ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2009年10号
判断学
第89回 「大きすぎてつぶせない」銀行

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

奥村宏 経済評論家 OCTOBER 2009  70          オバマ政権の課題  オバマ政権にとって最も大きな問題は経済問題、とりわけ 銀行をどうするか、ということである。
 巨額の税金を投入してシティグループやバンク・オブ・ア メリカなどの銀行を救済したが、それをどのように改革して いくか、ということがオバマ大統領にとって大きな課題とな っている。
 日本でも総選挙によって民主党政権が誕生することになり、 アメリカほどではないにせよ、経済問題、とりわけ金融問題 が大きな課題になっている。
 こうして世界的に銀行の改革が大きな問題になっているこ とは前回、この欄で取り上げたところだが、そこでは「大き いことは良いことか」ということが問題になっている。
 アメリカではシティグループなどに税金を投入して救済し た際、「大きすぎてつぶせない(ツー・ビッグ・ツー・フェ イル)」ということがいわれた。
 それは大きい銀行はよい銀行だから救済するのではなく、 大きすぎてつぶせないから救済するのだということである。
 ということは、銀行が合併や統合によって大きくなるのは、 大きすぎてつぶせなくするためだということになるが、その ために国民の税金を使うのだとすれば、それはまさに「税金 泥棒」というしかない。
 アメリカでは「銀行を救済するために国民の税金を使うの は社会主義だ」という反対が強かったが、それは社会主義と いうよりも、「税金泥棒」だといった方がよい。
 アメリカにさきがけて日本でも、バブル崩壊のあと巨額の 公的資金、すなわち国民の税金を投入して銀行を救済した のだが、しかし、それは「税金泥棒」にカネをやったような ものである。
 そして税金で救済された銀行は合併や統合によって大きく なったが、その内容は以前と全く変わっていない。
      ワシントン・ポストの指摘  前回、イギリスの『エコノミスト』誌が「銀行の再建」と いう特集を組んだことを取り上げた。
そこでは「大きい銀行」 から「良い銀行へ」ということが問題にされていた。
 「大きな銀行」は「良い銀行」ではない、ということを主 張していたのである。
ところが同じ『エコノミスト』の二〇 〇九年八月二七日号では、「ビッグ・イズ・バック」という 社説をのせている。
「大きい銀行」が帰ってきた、というわ けだが、それは前回の特集とは反対の主張になっている。
 おそらく前回の特集に対して大銀行などから強い反対の 声があったために、それを訂正するような社説を掲げたの ではないか、と思われるが、それにしても無節操というし かない。
 これに対してアメリカの『ワシントン・ポスト』紙は八月 二八日付け(電子版)で、「大きすぎてつぶせない銀行がさ らに大きくなっている」というデビッド・チョー記者の批判 的な記事を載せている。
 アメリカで巨額の税金を投入して銀行を救済したにもかか わらず、その後は大銀行の寡占度がさらに高くなり、その結 果、消費者の選択がせばまり、被害を受けているという内容 である。
 それというのもアメリカ政府が巨額の税金を投入して銀行 を救済したにもかかわらず、銀行の寡占度は高まるばかりで、 消費者にとってマイナスになっているというわけだ。
 国民の税金によって銀行を救済したにもかかわらず、その 銀行がますます大きくなって、国民にとってマイナスになっ ているというのだから、それこそまさに「税金泥棒」という 以外にはない。
 そこで問われているのは政府が税金によって救済しながら、 銀行をなぜ改革しなかったのか、ということである。
それが いまオバマ大統領に問われているのである。
 「大きすぎてつぶせない」銀行をどうするか。
処方箋そのものは簡単で、銀 行が大きすぎるなら小さくすればよい。
ただし、金融界の反対が予想される。
当面の大きな政治課題だ。
第89回「大きすぎてつぶせない」銀行 71  OCTOBER 2009        民主党政権の課題  さすがにアメリカではそうはいかない。
金融救済法案を前 ブッシュ政権が議会に提出した際、議員、とりわけ共和党の 右翼議員から「これは社会主義だ」という反対が強く、下院 ではこの法案が否決された。
その後、上院で再可決すること でこの法案は成立したのだが、それにしても国民の税金を使 うことに対する批判はアメリカでは強い。
 そこで次のオバマ政権になって、銀行などの金融機関をど のように改革するか、ということが大きな問題になっている のである。
それは「大きすぎてつぶせない」ような銀行をど うするか、ということである。
答えは簡単、「大きすぎる銀 行を小さくせよ」ということである。
 アメリカでは一九世紀末から反トラスト法ができ、スタン ダード・オイルやアメリカン・タバコなどの巨大企業を解体 して分割した歴史があるが、いま銀行についても同じことが 必要である。
 ところがそれに対して銀行は当然のことながら反対する。
なにしろアメリカではロビイスト活動が盛んで、巨額の資金 を投じて業界団体が政治家に働きかける。
そうなると、オバ マ大統領といえども民主党の議員たちからの圧力に対して抵 抗することはむずかしい。
 そこでいま、アメリカではこの問題をめぐって政治的かけ 引きが行われているのだが、その動向によって今後のオバマ 政権の動きも変わってくるだろう。
 ともあれ、『エコノミスト』誌が提起したように「銀行の改 革」はいま世界的に大きな政治問題になっているのだが、そ の焦点は巨大銀行をどうするか、ということにある。
 さてそこで日本であるが、これから生まれてくる民主党政 権は果たしてこの問題にどう対処するのだろうか。
それがこ れからの日本にとって大きな経済的問題、そして政治問題で ある。
        日本のメガバンク体制  国民の税金で銀行を救済するということは、アメリカに先が けて日本がやってきたことである。
一九九〇年代になってバ ブルが崩壊したあと、日本では数十兆円の公的資金を投入し て銀行を救済してきたことは周知のことだが、それから一〇 年ほど遅れてアメリカはサブプライム恐慌に襲われ、そこで日 本にならって巨額の税金を投入して銀行を救済したのである。
 ということになれば、いまアメリカで問題になっているよ うに、日本でも巨額の公的資金を投入して銀行を救済したの だから、救済されたあと銀行はどうなったのか、いや、政府 は銀行をどのように改革したのか、ということが当然問題に なる。
 ではどうだったのか?  日本では巨額の公的資金によって救済された銀行は合併、 統合によって大きくなり、いわゆる三大メガバンクが誕生し た。
それは公的資金投入を指令した竹中平蔵金融担当大臣 が「日本にはメガバンクは二つか、三つあればよい」といっ たところから、あわてて東京三菱銀行とUFJが統合して三 菱UFJフィナンシャル・グループとなり、それまでのみず ほフィナンシャルグループと三井住友フィナンシャルグループ の三大メガバンクの体制になったのである。
 これは公的資金によって救済された銀行が合併、統合によ って巨大化することによってますます「大きくてつぶせない」 銀行になったということである。
 それも銀行が主体的に行ったというより、政府の指示によ ってそうしたということである。
それは「税金泥棒」をます ます「税金泥棒」にしたということで、これほど犯罪的なこ とはない。
 ところが日本ではそれに対する批判は全くといってよい程 なかった。
公的資金によって銀行を救済し、それが合併、統 合によって大きくなったことが賛美されたのである。
おくむら・ひろし 1930 年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『世界金融恐慌』(七 つ森書館)。

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