ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2010年1号
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「宅配便の失敗で郵便事業の底が抜ける」松原聡 東洋大学 教授(前日本郵便取締役)

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2010  4 ──西川体制を支えた人たちのうち、 トヨタ自動車の奥田碩相談役と、ト ヨタ出身で日本郵便に転じた北村憲 雄会長は新体制にも残りました。
そ の意味は?  「それついては郵政内でも、ずいぶ ん違和感を持った人たちが多かったと 聞いています。
やはりトヨタほどの大 企業ともなると、財界のリーダーとし て民主党と決定的に対立しながらも、 政府との距離の取り方は一般の企業 とは違ってくるのでしょう。
そのあた りの事情は僕にはよく分かりません。
ただし日本郵便の北村会長の場合は 会長職には留まったものの『CEO』 としての権限は失いました。
主導権 は旧郵政省OBの鍋倉真一新社長に 完全に移っています」 ──やはり政権交代が再国営化の流 れを作ったと言えるのでしょうか。
 「民営化の見直しは、自民党時代か ら始まっていましたから、先の総選 挙で仮に自民党が勝っていたとして も流れとしては変わらなかったと思い ます。
ただし、民主党が政権を握っ たことで、その流れに大きく拍車が かかったのは確かでしょう」 ──民営化に関して、民主党は国民 新党に振り回されているという見方 については?  「民主党にしても、現在の小沢一郎 郵政の再国営化が鮮明に ──今回の郵政人事をどう受け止めて いますか。
松原先生ご自身も日本郵 便の社外取締役を退任されましたが。
 「日本郵政の西川善文前社長が辞 任して、後任に大蔵省OBの齋藤次 郎新社長が就任すると決まった段階で、 僕も年末までには解任されるだろう と予想していました。
これまで僕は 西川さんと組んできましたし、それ 以前から小泉元首相や竹中平蔵さん たちと民営化を進めてきた人間です から」 ──齋藤新社長を始め新体制の主要 ポストには軒並み官僚OBが就いてい ます。
天下りとの批判があります。
 「郵政を再び国営に戻すわけですか ら、天下り人事も当然だと思います。
これから鳩山政権は、ゆうちょ銀行 とかんぽ生命について、それぞれ独 立した法律を作って、現在の銀行法 や保険業法から移し替えなければな らない。
監督官庁も財務省から総務 省に戻るわけですから、これは大変 な作業です。
官僚経験者じゃないと 務まりません。
国営だった郵政を民 間にするのに、民間銀行の出身者が 必要だったのと同じように、民間を 国営に戻すには官僚経験者が必要だ ということです。
その意味では非常 に分かりやすい人事でした」 ──民主党や国民新党にしても、郵 政の民営化は見直すけれど再国営化 するとまでは言っていません。
 「現実は間違いなく国営化に向かっ て進んでいます。
ゆうちょとかんぽを ユニバーサルサービスとして規定する というのは、そういうことです」  「もともと郵政四事業のうち郵便局 会社と日本郵便は、株式会社ではあ っても、それぞれ根拠となる法律を 持ち、株式を上場する予定もない国 策会社でした。
それに対してゆうち ょとかんぽは、一般の商法に基づい て設立されています。
そして一〇年 後には持ち株会社が株式を全て売り払 って完全民営化する計画でした」  「それに対して民営化に反対してい た人たちは、ゆうちょ・かんぽが完全 民営化してしまえば過疎地の郵便局 から撤退してしまう、それでは郵便 局の経営が成り立たない、だから完 全民営化を止めて政府の意志で、ゆ うちょ・かんぽを全国の郵便局に縛 り付けろと主張しました。
従って現 政権がいま進めているのは、ゆうち ょ・かんぽの株式売却を凍結すると いうだけでなく、国営の金融機関に 戻すという作業なんです」 松原聡 東洋大学 教授(前日本郵便取締役) 「宅配便の失敗で郵便事業の底が抜ける」  日本郵政の再国営化が始まった。
“小泉・竹中ライン”を一掃 し、主要ポストに官僚OBを据えた郵政人事にも、そのことが 如実に表れている。
一方、郵便事業は「ゆうパック」と「ペリ カン便」の統合失敗が大きな影を落としている。
宅配便の赤字 が続けば、郵便事業の屋台骨が傾く。
  (聞き手・大矢昌浩)    5  JANUARY 2010 幹事長が党首として実権を握って以降 は?反・小泉?を明確に打ち出して いました。
それ以前は、むしろ自民 党の構造改革を手ぬるいと批判する 立場にいたわけですが、政策を大き く転換させた。
だから国民新党とも 手を組めたわけで、国営化は民主党 の意志でもあると思います」 ──“反・小泉?、“反・民営化”を 進めるということは、“規制強化・大 きな政府”を目指すことになるので しょうか。
 「原則として民主党はムダを削減し、 予算を組み替えることで、増税しない でやると言っていますが、現在のバラ マキを見る限り?大きな政府?に進み そうです」 ──経済には大きなマイナスの影響を 与える恐れがあります。
 「僕自身は政権交代はすべきだった し、それが実現して良かったと考えて います。
自民党の政策には、もはや 展望がなかった。
あのまま自民党政 権が続いても日本が良くなったとは思 えません。
やはり政権交代が起こる ことで、多少効率が悪くなったとし ても、政策が調整されたり、既得権 が緩んだりはする。
しかし、民主党 の政策の一つひとつを見たときには、 高速道路の無料化もそうですが、問 題がとても大きい」 それに対して毎年何千億円という規 模の赤字が出ているのであれば問題 ですが、これまではそうではなかっ た。
収益的には『ゆうパック』も含め てプラスマイナスゼロ程度でした。
長 期的に郵便物が減っているといっても、 そのペースは毎年二%〜三%で、そ れに見合うコスト削減もそれまでやっ てこれていた」  「そのため郵便事業は、少なくとも 一〇年ぐらいは縮小均衡を維持でき るだろうと僕は見ていました。
JA Lや国鉄のような状態になるという 恐れは低かった。
しかし、今回の宅 配便事業統合のトラブルで年間数百 億円もの赤字が出て、それが何年間 も続くことになれば話は別です。
深 刻な事態に陥る。
宅配便の失敗が郵 便事業全体に大きな影響を与えるこ とになります」 ──郵政のファミリー企業の見直し、 先生が委員長を務めた「郵政事業の 関連法人の整理・見直しに関する委 員会」の答申は結局、どこまで進み、 何が残ったのでしょうか。
 「答申で提言したなかでは、旧・ 特定郵便局の局舎の賃借料の問題は、 金額的なインパクトの大きい目玉の一 つだったのですが、手つかずのまま残 っています。
委員会でサンプリング調 査したところ、局舎の賃借料は民間 の水準よりも高いことが分かった。
賃 借料の支払先は郵便局長であって社 員ですから、そのままでは利益供与 と見なされかねない。
ガバナンス上問 題があるということから、答申では 賃借料の見直しを提言しました。
そ れを受けて郵便局会社もだいぶ交渉 したようですが結局、頓挫したまま 終わっています」  「しかしファミリー企業については、 ほぼ答申通りに整理・見直しが進ん だと見ています。
郵便の幹線輸送は 日本郵便輸送(旧・日逓)に統合し て、完全子会社化しました。
そのほ かのファミリー企業、郵政との取引が 年間三〇〇〇万円以上で、その会社 の売り上げの過半を占めている会社を そう定義したところ、全部で二一九 社あったのですが、そこには一切出 資せずに日本郵便との取引を一般競 争取引に改めました」 縮小均衡も困難に ──日本通運との宅配便事業統合が 暗礁に乗り上げています。
 「宅配便事業の統合は日本郵政発 足当初の二〇〇七年一〇月に持ち株 会社が決定したことで、我々日本郵 便の経営陣には寝耳に水の話でした。
宅配便子会社を設立して日本通運の 『ペリカン便』と日本郵便の『ゆうパ ック』を統合するというJPエクスプ レス(JPEX)のスキームにしても 持ち株会社の支持でした。
もちろん 色々と議論はしましたが、日本郵便 としては持ち株会社の指示に基づいて 動いていた。
ところが、その事業計 画に総務省がゴーサインを出さなかっ たという経緯です」 ──統合直前に計画が引っ繰り返さ れてしまうという事態は普通の会社 なら考えられません。
あまりにも現 場の混乱が大きい。
 「政治問題化していましたからね。
仮に総務省がOKであったとしても大 臣がノーであれば認可は下りない」 ──
複丕釘悗寮峪は郵便事業全体 の大きな足枷になりそうです。
日本 郵便が第二のJALや国鉄のように なってしまう恐れはありませんか。
 「郵便事業の売上高は約二兆円です。
まつばら・さとる 1954年生まれ。
筑波大学大学院修了。
96年より東 洋大学教授。
民営化、規制緩和を専 門とし、小泉純一郎元首相のブレー ンとして知られる。
「郵政三事業の 在り方について考える懇談会」委員、 「郵政事業の関連法人の整理・見直 しに関する委員会」委員長などを歴 任。
日本郵政の発足と同時に、郵便 事業会社(日本郵便)社外取締役に 就任したが、政権交代に伴う郵政人 事で2009年11月に退任した。

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