2009年10月号
SOLE

RAMS研究会報告

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics OCTOBER 2009  74  しかし九〇年までの産業構造や事 業慣習が根強く残り、企業努力とい えば単価調整や雇用条件の一部変更 などに終始し、二〇年経っても事業 価値の低下を招くばかりで出口を見い だせないでいる。
我々日本人は、事 業の再編成や仕事の仕組みとしての システムの変更をしたくないかのよう に見える。
 我々は与えられた条件で(今ある 状態の中で)見える仕事を立派にや り遂げることは得意である。
しかし、 新たな仕事を見いだしてその働きの価 値を作り込むのは下手であり、苦手 といえよう。
人工的にシステムを創り (作り)、作ったシステムを常にリニュ ーアルすることを余り好まないのでは なかろうか。
事業価値を見直し(創 出し)、環境条件の変化を先取りして 事業を再編成したり、事業活動の業 務システム(プロセス)・やり方、仕 事を変えていく、というようなこと をできれば避けたいのである。
仕事 や仕事の仕組みを変えれば、関係者 の役割分担が変更され、今までの秩 序や人間関係が必ず変わることを知 っているからである。
 また、いくら付加価値、事業価値 を向上させようとしても、業界の厚 い壁にはばまれ改善・改革につなが らないことも多かった。
しかしながら 昨今では、業界を越えた連携や合併 などの再編成が始まり、社会制度や 業界構造を理由としたシステム化の 足かせは少なくなってきている。
生産性とCO2を指標に  池田内閣が六〇年に掲げた所得 倍増計画をきっかけに、かつて日本 は経済大国への階段を駆け上がった。
同様に、今日的な企業・事業活動の 目標(制約条件)を簡素に表現すれ ば、「付加価値・労働生産性を倍増 し、CO2を(排出枠の加算や森林に よる吸収を除いた)真水で一五%削 減すること」といえる。
 日本は決して製造業全般が強いの ではない。
素材、自動車、電機など 一部特定分野の製造業の競争優位性 があるのみである。
これからの時代 は特に、第一次産業を含む内需型産 業の労働生産性の倍増を図ることが 急務であると思う。
そのためには事 業再編成と事業再構築を行い、一人 当たりの収益改善につなげていかな ければならない。
食・住の世界では 数多くの企業が重なった仕事を分け 合い、事業に従事している。
自社事 業の顧客は誰か、顧客のために提供 しているプロダクトは適切か、自社 の収益採算をどう作り直せばよいか など、個別企業の事業再構築が求め られているのである。
   一方、顧客に提供する価値は大量 プロダクト・プロセス革新とLCM 日本衰退の処方箋は事業価値の向上  我が国の企業・事業体に今必要な のは業務プロセスの革新だ。
新たな成 長段階に入るために、業務プロセスを 変革しユーザーにとって真に価値ある 製品・サービス(プロダクト)を作り 出していかなければならない。
そこ で重要になるのがライフサイクル・マ ネジメント(LCM)である。
今回は RAMS研究会の報告として、事業 環境条件の変化と事業価値、プロダ クト・プロセス、組織能力、LCM などのキーワードについて、一端を報 告する。
(システム化研究所・曽我部 旭弘所長)  始めに、本稿記述のスタンスは事 業経営・マネジメントの立場に立って 自社事業(ビジネス)の見直す「きっ かけ」となることを意図しているこ とを、おことわりしておきたい。
仕事の価値を向上する  人は自らの仕事や営みがより意義を 持つことを願う。
企業であれば、事 業(ビジネス)ごとにその価値の向上 を図っていきたい。
事業とは顧客に有 効な製品・サービス(プロダクト)を 効率的に届けることであり、顧客に 喜んでもらえる仕事をすることであ る。
事業価値とは仕事の価値そのも のといえる。
 戦後六四年、人々は焦土と化した 日本で貧困からの脱出と豊かさを求め て仕事をし、世界第二位の経済大国 の地位を手に入れた。
ところが日本 は今や未曾有の危機に直面している。
 一九九〇年代初頭のバブル崩壊以 降もそれなりの努力・精進をして きたところに昨年の金融危機が起こ り、輸出依存度の高い経済を直撃し た。
現在は危機からの脱出と脱出後 のビジネスのあり方、新たな再生の道 を模索している段階にある。
グローバ ル化、IT化、少子高齢化、環境負 荷低減(CO2削減)などを前提条件 とし、仕事の成果・事業価値の飛躍 的な向上を図らなければならないの である。
RAMS研究会報告 75  OCTOBER 2009 ロダクトを提供できる仕事の仕組みを 構築し続けようとする事業構築・運 用モデルである(図1)。
 今は自前(囲い込み)からネットワ ーク活用型へシフトさせながら、自社 事業を作り込んでゆく時代に入って いる。
事業展開のカギは、?作り手 が「こんな顧客に私達の創った(作 った)プロダクトを使ってもらいた い」と提案・訴求し、そのプロダクト を選択・使用する顧客と価値を共創 すること、?世間(世界)にある資 源を広く利用すること、の二つにあ る。
顧客に提案する価値を想定して 社内外の資源(知恵も含む)を組み 合わせ、実現していくということだ。
 そのためには自社事業を活用され 易いよう、分かり易くピーアールして いく必要がある。
つまり事業活動は、 自社の事業・特技の組み合わせが取 引相手の事業にプラスになる(貢献で きる)と分かってもらうことから始め ることになる。
「今まで何をやってき た、できたことは何で、今後こんな こともできるようになる」というこ とを顧客になってほしい企業に伝えて いく。
自社の特技を取りまとめ、顧 客に業務プロセスの一部をアウトソー スすることによる利益・利便を説明 し、実現できる具体的な活動を理解 してもらわなければならない。
 事業再編成・業務再構築のポイン 生産品や標準化されたサービスだけで は十分とはいえない。
個々の顧客に入 り込み、顧客と価値を共創できるよ うにしたい。
このために必要なのが、 業務プロセスを磨き、革新していくこ とである。
常に生産性倍増、CO2削 減を指標として設定し、評価してい くことになる。
商慣行を改革し製配販で連携を  どのような産業・業態・業種も、 個別企業・事業の活動連鎖ネットワ ークによって成り立っている。
個別企 業・事業は顧客×自社事業×協力者 の関係で営まれている。
こうした中、 これまでの個別企業・事業は自己に 可能なプロダクトを顧客に提供するだ けで済んでいた。
 例えば内需中心の食品業界を見る と、製造、卸、小売りが自らの仕事 と価値観を元にしてそれぞれ事業運営 を行ってきた。
そして「返品、リベー ト、センターフィー」という商習慣が 生まれ、我が国の生産・流通の「三 大ムダ」といわれるほどの大きな問題 となってしまった。
製造、卸、小売 りはこうした商慣習から脱却し、消 費者が選択・採用する価値、競争優 位のプロダクトを連携して作り直すプ ロダクト・プロセスの革新をしていか なければならない。
最終使用者・ユ ーザーを起点に製配販三層で事業再 ●S:Safety(安全、製造者責任な ど) ●E:Environment (環境、特にCO 2削減など)  ここで事業(ビジネス)価値を高め るための、プロダクト・プロセス革新 モデルを提案したい。
モデルの一つと して、個別企業が幾つかの事業ユニ ットから成り立っているものを取り上 げる。
一つひとつの事業ユニットの事 業価値を見直し、プロダクトを設計 し、プロダクトを実現するプロセスの 作り込みを実現しようとする。
事業 に関わる関係者との共創を前提とし、 最終使用者・ユーザーに選ばれるプ 編成と業務再構築を行わなければな らない時が来ている。
 ここで重要な役割を持つのがライフ サイクル・マネジメント(LCM)で ある。
LCMにより、事業の企画開 発から廃棄に至るプロダクト・プロセ スを合理的に展開し、システム設計、 開発、運用手順、実践方法を常に整 える。
それこそがロジスティクスの重 視している考え方、進め方である。
L CMにはDoD(米国防衛総省)の 「Acquisition Reform(調達ガイド)」 が広く使われているので、これを活 用すればよいだろう。
 事業価値、競争優位を測るモノサ シとしては、マーケティングでいう3 Pを表層条件と考え、これに深層条 件として次のPQCDI・SEを併 せて事業・業務プロセスを吟味してい くことが挙げられる。
【表層条件】 ●3P:Price(価格)、Place(チャ ネル)、Promotion(販売促進) 【深層条件】 ●P:Product(プロダクトの多仕様 化) ●Q:Quality(品質) ●C:Cost(コスト) ●D:Delivery(納期、リードタイム) ●I:Inventony(原料、仕掛り、製 品の在庫) 図1 事業価値=プロダクトの有効性÷プロセスの効率性 サプライ:需要の実現  5.生産と出荷  6.サービスの提供  製造(作る)  調達・仕入れ(買う)  物流(届ける) 良い事業を作り込む 事業再編成(製品サービス×顧客)  1.市場と顧客の理解  2.ビジョンの策定と戦略の立案 製品・サービスを 効率的に実現する プロセスでつなぐ 有効なプロダクト 効率的なプロセス 事業ごとの競争優位:P・PQ(S)CD・ISE  3.製品およびサービスの設計 デマンド:需要創出  4.マーケティングと販売  7.顧客への請求とサービス 組織力向上・人財育成 OCTOBER 2009  76 品供給を続けているユニクロにしても、 「エブリデー・ロープライス」と「販管 費一五%未満」を愚直に実践している ウォルマートにしても、事業関係者の マインド高揚、顧客に向けたプロダク ト、それらを実践するプロセスを一元 化・一体化し、顧客から支持される事 業モデル(ビジネスモデル・ビジネスプ ロセスモデル)を構築して業績向上に つなげている。
真に新たな中間流通機 能をリスクを掛けながら開発、実現し ているといえよう(図2、3)。
かになっている。
各事業体は事業単 位ごとに仕事の仕組みと運営を見直 しながら、最終消費者・ユーザーに プロダクトによる収益を享受してもら えるよう、川上から川下までネットワ ークを再構築せざるを得ない。
 これを成し遂げた企業は不況下で も成長を続けている。
例えばユニクロ だ。
海外に目を転じれば、日本企業 の目指すべき方向性を示すものとし てウォルマートなども挙げられる。
 カジュアルファッションの低価格製 雑な取引慣行を 生むことになった。
「センターフィー」 は組織型量販店 を中心に物流セン ターへの一括納品 が必要となり、セ ンターの運営経費 をメーカー・卸負 担とするためのも のだった。
それが 今や小売りの収入 源に変質している。
 このように日本 では製配販の三層 が最終消費者に 対して合理的なル ール方式を見いだ せないまま、多く のムダなコストの かかった製品供給を行い、基本的な 構図は長らく変わることはなかった。
バブル崩壊以前から製配販三層で「新 たな中間流通機能」が求められなが らも、変革が進むことはなかった。
 しかし昨年末からの不況をきっか けに、日本企業は変革を迫られるよ うになっている。
グローバル化、IT 化、省資源化が進む中で、内外価格 差の縮小と低価格化に対応しながら 体質をスリム化し、収益を拡大してい かねばならないことは誰の目にも明ら トは顧客の獲得と顧客業務の代行な のである。
顧客が社内業務、既に外 注している業務を自社にスイッチして も、利益・利便を提供できる実現能 力を養っておく。
今担っているプロダ クトの実現プロセスを「見える化、可 視化」し、自社組織・人材を養成し、 PQCDの組織実現能力を高めてお かなければならない。
 「できているもの、こと」から事業 を創り(作り)直していくためにも、 現行事業は見える化、可視化してお く必要がある。
現行事業の見える化 については「ビジネスモデルの描き方」 として別途解説したい。
新たな中間流通を実現  長い歴史・風土・文化に支えられ、 商取引の慣習・秩序・ルールがかた ち作られ、日本の流通は多機能とは いえムダ(ムリ)が多いという側面を 持つことになってしまった。
 ムダの代表は、前述の「返品、リ ベート、センターフィー」問題である。
メーカーの販売代行として卸・小売 りがあり、無理な新製品の投入や製 品のリニューアル、小売店舗棚の奪 い合いの結果として売れ残りは「返品」 となった。
「リベート」は標準小売価 格をベースとした利益補填と販売奨 励などを目的としたものである。
様々 な販売条件が作られ、不透明かつ複 図2 マテリアル・フローの簡素化 メーカー(製造業) 自社工場 製造委託先 物流センター デポ配送センター 卸売業卸 物 流 セ ン タ ー 小売業 物流センター 小売店舗 国内 海外 国内 海外 原材料 メーカー(製造業) 自社工場 製造委託先 物流センター 国内 海外 国内 海外 原材料 小売業 新たな中間流通 小売店舗 メーカー(製造業) 小売店舗 図3 配販同盟による新たな中間流通機能 企画開発生産準備 生産 営業 物流 物流センター (商流) 品作り 店作り (物流) 商品供給 卸主催 物流センター 新たな中間流通 卸主催 小売主催 小売主催 物流センター 小売業 チェーン 本部 店作り 品作り 商品開発 在庫型 通過型 ????????? 自社工場 製造委託先 国内 海外 国内 海外 77  OCTOBER 2009  ロジスティクスとは事業価値向上 のための仕事・働きやその仕組みの 改善・改革を進める「システム設計・ 改善の考え方と進め方を示すもの」で ある。
「事業価値向上はプロダクト・ プロセス変革(革新)とLCMで為し 得る」との仮説を立て、調査・研究 を展開していく。
ことはまねることから始まる。
まね るネタになる事業モデルをベンチマー クとすることが望ましい。
 SOLE日本支部・RAMS研究 会は今年度一〇月以降、?ロジステ ィクスの基盤技術、 ?大規模システ ムメンテナンス、そして今回報告し た?プロダクト・プロセス革新、の三 本柱で活動する計画を進めている。
?ロジスティクス基盤技術ではLE& M︵ロジスティクス・エンジニアリ ング&マネジメント︶、RCM︵信 頼性重視保全︶、LCC︵ライフ サイクル・コスティング︶に続いて、 LCM、欧米で広く使われている D o Dの﹁Acquisition Reform﹂ を読み解き、パンフレット、ガイド 作りを行う。
?大規模システムメンテナンスでは原 子力保全業務高度化のための﹁日 本版SNPM︵標準原子力保全業 務モデル︶ 保全業務成熟度モデル﹂ 作りにチャレンジする。
?プロダクト・プロセス革新では業種 業態事例の調査研究を行い、事業 ︵ビジネス︶モデルのスケッチや構築 のポイントを描き、近い将来、ベ ンチマーキング事例集につなげてい きたいと考えている。
事例はまず ウォルマートから入り、その後次々 と業種業態別展開を行う。
ーダーシップ)」を養い、育てながら 仕事に臨むことである。
自分のでき ることを磨きながら相手の求めている ことを理解しなければ、自らの仕事 を通して周囲の人に(顧客に)喜ん でもらうことはできない。
このため、 自分が提供しているプロダクトの価値 を冷静に見極める能力を身に着けて いくことも必要になる。
サーバントリ ーダーシップについては小林陽一郎氏 がCSR展開で論じられているので 参考にしてほしい。
RAMS研究会の仮説  事業モデルを開発、改良していく 上で大切なことは、今事業に携わっ ている人々の現状、変革後の携わり 方をはっきりさせていくことである。
いくら変化・変革を叫んでも、先の 先の姿をイメージし将来の仕事のため に関係者の自己変革を想像し計画で きるシナリオをともに創っていかなけ れば、何一つ進まないのではなかろ うか。
 また、我が国にはまだまだ知られ ていない良い(卓越した)事業モデ ルが多くある。
決して秘密にしてお くことはない。
産業社会全体の底上 げはグローバル企業・事業を支えてい くはずである。
たとえ同業者にでも 可能な限りオープンにする事業家が多 く出現することを期待したい。
学ぶ サーバントリーダーシップとは  我々は現在、それなりの豊かさを 手にしている。
それだけに、今がグ ローバル世界市民へ脱却しなくてはな らない時期だということが分かって いても、どうすればよいか分からな い(分かりたくない)のかもしれな い。
あるいは事業再編成・業務再構 築の必要性を十分に理解はできても、 できたら関わりたくないというのが 本音かもしれない。
 建前論だけいえば、流通小売業の 場合、通常価格が特売並みに低下し ても営業利益二〜三%(借入金利の 水準)以上を確保するため、改善・ 改革を進めることになる。
もちろん 店舗販売、無店舗販売(通販)を問 わず、返品なしの買い取りでプロダク トの企画・開発・運用に責任を持つ。
製造業は流通・小売りで扱ってもら えるプロダクトの開発・改良に専念す る。
「顧客に喜んでもらえるプロダク ト」を「自社の特技を磨き、流通さ せる」ことになる。
 この建前を実現するためには、参 加メンバーの協力が不可欠だ。
そのた めには「トップダウン」と「ボトムア ップ」を含む「第三のリーダーシップ」 が必要といわれている。
それは顧客 の喜びを自らの喜びとできる「サーバ ントリーダーシップ(奉仕タイプのリ 次回フォーラムのお知らせ  次回フォーラムは10月9日(金)「SOLE 日本支部年度総会」、「SOLE2009コンフ ァレンス報告」を予定している。
このフォ ーラムは年間計画に基づいて運営している が、単月のみの参加も可能。
一回の参加費 は6,000円。
ご希望の方は事務局(sole-joffi ce@cpost.plala.or.jp)までお問い合 わせください。
※ S O L E(The International Society of Logistics:国際ロジスティクス学会)は一 九六〇年代に設立されたロジスティクス団体。
米国に本部を置き、会員は五一カ国・三〇 〇〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日本支部では毎 月﹁フォーラム﹂を開催し、講演、研究発表、 現場見学などを通じてロジスティクス・マネ ジメントに関する活発な意見交換、議論を行 っている。
  R A M S とはReliability( 信頼性)、 Availability(即応性)、Maintainability(保 守性)、Supportability(支援性)などシス テムの持つ様を示す。
RAMS研究会はS OLE日本支部の調査研究会の略称であり、 同支部の毎月のフォーラムに合わせて開催し、 会員が自主的に話題・テーマを持ち寄り、運 営している。

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