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NOVEM BER 2009 4
ゴーンが乗り込んで系列を破壊した」
「しかし、それは系列が悪かったわ
けではなく、依存体質の問題でした。
同じ自動車業界でも、トヨタはデン
ソーをはじめ系列の部品メーカーを世
界企業に育てました。 日産の系列メ
ーカーは日産だけを相手にしていれば
良かったのでラクしてしまった。 それ
が間違いだったということに気付いて、
日産も現在はいったん壊した系列の再
構築に動いています」
──良い系列と悪い系列がある?
「サプライヤーと協力してコストを下
げ、技術や製品を開発することはます
ます必要になっています。 サプライヤ
ーとの長期安定的な関係がその前提に
なる。 ただし、そこに競争原理が働か
ないと依存関係になってしまう」
──どうすれば良いのでしょう。
「一つは系列に閉じこもらないこと
です。 特定のメーカーと深い繋がりは
維持しながらも、系列の外へ、世界
へと商売を拡げていく。 それによって
特定の顧客に依存せずに自立する」
「ヨーロッパの有力メーカーの多く
は、サプライヤーとの長期的取引を
示す認証パートナー制度を持っていま
す。 『パネル三〇〇社』とか『パネル
五〇〇社』とか呼ばれていますが、そ
こに入ることがサプライヤーにとって
の一つの目標になる。 パネル企業は年
調達物流がないのは日本だけ
──日本では物流と調達が全く別の分
野として扱われています。
「ロジスティクスと調達が不可分の
活動であることは、世界的には常識
です。 欧米だけでなくアジアでも、例
えば中国では『中国物流購買連合会』
という団体が、サプライチェーン分野
で最も権威のある組織となっています。
日本はそうなっていない」
「それには日本の商慣習も影響して
います。 日本では商品を買うと、売
ったほうが指定した場所まできちん
と届けてくれる。 商品価格に物流費
が含まれていて、買う側では物流を
考える必要がない。 海外では基本的
に買う方が取りに行かなくてはならな
い。 購買に必ず物流が伴う」
「そうした違いを私は、メーカーの
駐在員として海外で購買・調達の仕
事をすることで、いやというほど味
わいました。 私が米国でサプライマネ
ジメント協会(ISM)と関わりを持
つようになったのも実務家として必
要だったからです。 ISMに行けば、
色んな会社のバイヤーたちがボランテ
ィアで私の仕事に協力してくれた」
「日本にはバイヤー同士のそうした
横の繋がりというものがありません。
それどころか同じ業界のバイヤー同士
が交流を持つことは、逆に談合につ
ながる恐れがあるということから歓迎
されない。 しかし、それでは専門人
材は育たないし、購買・調達の仕事
が社会的に認知されません。 それで
日本に帰ってきたのを契機にISM
の日本支部を立ちあげたんです」
——日本企業の調達は、それほど特
殊ですか。
「日本企業の調達はいつまで経って
も?KKD?、経験と勘と度胸です。
バイヤーが依然として机の前にふんぞ
り返っている。 そんなやり方では海
外では必要な資源や部材を安定的に
確保できません」
──しかし、メーカーとサプライヤー
との関係は日本のほうが長期安定的
だったはずでは。 欧米企業は日本の
系列取引を見て、駆け引きに終始し
ていたサプライヤーとのそれまでの関
係を改め、SCMの重要性に気付い
たと理解しています。
「系列が上手く機能していたのは、
トヨタやキヤノンといった一握りの会
社だけです。 そのほかの日本企業は
系列取引・互恵取引によって、むし
ろ阻害されていた。 昔は日産は系列
からしか部品を買わなかった。 それ
でダメになったところに、カルロス・
上原修 日本サプライマネジメント協会 理事長
「物流サービスの購買にも戦略を」
日本企業の購買・調達活動は戦略性を欠いている。 内外作問
題やアウトソーシングの範囲、調達先の選定を、担当者が場当た
り的に判断している。 調達の専門スキルを持つ人材も育ってい
ない。 調達に焦点を当て、SCMを進化させる必要がある。
(聞き手・大矢昌浩)
5 NOVEMBER 2009
に一回、入れ替えが行われます。 そ
こに入ったサプライヤーはメーカーか
ら表彰され、仕事をもらえる。 銀行
融資なども優遇される。 一方、落選
したサプライヤーは仕事を失う」
──日本の系列取引は周回遅れ?
「少し前ですが、ある韓国の電機メ
ーカーの幹部は、『日本メーカーの購
買は二〇年遅れている』と言いまし
た。 そう言われても仕方ありません。
韓国の電機メーカーは始めから世界を
向いている。 日本のメーカーとの差は
歴然としています」
「日本の場合、総合商社の存在も大
きかったと思います。 総合商社に連
絡すれば何でも持ってきてくれるので
すから、メーカーのバイヤーは楽がで
きた。 ただし、いったん商社が入り込
んだら未来永劫マージンを抜かれます。
一方で海外のグローバルメーカーは何
質以外の側面にも目を向ける」
「具体的にはクロス・ファンクシ
ョナル・チームを組織し、そこに物
流や調達をはじめ各部門の担当者を
専任で張り付けて、入札を実施する。
世界中のベンダーを徹底的に調査して
一番良いところを選ぶ。 そのために
は外部のコンサルタントも使う。 高額
なコンサルティングフィーも原価低減
が実現できれば十分吸収できる」
「社内だけで情報を収集しようとし
ても限界があります。 日本のメーカー
は今やどこも海外調達に躍起になって
いますが、国内のサプライヤーのこと
をきちんと調べていない。 一〇〇社で
も二〇〇社でも片っ端から連絡を取っ
てみれば海外から調達するよりも安く
て品質の良いメーカーが見つかるのに
それをしない。 日本企業はもっと戦略
的に調達に取り組むべきです」
でも自分で調達してきた。 そこでスキ
ルに大きな差がついてしまった」
「本来、内外作の決定は、その会社
の最大の戦略です。 欧米の自動車メ
ーカーなどは、その昔はタイヤの原料
になるゴムの木を植えるところから、
全て自前でやっていた。 しかし、それ
では競争力を維持できなくなって、内
外作の見直しに必死に取り組んできた。
一方、日本のメーカーはあまり深く考
えることなく、当初から外作中心で
スタートしました。 その後も内製する
か外から買うかを主に製造部門が判断
してきた。 物流だって同じです。 自
分でやるのか、外注するかを物流管
理部門や工場だけで判断している」
「日本で内外作を戦略的に判断して
きたのはトヨタぐらいでしょう。 トヨ
タの社長になる人は皆、調達本部長
を経験しています。 それだけ調達を
重視して、この製造は外に出すとか、
このサプライヤーの技術はコアになる
から社内に取り込んでしまおう、とい
った戦略的な意志決定を行ってきた」
買収や採用も調達だ
──海外では物流サービスの購買にも、
調達部門が関わっているのでしょうか。
「日産とルノーは二〇〇二年にルノ
ー・ニッサンパーチェシングオーガニ
ゼーション(RNPO)という調達会
社を設立して、部品や原材料の共同
購買を行ってきましたが、数年前か
らサービスを含めた全ての分野にその
領域を拡大しました。 物流サービスは
もちろん、オフィスで使うボールペン
から観葉植物のリースに至るまでRN
POにまとめ、世界で最も良いベンダ
ーから調達する。 既に日産とルノーが
外部に支払っている金額の九〇%近
くが集約されています」
「さらに海外の有力なグローバルメ
ーカーでは、材料や部品、サービス
だけでなく、企業買収でも財務部門
や経営企画部門より調達部門が主導
することが多い。 人材の採用でさえ
そうです」
──しかし、物流サービスのことなら
調達部門よりも物流部門のほうが詳
しいはずです。
「確かに物流機能については物流部
門は専門家です。 しかし彼らは調達の
専門家ではない。 物流部門はきっち
りとした物流の仕様書を作る。 それを
もとに調達部門が専門知識を活かして
入札を行い、最適なプロバイダーを選
択する。 使う人と買う人を分けないと、
癒着や不正も起こってしまう。 また調
達部門は物流部門に外の空気を流し込
む役割も果たします。 新しい技術開発
を物流に採り入れたり、環境負荷の軽
減など物流のコスト効率やサービス品
サプライマネジメント協会
(ISM= Institute for Supply Management)
購買・調達の実務家や研究者のための非
営利団体として1915年に米国で設立。 職
業教育や資格の運営、経済指標の提供など
を行っている。 ISMが公表する「製造業景
況感指数」は米国の景気動向を示す最も重
要な経済指標と位置付けられている。 世界
5万人以上が取得する米公認資格「CPSM
(Certified Professional In Supply Chain
Management)」は、ISMジャパンを通じて
日本語で受験することもできる。 ISMジャ
パンURL http://www.ismjapan.org/
組織概要
うえはら・おさむ 1950年生まれ。
日系メーカーの海外駐在員として購買・
調達業務に従事した後、複数の外資系
メーカーで購買責任者を歴任。 2003年
4月、米サプライマネジメント協会の日
本支部法人化と同時に代表に就任。 仏
パリ大学院ESSECビジネススクール客
員教授。 米アリゾナ州立大学CAPS日
本代表研究員。 法政大学大学院イノベー
ション・マネジメント研究科兼任講師。
“ La Lettre des Achats”の日本にお
ける編集委員等を務める。 主な著書に「グ
ローバル調達戦略経営」日本規格協会、
「購買・調達の実際」日経文庫などがある。
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