われる。
 もう一人の課長は、輸配送や物流センター などの物流現場を一手に仕切っている業務課 長だ。
現場叩き上げの課長で、物流部で一 番の古株だ。
現場を知らないやつは物流マン じゃないといつも豪語している。
その意味で、 これまで部長とは常に一線を画すのをよしと している。
部長の言うことにはとにかく素直 67「コンサルなんかに勝手なことはさせません。
こっちからああだこうだいちゃもんをつけて 追い返してやりますよ」 90 消費財メーカーの物流改革を追う新 シリーズのスタートです。
メーカーの担 当役員から依頼を受けて、物流をゼロ ベースで見直すコンサルティングに乗り 出した大先生ご一行。
しかし、社外の 専門家に支援を受けることを、誰もが 歓迎しているわけでもないようで‥‥ 大先生 物流一筋三〇有余年。
体力弟子、美人弟子の二人 の女性コンサルタントを従えて、物流のあるべき姿を追求する。
メーカー常務 経営企画担当役員で社内の誰もが認める実力 者。
抜本的な物流改革が必要との判断から大先生にコンサル を依頼した。
メーカー物流部長 営業畑出身で一カ月前に物流部に異動。
「物流はやらないのが一番」という大先生の考え方に共鳴。
メーカー物流企画課長 現場のことを除き、物流部の活動全 般を取り仕切っている何でも屋。
如才ない振る舞いから日和 見との声も。
メーカー物流業務課長 現場の叩き上げで物流部では一番の 古株。
畑違いの新任部長に対し、ことあるごとに反発。
秋晴れのよき日に緊急会議が開かれた  いつの間にか秋の気配が色濃くなってきた。
大先生の好きな季節の到来だ。
青空に街路 樹の紅葉が美しく映える。
 こんなよき日は外で過ごすに限るのに、あ る中堅の消費財メーカーの会議室では、午前 中から妙な熱気に包まれていた。
 会議室には物流の関係者が集められていた。
会議を主催したのは、その会社の常務が直轄 する経営企画室というところだ。
その常務は 誰もが認める実力者だ。
経営企画室からは主 任の肩書きを持つ中堅の室員が出席している。
彼が会議開催の説明役だ。
 集められたのは物流部の連中で、部長以下 五名が参加している。
部長は、物流部に来て まだ日が浅い。
一カ月も経っていない。
これ まで主に営業畑を中心に各支店を回ってきて、 メーカー物流編 ♦ 第1回 67  OCTOBER 2009 に従わないことが習い性になっているようだ。
熱くなり易いタイプで、やり合うと要注意人 物だが、押しが強い割りに守りには弱いとい う一面もある。
 これら二人の課長に部下がそれぞれ一人ず つ同席し、課長の隣に座っている。
彼らにつ いては追々紹介していくが、企画課長の部下 は女性である。
なぜか、件の業務課長が物 流部内で唯一苦手とするのがこの女性なのだ。
業務課長の部下は男で、この女性とは同期入 社という関係である。
 これら六人が集まり会議が行われている。
経営企画室の主任が、この会議の趣旨を説 明している。
何の会議か、事前に誰も知ら されていないこともあり、部長を除いてみん な呆気に取られた顔で主任の説明を聞いて いる。
突然「コンサルを入れる」と言われて  「‥‥というわけで、繰り返しになりますが、 要するに、わが社の物流全般をこの際、抜本 的に見直すことが急務だという常務のご判断 により、物流の著名な先生にコンサルをお願 いすることになりましたので、皆さんのご協 力をお願いしたいと、まあそういうことです。
あ、正確にいえば、お願いするではなく、協 力するようにという常務の指示、とご理解く ださい」  主任の言葉に、向こう側の席がざわつく。
部長はそのざわつきを楽しんでいるようだ。
案の定、業務課長が文句をつけた。
 「コンサルって、何よ、それ。
われわれに 一言の相談もなしに、突然そんなこと言われ ても協力なんかできねえよ」  業務課長の言葉を聞いて、主任が小首を 傾げながら「不思議なことを言うもんだ」と いう顔で逆に聞く。
 「相談って、皆さんに何を相談するんです か? 常務がコンサルを入れたいっておっし ゃってるんですよ。
その是非を相談せよとで も言うんですか?」  大上段に問われて、業務課長は返事に詰ま ってしまった。
何か言わねばと気を取り直し て、わけのわからないことを口走る。
 「そういうもんじゃないだろう。
やっぱり、 根回しとかいろいろ、そういうことは事前に ‥‥あっ、ところで、部長は事前に聞いてい たんですか、この話?」  業務課長が部長を問い詰める。
事前に知っ てたなら文句を言おうという魂胆だ。
部長が、 一呼吸置いて、業務課長の顔を見て答える。
 「私もいま初めて聞いた。
だからって別に 文句はない。
常務が判断されて、経営企画室 の費用負担で物流にコンサルを入れていただ けるというんだから、こんないいことはない。
願ったり適ったりだ。
それとも、何かい、コ ンサルに入られると、何かまずいことでもあ るってこと? そんなことはないよな?」  部長にそう問われ、企画課長が「もちろん、 そんなことありません」と慌てて答える。
続 けて「私どもは全面的に協力させていただき ます。
なっ?」と、なぜか隣の部下に同意を 求める。
 話を振られた女性部員が、「コンサルの先 生とご一緒に仕事できるのは嬉しいです。
勉 強させていただきます」と殊勝に答えてから、 改めて真顔で説明役の主任に質問をする。
 「それで、コンサルの先生というのはどなた ですか?」  そう問われて、主任が「言うの忘れてた」 という顔で頷き、大先生の名前を告げる。
 「その先生は、皆さんご存知ですか? 念 のため言っておきますが、常務の推薦です」  「もちろん知ってますよ。
有名ですから。
本も読みましたし、何度か講演も聞いてます。
へー、すごーい。
それは楽しみです。
ね?」  女性部員がはしゃいだ声を出し、今度は逆 に課長に同意を求める。
自分の発言がよかっ たかどうかを課長と部下とで常に確認し合っ ている感じだ。
部長が興味深そうな顔で二人 を見ている。
 女性部員の確認に課長が頷いて、「もちろ ん、よく存じ上げております。
そんな偉い先 生にうちに来ていただけるなんて光栄です」 と如才ない返事をする。
 業務課長の隣に座っている男の部員も大先 生を知っているようで、二人の課長の背中越 しに女性を見て、親指を立てて、嬉しそうに 頷いている。
その光景を向こう側から部長が 涼やかな顔で見ている。
 なんだか大先生歓迎ムードができあがった。
それをぶち壊すように、業務課長が大きな声 を出した。
きっと何か異論を唱えるだろうと いうみんなの期待にちゃんと応える。
その意 味では、みずから平気で術中に嵌まってしま うタイプのようだ。
 「ちょっと待ってよ。
その先生ってのはおれ も知ってるけど、気に食わないやつだよ。
な んたって、物流はやらないのが一番だとか物 流センターは必要悪だ、なんてうそぶいてる んだよ。
どう思う? 物流をやってる人間と して、そんな物流を卑下したようなこと言う なんて許せないよ。
なあ?」 「何考えてんだ、あんたらは」  業務課長が誰に言うともなく同意を求める が、誰も応じない。
そのとき主任と部長が同 時に声を出した。
 「へー、それは素晴らしい」  「何が?」  業務課長が怪訝そうな声で二人に確認する。
部長が答える。
 「物流はやらないのが一番だなんて素晴らし い見識だなってことだよ。
物流センターは必 要悪か、たしかにそうだ」  「何を言ってるの、部長。
あんたもそう思 ってたわけ?」  「いや、いまそう思った。
物流を考えるス タンスとしていいな。
それをうちの物流管理 の基盤にしようと思うけど、どうだい?」 みた。
 「コンサルが入るのはいいとして、現場を混 乱させたり、業務に支障をきたすようなこと はさせないでくださいね。
こっちは大事なお 客さんを相手に仕事してるんですから、お客 さんに迷惑がかからないよう、現場最優先で お願いしますよ」  業務課長の正論に物流部長が淡々と答える。
 「現場に支障が出るコンサルなんてないでし ょう。
そんなことよりも、今回のコンサルは 緊急の取り組みですのでコンサル最優先でい きます。
そのつもりで臨んでください。
まあ、 そんなことはないでしょうが、現場を盾に取 ってコンサルの足を引っ張ったりするのはご 法度です」  業務課長にとってはおもしろくない、しか も意外な返事だったようで、あからさまに不 満そうな顔をした。
新任の部長とは敢えてあ まり話をせずにきたが、こんなわけのわから ん部長だとは思わなかったという顔だ。
 「それなら、もし万一、お客に迷惑が掛か ったら、部長に責任を取ってもらいますよ。
いいですね?」  業務課長が、よせばいいのに喧嘩腰で部長 につっかかる。
部長が頷いて答える。
 「もちろん、そうなったらお客様には私が謝 りに行きます。
営業にも謝罪に行きます。
会 社に対しては私が責任を取りますから安心な さい。
ただ、物流部としては、私はあなたに 責任を取ってもらいますよ。
現場の責任者は  部長の問い掛けに女性部員が頷く。
男の若 手部員は隣の課長に遠慮して頷けない。
そこ で、表情で懸命に賛意を示している。
 企画課長がおもむろに「いいですねー。
そ うしましょう」と言う。
即座に業務課長が 「なんだ、なんだ、何考えてんだ、あんたらは。
そんなこって物流ができるかっつーの。
物流 をやる人間は物流を愛さなきゃいかん」  「愛し過ぎると、あばたもえくぼで、無駄 や問題が見えなくなってしまうんじゃないで すか?」  女性部員にそう突っ込まれて、業務課長は 口をつぐんでしまった。
妙な展開になってき た。
部長が引き取る。
 「そうそう、今日午後に先生との打ち合わ せがあるから、一時半に、またここに集まっ てください」  部長の言葉に、さすがにみんなびっくりし た顔をする。
企画課長が「わかりました」と 答えるのに合わせて、若手の部員二人が頷く。
そんな中で業務課長がまた抵抗する。
 「そんな急に言われても困るよ」  「急たって、別に事前の準備は必要ないっ て言われているし、それに今日は一日空けて おくように言ってあったよね。
午前中はこれ でおしまいで、午後は先生とのキックオフの 打合せをするということだから。
それでは解 散していいかな?」  部長の言葉に合わせて、みんなが立ち上が ろうとしたとき、業務課長が最後の抵抗を試 OCTOBER 2009  68 湯浅和夫の 大先生一行が勢いよく出発した  誰もいなくなった会議室で、業務課長が誰 かに電話している。
憤懣やるかたなしといっ た風だ。
 「そんなだから、近々おまえんとこにコンサ ルが視察に行くかもしれないから、きちっと 対応してくれよ。
どういう意味かわかるな?」  電話の相手は、その会社の関東物流センタ ーの所長だ。
業務課長の一の子分と言われて いる。
業務課長が率いる現場派閥の番頭格 の存在だ。
これまでの物流部長は、現場を盾 に取られていることもあり、業務課長一派に は触らぬ神に崇りなしの付き合い方をしてきた。
電話の相手が答えている。
 「大丈夫です。
任せてください。
コンサル なんかに勝手なことはさせません。
こっちか らああだこうだいちゃもんをつけて追い返し てやりますよ」  まさに「類は友を呼ぶ」の典型だ。
好き勝 手なことを言っている。
ただ、業務課長は一 抹の不安を感じている。
それを口にした。
 「それはいいけど、やり過ぎるなよ。
きっと コンサルに部長が同行するだろうけど、部長 を甘く見ない方がいいぞ。
おまえ、部長と話 したことはあるか?」  「えーと、着任のときに挨拶を聞いたのと、 うちに視察に来たときにセンターの中を案内 したことがあります。
通り一遍の説明で、質 疑もほとんどなかったです。
現場には関心な いんだなって思ったんで、適当にあしらって 帰ってもらいました。
それだけです」  「そうか、まあ、コンサルの視察のときは おれも一緒に行くから、おれに合わせればい い。
あ、それから近いうちみんなに集まって もらいたいんだけど、おまえの方で手配して くれ。
頼むよ。
」  そう言って電話を切った。
業務課長は臨戦 モードに入ったようである。
 その頃、大先生事務所では、まさにその会 社に出掛けようとしていた。
「それでは行くか」 と大先生が声を掛ける。
弟子たちが勢いよく 返事をする。
こちらもただならぬ気配を予感 しているような心意気だ。
 こうして新しいコンサルが始った。
あなたなんですから、現場で問題が起これば、 組織としては当然のことです。
そんな責任は 取れねえというなら、いまここで業務課長を 降りてください」  部長の言葉にその場が凍りついた。
ちょっ と間を置いて、業務課長が「わかりましたよ」 と言う。
みんな、ほっと肩の力を抜く。
 「それでは、これで解散しましょう」  部長が何事もなかったように、解散を宣言 する。
業務課長を除いてみんなが立ち上がる。
こうして、大先生がらみの午前中の会議は終 わった。
69  OCTOBER 2009 ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大学院修士課 程修了。
同年、日通総合研究所入社。
同社常務を経 て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを 設立し社長に就任。
著書に『現代物流システム論(共 著)』(有斐閣)、『物流ABC の手順』(かんき出版)、『物 流管理ハンドブック』、『物流管理のすべてがわかる 本』(以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コンサルテ ィング http://yuasa-c.co.jp PROFILE Illustration©ELPH-Kanda Kadan

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