ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年12号
特集
新しい物流労務管理 第1部 ドライバー管理からパート活用へ

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派遣禁止・最低時給1000円時代の現場運営 特 集 ドライバー管理からパート活用へ DECEMBER 2009  12 物流現場は労働組合のデパート  物流現場は労働組合のデパートだと言われる。
御用 組合から戦闘的な左翼系組合まで、あらゆるタイプの 労働組合が物流現場に入り込んでいる。
長年にわたり 中小運送業の経営指導に当たっているシーエムオーの 川崎依邦社長は「物流業の経営は労務管理との戦い だ。
保有車両台数二〇台以上の規模で、まったく労 働紛争を経験していないという社長を私は知らない」 という。
 労働組合のない会社の社長宛に、ある日突然、「労 働組合加入通知ならびに団体交渉申し入れ」が配達 証明郵便で届く。
その書面には組合加入者の氏名と、 待遇改善や処分の取り消しなどの要求事項が列記さ れている。
会社に不満を持った従業員が、一人でも 加入できる産業別組合に駆け込んだのだ。
 その会社に本格的に組合の支部を組織しようとし ている場合には、団交の申し入れの封筒が届く半年近 く前から他の従業員に対する組織への勧誘、いわゆる ?オルグ?が行われる。
それを察知した経営陣の多く は過敏に反応してしまう。
 「最近の労働組合は、左翼系であってもかつてのよ うな対決型ではなくなっている。
しかし経営者側に 昔のイメージが残っていて、社長が一〇人いれば九人 まで組合と聞いただけで毛嫌いする。
無理な組合潰 しに動いて、その結果、社内の雰囲気が極端に悪く なってしまう」と川崎社長。
 例え組合潰しに成功しても、今度は労働基準局が 待っている。
重大な懸念がある場合には労働基準監 督官が抜き打ち調査に入る。
その多くは元従業員の密 告がキッカケだ。
就業規則や賃金台帳、出勤簿などが チェックされ、監査を受けた運送会社のほとんどで残  規制緩和は荷主企業の物流コスト抑制と引き替え に、現場の労働条件悪化をもたらした。
単純労働の 賃金は低下し、労働組合の求心力も失われた。
収益 源を失った物流企業は3PLに活路を求めている。
その 結果、正社員ドライバーの管理からパート・アルバイ トの活用に労務管理のテーマはシフトした。
第 1 部 13  DECEMBER 2009 業代の未払いなどの違反が指摘される。
悪質な場合 には書類送検されることもある。
 一九九〇年の「物流二法」の施行によって、物流業 の競争規制が段階的に緩和された結果として、トラッ ク運賃の相場はほぼ一貫して下がり続けている。
これ に対応するため大手運送会社や物流子会社は、実運 送を協力会社に委託して利用運送化、フォワーダー化 を進めている。
 運送事業のコストの六割は人件費が占める。
そして 大手と中小では同じドライバーでも給与水準に大きな 開きがある(図2)。
実運送を下請けに回せば、給与 が違う分だけコストを抑制できる。
同時にドライバー の労務管理という面倒な問題からも開放される。
 しかし、中小零細運送会社の多くは労務管理のノ ウハウはもちろん、そこに人手を割く余裕がない。
コ ンプライアンス違反が自覚のないまま放置され、重大 事故や深刻な労働問題を引き起こす。
川崎社長は「そ うした傾向が今後ますます広がっていくことになりそ うだ」と危惧している。
 全てのしわ寄せが現場に向かっている。
その一方で 大手における労働組合対策の重要性は以前と比べ大幅 に低下している。
規制緩和の始まる前までは、組合 対策を経験することが大手運送会社の経営トップに出 世するための暗黙の条件とされることが多かった。
ド ライバーを確保してストライキを避け安定輸送を維持 する必要があった。
 そのため経営側は労使協調路線をとる企業別組合 と手を結び、対決路線の組合の弱体化を図った。
そ うした企業別組合の多くは生産性の向上による事業 の拡大にも協力した。
規制緩和政策にも理解を示し、 競争の自由化による市場の活性化に前向きに取り組ん だ。
このような日本型の労使関係は、日本の経済成 シーエムオーの 川崎依邦社長 図2 道路貨物運送業の規模別待遇格差 図3 物流業の非正規社員比率と労働組合組織率 正規社員( 人) 非正規社員( 人) 非正規社員比率 労働組合組織率 道路運送業 水運業 航空運輸業 倉庫業 運輸附帯業 物流業合計 1,158,600 48,000 47,200 90,100 186,000 1,529,900 470,100 8,300 7,200 89,600 116,400 691,600 28.9% 14.7% 13.2% 49.9% 38.5% 31.1% 23.2% 81.8% 53.4% 13.3% 36.3% 26.9% 1000 人以上 100 人〜999 人 100 人以下 運送業合計 172 173 178 175 42 33 22 31 342.1 306.6 312.3 319.8 282.6 257.9 277.2 273.4 699.0 407.4 275.5 441.6 所定内 実労働時間超過実労働時間 年間賞与その他 特別給与額 (千円) 所定内給与額 (千円) 決まって支給する 現金給与額 (千円) 企業規模 「平成19 年就業構造基本調査」および「平成19 年労働組合基礎調査」より作成 労働組合組織率は労働組合員数を正規社員とみなして単純に割って計算した 厚生労働省「平成20 年賃金構造基本統計調査」より 連 合 662 万3000 人 交運労協 交通・運輸の組合連合 63万9000人 全国港湾 港湾の組合連合 3 万5000 人 連帯ユニオン( 全日建) 3000 人 個人加盟 全港湾 1 万2000 人 個人加盟 運輸労連 13 万3000 人 企業別組合連合 交通労連 5 万6000 人 企業別組合連合 建交労(運輸一般) 3 万5000 人 個人加盟 全労連 66 万3000 人 民社党支持の旧・同盟系で 西濃運輸を中核に第一貨 物、 日本梱包運輸、岡山県 貨物運輸などが加盟 中核とする全日通は元は日本 社会党支持の旧・総評系。
ヤマト運輸、日立物流、トナミ 運輸など大手が加盟 中小零細運送会社がメーンだ が、カンダコーポレーションや 大宝運輸、近物レックスなど の中堅にも支部を持つ 港湾業がメーンだが、約 20%は、トラック運送会社が 占める。
ナショナルセンターに は加盟していない 生コン業者がメーンだが、交 運労協に加盟し、組合員に はトラック運送会社も含まれて いる。
図1 物流分野の主要な労働組合 日本の労働組合のナショナルセン ター。
民主党の支持母体。
大企 業の企業別組合および官公労を 中心とする。
連合に反発して結成されたナショ ナルセンター。
共産党と連携する ことが多い。
自治労を始めとした 公務員組合が多数を占める。
DECEMBER 2009  14 長に大きく貢献したと評価されている。
 労使協調路線の企業別組合は産業別に集まって組 合連合を組織している。
その産業別組織をまとめた ナショナルセンターが連合(日本労働組合総連合会) だ。
物流分野では運輸労連と交通労連が連合に参加 している。
上部団体を持たない福山通運の組合を除き、 大手物流会社で多数派の企業別組合はどこも、二つ の産別組織のどちらかに所属している。
 うち運輸労連は日本通運の全日通を中核として、ヤ マト運輸や日立物流などが加盟する日本最大の物流労 組連合だ。
一方の交通労連は西濃運輸を主要メンバー とする。
運輸労連の全日通が旧・日本社会党を支持 した総評系であったのに対し、交通労連は旧・民社 党を支持する同盟系であったという経緯から、同じ連 合内の運輸系の産業別組織が二つに分かれている。
 いずれも現在は民主党支持であることから、数年 前には運輸労連と交通労連の統合に向けた話し合いが 持たれたが結局、物別れに終わっている。
運輸労連 がトラック運送業に特化しているのに対し、交通労連 にはバスやタクシーなどの旅客事業が含まれていると いう違いがあることに加え、政策的な意見の相違も 小さくなかったようだ。
 運輸労連と交通労連は連合とは別に、交運労協と いう上部団体にも揃って所属している。
トラックのほ か、私鉄、タクシー、海運、航空など交通・運輸分 野の一八の産業別組合および組合連合が加盟する組 織だ。
その主導権は運輸労連が握っており、交通労 連は交運労協の活動にも一定の距離を置いている様子 がうかがえる。
 交通労協には、連合に所属していない全港湾や全 日建(連帯ユニオン)も加盟している。
このほか非・ 連合の主要な物流労組に旧・運輸一般、現在の建交 労がある。
建交労は、連合の政治路線に反発して第 二のナショナルセンターとして設立された全労連(全 国労働組合総連合)を上部団体としている。
 連合傘下の労組が大企業の正社員を中心とする企業 別組合であるのに対し、連合に参加していないこれら の労組は個人で加盟できる産業別組合で、中小零細企 業の従業員や非正規社員の組織化にも積極的だ。
企 業側との交渉が決裂した場合には、ストライキも辞さ ない姿勢も共通している。
 それでも、高度成長期のような激烈な組合闘争は 今では影を潜めている。
 八〇年に物流業の規制緩和に乗り出した米国では、 新規参入の急増による運賃競争の激化、ドライバーの 賃金水準低下、倒産の増加という市場の混乱を、日 本よりも一足早く経験した。
米国の一連の規制緩和で 最も得をしたのは、物流コスト削減の恩恵に与った大 手荷主企業であり、最も損をしたのは労働条件が悪化 した物流現場の労働者、そして求心力を失った労働組 合だったと言われる。
 同じことが日本でも起こっている。
日本の労働組合 の組織率は年々低下を続け、現在は二〇%を切ってい る(図4)。
結成時には八〇〇万人を数えた連合の加 盟員数も六八〇万人まで減っている。
同じ時期に非正 規社員の人数は八一七万人から一七六〇万人に増加 している。
全労働者の三分の一以上が今や非正規社員 だ(図5)。
 そのほとんどが組合に入っていない。
とりわけ大企 業の正社員で構成する連合傘下の企業別組合は、非 正規社員にはずっと冷淡な姿勢をとってきた。
非正規 社員の待遇を改善してコストが上がれば企業の価格競 争力が失われる。
それを避けようとすれば正社員の待 遇にメスを入れざるを得なくなってしまう。
図4 日本の組合組織率の推移出所:厚生労働省「労働組合基礎調査」より (年) 60 50 40 30 20 10 0 5000 4500 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 47 51 55 59 63 67 71 75 79 83 87 91 95 99 03 07 (万人) (%) 組合員数 非組合員数 組合組織率 15  DECEMBER 2009 員と非正規社員の数は拮抗している。
ユニオンショッ プ制は原則として従業員の過半数が組合に加盟してい ることを条件とする。
労使間で時間外労働について の協定を結ぶ、いわゆる「三六協定」も従業員の過 半数を代表する者がサインしなければ有効性を失う。
 そのためJP労組は現在、非正規社員の組織化に 躍起になっている。
既に非正規社員の二二%を取り込 んだという。
しかし今年二月、郵政の非正規社員は 「正社員と同一労働で同一時間働いても年間賃金は正 社員の半分にもならない。
病気への保証すら十分で はない」として、JP労組とは別に、ゆうメイトを対 象とした「NPO法人ゆうせい非正規労働センター」 が立ち上がっている。
 同センターの稲岡次郎理事長は「非正規社員の待遇 を向上するには、やはり正社員の待遇にも手を付け るしかないと考えている。
既存の正社員組合にそれ ができるとは思えない。
非正規社員の加盟する他の 組織とも連携を取りながら同一労働・同一賃金を実 現したい」という。
 同センターの他にも、派遣社員やパートが個人で加 盟する草の根的なユニオンが各地で立ち上がっている。
イデオロギー色は薄いが、企業別組合と違って安易に 妥協はしない。
薄く広いネットワークは組合潰しも難 しい。
マスコミやインターネットを利用した情報発信 力を備え、世論という追い風まで受けている。
 甘く見れば、企業はコンプライアンス違反で足元を すくわれることになる。
現場の運営に支障を来せば荷 主企業にも直接影響が及ぶ。
正社員ドライバーとは全 く異なる、非正規社員を対象とした労務管理がロジス ティクスの新たな課題となっている。
彼らとどう向き 合うのか。
企業経営者だけでなく、既存の労働組合 もその姿勢を問われている。
      (大矢昌浩)  同じ仕事に従事している人は待遇も等しくするとい う「同一労働・同一賃金」は、国や立場の違いを問 わず全ての労働組合運動の原則とされる。
しかし、そ れは日本の大企業の年功序列賃金と馴染まない。
ま た産業別賃金が設定されてしまえば、物流業に顕著 な下請け構造も成り立たなくなる。
 そのため連合は原則には目を瞑って、組合員であ る大企業正社員の利益を擁護する立場を取らざるを 得なかった。
一方?野党?の産業別組合は規模的に 小さく、主張を政策として実現する政治力に課題を 抱えている。
ユニオンショップ制を敷く大企業は、新 入社員が自動的に企業別組合に加入してしまうため 手が出せない。
組合のない中小零細も経営側の頑強 な抵抗にあって組織化を阻まれている。
3PL時代の労務管理  こうして大手の正社員は、経営陣とは気心の知れ た企業別組合に集約されると同時に、その労働運動 力を失っていき、実運送は組合のない中小零細に流 れていった。
しかし物流業が労務管理から開放され たわけではない。
運送で利益を上げられなくなった大 手物流企業は多くが3PL化を進めている。
その結 果、正社員に変わって庫内作業に従事する非正規社 員の管理が新たな課題に浮上している。
 倉庫業に就く労働者の労働組合組織率は今や十 三・三%まで低下している。
一方、非正規社員の比 率は四九・九%にも上っている(図3)。
運送事業で もラストワンマイルを担う宅配業や都市部の集配には 非正規社員が多く起用されている。
 日本郵便は現在、約一五万人の非正規社員を抱え ている。
正社員は約一〇万人で全社員に占める比率は 三九%に過ぎない。
郵政グループ四社全体でも、正社 図5 正規社員と非正規社員の労働者数の推移出所:総務省「労働力調査」より 40 35 30 25 20 15 10 5 0 4500 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 (万人) (%) 正規社員 非正規社員 非正規社員の比率 特集 新しい物流労務管理

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