ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年1号
特集
環境物流の実務 第1部 低炭素社会のロジスティクス市場 解説 “脱トラック”に向け動き出す

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2010  10 “脱トラック”に向け動き出す もうエンジンには頼れない  二〇〇九年十一月、国土交通省は辻元清美副大臣 の主催で「交通基本法」の第一回検討会を開催した。
今年六月頃をメドに検討会の成果をまとめ、今年中 にも国会に法案を提出する計画だ。
これまでのモード 別行政にメスを入れ、人流と物流の両方を網羅する総 合的な交通政策に乗り出す。
 民主党は野党時代の〇一年と〇六年にも、社民党 と共同で同法案を提出したが、いずれも審議未了で廃 案となっている。
しかし与党となった今回は法案の成 立する可能性が高い。
その結果、自民党政権で進め られてきた物流業の競争規制の緩和が見直され、環 境負荷低減を始めとした社会的規制が強化されるこ とになる。
 既に日本政府は京都議定書で二〇一二年までに温 室効果ガスの排出量を九〇年比で六%削減することを 国際公約している。
その達成に向け〇六年には、大 手荷主や大手物流企業に対し毎年一%のCO2排出量 削減を義務付ける「改正省エネ法」を施行した。
 さらに民主党の鳩山由紀夫首相は、政権交代から 間もない〇九年九月に出席した国連首脳会合の演説 で、二〇二〇年までに温室効果ガスを九〇年比で二 五%削減するという目標をぶち上げている。
物流企 業や荷主の物流活動に対する環境規制の強化にいっそ う拍車がかかるのは必至だ。
 こうした動きをうけて、三井グループの主要三一社 で構成する三井業際研究所は今年三月をメドに、「低 炭素社会における次世代輸送技術・システム調査研 究」の報告書をまとめる。
物流に対する環境規制の 動向や各輸送モードの位置付けを整理して、今後の物 流のあり方や新たなビジネスチャンスを提言する。
第1部低炭素社会のロジスティクス市場  サービスレベルとコストに並び、環境負荷がロジス ティクスのKPIに浮上している。
3つの指標のトレー ドオフ解消に向けた取り組みが進んでいる。
物流サー ビス商品の選択基準も大きく変わる。
半世紀以上に わたって続いてきたトラック輸送へのモーダルシフト が、いよいよ曲がり角を迎える。
   (大矢昌浩) 特 集 特 集  同報告書の取りまとめ役を務める三井物産物流本 部の岡本竜馬物流業務部次長は「低炭素社会を本気 で実現しようとすれば、自動車に依存した現在の物 流を抜本的に改めるほかない。
低公害車の普及やI TS(高度道路交通システム)の高度化をどれだけ進 めても、エンジンに頼っている限りは根本解決にはな らないと分かった」という。
 ハイブリッドカーや天然ガス車は低燃費ではあるも のの、内燃機関である以上、削減できるCO2には 限界がある。
電気自動車も、政府の掲げる環境負荷 低減のスケジュールには、とても普及は間に合わない。
自動車の環境負荷を低減するのではなく、自動車を 使わない物流に舵を切るほかない。
 その手段の一つとして「東海道物流新幹線(ハイ ウェイトレイン)構想」がにわかに脚光を浴びている。
現在建設中の高速道路、新東名・新名神の中央分離 帯を利用して、東京〜大阪間に貨物専用の新幹線を 走らせようというアイデアだ。
中村英夫東京都市大学 学長を座長に〇八年二月に発足した「東海道物流新 幹線構想委員会」が〇九年十二月に発表した。
「物流新幹線」構想が浮上  物流新幹線の平均時速は九〇キロ〜一〇〇キロで、 東京〜大阪間を六時間三〇分で結ぶ。
自動運転・無 人運転システムを導入し、荷主のニーズに応じた柔軟 な運行体制をとる。
列車編成は五両を一ユニットとし て複数連結し最大で二五両程度。
三大都市間で一日 当たり最大二〇万トンの輸送を想定している。
 一〇トン車二万台分に当たる荷物が鉄道輸送に切り 替わることで、年間三〇〇万トンのCO2排出量を削 減できる。
経済効果は三〇年間で約四兆円と試算さ れている。
それに対して建設費は、高速道路の分離 11  JANUARY 2010 帯や用地を買収済みで使用目的の決まっていない車線 を利用するため約二兆円で済むという。
 貨物専用の高速列車としては、既に〇四年三月か ら佐川急便専用の「スーパーレールカーゴ」が東京〜 大阪間で上り・下り毎日各一本の定期運行を行って いる。
宅配便のリードタイムに対応するため、JR貨 物は列車の前後に電動貨車をつけた世界初の高速コン テナ電車を開発。
最高時速一三〇キロの走行を可能に した。
これに合わせて佐川急便でも鉄道高速輸送と 大型トラックへの積み替え作業を考慮した三一フィー トの専用コンテナを開発した。
 スーパーレールカーゴの利用によって、佐川急便は サービスレベルを落とすことなく、一日当たり一〇ト ン車五六台分に当たるモーダルシフトを実現した。
こ れによるCO2排出量の削減効果は年間約一万三〇〇 〇トンに上る。
 もっとも、スーパーレールカーゴを利用しているの は、佐川急便の東京・大阪間の幹線輸送の荷物のう ち一割程度に過ぎない。
JR貨物に増便を要請しよ うにも鉄道ダイヤ自体に空きがないという。
一方、物 流新幹線の輸送能力はスーパーレールカーゴの数百倍 に上る。
実現すれば、トラックによる長距離幹線輸送 の相当部分が鉄道輸送に置き換わる。
 鉄道と船舶はトラックに比べて圧倒的に環境負荷が 低い。
そのため国土交通省では九〇年代の初頭から トラックからのモーダルシフトに多額の補助金を投じ てきた。
しかし、これまでのところ成果は全く上がっ ていない。
国内貨物輸送の分担率はトラックのシェア が上がるばかりで、鉄道や内航海運は長期的に低下 し続けている(図1)。
 三井物産の岡本次長は「利便性やコストを考えると トラックから船舶へのモーダルシフトはもともと現実 三井物産物流本部の 岡本竜馬物流業務部次長 高速道路の中央分離帯に「物流新幹線」を走らせて東海道を結ぶ 東海道物流新幹線構想委員会の作成したイメージイラスト 味が薄い。
トラックを代替できるとすれば鉄道しかな い。
それも、これまでのように国交省が管轄下のJ R貨物をテコ入れするというレベルではなく、環境負 荷を下げるために国として政府が鉄道貨物輸送のイン フラを整備するという判断に動けば新たな可能性が拓 けてくる」と指摘する。
3PLの環境物流支援策  日立物流は〇八年四月に社内にグリーンロジスティ クス委員会」を設立した。
従来の環境対策のアプロー チを改め、環境物流を切り口に新しいビジネスモデル の創出を目指す。
その委員長を務める曽我祥輸送改 革推進本部本部長理事は「例え線路が現状のままで あっても、JR貨物の対応次第でモーダルシフトはま だまだ進められる」という。
 三一フィートコンテナがその突破口を開くと考えて いる。
通称?ゴトコン?と呼ばれる十二フィートの鉄 道用五トンコンテナは積載効率が悪い上、荷役作業の 制約が大きく、振動などの輸送品質にも問題がある。
それに対して、三一フィートコンテナは大型トラック と同じ規格で利用価値が高い。
 ただし、現在はコンテナの所有者が全国通運や日本 通運などの一部の通運会社に限られている。
それを ゴトコンと同様に「JR貨物自身で所有して汎用化し、 もっと自由に使えるようにすれば世の中が変わる。
後 はリーズナブルな料金さえ提示してくれれば、トラッ クの長距離輸送の大部分が鉄道輸送に置き換わる可 能性さえある」と曽我本部長は予測する。
 日立物流は〇五年に輸送距離百数十キロという中 距離モーダルシフトを実現し、それまで五〇〇キロ以 上の長距離でないと効果が出ないとされていたモーダ ルシフトの常識を覆した。
東京港で陸揚げした海上コ ンテナをそのまま鉄道に乗せて宇都宮の物流センター まで毎日輸送している。
 以前はコンテナを一本ずつトレーラーで物流センター までドレージ輸送していた。
それを改め半分のコンテ ナを鉄道に振り分けた。
残りは従来通りドレージで物 流センターまで運ぶ。
物流センターでコンテナと切り離 したトレーラーヘッドを、そのまま宇都宮駅に回して 現地でピストン輸送させた。
これによって従来はコン テナの数だけ必要だったトレーラーの台数を半分にで きた。
鉄道輸送料金を含めてもトータルコストは大き く下がった。
 この取り組みからJR貨物との付き合い方も見えて きた。
JR貨物の料金はトラック運賃と同様に需給に よって変化する。
同じ往復でも、東京発・大阪行と、 大阪発・東京行では実勢料金が違う。
通運料金も片 道と往復では見積りが変わってくる。
現場の実情を理 解することで鉄道輸送にもコストダウンの余地が生ま れてくると分かった。
 「もちろん現在の鉄道輸送には課題が山積している。
しかし、JR貨物がその気になれば何でもできるはず だ。
ダイヤにしても、それまで増便はできないと言わ れていた東京・大阪間に新たにスーパーレールカーゴ を通している。
旅客鉄道会社と根気よく交渉するこ とで、増便する余地はまだまだあると見ている」と 曽我本部長はいう。
 日立物流のグリーンロジスティクス委員会では現在、 独自の「CO2計算システム」の確立を急いでいる。
現状のCO2排出量の計算は、走行距離や重量の把握、 計算方法が各社でバラバラで信頼性に欠ける。
そこで 〇九年四月に同社としての明確な基準を設けた。
今 年度中をメドに、これに公的な認証を受けて荷主に環 境支援をアピールする考えだ。
JANUARY 2010  12 1895 1900 1905 1910 1915 1920 1925 1930 1935 1940 1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 図1 貨物輸送の輸送機関別分担率の長期推移 資料「社会実情データ図録」 14.5 15.8 18.7 22.3 25.3 24.6 26.8 24.5 29.5 35.5 8.3 11.7 15.0 26.1 38.8 36.0 40.8 47.5 50.2 52.7 54.2 58.7 85.5 84.3 81.3 77.7 74.7 75.4 73.2 75.5 70.5 64.5 39.9 35.7 46.0 43.4 43.2 50.9 50.6 47.5 44.7 42.6 41.8 37.1 51.9 52.6 39.0 30.0 18.0 13.1 8.5 4.9 5.0 4.5 3.8 4.0 0.1 0.1 0.1 0.2 0.2 0.2 自動車 鉄道 国内航空 内航海運 (%) 日立物流の曽我祥 輸送改革推進本 部本部長理事 特 集  
械丕娘臚海龍ζ瑛∩や物流効率化による環境負 荷低減は、3PL自身の削減分としてはカウントされ ず、荷主側に付与される。
これを3PL事業の新た な付加価値としてソリューションの中核の一つに位置 付ける。
最終的には物流の効率化による排出権取引 までを視野に入れている。
 遠い未来の話ではない。
既に東京都は国に先立って 今年四月から独自にCO2の排出量削減義務と排出量 取引制度を導入する。
東京都は自治体として二〇二 〇年度までにCO2を二〇〇〇年度比で二五%削減す るという目標を掲げている。
そのために都内約一四 〇〇の大規模事業所を対象として、当面は一四年度 までに六%〜八%の削減を義務付ける。
 対象となった事業者が自分で削減目標を達成でき ない場合には、排出権を他の事業者から購入しなけ ればならない。
この義務を果たさなかった事業者には、 不足量の一・三倍の削減措置命令が下される。
措置 命令にも違反した者には事業者名の公表や上限五〇 万円の罰金に加え、不足分の排出権を東京都知事が 代行購入し、その費用が請求されることになる。
物 流におけるCO2排出量は、算出が難しいために現状 ではまだ東京制度の削減対象に入っていないが、い ずれは網が掛けられることになると目されている。
CO2排出量が物流サービスの競争条件に  
稗贈優咼献優好灰鵐汽襯謄ングサービス(IBC S)でグリーンSCMチームを指揮する宮本龍也マ ネージングコンサルタントは「排出権取引が始まると、 CO2を削減できない会社はお金を払わなければなら ないが、削減できる会社は逆にお金がもらえること になる。
そのことに注目している企業が日本でも増 えきた」という。
 商品やサービスのライフサイクル上で排出されるCO 2を明記する「カーボンフットプリント」も、物流サー ビスに適用される見通しだ。
そこで使用するCO2の 算出方法はISOで定義される。
物流サービスの料金 や品質と並び、新たにCO2排出量がライバル企業と 比較されることになる。
 これに対してIBCSでは、CO2排出量の配送シ ミュレーターを開発してクライアントの要請に応えて いる。
同社でロジスティクスを担当する高橋総一郎マ ネージングコンサルタントは「同じ荷物を同じ距離運 ぶのに、当社とライバル企業ではどれだけCO2排出 量が違うのか、どこに削減余地があるのかといった分 析依頼を国内の物流企業などから受けている」という。
 既に佐川急便は封筒のいらない「飛脚グリーンメー ル便」や「CO2排出権付き飛脚宅配便」など環境側 面を押し出した商品開発を活発化させている。
グリー ンメール便は〇八年度に前年比三・八倍の五五万冊を 売り上げ、一〇カ月の期間限定で売り出した排出権付 き宅配便の取り扱いは十一万五六六六個に上った。
大 手荷主の千趣会、富士通総研と共に「宅配便エコポ イント制度」の実証実験も行った。
再配達のなかった 納品先にエコポイントを付与するという試みだ。
実験 の結果、通常二〜三割は発生する再配達が約一割に 抑えられたという。
 ライバルのヤマト運輸も「宅急便」一個当たりのC O2排出量を二〇一〇年度中に九〇年度の四八四グラ ムよりも三割少ない三三九グラム以下に低減すること を目指している。
そのためにリヤカー付電動自転車や 台車で集配するサテライトセンターを増やして?脱ト ラック?を図っている。
宅配便市場においては、既 に環境が差別化条件の一つとなっている。
その波はす ぐに物流市場全体に広がっていく。
13  JANUARY 2010 IBCSの宮本龍也マネー ジングコンサルタント IBCSの高橋総一郎マネー ジングコンサルタント 佐川急便の「飛脚グリーンメール便」。
キレイに 剥がれる専用テープとラベルを直接内容物に貼る。
封筒は不要に。

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