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NOVEMBER 2009 34
「会社案内パンフ」の域を出ないRFP
先日、某SPA(製造小売り)のロジスティクス責
任者が、メールでこっそり?社外秘〞扱いのRFP
(提案依頼書)を送ってきた。 パワーポイントを使っ
てカラフルに作られていたRFPは参考資料を含めて
およそ二〇ページ。 いわゆる?叩き台〞の状態ではな
く、すでに社内稟議を通過した完成型で、物流コン
ペにエントリーしてもらいたい一部の3PLには配布
済みだという。
ロジスティクス部門をはじめ生産・販売など関係部
署からもメンバーを募り、約二カ月を要して練り上げ
た自信作だという、そのRFPをパラパラとめくっ
てみた。 会社概要から始まり、会社理念、業績推移、
店舗展開といったイントロダクションのページがしば
らく続く。 そしてようやく本題の「物流改革」の話
に入ったかと思ったら、あっという間に最終ページに。
RFPは「料金の見積もりを二週間後までにメールで
送ってほしい」というメッセージで締め括られていた。
物流改革を通じてコストや在庫を削減したい。 そ
のために特定エリアをカバーする物流センターの運営
と店舗までの配送を一括で委託することを検討して
いる。 年間出荷量は前年度実績でこのくらい。 商品
アイテムによっては出荷量にこれだけの季節波動があ
る。 現状の物流体制はリードタイムの面、作業品質の
面、オペレーションコストの面でこんな課題を抱えて
いる。 将来、当該エリアでは向こう三年で二〇店の新
規出店を計画中││。 こうした提案の前提条件とな
る情報を最大限に公開・提示したうえで、現状の課
題に対する具体的な解決策や料金見積もりの提供を
申し入れるのがRFPの基本形とされる。
ところが、某SPAのRFPには物流提案に不可
欠な情報やデータがほとんど記載されておらず、「会社
案内パンフレット」の域を出ていない。 しかも最終的
に求めている提案内容は「一ケース当たりのセンター
作業料と一ケース当たりの配送料の提示」のみ。 RF
Pというよりも「見積もり依頼」というタイトルのほ
うが相応しい。
一ケースといっても、サイズによって容積や重量は
異なるし、店舗までの距離によって配送に必要な経
費も違ってくる。 どのサイズのケースの出荷比率が高
く、一店舗当たり一日にどれだけの出荷量があるの
か? たとえ「見積もり依頼」であっても、情報が
まったく開示されていない状態であるため、まともな
提案などできるわけがないというのが率直な感想だ。
それでも、メールを送ってきた担当者によれば、「最
終的には一〇社から入札があった」というから、腰
が抜けそうになった。
意図的なデータの秘匿と改ざんが横行
ロジビズの編集記者から?物流コンサナリスト〞に
転身してからおよそ二年。 これまで数多くの物流R
FPに目を通してきた。 守秘義務契約の関係もあり、
具体的な企業名はオープンにできないが、そのほとん
どは誰もが知っている有名企業から発信されたものだ。
消費財メーカーから卸、組織小売業、外食チェーンと
いった具合に、サプライチェーンの上流から下流まで
様々な業種・業態の物流RFPに接する機会を得た。
先に結論を述べれば、及第点に達している物流RF
Pはごく僅かにすぎない。 ロジビズ時代に「SCMの
エクセレントカンパニーである」と記事で紹介した企業
でさえも物流RFPは散々な出来栄えだった。 冒頭で
紹介した某SPAのように、そもそもRFPの体をな
していない?赤点〞レベルのものも少なくなかった。
SCM先進企業のRFPに“ドン引き”
物量データが抜け落ちている。 波動の存在を隠す。 サプライ
チェーン戦略のゴールが設定されていない──。 これまでに見て
きた数多くのRFPのうち、合格点を与えられるのは、ほんの
一握りにすぎない。 荷主がヤッツケ仕事で作成したRFPがベー
スとなる物流コンペの“召集令状”を受け取った3PLの担当者た
ちは、日々その対応に頭を悩ませている。
青山ロジスティクス総合研究所(ALI) 代表 刈屋大輔
第6 部
特 集 物流コンペのすべて
35 NOVEMBER 2009
いわゆる?ダメな物流RFP〞に共通しているの
は、定性面では物流・ロジスティクス改革のゴールが
明確になっていない点だ。 一連の改革を通じて何を実
現したいのか。 物流のサービス水準を引き上げること
で、顧客満足度を高めて販売収入を伸ばしたいのか。
そのためにはコストを犠牲にするのか。 それともコス
トリダクションに重点を置き、サービス水準の低下に
はある程度目を瞑るのか。 そしてパートナーに選ぶ物
流企業にはどのような機能を担ってほしいのか。 そ
うした将来のあるべき姿の設定とそれを実現するため
の具体的な戦略やプランが資料から完全に抜け落ちて
しまっている。
例えば、大手日雑品メーカーの物流RFPの要求
は、「支払い物流コストを現行から二〇%削減したい」
という一点張りだった。 既存の物流拠点を活用する
ことが前提なのか。 それとも拠点を新設しても構わな
いのか。 複数拠点の統廃合に踏み切って大型センター
を立ち上げてもいいのか。 「将来はビジネス規模がこ
のくらいまで拡大する見通しなので、全国にこのく
らいの規模の物流センターを何カ所置くことで対応し
たい」といった戦略の方向性の提示は一切なし。 そ
れどころか、「物流センターが何カ所必要なのかも含
めて提案してほしい」という有様だ。
一方、定量面ではコスト算出に必要なデータの開示
度合いが不十分なケースが非常に多い。 提案する側
(3PL)からすれば、正確な物流コストを弾き出す
ため、商品アイテム別の過去数年分の年間・月間・
一日当たりの出荷量(実績ベース)、商品アイテム別
の容積・重量(ケース・ピース単位)、納品先別の出
荷量といったデータは最低限提出してもらいたいとこ
ろだ。 しかしながら、荷主サイドからRFPとは別に
CD│ROMやUSBで渡されるデータは、商品アイ
テムによって?抜け〞があるほか、出荷量が月間平
均値のみであったり、商品アイテムの容積や重量をそ
もそも計算していなかったり。 かなりの虫食い状態で、
とても使える代物ではないこともある。
それでも提供されるデータが?生の情報〞であれば
いい。 厄介なのは、意図的に改ざんされているデータ
であったり、大きな波動が存在することを隠すため平
均値のみを公開するといったケースだ。 こうした悪意
に満ちたデータを基に算盤を弾けば、当然、コスト計
算が狂ってしまい、3PLは業務受注後、赤字オペ
レーションを強いられる羽目となる。
荷主のトラップに引っ掛かるな
同業者として許しがたいのは、物流コンペのプロ
ジェクトマネジメント(PM)を任せられているコンサ
ルタントがデータの改ざんを荷主に指南しているケー
スがあるという事実だ。 荷主にとって有利なデータを
作り上げてRFPとともに提供し、コスト削減につな
がる提案を引き出して3PLと契約を交わす。 蓋を開
けてみたところ、前提条件が異なっていることに気づ
いたものの、時すでに遅し‥‥。 荷主サイドは契約を
盾に3PLにオペレーションの継続を迫るという、い
わば?悪徳商法〞だ。
このような荷主サイドの罠に引っ掛からないように
するためにも、物流データの収集と分析には細心の注
意を払うとともに多大な時間を費やすべきだ。 仮にコ
スト計算に必要なデータが揃っていない場合には、荷
主に対して「公開質問会」などを通じて、きちんと
データの開示・提供を求めなければならない。 物流
コンペにおいて相手の心象が悪くなることを懸念し、
データの請求をためらっていると、後にとんだしっぺ
返しを喰うことになるだろう。
PROFILE
(かりや・だいすけ)1973年生まれ。 青山学院大
学卒。 物流業界紙「輸送経済」記者、月刊誌「流通
設計」副編集長、月刊誌「ロジスティクス・ビジネ
ス(LOGI-BIZ)」の編集記者、副編集長などを経て、
2008年4月に青山ロジスティクス総合研究所(ALI)
を設立。 現在、青山学院大学大学院経営学研究科博
士前期課程に在籍中(2010年3月に修了予定)。 所
属学会は日本物流学会、日本海運経済学会、経営情
報学会、スケジューリング学会など。 07年11月より
物流メルマガ「ロジラボ通信」編集長。 コンサルティ
ングファームであるロジラテジー社のストラテジスト、
ロジスティクス・コンセプト社のシニアディレクター
(ストラテジックマネジメントコンサルタント)を兼任。
?商品アイテム
?商品管理レベル(ロット、賞味期限、保管温度・湿度)とそれぞれのSKU の数
?荷姿情報と標準ユニットロード
?商品ごとのディメンション、ケース入目、重量、積み上げ限度など
?標準パレット、オリコン、カゴ車、段ボール箱など
?入荷、出荷、返品、廃棄、保管等の(荷姿別)物量・頻度
?副資材(段ボール、緩衝材ほか)の規格と使用量(物流企業に管理を依頼する場合)
?日別、週別、月別、年間物量(商品カテゴリー別、センター別、作業エリア別、輸送方法別など)
?異形品や特殊取り扱い品の有無等(危険物、毒劇物、放射性物質など)
?出荷指示明細(生データなら1年分)
?納品先別・輸送方法別の物量データ
?オペレーションスケジュールと実績のデータ
?システムトランザクションボリューム
荷主に開示を求めるべき物量関係データ
出典)ロジスティクス・コンセプト資料
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