2009年11月号
特集
特集
第4部 サービス品質保証契約の活用術 ──Service Level Agreement──
NOVEMBER 2009 26
利益相反関係を是正する
1 第三の協定書
荷主企業と物流企
業は、果たして本当
にパートナーシップを
構築できているので
しょうか? その答え
は、大半の取引関係
が表面的・部分的な
パートナーであると
言わざるを得ません。
自社の物流コストを 出来るだけ低減させ たい荷主企業と、物 流サービスの提供に よって多くの利潤を 求める物流企業は、 相反するベクトルに向 かっています。
お互いが目指している方向性の違いを、ある時 点で捉えた証が契約書であり、将来別々のベクト ルへ向かって進む出発点とも考えられます(図表1)。
荷主企業の大半は、取引開始を決定した時点の 満足度が長く続くことはなく、様々な内部・外部要 因によって料金値下げ欲求が発生します。
その一 方で、物流企業は現状維持を前提としながらも外 部環境変化によって収益率が悪化した場合や、自 社の政策的な判断によって料金値上げを願望します。
料金を下げたい荷主企業と、現状維持もしくは 料金値上げをしたい物流企業は、普通の取引関係 のままでは同じロードマップを描くことも、共に歩 んで行くことも難しい関係となり、契約当初から 大きな課題を持った取引関係とも言えます。
しかし、両社の利益相反関係を友好的に有意義 に変換する極めて有効な問題解決手法があります。
それは、荷主企業と物流企業間で締結する「SL A(サービス・レベル・アグリーメント)」の導入に よる問題解決手法の策定です。
船井総研ロジは、 SLAを物流サービスにおける?第三の協定書〞 と定義しております。
SLAとは、物流業務の提供者である荷主企業 と物流サービスを生業としている物流企業が、両 社のベクトルを合わせて真のパートナーシップを構 築するための合意形成に基づいた問題解決手法と 考えられます。
2 SLAの定義 SLAは、?基本契約書(業務請負契約書)、 ?覚書(料金等に関する別表)の次に位置する第 三の協定書です。
その定義は、顧客(荷主企業) と3PL企業間にて実行する物流サービスの内容・ 範囲及び前提条件などを明確化し、サービスレベル に対する要求事項を可視化(数値化)したものです。
また、両社間で定義した内容が適正に実行される ための運営ルールを顧客と3PL企業間で合意書 として明文化したものです。
3 なぜSLAが必要か 荷主の視点では、物流アウトソーシングには多 くのリスクが存在しています。
そしてそれは、事 前に想定される顕在的リスクと事前に想定が困難 な潜在的リスクに分かれます。
潜在的リスクには、 企業経済活動による量的・質的な変動があり、物 サービス品質保証契約の活用術 ──Service Level Agreement── 物流のアウトソーシングが失敗に終わる例が後を絶たない。
荷主が物流企業に委託するサービスの内容、範囲、前提条 件が曖昧なためだ。
業務委託時に交わす契約書や覚書だけ で全てを網羅するのは難しい。
“第三の協定書”サービス・ レベル・アグリーメントの導入が解決への糸口となる。
船井総研ロジ 赤峰誠司 取締役常務執行役員 (あかみね・せいじ) 船井総研ロジ 取締役常務執行 役員兼ライン統括部長 エフロジ・フィナンシャル・パー トナーズ 代表取締役 e-mail akamine@f-logi.com 図表1 相反するロードマップ 未 来 値下げ値上げ 外的要因/内的要因 物流事業者 荷主企業 外的要因/内的要因© 船井総研ロジ 契約成立 (合意) 現 在未 来 第4 部 特 集 物流コンペのすべて 27 NOVEMBER 2009 流アウトソーシング開始時に取り決められた物流企 業とのサービスレベルに関する約束が継続的に守ら れるかについて不安視されます。
同様に物流企業 視点においても、契約前に調査や事前資料などで 確認した物量について将来も補償されるものか懸 念されるものです。
物流企業としては、懸念を払拭させるために受 託の契約時、将来発生する可能性がある不確実性 な課題について事前に対策を講じることが肝要です。
そのためには、現状認識を荷主企業と物流企業間 で明確にし、物流に関わる情報を同レベルで共有 する必要があります。
情報の保有量に偏りがある 場合、物流アウトソーシングは不均衡な状態で始ま ることになり、結果として失敗に終わることがあ ります。
荷主企業から聞こえてくる失敗談話としては、 営業担当者と 現場担当者の 温度差が大き かったことや、 品質向上やコ スト削減に対 する提案が皆 無であるなど がよく聞かれ る理由です。
船井総研ロジ が調査した荷 主企業による ?物流アウトソ ーシングが失 敗と感じてい る理由〞を以下にまとめてみました(図表2)。
図表2を見てとれるように、荷主企業が失敗と 感じる理由として、荷主企業と物流企業間におけ るコミュニケーション不足や、物流企業の提供する オペレーション(業務実行)力不足などが多くあ げられています。
そもそも取引開始前に両社間で合意された物流 アウトソーシングが何故失敗するのでしょうか? 物流企業のオペレーション力不足に関しては、ノ ウハウや業務遂行力の問題となりますので、荷主 企業の選定ミスと言っても過言ではないでしょう。
選定ミスを防止するには、荷主企業の選定段階に おいて委託に関する明確な基準が必要です。
物流 企業からの提案書に書かれた企画内容を、現場視察・ 第三者評価などで確認すれば、実行力についての 大きな誤差は防げるものです。
しかし、両社間に おけるコミュニケーション不足が理由の場合は、本 当に事前や事後の打ち合わせが足らなかったかと 言うと、必ずしもそうとは言い切れない場合もあ ると考えられます。
荷主企業と物流企業の両社間で協議した内容は、 議事録を作成して後々のために保存することが賢 明です。
もし業務開始後に条件変更や不測の事態 が発生したとしても、事前協議の保存記録から問 題解決に向けた糸口が見つかることもあります。
さらに双方が良好な関係を構築する手段として、 課題の抽出と不確実性の可視化(量的・質的)を行い、 一定の制約条件を明文化することでより強固な関 係構築が図れます。
両者間で協議した内容をもとに、 将来発生する可能性がある事項について双方責任 リスクを明確にしておくことがSLAを導入する 要諦となります。
SLAは物流サービスを可視化(量・質)した合 意書であり、荷主企業と物流企業がそれぞれの責 任範囲を明確にした協定書だとイメージすると分 かりやすいのではないでしょうか。
SLAによって、事前に確認できている課題や 問題点と将来発生する可能性がある潜在的リスク を回避するリスクマネジメント機能も補完すること が可能になります。
第三者を交えた方が効果的 4 SLA締結までの進行ステップ SLAは荷主企業と物流企業間で締結をする協 定書になります。
どちらか一方からの要求だけで SLAの締結を果たすことはできないため、双方 が十分に納得したうえで合意をすることが重要です。
SLAを初めて導入するには、外部の第三者を 交えて項目や数値決定を行うべきでしょう。
その 理由は、荷主企業が持つバイイング・パワーには どうしても物流企業だけでは対抗できず、荷主企 業に偏った設定がなされる可能性があるからです。
荷主企業にとっても、SLAに関しては、自社に 偏った取り決めが必ずしも将来有利となるわけで はありません。
両社間にて合意形成過程を重視し、 十分に納得できる話し合いが必要です。
SLA設定後は、荷主企業の開示する事前情報 の質の高さも物流企業には大きく影響します。
荷 主企業と物流企業の保有する情報精度と共有レベ ルが、SLA設定後の改善やリスクヘッジを成功さ せるキーファクターとなります。
SLAの特徴として、これまで明文化されなか った物流オペレーションの品質をサービスレベルと して可視化することにあります。
例えば、一ピッ 図表2 荷主が失敗と感じた物流アウトソーシングについて 原因の種類 ? ? ? ? ? オペレーション力不足 コミュニケーション不足 オペレーション力不足 コミュニケーション不足 提案力不足 コミュニケーション不足 契約不備 コミュニケーション不足 物流アウトソーシングが 失敗と感じられた理由 営業担当者と現場担当者の顧客対応に 温度差がある。
取引前の提案書に書いてあることが実 行されない。
品質向上やコスト削減に対する提案が 皆無である。
ミスや事故が多く、安全・品質に対す る課題が改善されない。
付加サービスにバラツキがあり、安定的な 物流オペレーションが実行できていない。
© 船井総研ロジ キング当たり一〇円という料金設定が成されたと します(一〇円/ pc )。
しかし一日当たり最大何 pc のピッキングが対応可 能なのか? といった作業量についての議論や取り 決めが成されていません。
一つのピッキングに対し て一〇円と価格設定された作業料金には必然的に量 の限界があります。
量の許容力を作業の質と捉えて、 荷主企業と物流企業間で適切な取り扱いの設定を行 うことがSLAの最も重要な取り決めです。
SLA導入に関するステップは次の通りです。
?現状把握 ●荷主企業の現状について綿密に調査を行います。
特に波動やイレギュラーに関しては出来るだけそ の発生理由や原因も追求し、通常発生しないよ うなレアケースも拾い上げるようにします。
あ るがままの現実を把握することが重要になります。
●現状調査の手法として、関係者インタビュー・ 現場視察・データ分析の三つを行います。
●関係者インタビューでは、物流部門関係者のみ ならず経営企画部門、営業部門、製造部門、情 報システム部門など全社的に幅広く行う必要が あります。
●データ分析に関しては、年間・月間・週間など 時系列で見る傾向と、最大値(Max)最小値(M in)を項目ごとに把握します。
?課題抽出 ●現状把握で抽出した課題・問題点を整理します。
●課題・問題点の発生理由や原因も詳しく調査し ます。
●課題・問題点には、物流部門が発生理由となる 項目と他部門に起因した項目に分類します。
?可視化(分析・測定) ●抽出された課題・問題点を可能な範囲で可視化 します。
●可視化する項目は、クレーム件数・在庫差異・ リードタイム・作業人員・CO2排出量などデー タ化可能なものを選定します。
●標準作業時間やクレーム対応に要する処理時間 などは、測定やアンケート調査などの手法を利 用することもあります。
?サービスレベル策定 ●可視化した項目について、荷主企業と物流企業 間で協議したうえで選定します。
●現状課題として顕在化している項目だけではなく、 将来問題視される可能性のある事項についても 選定しておきます。
●物流企業にとっては荷主企業へ提供するサービ ス内容についてのコミットメントになりますので、 注意深く考える必要があります。
?Max/Minの設定 ●選定された項目は、最大値(Max)と最小値(M in)の領域を設定します。
●例えば、FAXによる受注件数の標準値が三〇 〇件/日の場合、この標準件数に対して最大値 は四五〇件と設定します。
物流企業が最大四五 〇件/日まで責任を持って当日出荷対応を行う という意味になります。
同様に最小値は二〇〇 と定めます。
荷主企業は一日当たり最低二〇〇 件の保証をするという意味になります。
最大値(M ax)が物流企業の受託責任上限であり、最小 値(Min)が荷主企業の保証数量となります。
●SLAは最大値(Max)と最小値(Min) の設定が成されることによって、お互いの責任 領域が明確になり、双方が自社の責任について 問題とならないように事前回避策を講じること が可能となります。
この設定が潜在的な問題の 抽出となり、リスクマネジメント機能と連動する ことになります。
?ターゲットの設定 ●可視化項目の設定が終わると、改善を取り組む べきターゲットの設定を行い、両者間で優先順 位を話し合います。
●優先順位の決定は、荷主企業と物流企業間の話 し合いで行い、すぐにでも取り組める事項(短期)、 三カ月〜十二カ月間取り組む事項(中期)、一年 以上かけて取り組む事項(長期)の三段階に分 類すると管理が容易になります。
?リスクヘッジの 策定 ●可視化した項目の 中で、リスクとし ての可能性がある ものを抽出する。
●ミニマムリスクか ら許容不可能なリ スクまで、リスク のポジションを策 定する。
(図表3) ●リスクが顕在化し NOVEMBER 2009 28 図表3 リスクアセスメント(リスク査定) ミニマムリスク 微量なリスク 許容可能な リスク 許容不可能な リスク 今直ぐに、 是正を行う 安全に向けて の活動 リスク (大) リスク (小) 危険ゾーン! 危険な状態 © 船井総研ロジ 特 集 物流コンペのすべて た場合の是正案を取り決める。
?改善実行 ●可視化した項目の中で、改善可能な項目を設定 する。
●期間や具体的な改善取り組み案を策定する。
●チャレンジ目標として、ゴールを設定し一定期間 の数値管理を行う。
コストセンターからプロフィット機能へ 5 SLAとリスクマネジメントの相関性 SLAにはリスクマネジメントと相関する項目が 多く含まれています。
小売量販店の物流センター では、特売や海外一括購買品など通常の物量に加 えて大量に商品が通過する場合、配送トラックへ の積み残しが想定されます。
配送センターに所属しているトラックのキャパシ ティには当然ながら上限があり、上限を超過する と物流企業の責任において別便手配を余儀なくさ れます。
別便にて仕立てられたトラックが満載と なって稼動すれば大きな問題とはなりませんが、 ほんの少量のために仕立てられた場合は、費用や CO2など多くのムダが発生してしまいます。
小売量販店の物流センターでは、特売による大 量品流通は日常茶飯事ですが、通過型(TC)配 送センターのキャパシティを上回るような商品が集 約されると、検品や仕分け作業にも多大なる影響 が出ます。
特売情報が事前に配送センター側に通 知されていても、物理的な上限は必ずあることを 考えると、増員・増車以外の対応も考慮しなくて はなりません(このケースの場合だと、メーカー・ 卸売会社等から一部もしくは全店に対して特売品・ 臨時大量品のみを店舗直送に切り替える)。
図表4は、出荷実績を例にとり、可視化による 危険回避について表したものです。
また、リスク アセスメント(リスク査定)を計画する上でもSL Aは重要な指標となります。
6 バリュー型3PL(SLA+ゲインシェア) ロジスティクスをプロフィット機能と定めている 荷主企業は少なく、多くの場合、コストセンターと の概念を持っているようです。
しかしロジスティク スを販売部門の後方支援と位置づけてしまわずに、 バリュー(付加価値)を生み出す利益生産部門へ 変革することは十分に可能なのです。
船井総研ロ ジでは、日本型の3PLを三つのモデルに分類し ています。
?コーディネート型3PL・・・荷主企業の代行的立 場になって、物流オペレーションのコーディネート を行う。
現状把握から始まり、全体設計、IT導入、 オペレーションのキックオフ、安定化までを得意と する。
?元請型3PL・・・自社アセット(倉庫・車両)を 中心に活用し、物流オペレーションの一括元請とな る。
一部機能を外部協力会社へ再委託することも ある。
日本では最も多いタイプでもある。
?バリュー型3PL・・・コーディネート型機能に加 え、継続的に改善や再構築を実践する。
また顧客 (荷主企業)と共に新たな価値(利益)を創出する 活動に重点を置き、生み出された利益は規定のも のに顧客と分配する。
バリュー型3PLとは、倉庫・荷役・輸配送・ 国際物流などの単品オペレーションを、3PL事 業者がコア(核)となり、顧客にとって最適なロ ジスティクス体制を構築し且つ継続した改善活動を 実践する事業モデルを定義しています。
継続的な価値創造を実践するうえでは、SLA の導入が極めて有効な手法と考えられます。
SL Aによって改善ターゲットを明確にし、両社の共通 コンセプトとしてロジスティクス全体を俯瞰するこ とが可能となります。
荷主企業と3PL企業が共同ワークによって改 善を実践し、改善成果をインセンティブとして荷主 企業・3PL事業者へ還元される仕組みこそが、 ベクトルの一致を図り「利益共同関係」となります。
この関係の構築が真のパートナーシップと言えるも のではないでしょうか。
29 NOVEMBER 2009 図表4 可視化(数値化)よる危険回避 〜リスクのミニマイズ〜 2000 1500 1000 1日 2日 3日 4日 5日 8日 9日 ※過去データからのMAX値 『出荷責任値』 ※過去データからのAVE値 『平均出荷数量』 ●責任出荷範囲を数値 化する事によって、 オーバーフロー時のリ スクマネジメントが可 能となる。
●費用についても、取り 決めをしておく。
(月)(火)(水)(木)(金)(月)(火)(水)(木)(金)(火) 10 日 11 日 12 日 16 日 © 船井総研ロジ
自社の物流コストを 出来るだけ低減させ たい荷主企業と、物 流サービスの提供に よって多くの利潤を 求める物流企業は、 相反するベクトルに向 かっています。
お互いが目指している方向性の違いを、ある時 点で捉えた証が契約書であり、将来別々のベクト ルへ向かって進む出発点とも考えられます(図表1)。
荷主企業の大半は、取引開始を決定した時点の 満足度が長く続くことはなく、様々な内部・外部要 因によって料金値下げ欲求が発生します。
その一 方で、物流企業は現状維持を前提としながらも外 部環境変化によって収益率が悪化した場合や、自 社の政策的な判断によって料金値上げを願望します。
料金を下げたい荷主企業と、現状維持もしくは 料金値上げをしたい物流企業は、普通の取引関係 のままでは同じロードマップを描くことも、共に歩 んで行くことも難しい関係となり、契約当初から 大きな課題を持った取引関係とも言えます。
しかし、両社の利益相反関係を友好的に有意義 に変換する極めて有効な問題解決手法があります。
それは、荷主企業と物流企業間で締結する「SL A(サービス・レベル・アグリーメント)」の導入に よる問題解決手法の策定です。
船井総研ロジは、 SLAを物流サービスにおける?第三の協定書〞 と定義しております。
SLAとは、物流業務の提供者である荷主企業 と物流サービスを生業としている物流企業が、両 社のベクトルを合わせて真のパートナーシップを構 築するための合意形成に基づいた問題解決手法と 考えられます。
2 SLAの定義 SLAは、?基本契約書(業務請負契約書)、 ?覚書(料金等に関する別表)の次に位置する第 三の協定書です。
その定義は、顧客(荷主企業) と3PL企業間にて実行する物流サービスの内容・ 範囲及び前提条件などを明確化し、サービスレベル に対する要求事項を可視化(数値化)したものです。
また、両社間で定義した内容が適正に実行される ための運営ルールを顧客と3PL企業間で合意書 として明文化したものです。
3 なぜSLAが必要か 荷主の視点では、物流アウトソーシングには多 くのリスクが存在しています。
そしてそれは、事 前に想定される顕在的リスクと事前に想定が困難 な潜在的リスクに分かれます。
潜在的リスクには、 企業経済活動による量的・質的な変動があり、物 サービス品質保証契約の活用術 ──Service Level Agreement── 物流のアウトソーシングが失敗に終わる例が後を絶たない。
荷主が物流企業に委託するサービスの内容、範囲、前提条 件が曖昧なためだ。
業務委託時に交わす契約書や覚書だけ で全てを網羅するのは難しい。
“第三の協定書”サービス・ レベル・アグリーメントの導入が解決への糸口となる。
船井総研ロジ 赤峰誠司 取締役常務執行役員 (あかみね・せいじ) 船井総研ロジ 取締役常務執行 役員兼ライン統括部長 エフロジ・フィナンシャル・パー トナーズ 代表取締役 e-mail akamine@f-logi.com 図表1 相反するロードマップ 未 来 値下げ値上げ 外的要因/内的要因 物流事業者 荷主企業 外的要因/内的要因© 船井総研ロジ 契約成立 (合意) 現 在未 来 第4 部 特 集 物流コンペのすべて 27 NOVEMBER 2009 流アウトソーシング開始時に取り決められた物流企 業とのサービスレベルに関する約束が継続的に守ら れるかについて不安視されます。
同様に物流企業 視点においても、契約前に調査や事前資料などで 確認した物量について将来も補償されるものか懸 念されるものです。
物流企業としては、懸念を払拭させるために受 託の契約時、将来発生する可能性がある不確実性 な課題について事前に対策を講じることが肝要です。
そのためには、現状認識を荷主企業と物流企業間 で明確にし、物流に関わる情報を同レベルで共有 する必要があります。
情報の保有量に偏りがある 場合、物流アウトソーシングは不均衡な状態で始ま ることになり、結果として失敗に終わることがあ ります。
荷主企業から聞こえてくる失敗談話としては、 営業担当者と 現場担当者の 温度差が大き かったことや、 品質向上やコ スト削減に対 する提案が皆 無であるなど がよく聞かれ る理由です。
船井総研ロジ が調査した荷 主企業による ?物流アウトソ ーシングが失 敗と感じてい る理由〞を以下にまとめてみました(図表2)。
図表2を見てとれるように、荷主企業が失敗と 感じる理由として、荷主企業と物流企業間におけ るコミュニケーション不足や、物流企業の提供する オペレーション(業務実行)力不足などが多くあ げられています。
そもそも取引開始前に両社間で合意された物流 アウトソーシングが何故失敗するのでしょうか? 物流企業のオペレーション力不足に関しては、ノ ウハウや業務遂行力の問題となりますので、荷主 企業の選定ミスと言っても過言ではないでしょう。
選定ミスを防止するには、荷主企業の選定段階に おいて委託に関する明確な基準が必要です。
物流 企業からの提案書に書かれた企画内容を、現場視察・ 第三者評価などで確認すれば、実行力についての 大きな誤差は防げるものです。
しかし、両社間に おけるコミュニケーション不足が理由の場合は、本 当に事前や事後の打ち合わせが足らなかったかと 言うと、必ずしもそうとは言い切れない場合もあ ると考えられます。
荷主企業と物流企業の両社間で協議した内容は、 議事録を作成して後々のために保存することが賢 明です。
もし業務開始後に条件変更や不測の事態 が発生したとしても、事前協議の保存記録から問 題解決に向けた糸口が見つかることもあります。
さらに双方が良好な関係を構築する手段として、 課題の抽出と不確実性の可視化(量的・質的)を行い、 一定の制約条件を明文化することでより強固な関 係構築が図れます。
両者間で協議した内容をもとに、 将来発生する可能性がある事項について双方責任 リスクを明確にしておくことがSLAを導入する 要諦となります。
SLAは物流サービスを可視化(量・質)した合 意書であり、荷主企業と物流企業がそれぞれの責 任範囲を明確にした協定書だとイメージすると分 かりやすいのではないでしょうか。
SLAによって、事前に確認できている課題や 問題点と将来発生する可能性がある潜在的リスク を回避するリスクマネジメント機能も補完すること が可能になります。
第三者を交えた方が効果的 4 SLA締結までの進行ステップ SLAは荷主企業と物流企業間で締結をする協 定書になります。
どちらか一方からの要求だけで SLAの締結を果たすことはできないため、双方 が十分に納得したうえで合意をすることが重要です。
SLAを初めて導入するには、外部の第三者を 交えて項目や数値決定を行うべきでしょう。
その 理由は、荷主企業が持つバイイング・パワーには どうしても物流企業だけでは対抗できず、荷主企 業に偏った設定がなされる可能性があるからです。
荷主企業にとっても、SLAに関しては、自社に 偏った取り決めが必ずしも将来有利となるわけで はありません。
両社間にて合意形成過程を重視し、 十分に納得できる話し合いが必要です。
SLA設定後は、荷主企業の開示する事前情報 の質の高さも物流企業には大きく影響します。
荷 主企業と物流企業の保有する情報精度と共有レベ ルが、SLA設定後の改善やリスクヘッジを成功さ せるキーファクターとなります。
SLAの特徴として、これまで明文化されなか った物流オペレーションの品質をサービスレベルと して可視化することにあります。
例えば、一ピッ 図表2 荷主が失敗と感じた物流アウトソーシングについて 原因の種類 ? ? ? ? ? オペレーション力不足 コミュニケーション不足 オペレーション力不足 コミュニケーション不足 提案力不足 コミュニケーション不足 契約不備 コミュニケーション不足 物流アウトソーシングが 失敗と感じられた理由 営業担当者と現場担当者の顧客対応に 温度差がある。
取引前の提案書に書いてあることが実 行されない。
品質向上やコスト削減に対する提案が 皆無である。
ミスや事故が多く、安全・品質に対す る課題が改善されない。
付加サービスにバラツキがあり、安定的な 物流オペレーションが実行できていない。
© 船井総研ロジ キング当たり一〇円という料金設定が成されたと します(一〇円/ pc )。
しかし一日当たり最大何 pc のピッキングが対応可 能なのか? といった作業量についての議論や取り 決めが成されていません。
一つのピッキングに対し て一〇円と価格設定された作業料金には必然的に量 の限界があります。
量の許容力を作業の質と捉えて、 荷主企業と物流企業間で適切な取り扱いの設定を行 うことがSLAの最も重要な取り決めです。
SLA導入に関するステップは次の通りです。
?現状把握 ●荷主企業の現状について綿密に調査を行います。
特に波動やイレギュラーに関しては出来るだけそ の発生理由や原因も追求し、通常発生しないよ うなレアケースも拾い上げるようにします。
あ るがままの現実を把握することが重要になります。
●現状調査の手法として、関係者インタビュー・ 現場視察・データ分析の三つを行います。
●関係者インタビューでは、物流部門関係者のみ ならず経営企画部門、営業部門、製造部門、情 報システム部門など全社的に幅広く行う必要が あります。
●データ分析に関しては、年間・月間・週間など 時系列で見る傾向と、最大値(Max)最小値(M in)を項目ごとに把握します。
?課題抽出 ●現状把握で抽出した課題・問題点を整理します。
●課題・問題点の発生理由や原因も詳しく調査し ます。
●課題・問題点には、物流部門が発生理由となる 項目と他部門に起因した項目に分類します。
?可視化(分析・測定) ●抽出された課題・問題点を可能な範囲で可視化 します。
●可視化する項目は、クレーム件数・在庫差異・ リードタイム・作業人員・CO2排出量などデー タ化可能なものを選定します。
●標準作業時間やクレーム対応に要する処理時間 などは、測定やアンケート調査などの手法を利 用することもあります。
?サービスレベル策定 ●可視化した項目について、荷主企業と物流企業 間で協議したうえで選定します。
●現状課題として顕在化している項目だけではなく、 将来問題視される可能性のある事項についても 選定しておきます。
●物流企業にとっては荷主企業へ提供するサービ ス内容についてのコミットメントになりますので、 注意深く考える必要があります。
?Max/Minの設定 ●選定された項目は、最大値(Max)と最小値(M in)の領域を設定します。
●例えば、FAXによる受注件数の標準値が三〇 〇件/日の場合、この標準件数に対して最大値 は四五〇件と設定します。
物流企業が最大四五 〇件/日まで責任を持って当日出荷対応を行う という意味になります。
同様に最小値は二〇〇 と定めます。
荷主企業は一日当たり最低二〇〇 件の保証をするという意味になります。
最大値(M ax)が物流企業の受託責任上限であり、最小 値(Min)が荷主企業の保証数量となります。
●SLAは最大値(Max)と最小値(Min) の設定が成されることによって、お互いの責任 領域が明確になり、双方が自社の責任について 問題とならないように事前回避策を講じること が可能となります。
この設定が潜在的な問題の 抽出となり、リスクマネジメント機能と連動する ことになります。
?ターゲットの設定 ●可視化項目の設定が終わると、改善を取り組む べきターゲットの設定を行い、両者間で優先順 位を話し合います。
●優先順位の決定は、荷主企業と物流企業間の話 し合いで行い、すぐにでも取り組める事項(短期)、 三カ月〜十二カ月間取り組む事項(中期)、一年 以上かけて取り組む事項(長期)の三段階に分 類すると管理が容易になります。
?リスクヘッジの 策定 ●可視化した項目の 中で、リスクとし ての可能性がある ものを抽出する。
●ミニマムリスクか ら許容不可能なリ スクまで、リスク のポジションを策 定する。
(図表3) ●リスクが顕在化し NOVEMBER 2009 28 図表3 リスクアセスメント(リスク査定) ミニマムリスク 微量なリスク 許容可能な リスク 許容不可能な リスク 今直ぐに、 是正を行う 安全に向けて の活動 リスク (大) リスク (小) 危険ゾーン! 危険な状態 © 船井総研ロジ 特 集 物流コンペのすべて た場合の是正案を取り決める。
?改善実行 ●可視化した項目の中で、改善可能な項目を設定 する。
●期間や具体的な改善取り組み案を策定する。
●チャレンジ目標として、ゴールを設定し一定期間 の数値管理を行う。
コストセンターからプロフィット機能へ 5 SLAとリスクマネジメントの相関性 SLAにはリスクマネジメントと相関する項目が 多く含まれています。
小売量販店の物流センター では、特売や海外一括購買品など通常の物量に加 えて大量に商品が通過する場合、配送トラックへ の積み残しが想定されます。
配送センターに所属しているトラックのキャパシ ティには当然ながら上限があり、上限を超過する と物流企業の責任において別便手配を余儀なくさ れます。
別便にて仕立てられたトラックが満載と なって稼動すれば大きな問題とはなりませんが、 ほんの少量のために仕立てられた場合は、費用や CO2など多くのムダが発生してしまいます。
小売量販店の物流センターでは、特売による大 量品流通は日常茶飯事ですが、通過型(TC)配 送センターのキャパシティを上回るような商品が集 約されると、検品や仕分け作業にも多大なる影響 が出ます。
特売情報が事前に配送センター側に通 知されていても、物理的な上限は必ずあることを 考えると、増員・増車以外の対応も考慮しなくて はなりません(このケースの場合だと、メーカー・ 卸売会社等から一部もしくは全店に対して特売品・ 臨時大量品のみを店舗直送に切り替える)。
図表4は、出荷実績を例にとり、可視化による 危険回避について表したものです。
また、リスク アセスメント(リスク査定)を計画する上でもSL Aは重要な指標となります。
6 バリュー型3PL(SLA+ゲインシェア) ロジスティクスをプロフィット機能と定めている 荷主企業は少なく、多くの場合、コストセンターと の概念を持っているようです。
しかしロジスティク スを販売部門の後方支援と位置づけてしまわずに、 バリュー(付加価値)を生み出す利益生産部門へ 変革することは十分に可能なのです。
船井総研ロ ジでは、日本型の3PLを三つのモデルに分類し ています。
?コーディネート型3PL・・・荷主企業の代行的立 場になって、物流オペレーションのコーディネート を行う。
現状把握から始まり、全体設計、IT導入、 オペレーションのキックオフ、安定化までを得意と する。
?元請型3PL・・・自社アセット(倉庫・車両)を 中心に活用し、物流オペレーションの一括元請とな る。
一部機能を外部協力会社へ再委託することも ある。
日本では最も多いタイプでもある。
?バリュー型3PL・・・コーディネート型機能に加 え、継続的に改善や再構築を実践する。
また顧客 (荷主企業)と共に新たな価値(利益)を創出する 活動に重点を置き、生み出された利益は規定のも のに顧客と分配する。
バリュー型3PLとは、倉庫・荷役・輸配送・ 国際物流などの単品オペレーションを、3PL事 業者がコア(核)となり、顧客にとって最適なロ ジスティクス体制を構築し且つ継続した改善活動を 実践する事業モデルを定義しています。
継続的な価値創造を実践するうえでは、SLA の導入が極めて有効な手法と考えられます。
SL Aによって改善ターゲットを明確にし、両社の共通 コンセプトとしてロジスティクス全体を俯瞰するこ とが可能となります。
荷主企業と3PL企業が共同ワークによって改 善を実践し、改善成果をインセンティブとして荷主 企業・3PL事業者へ還元される仕組みこそが、 ベクトルの一致を図り「利益共同関係」となります。
この関係の構築が真のパートナーシップと言えるも のではないでしょうか。
29 NOVEMBER 2009 図表4 可視化(数値化)よる危険回避 〜リスクのミニマイズ〜 2000 1500 1000 1日 2日 3日 4日 5日 8日 9日 ※過去データからのMAX値 『出荷責任値』 ※過去データからのAVE値 『平均出荷数量』 ●責任出荷範囲を数値 化する事によって、 オーバーフロー時のリ スクマネジメントが可 能となる。
●費用についても、取り 決めをしておく。
(月)(火)(水)(木)(金)(月)(火)(水)(木)(金)(火) 10 日 11 日 12 日 16 日 © 船井総研ロジ
