ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年11号
ケース
武蔵野市 交通政策

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NOVEMBER 2009  40 交通政策 武蔵野市 路上荷捌き問題の対策に“吉祥寺方式” 共同集配の運営費を自販機事業で捻出  住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築 施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達 成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
納品車両が“巡る楽しさ”を阻害する  東京都武蔵野市の東南部にあるJR中央 本線吉祥寺駅周辺は、不動産会社などが行 う?住みたい街?ランキングでいつも第一位 に名前の上がる人気の街だ。
駅の半径二〇〇 メートル圏内に大小とりまぜ二〇〇〇以上の 個性あふれる店舗が軒を連ね、多摩地区有数 の商業地区を形成している。
 その周囲には落ち着いたたたずまいのハイセ ンスな住宅街が広がり、駅の南側には緑豊か な井の頭公園が憩いの場を提供している。
買 い物に便利なうえ自然にも恵まれたバランス のよさがこの街の魅力だ。
 ただし、?住みたい街?ではあっても、?行 ってみたい街?としての評価は必ずしも高く なく、その手の人気ランキングでは、それほ ど優位にはない。
近年では六本木ヒルズや東 京ミッドタウンなど都心に相次ぎオープンした ショッピングスポットに人気が集まり、立川 など近隣都市の隆盛も目立ってきた。
 都市間競争が激化する中、商業地区として の吉祥寺の競争力が相対的に低下しつつある ことを、武蔵野市は危ぶんでいた。
新たな吉 祥寺の将来像を描くため、二〇〇四年に市長 を委員長とする吉祥寺グランドデザイン委員 会を立ち上げた。
同委員会でまちづくりの基 本方針を定め、これをもとに別途ワーキング 委員会を設けて具体的な施策の検討・実行を 進めた。
 総合的なまちづくりの方針として、商業環 境と居住環境の調和、独自文化の育成と発信 など四つの柱を立てた。
その一つに、吉祥寺 の商業地区の特徴である?巡る楽しさ?をア ピールして来訪者を増やし、街の活性化を図 るという内容が盛り込まれた。
 従来から吉祥寺では大小の店が連携して回 遊性を重視したまちづくりを行ってきた。
吉 祥寺に出店するロンロン、パルコ、東急百貨 店、伊勢丹、丸井、ヨドバシカメラなどの大 型店は、JRの駅ビルを除き、いずれも駅か ら少し離れたところに立地している。
 そうした集客力のある大型店の間を埋める ように、駅前から縦横に延びる通り沿いにた くさんの専門店が集まり、いくつもの商店街 をつくっている。
来訪者は商店街と大型店を 交互に巡りながら買い物を楽しめる。
武蔵野市は吉祥寺駅周辺の路上荷捌き問題の対策 に新方式の導入をめざしている。
商店街に納品する 運送会社などに、民間事業者が駐車場や共同集配サ ービスを低料金で提供する。
その運営費補填する ため、市や商店街が協力して自販機事業など別の事 業で資金を確保するというものだ。
41  NOVEMBER 2009  だが商店街の路上で荷捌きを行う納品車両 の違法駐車によって、この?巡る楽しさ?は しばしば阻害されてしまう。
商店街の小さな 店舗には大型店のように駐車場の附置義務が ない。
仕方なく納品業者は路上で荷捌きを行 うことになる。
 納品が集中する時間帯になると、通りの両 側は荷捌き車両で埋まる。
その脇を別の納品 車両が通り抜け、歩行者の通行を妨げるとい う光景が常態化している。
歩行者が安心して 回遊できる環境を整えて吉祥寺の魅力を引き 出す必要があった。
 そこで市は、まちづくりの一環として荷捌 き駐車対策に乗り出した。
吉祥寺の中長期的 な再開発に向けて設置した「吉祥寺まちづく り事務所」が事務局となり、〇六年二月に地 元の関係者による「吉祥寺共同集配システム 検討委員会」を設け、駅周辺地区に進入する 車両台数を削減するための協議を開始した。
共同集配だけでは不十分  納品車両の駐車問題に対する武蔵野市の関 心はかねてから高かった。
一九九〇年には全 国に先駆けて違法駐車防止条例を制定してい る。
九九年には吉祥寺駅周辺が関東運輸局に よる荷捌き駐車対策の調査研究のモデル地区 に指定され、「きっちり・すっきり・吉祥寺」 をキャッチフレーズに路上荷捌き撲滅キャン ペーンが展開された。
 この頃から、東京路線トラック協会(東路 協)も、東京の商業地区で実施している監視 車によるパトロールを、月に一度の頻度で吉 祥寺地区に割り当てるようになっている。
現 在では月に二度巡回して路上駐車するドライ バーへ注意を促している。
 〇一年には関東運輸局による実証実験が 行われた。
店の納品時間を調整し、寺院など の協力を得て荷捌き用の駐車スペースを確保、 貨物を集約して共同集配を行った。
駐車台数 が減少し駐車時間も短縮するなどの成果が認 められている。
 この実験結果から、市は共同集配が荷捌き 駐車の解消に最も有効だと判断し、〇六年の 委員会を立ち上げる際にも、?共同集配シス テム検討委?の名称をつけた。
当時、横浜元 町地区やさいたま新都心などで共同集配事業 が注目を集めていたことに刺激を受け、吉祥 寺でも共同集配を実現することで?巡る楽し さ?を阻害されないまちづくりをめざした。
 だが、物販店が大半を占める横浜元町や官 庁街のさいたま新都心と吉祥寺では、貨物の 中身や納品実態が大きく異なっている。
委員 会開催前の〇五年末にまちづくり事務所が商 店街に対して行ったアンケート調査では、吉 祥寺駅前地区には物販店に次いで飲食店の数 が多く、納品される貨物のなかで冷蔵・冷凍 品や生鮮食料品が四割を占めることが分かっ ている。
 運送会社ではなく取引先などが自家用車で 納品する比率も高い。
〇六年一月に実施した 路上駐車の調査では、実施日の午前八時から 午後八時までの間に対象エリアで貨物車の駐 車がおよそ三五〇〇台あり、このうち一二〇 〇台は白ナンバーの自家用車だった。
 検討委はこうした実態から、共同集配だけ では対策は不十分と見て、食料品納品車両や 自家配送車などを想定した荷捌き用駐車場の 確保など、包括的な検討を行うことにした。
 〇七年三月までの一年間に委員会は六回開 かれた。
同年二月には二週間に渡り、?運送 事業者のデポを利用した共同集配と、?民間 の駐車場などを荷捌き用に利用する二つの実 証実験も行っている。
 検討委で議論の焦点となったのは、共同集 配の手数料の設定と事業運営費の捻出方法だ った。
横浜など先行地域の共同集配事業では おおむね手数料を一個あたり一五〇〜一六〇 円に設定している。
この金額では運送業者に とって負担が大きく参加を見合わせる業者が 多い。
片や共同集配の運営側では、荷捌き施 路上駐車の状況 調査日時:平成18 年1 月27 日(金)〜 午前8 時〜午後8 時(12 時間) 自家用車 1.000 台 白ナンバートラック 1,200 台 特積み事業者 200 台 区域事業者 1,100 台 計 3,500 台 緑ナンバー トラック 種  別 台 自家用車 15.1 分 白ナンバートラック 17.0 分 特積み事業者 27.8 分 区域事業者 17.5 分 計 17.1 分 緑ナンバー トラック 種  別 平均駐車時間 NOVEMBER 2009  42 設の費用も含めるとこの料金でも採算を取る のは難しく、赤字運営を余儀なくされている ケースもある。
 共同集配を成功させるには、手数料を安 くすることと、事業運営に必要な原資を確保 することが、どちらも欠かせない条件になる。
これに対して、まちづくり事務所では、「負 担金」という考え方で、納品を行う運送会社 だけでなく、商店会などの関係者も費用を分 担するという案を叩き台として示した。
 運送業者を厳しく取り締まるだけでなく、 関係者による協議会を設けて荷捌き施設の手 当てや仕組みづくりをまち全体で行う。
共同 集配や駐車場一括借り上げ事業の運営費用も、 関係者で公平に負担金を拠出して協議会にプ ールする。
市も事業を助成し、駐車場事業者 に稼働率の低い時間帯を荷捌きに利用できる よう働きかけるというアイデアだ。
 商店街側では新たな費用負担が発生する ことになるが、地元商店会代表の委員から は、それもやむをえないと容認する意見も出 た。
だが、この案に運送事業者側の代表であ る東路協の委員が異を唱えた。
 東路協では共同集配の運営費を貨物一個あ たり一八〇円と試算し、その一方で手数料を 一個一〇〇円以下に抑えないと多くの運送事 業者の参加を得るのは難しいと見ている。
こ の手数料収入と費用とのギャップを埋めない 限り事業は成立しない。
それを商店街側でも 負担してくれるというのは、本来なら歓迎す できる共同配送事業会社」として、東路協が 〇六年一月に会員の共同出資で設立したコラ ボデリバリーが当たる。
 コラボデリバリーは共同荷捌き施設に集約 した貨物を仕分けて、そこから台車で各店舗 へ配送する。
運送業者から徴収する手数料は 一個一〇〇円以下に設定する。
その料金設定 では運営費との差額が生じるため、商店街の 協力のもとに別の事業で収益を上げ、費用を 補填する。
 別の事業収入としては飲料自動販売機のベ ンダー事業収入をメーンに想定している。
コ ラボデリバリーは設立時から今回のようなビ ジネスモデルを念頭に、自動販売機のベンダ ー事業を定款に加え、国内の主要な飲料メー カーと販売委託契約を交わしている。
従って 商品の仕入れには支障がない。
 飲料ベンダーとして自販機による商品の販 売額から仕入れ値を引いた差益を共配事業に 還元する。
店舗への共同配送の合い間に自販 機への商品補充を行えるので、オペレーショ ン効率が良い。
補充のためにベンダーの車両 が商店街に入り込むことがなくなり一石二鳥 だ。
 ただし、各商店には既存の自販機の設置契 約先をコラボデリバリーに切り替えてもらう必 要がある。
もちろん契約先を変更しても商店 は従来通り手数料を収受できる。
東路協では 商店街に対し「負担金」の代わりにこの協力 を期待している。
この案を武蔵野商工会議所 べき話のはずだ。
 しかし、その実現可能性と継続性には懸念 があった。
店は共同集配の運営費を負担した からといって直接、売り上げが増えるわけで はない。
負担金の拠出に対して、個々の店か ら理解を得て、それを継続していくのは容易 ではないはずだ。
 共同集配を安定的に運営するには、店側の 費用負担を前提とするのではなく、手数料収 入とは別の事業収入を確保することで事業を 成り立たせる方法を採るほうが現実的だと東 路協は主張した。
コラボデリバリーを事業主体に  こうした議論を経て検討委は「従来と異な る?吉祥寺方式?で荷捌き対策を進める」方 針を固めた。
その具体的な施策を検討して実 行に移すため、検討委のあとを受け、ほぼ同 じメンバーによる「吉祥寺方式物流対策委員 会」が〇八年八月に発足した。
 対策委では、東路協と、新たに委員メンバ ーに加わった駐車場運営事業者のパーク24 が、共同集配と駐車場確保について吉祥寺方 式による新たな荷捌き対策を提案し、その具 体化に向けた議論を行っている。
 東路協の提案した共同集配事業は、先の対 策委での主張を具体化したもので、手数料収 入以外の事業収入で共同集配の費用を賄うと いう考え方を採っている。
共配事業の運営主 体は、「特積トラック運送事業者が協調・協力 43  NOVEMBER 2009 行、ドライバーがカードを駐車場の機械に挿 入するだけで駐車場を利用でき、料金の後払 い精算が可能なサービスを開始した。
 料金体系は従来と変わらず時間単位の設定 だが、現金を用意する必要がなくドライバー にとって利便性が高い。
これまでに一六八〇 社と契約し、六万五四〇〇枚のカードを発行 している。
 今回の提案では、この法人カードシステム を応用した「荷捌きカード」を使う。
カード を持つ納品業者は制限時間内であれば指定駐 車場を自由に利用できる。
 吉祥寺地区の駐車料金は時間あたり六〇〇 円前後に設定されている。
月に五〇〇〇円の 定額料金は破格の安さだ。
この料金設定で事 業の採算をとるのは極めて難しい。
しかもT BCを利用している既存顧客が、安価な「荷 捌きカード」に流れてしまう恐れがある。
同 社にとっては収入減だ。
 そこでこの事業にも、別の事業収入で原資 を確保するという吉祥寺方式を採用する。
有 里寿駐車場の隣に同じく土地開発公社保有の 土地があり、現在は西友が附置義務駐車場に 利用している。
この土地を西友の代わりにパ ーク24が市から借りてそのまま買い物客用 の駐車場として運営し、その利益を荷捌き用 駐車場事業の原資に充てる。
 従来、この駐車場は西友の開店前の時間帯 には営業していなかった。
パーク24の運営 に移行した後は、ほかの駐車場と同様に荷捌 き用に提供するので稼働率が上がる。
市によ ると、年内をめどに西友から移管が行われる 見通しだ。
 パーク24では今年の九月に「荷捌きカー ド」の発行を開始した。
ただしパーク24は 直接営業活動を行わず、まちづくりの一環と して商店街が納品業者に利用を呼びかけてい る。
 カード料金は前払い制だが、制限時間を超 過して駐車場を利用する場合、超過分につい ては通常の時間単位の料金がかかり、別途カ ードでの決済が生じる。
このためカードの発 行には与信が要る。
そこで当面は商店街の推 薦を受けた納品業者だけにカードを発行する。
 まちづくり事務所では「共同集配と荷捌き 駐車場の確保のほかに、道路の通行規制やパ ーキングメーターの設置などをからめて対策 を進め、三〜五年後には路上駐車台数を三割 程度減らしたい」と話している。
(フリージャーナリスト・内田三知代) の主催する会議などで紹介し、商工会議所が 商店会に協力を呼びかけるなど合意形成に努 めている。
 対策委では今年の夏に商店街のアンケート を実施し、各商店の自販機の設置台数などを 調査した。
今後、商店の協力をどの程度得ら れるかを見極めた上で東路協が共同集配の料 金設定や事業の収支シミュレーションを行い、 対策委で事業化の可能性を探る。
 共同集配の荷捌き場としては、吉祥寺駅か ら四〇〇メートル離れた五日市街道沿いに武 蔵野市土地開発公社が保有する有里寿駐車 場の一部を整備して利用する方向で検討して いる。
実現すれば共同集配の新しいモデルに なる。
駐車場を月額五〇〇〇円で  もう一つのパーク24が行った提案も、吉 祥寺方式による画期的な内容だ。
コインパー キング「タイムズ」を展開する同社は吉祥寺 駅周辺に、三〇カ所計五〇〇台以上の駐車ス ペースを運営している。
これらの駐車場を利 用率の低い午前六時から一〇時までの時間帯 に限り、月額五〇〇〇円で納品業者に提供す るというもの。
 同社はこれまでもコインパーキングに貨物 車優先の駐車スペースを設けるなど自治体の 荷捌き対策に協力してきた。
〇五年五月には 運送事業者を主な対象に法人専用の決済カー ド「タイムズビジネスカード(TBC)」を発 当面は商店街の推薦を受けた納品業者 に荷さばきカードを発行

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