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分散していた倉庫を一カ所に集約
長野県に生産拠点を構える飲料製造会社、
ゴールドパックは、野菜ジュース、緑茶、コ
ーヒー、ミネラルウォーターといった飲料の
OEM(相手先ブランドによる生産)を請け
負っている。 業界では?パッカー〞と呼ばれ
る企業だ。 数ある製品群のうち、とりわけ同
社が得意としているのは地元の農産物を活か
したトマトジュースやリンゴジュース、キャ
ロットジュースなどの果汁系飲料で、伊藤園
をはじめとする大手飲料メーカーや、PB
(プライベートブランド)商品として店頭販
売する大手小売りチェーンなどに製品を供給
している。 ゴールドパックは一九五九年に「東洋食
品」として発足(六四年に商号変更)し、そ
の翌年に「松本工場」(松本市)の操業を開
始した。 当初はこの「松本工場」が主力の生
産拠点として活躍していたが、九一年に新た
に「あずみ野工場」(安曇野市)が稼働。 現
在では「あずみ野工場」が全生産量の約七割
を担っているという。
九〇年代後半以降、同社の業績は拡大を
続けてきた。 二〇〇五年一月期の売上高は約
四四〇億円。 健康志向の高まりとともに巻き
起こった野菜ジュースブームなどが追い風と
なって、売上高はこの一〇年でほぼ倍増して
いる(
図1)。
もともとゴールドパックは東急百貨店や東
飲料メーカーの物流改革を支援
アイデア満載の新センターが稼働
長野県に工場を構える飲料製造会社の
物流改革プロジェクトに参画。 工場倉庫
の新設と庫内管理業務を一括で請け負う
ことになった。 倉庫の収容能力を高める
ためのラックを独自に開発・導入するな
ど現場の知恵と工夫を活かしてローコス
トオペレーションを実現している。
ハマキョウレックス
――現場改善
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京急行電鉄が株主として名を連ねる東急グル
ープの一員だった。 ところが、東急グループ
は二〇〇三年春に保有する同社株式のうち、
約七割を投資会社のフェニックス・キャピタ
ルに売却した。 鉄道事業など本業に経営資源
を集中させると同時に、売却で得た資金を有
利子負債の削減に充てるためだ。 東京急行電
鉄は現在も株式の約三割を保有しているが、
経営の主導権はフェニックスが握っている。
買収後、フェニックスはゴールドパックに
役員を派遣。 二〇〇七年にゴールドパックの
株式を公開することを目指して、同社の経営
改革に乗り出した。 その際、コスト管理の徹
底や販路拡大などと並んで経営課題の一つと
して俎上に載ったのが物流改革だった。 ゴールドパックの工場〜卸・小売り間の物流は非
効率な仕組みになっており、フェニックスは
そこにメスを入れることにした。
ゴールドパックでは二工場の周辺に計一四
カ所の外部倉庫を構え、工場で生産した製品
を各倉庫で一時保管した後、全国の得意先に
出荷する体制を敷いていた。 大型トラックで
一アイテムを一得意先に単品大量輸送する場
合、この体制でも問題はなかったが、複数ア
イテムを一得意先に供給する場合にはトラッ
クが各倉庫を巡回して製品を積み合わせる、
もしくはあらかじめ製品を拠点間移動(横持
ち輸送)しておく必要があり、その分無駄な
コストが発生していた。
フェニックスは金融のプロであっても、物
流は門外漢である。 そこで以前から付き合い
のある3PLにゴールドパックの物流改革を
全面的にサポートしてもらうことにした。 白
羽の矢が立ったのはハマキョウレックスだ。
フェニックスはパッカー向け物流センターの
運営で実績のあるハマキョウに物流面でのコ
ンサルティングを依頼した。
ハマキョウの提案は一四カ所に分散してい
る倉庫を、主力の「あずみ野工場」の隣接地
に用意する大型倉庫一カ所に集約し、そこか
ら全国に向けて出荷するという内容だった。
これを受けて、フェニックスはゴールドパッ
クの社内にプロジェクトチームを設置。 新セ
ンターの立ち上げに向けて動き出した。
もっとも、ハマキョウに力を借りるのはコンサルティングまで。 新センターの建設や庫
内管理はゴールドパックと昔から取引のある
物流会社に委託する――。 フェニックスは当
初、そんな青写真を描いていた。 ところが、
受け皿として期待していた物流会社は投資余
力がないことなどを理由に、パートナーの座
を辞退してしまった。 結局、フェニックスは
コンサルティングにとどまらず、センター新
設と庫内管理もハマキョウに委ねることにし
たという。
地下トンネルで製品を搬送
ハマキョウが用意したゴールドパック向け
の新拠点「安曇野物流センター」は今年九月
にオープンした(右写真)。 センターは敷地
約15億円を投じてハマキョウが用意した「安曇野物流セ
ンター」。 今年9月に稼働した
面積三万二七〇〇平方メートル、延べ床面積
一万九〇〇〇平方メートルの平屋建て(事務
所棟は二階建て)。 庫内温度を一定に保つた
め、ウレタン素材の断熱材を使用した二層構
造の屋根を導入したほか、外壁には抗菌作用
のあるコンクリートを使用。 床には防塵につ
ながる特殊加工を施した。 土地代を除く投資
額は約一五億円だった。
同センターは「あずみ野工場」の工場倉庫
という位置づけだが、実は建物は工場の敷地
内に置かれていない。 センターは道路を隔て
て向かい側にある紡績会社が所有する用地に
建設された。 工場の周辺地域は景観条例によ
って建物の高さが十三メートル以内に制限さ
れており、平屋建ての倉庫しか建設できない
が、すでに工場敷地内には大型の平屋建て倉
庫を建設できるだけの空きスペースが残って
いなかったためだ。
隣接地であるとはいえ、工場と物流センタ
ーが公道で分断されていることは作業効率上、
大きなマイナスだ。 工場〜物流センター間で
横持ち輸送が発生するからだ。 そこでハマキ
ョウは工場と物流センターを地下トンネルで
結ぶことを提案した。 工場の生産ラインを経
てパレタイズされた製品を、コンベアを使って
センターまで自動搬入する仕組みにすること
で、横持ち輸送を回避しようと考えたわけだ。
もっとも、このアイデアの具現化は一筋縄
ではいかなかった。 工場で汲み上げている地
下水の問題をクリアする必要があった。 新た
にトンネルを掘った場合には、トンネルが地下水の水質に悪影響を及ぼしていないかどう
かを、地下水の汲み上げを一定期間中断して
確認しなければならないという衛生管理上の
ルールがあり、それがネックとなった。 実際、
ゴールドパックは地下水が調達できないと生
産が滞ってしまう恐れがあることを理由に、
トンネルの建設に難色を示したという。
これを受けて、ハマキョウでは
図2のよう
な仕組みで工場〜物流センター間をつなぐこ
とを改めて提案した。 地下が使えない工場内
では「連絡ブリッジ」で製品を搬送。 公道か
ら物流センターまでを地下トンネルで結ぶと
いうアイデアだ。
ハマキョウが工場〜物流センター間の自動
搬送化にこだわったのはほかでもない。 搬送
設備の導入には新たな投資を必要とするが、
輸送費や作業人件費の削減などで、その投資
に見合うだけの効果が得られると判断したか
らだ。
「物流センターを運営していくうえで一番
のコストは人件費。 できるだけ少ない人員で
作業を処理できる体制にすることがコスト削
減の近道だ。 ただし、闇雲に自動化すればい
いというわけでもない。 マテハンがいいのか、
人手のほうがいいのか。 投資とのバランスで
どちらにするのかを決めればいい」と大須賀
正孝社長は力説する。
最終的にゴールドパックもハマキョウの提
案を受け入れることにした。
「デッドスペース」をなくす
コスト削減に向けたアイデアは「地下トン
ネル」だけではなかった。 例えば、センター
の平置きスペースに導入されているネステナ
ー(組み立て式保管ラック=次ページ写真)
も注目に値する。 ハマキョウでは、「ラクラッ
ク」と呼ぶネステナーを独自に開発・導入す
ることで、センター収容能力の引き上げに成
功している。
センター内に一〇〇〇パレット分の面積を
有する平置きスペースがあるとしよう。 製品
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を積んだパレットを二段重ねにすれば、このスペースでは計二〇〇〇パレットを収容でき
る。 さらにネステナーを使って三段積みにす
れば、収容能力は三〇〇〇パレットに拡大で
きる計算になる。
ただし、現実にはネステナーを導入しても
収容能力は三〇〇〇パレットにまで拡大しな
い。 市販されているネステナーの多くはパレ
ットよりも大きめのサイズで設計されている
ため、ネステナーを差し込むと、パレットと
パレットの間にデッドスペース(死にスペー
ス)が生まれ、その面積の分だけ並べられる
パレットの枚数が減少してしまうからだ(
図
3)。
このデッドスペースを限りなくゼロに近づけることができるのが「ラクラック」の特徴
だ。 ポイントは「ラクラック」の規格にある。
「ラクラック」は市販のネステナーよりも小さ
めに設計されている。 例えば、奥行きの長さ
はパレットの縦幅よりもやや短いため、上の
写真のように一列目と二列目のパレットをピ
タリとくっつけられる。 その分だけデッドス
ペースがなくなるという仕組みだ。
実際、センターでは「ラクラック」を使用
することで、ネステナーを使わずにパレット
を三段重ねにした状態にほぼ近い収容能力を
確保している。 その結果、「センターの平置
きスペースの広さを最小限に抑えることが可
能になった。 スペースの面積は春から夏にか
けての出荷量のピーク時ではなく、オフピーク時に合わせて設定しているが、それでも
『ラクラック』を使えば十分に対応できる」
(あずみ野営業所の柴田和己所長)という。
「ラクラック」は使い勝手にも配慮している。
市販のネステナーの場合、組み立てた状態の
ままだとフォークリフトを使ってロケーショ
ンを変更する必要があるが、「ラクラック」の
場合は人手で簡単に移動できる。 床と接する
部分にゴム製のキャスターが備え付けてある
からだ。
これまでキャスター付きのネステナーは製
品を載せるとバランスが不安定になるという
懸念から、ユーザーに敬遠されてきた。 これ
に対して「ラクラック」は上から重みが加わ
ると、キャスター部分が沈んで固定される構
ラクラックの特徴ハマキョウが開発した「ラクラック」
1列目と2列目のパレ
ットに隙間がない
上から重みが加わる
とキャスターが沈み、
安定する仕組み
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造になっているため、荷崩れの心配がまった
くないという。
ちなみに「ラクラック」の価格は一台三万
六〇〇〇円程度。 一台に六パレット搭載でき
るため、パレット一枚当たりの価格は約六〇
〇〇円という計算になる。 ハマキョウでは
「ラクラック」の開発で特許を取得しており、
今後は外部に販売していくことも視野に入れ
ている。
現場からのアイデアに期待
センター内を走り回るフォークリフトにも
こだわっている。 同センターでは一度に二枚
のパレットを運べるフォークリフトを二〇台
導入した(写真左)。 配送用の大型トラック
に製品を積み込む作業を迅速に処理できるよ
うにするのが狙いだ。
さらに回転の遅い製品の保管に利用している電動式移動ラック(写真下)にも工夫を凝
らしている。 一般に電動式移動ラックは一ロ
ケーションに一パレットを格納する仕様にな
っているが、同センターの移動ラックはパレ
ットの二段積みが可能なロケーションを用意
している。
そもそも移動ラックとはピッキング用の通
路を開閉式にしてデッドスペースをなくすこ
とで保管効率を高めるというコンセプトのマ
テハン機器である。 ハマキョウもその機能に
は満足している。 ただし、棚割りの間隔には
不満があったという。
例えば、ラック全体の高さから計算すると、
パレット四枚分を格納できるはずなのに、実
際には棚割りの間隔が影響して三枚分しか格
納できない移動ラックも少なくないからだ。
今回、二段積みのロケーションに改良したの
は空間効率を高めることで、移動ラックに格
納できるパレットの数を増やすのが目的だっ
た。
「完全なオーダーメイドだと高くつくが、汎
用品に少し手を加えてもらうかたちで作って
もらったので、製造コストを低く抑えること
ができた。 メーカーに丸投げするのではなく、
こちら側の意向をきちんと伝えて、協力し合
いながら作っていけば、マテハンも安くて使
い勝手のいいモノができる」と柴田所長は説
明する。
ハマキョウ流の知恵と工夫が随所に盛り込
まれた物流センターが稼働してからおよそ一
カ月が経過した。 すでに同センターではローコストオペレーション体制が確立されている
ように見えるが、柴田センター長は現状に満
足していないようだ。 稼働からまだ日が浅い
こともあって、ハマキョウが全国各地の物流
センターで展開している「コスト削減につな
がるアイデアを現場の作業員たちから吸い上
げて即実行に移す」というステップには至っ
ていないからだ。
柴田所長は「実際にモノを動かしてみると
見えてくるムダもある。 これからが腕の見せ
所だ。 まだまだセンター内には改善の余地が
残されているはずだ。 現場で働く従業員たち
と知恵を出し合って、さらなるコストダウン
を進めていきたい」と意気込んでいる。
(
刈屋大輔)
積み込み作業のスピード化を図るため、一度に2枚
のパレットを運べるフォークリフトを導入した
移動ラックにもデッドスペースが生じないよう工夫
を凝らした
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