ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2009年12号
特集
第2部 政権交代で組合運動はどこに向かう 【運輸労連】違法業者を排除し市場適正化を

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2009   16 米国は社会的規制強化も同時に進めた ──運輸労連と、その上部団体である連合は基本的 に労使協調路線で、一九九〇年の「物流二法(貨物 自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法)」以降の規 制緩和にも、これまで表立って反対はしてこなかった と理解しています。
 「当時内部でいろいろ話をしましたが、時代の趨勢 として、利用者の利便性向上を目的とした経済的規 制の緩和は避けて通れないという判断でした。
ただし、 経済的規制緩和を補完する一方で、安全をはじめと する社会的規制についてはきちっと強化をして担保す べきだというスタンスで臨んできました。
実際、我々 の働き掛けもあって社会的規制・安全規制について は当初案よりも前進した部分がいくつも盛り込まれる ことになりました。
ところが残念ながらそれがうま く機能しなかった」 ──上手くいかなかったというのは?  「監査・監督・処罰が手ぬるいというか、行き届い ていない。
その結果、健全な市場とはほど遠い状態に なってしまった。
競争すること自体は悪くありません。
同じ料金で、より高度なサービスを提供するという競 争は必要でしょう。
ところが、それがサービス競争に ならずに運賃競争、ダンピング競争になってしまった ことが悔やまれます」 ──経済的規制の緩和と社会的規制の強化にがパッ ケージであることは、規制緩和政策の原則でそれは運 輸省も分かっていたはずです。
 「物流二法を担当した役人と話をする機会があって、 現状を予測されていましたかという質問をしたとこ ろ、当時この法案に関わった者は誰ひとり今日の現状 を予測できなかっただろうと言っていました。
日本は 金融もそうですけれど、米国の政策の表面を真似す るだけで、それをカバーする部分を見ていない。
経済 的規制緩和を補完するために何をしなければならな いのか分かっていなかったと思います」  「例えば米国ではトラック運送の個人事業が認めら れていますが、そのために必要な商業用ライセンスが 厳しく管理されている。
重大な違反を起こせば、二 度とハンドルは握れない。
しかも商業ライセンスと損 害保険制度がリンクしている。
貨物事故を起こせば料 率が大きく上がるだけでなく、各事業者の料率のラン クがインターネットで公開されている。
それを見て荷 主企業は、どこが優良企業でどこが安全性に問題が あるのか自分で判断できる」  「安全に対するチェックも相当に厳しい。
日本の国 交省の役人にあたる担当者が直接巡回監査をやると同 時に、ハイウエーの主要な場所にトラックステーショ ンを置いて、そこを通過するトラックは必ずチェック を受ける仕組みになっている。
ターミナルの誘導路に 重量計が備え付けられていて、重量オーバーだとそ の場で摘発される。
さらに、その施設でドライバーの 健康、アルコール、免許証、車両整備不良まで全部 チェックする。
そこで問題が見つかれば、改善が確認 されるまでトラックステーションから出られない仕組 みになっているそうです」  「そのため事業者は違反しない。
荷主に無理な要請 をされても、自分のライセンスに傷が付くようなら断 る。
日本の荷主のように、言うことを聞いてくれな いなら他所に頼むぞと脅すような優越的地位の乱用が 起きにくい」 ──運輸労連は市場の混乱を黙認してきたわけでは ないんでしょう?  「日本版の評価制度をなんとか作りたいということ 【運輸労連】違法業者を排除し市場適正化を  運輸労連は大手運送会社の企業組合で構成する物流 業界最大の連合会だ。
連合傘下で、これまで規制緩和 政策にも一定の理解を示してきたが、社会的規制の強 化がなおざりにされてきたことを問題視している。
市 場の適正化には、違法業者の排除など健全な淘汰が必 要との考えだ。
        (聞き手・大矢昌浩) 高松伸幸 中央副執行委員長 第 2 部 政権交代で組合運動はどこに向かう 運輸労連の概要 正式名称 全日本運輸産業労働組合連合会 組合員数 13万3000人 上部団体 連合、交通労協 特徴 連合に所属する運輸業界最大の労働組合連合 会。
日本通運の全日通を中核として、ヤマト 運輸、トナミ運輸、フットワークエクスプレス、 日立物流など計622の企業別組合が参加して いる。
労使協調路線に立ち、「物流二法」以降 の規制緩和政策にも柔軟な対応を見せてきた。
17  DECEMBER 2009 で、私どもの先輩たちが苦心惨憺して、国交省の委 託事業として適正化事業実施機関の設立にこぎ着け ました。
国交省のスタッフだけではなかなか監査まで 手が回らないから、別に適正化指導員を置いて、彼 らが各地の運送会社を回って、違反があればそれを指 導する。
また重要な問題については国交省に報告する。
それを受けて国交省が監査に入るという一連のシステ ムを作りました」  「その活動がようやく軌道に乗りつつあます。
全国 の指導員数が専従と兼務も含めて四〇〇人余りに増 員された。
年間約三万一〇〇〇事業所を点検できる ようになりました。
運送会社の事業所は現在八万六 〇〇〇余りですから、各事業所を三年に一回程度の ペースで巡回できることになる」 ──それは実施機関の指導にどれだけの強制力を持た せるかというのがポイントになりますね。
またトラッ ク協会の下部組織という実施機関の位置付けは疑問 です。
仲間内の監査で機能するのでしょうか。
 「確かに、実施機関に権限をどこまで持たせるか。
また監査の透明性・公平性をどう担保するかという ことについては毎回議論になっています。
また、その 位置付けも我々労働組合としては、当初から独立的 な第三者機関として作って欲しいと要望してきたので すが、結果としてはトラック協会の一事業部門になっ ている。
問題なしとはしませんが、活動はより充実 させていかなければならない」 正社員が持ちこたえているうちに ──労働組合と業界団体の利害は基本的に対立する はずです。
適正化の指導でも、あまり厳しくやれば トラック協会は会員からクレームを受けることになる。
 「それでも最近は我々の主張とそれほど違いはなく なってきています。
全日本トラック協会の全国事業者 大会の議論などを聞いていても、ルール違反をしてい る業者は排除しろという論調になっている。
そうしな いとルールを守って真面目にやっている事業者が損を することになりますからね」  「労働基準法を守らない業者は昔から多かったけれ ど今はそれだけでなく社会保険、労働保険にさえ入 らない業者が増えている。
四分の一が社会保険に入っ ていない。
労働保険の未加入率も一〇%を超えてい る。
酷いところになると労働者から掛け金を徴収し ておいて納めない。
とんでもない話です」 ──一方で連合に対しては、大企業正社員の利益を 守るために、非正規社員を犠牲にしているという批 判もあります。
 「非正規社員を守る前に、組合員の待遇を何とかし ろという声があるのは確かです。
組合に入らない人も 助けるなら、俺たちが組合をやめても面倒を見ろとい うことにもなる。
しかし、非正規社員の待遇改善は 正社員にとっても必要だと考えています。
非正規社 員の問題を放置して、正規社員の労働条件だけ引き 上げようとしても限界がある」 ──非正規社員の待遇を上げようとすれば、その原 資として正規社員の給料に手を付けなければならなく なります。
 「それは絶対に容認できない。
そうしないためには 結局、労働コストに見合った適正な運賃を収受する しかないんです。
企業側の論理はすべて、上を下に 揃えるという話です。
放っておけば、そうなりかね ない。
だからこそ、正社員が持ちこたえているうち に、非正規社員の待遇を引き上げておかなくてはな らない。
正社員の待遇が崩れたら、それこそどうし ようもなくなります」 適正化事業実施機関の組織とその役割 全日本トラック協会 全国貨物自動車運送適正化事業実施機関 連携 基本方針の策定、 連絡調整、研修指導 国土交通省地方運輸局運輸支局 都道府県トラック協会 地方貨物自動車運送適正化事業実施機関 地方実施機関の役割 事業者に対する指導 白トラ棒日のための啓発 秩序確立のための啓発と広報 苦情処理 行政に対する協力 指定、指導監督 申請、協力全国実施機関の役割 基本的方針の策定 地方の連絡調整・指導 適正事業指導員に対する研修 秩序確立のための啓発と広報 指定、指導監督 申請、協力 指導監督 協力 貨物自動車運送 適正化事業 対策協議会 特集 新しい物流労務管理

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