ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年1号
ケース
ライフコーポレーション 一括物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2010  46 一括物流 ライフコーポレーション 近畿圏に続き首都圏でも物流体制を刷新 自社運営を食品卸や3PLへの委託に転換  住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築 施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達 成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
置き去りにされた物流インフラ整備  食品スーパー最大手のライフコーポレーシ ョンは二〇〇九年一〇月、大阪の住之江区と 港区にそれぞれ大型物流センターを開設した。
一〇年三月には堺市の既存施設を低温センタ ーに改修した新拠点も稼働する予定だ。
これ によって近畿圏の物流インフラを五カ所から 三カ所に集約し、機能を増強する。
 二〇一〇年度からは物流改革の対象を首都 圏に移し、常温・低温併設型の大規模センタ ーを首都圏の南北二カ所に新設する。
まずは 一〇年一〇月に首都圏北部をカバーする施設 を千葉県松戸市に稼働させる。
南部について は物件を探している最中で、こちらも向こう 二年程度をメドに新設する計画だ。
 現在のライフは近畿圏に一一七店舗、首都 圏に九三店舗の、合わせて二一〇店舗を運営 している。
一連の物流改革によって物流の処 理能力を拡充し、二七〇店舗(近畿圏で一五 〇、首都圏で一二〇)まで対応できるように インフラを整備する。
 同社は一九九三年から二〇〇〇年までの八 年間で、自ら?怒濤のごとき出店?と呼ぶほ どの大量出店を実施。
一三二店舗を新設して 店舗数と売上高を倍増させた。
しかし、経常 利益の水準は、大量出店の期間中もほぼ二〇 億円台のまま横ばいで推移しており、利益の 拡大が追いついていなかった。
 状況が一転したのは、〇一年一〇月に三菱 商事出身の岩崎高治氏(現社長)が専務に就 任した頃からだ。
売上高こそ四〇〇〇億円を 目前に足踏みを続けたが、その後の数年で利 益率が大幅に向上した。
〇一年二月期に〇・ 四六%だった売上高経常利益率はコンスタン トに一%を超えるまで改善し、直近の二期は 二%を上回った。
 岩崎氏は、三菱商事から英国の食品子会社 に出向していた九六年に、ライフの創業者で ある清水信次社長(現会長)の欧州訪問を現 地で手伝う機会をもった。
このとき清水氏に 惚れ込まれ、九九年に三菱商事からの出向と いう立場でライフの取締役に就任。
〇一年に 専務に昇格し、〇六年には三九歳の若さで社 長の座に就いている。
 その岩崎氏が〇四年三月に、営業の総責任 者と「近畿圏物流本部長」を兼務することに なったときから同社の物流改革が本格化した。
〇六年二月期からの中期経営計画でこれが柱 の一つとして位置づけられ、トップダウンで 物流体制の再構築が始まった。
 店舗運営の効率化に物流がほとんど貢献し ていないことが問題になっていた。
実際、ラ 2009年10月、近畿圏を網羅する2つの大規模セン ターを大阪に開設し、その運営を加藤産業とロジス ティクス・ネットワークに委託した。
10年10月に千 葉で稼働予定のセンターでは、首都圏の北部を任せ るパートナーとして菱食を選んだ。
物流ネットワー ク抜本的な再編を機に、従来の自前主義を転換さ せている。
近畿圏物流部兼物流企画部 の高岡康隆課長 47  JANUARY 2010 イフの物流管理は急激な店舗展開から?置き 去り?にされている格好だった。
 九〇年代初頭まで同社の近畿圏の物流拠点 は一カ所しかなかった。
大量出店を断行した ときに二カ所に増やしたが、その後もキャパ オーバーになるたびに新たな物流拠点を増や すという対症療法的な対応を繰り返した。
そ の結果、近畿圏だけで物流拠点が五カ所に分 散。
物流現場は日々の業務をこなすのに精一 杯で、カテゴリー納品などで店舗を後方支援 する余裕がないという事態に至った。
 物流管理の体制にも問題があった。
自社運 営する物流センターには一〇〇人近い社員を 抱えながら、本社の物流スタッフは実質的に 角野喬氏(現在は執行役員業革推進室長)が 一人だけ。
本社組織のスリム化という経営方 針を反映したものだったが、一人でできるこ とには限界がある。
 そこで〇四年に、財務部門に所属して いた高岡康隆氏(現・近畿圏物流部兼物 流企画部課長)が呼び寄せられた。
角野 氏と高岡氏はかつてライフが展開してい た宅配事業に共に携わった間柄で、物流 の企画・立案の経験があった。
両名を中 心に、まずは近畿圏から物流改革を進め ていくことになった。
自社運営からアウトソーシングへ  ライフは近畿圏と首都圏で、それぞれ に店舗を集中出店するドミナント戦略を 展開している。
この二つの地域以外には 一切出店しておらず、物流拠点も置いて いない。
原則として商品を東西で横持ち することはなく、近畿圏と首都圏の域内 でそれぞれネットワークを完結させてい る。
 物流センターの運営は従来、自社で行 っていた。
庫内作業には物流専業者を使 っていたものの、その管理のために多く の社員を投入していた。
拠点網の再編と併せ て、センターの運営をアウトソーシングに切り 替えることにした。
〇四年に取り組みを始め るとすぐに大手食品卸などに声を掛け、アウ トソーシング先を選ぶコンペを実施した。
 近畿圏の物流インフラのあり方について、 候補企業各社から提案を募った。
ところが、 このとき構想した枠組みは、ほどなく白紙撤 回を余儀なくされた。
物流センターの運営を、 商流でも取引のある食品卸にアウトソーシン グすることに対して、社内から悪影響を懸念 する声が上がった。
 将来の店舗計画をはじめライフの側の要件 設定が十分に詰まっていなかったという問題 もあった。
当時は「近畿圏で一二〇店舗をま かなえる物流インフラという要件で提案を募 っていた。
今になって思えば見通しが甘かっ た」と高岡課長は率直に振り返る。
 このため物流部門にとっても、計画の凍結 は結果的には正解だった。
あらためて構想を 練る時間ができ、店舗からの物流ニーズなど を精査する余裕も生まれた。
施設運営をアウ トソーシングする3PL事業者の実力を見極 めるために、候補企業が運営している現場の 見学も数多くこなすことができた。
 〇七年の前半になると、二〇一一年の創業 五〇周年に向けて「売上高五〇〇〇億円・二 五〇店」という経営目標が明確になった。
近 畿圏では一五〇店舗まで想定するという条件 も具体的に見えてきた。
また経営レベルで推 近畿圏150 店舗のための物流構想(センター5 カ所を3 カ所に集約) PC 機能 PC 機能 通過型(低温) 「南港物流センター」  2009 年10 月まで 「南港プロセスセンター」 通過型(低温)  2010年11月工事完了、150店舗に対応 通過型(低温) 通過型(低温) 農産センター 「第2 南港物流センター」  2009 年10 月まで 通過型(低温) 「天保山物流センター」  2010 年2 月まで 「新天保山低温センター」  2009 年10 月稼働  80 店舗まで対応  運営:ロジスティクスネットワーク 「堺低温センター」(仮称)  2010 年3 月稼働予定  70 店舗まで対応  運営:ロジスティクスネットワーク 通過型(常温) 預託在庫(常温) 「住之江物流センター」  2009 年10 月稼働  150 店舗まで対応  運営:加藤産業 通過型(常温) 「堺物流センター」  2009 年10 月まで 通過型(常温) 「鳥飼物流センター」  2009 年11 月まで 低温三カ所常温二カ所 今後 PC を独立させ、物流センターを 3 カ所に集約 物流センター経由で店舗へ建物を増築し PC 専用に 建物を低温化 低温部分 のみ移管 移管 移管 移管 移管 集約 従来 集約 JANUARY 2010  48 進する「業務改革」から物流への要請として、 店舗の支援策としてカテゴリー納品や定時配 送を実現することも必須課題として据えられ ることになった。
 こうした要件に基づいて、近畿圏の物流パ ートナー選びを再開した。
あらためて常温セ ンターの見直しに取り組んだ。
 それまでの同社の物流拠点は、在庫を保管 しない通過型しかなかった。
高岡課長は「当 社には物流センターに商品を在庫するという 概念がまったくなかった」と説明する。
 毎日午前十一時までに店舗が発注した商品 を六、七時間後には店舗に届ける。
短いリー ドタイムを維持するためにはベンダーの協力 が不可欠なのはもちろん、センターではベン ダー単位で商品を仕分けるだけ。
カテゴリー 納品などによって店舗の業務を肩代わりする 余裕はなかった。
 同社の店舗はバックヤードが狭く、着荷し た商品を留め置くという発想もほとんどない。
各店舗では夕刻から夜間にかけて入荷した商 品を即座に店頭に陳列していく。
入荷する商 品を仕分けながら店頭に出すため、本来の仕 事である販売業務に割く時間が削がれている 状態だった。
 そこで今回の物流改革では、常温品につい てはベンダーの協力を得て「預託在庫」(ベン ダー側が所有権を持ったまま小売りのセンタ ーに保管する在庫)をセンターに置き、カテ ゴリー納品などの店舗支援を実現するという  このPCは、約二〇年前に五〇店をカバー する計画で設置されたが、その後の店舗数の 増加によって、キャパの二倍近い対応を強い られていた。
隣接する倉庫を改造して分室を 立ち上げ、何とか業務をこなしている状態だ った。
そこで今回の改革では、低温センター を刷新する一方で、PCの増強もワンセット で実施することになった。
 低温品の物流オペレーションそのものは常 温品に比べればシンプルで、新センターも従 来通り通過型にする。
このため食品卸だけで なく、3PL事業を得意とする物流専業者に も声を掛けてコンペを開催した。
 その結果、ニチレイロジグループのロジス ティクス・ネットワーク(ロジネット)を〇八 年初頭にパートナーに選んだ。
提案してきた 大阪市港区の物件の内容と、コスト競争力の 高さが決め手になった。
 次の段階では、配送改革に取り組んだ。
従 来の同社の配車管理は、トラックの所属がセ ンターごとに固定されていた。
これを改め、 取扱商品の温度帯にかかわらず、近畿園にお ける配送業務をまとめて一社に集約すること にした。
ただし、配車機能は従来と同様に自 社で管理する。
 その狙いを高岡課長は「八時間なら八時間 の拘束時間のなかで、どんどん車両を使って いく。
一回あたりの積載効率を高めるだけで なく、走行距離を確保しながら積載効率も高 めていくことをめざした」という。
近畿圏全 方針を当初から立てていた。
 〇七年の夏に、五社程度の大手食品卸に 声を掛けた。
近畿圏の常温センターを一カ所 にするか二カ所にするかという判断も含めて、 各社から提案を求めた。
 従来の体制と同様に、常温・低温一体型の 施設を二カ所設置することを提案してきた候 補企業もあった。
しかし、それでは一つの施 設の規模が大きくなり過ぎてしまい、配送ト ラックの効率的な運用が難しくなるという難 点があった。
 最終的に、大阪市住之江区の物件に常温セ ンターを一カ所に集約することを提案してき た加藤産業を選んだ。
物件とコスト面の優位 性に加えて、ライフと業態の近い食品スーパ ーのセンター運営で豊富な実績を持っていた ことなどを総合的に評価したという。
拠点整備と配送改革を明確に分離  続いて低温センターの見直しに駒を進めた。
こちらは狭隘化の進んでいたプロセスセンタ ー(PC)の扱いにも配慮しながら物流改革 を進める必要があった。
 食品スーパーにとって肉と鮮魚は中核の商 品であり、これを扱うPC業務をアウトソー シングするつもりはなかった。
しかし、従来 の体制では、同社の「南港物流センター」に 低温の物流センターとPCが同居していたた め、低温センターの再構築がPCの再編と不 可分の関係になっていた。
49  JANUARY 2010 させ、それぞれに常温と低温を同一箇所で扱 うことを決めた。
それを前提にアウトソーシ ングの候補企業から提案を募った。
 加藤産業やロジネットなどにも声を掛けた が、結果としてこちらは、首都圏の北部を担 うために千葉県松戸市の物件を提案してきた 菱食をパートナーに選んだ。
物件の良さに加 えて、首都圏で多くのセンターを運営してい る実績を評価した。
 首都圏の南部に新設するセンターを任せる 委託先はまだ決めていない。
現状では物件を 模索している段階だが、北部のセンターを受 託してシステム構築などで一歩先んじた菱食 が有望視されている。
いずれにせよ、こちら も近日中に大枠を固めたい考えだ。
その完成 を見て、〇四年から手掛けてきたライフの物 流改革はようやく一息つくことになる。
 もっとも、新体制の評価はこれからだ。
本 稿の取材時点では〇九年の年末繁忙期を乗り 切ることが最大の課題となっている。
年末年 始のピーク期の業務を大過なくこなすことが、 物流部にとって正念場となる。
 そのうえで次は、物流改革の効果を検証す る必要がある。
既存の物流センターの運営に 携わっていた社員の多くは、すでに人事異動 などで配属が変わった。
3PLパートナーに 委ねた現場は、ライフの社員を一人も置かず に運営する方針だ。
こうした人件費の削減や、 総合配車による配送効率の改善、さらには店 舗の作業負荷の軽減などを数値化して明らか していかなければならない。
 一方で、早くも懸念材料が浮上している。
「店舗からのカテゴリー納品などへのニーズが 高度化しており、近畿圏では一五〇店舗に達 する前に物流センターの能力がパンクする可 能性も出てきた」と高岡課長。
 新体制の一五〇という対応店舗数は、常温 センターの自動仕分け機のシュート数から出 荷能力を割り出したものだ。
一店舗ごとに計 画以上に細かいカテゴリーを設定することに なれば、店舗数の伸び以上に作業負荷が増大 してしまう。
 現状では稼働時間外となっている、二二時 から翌午前五時までの夜間運用で能力を高め るという手段は残されている。
だが3PLパ ートナーとの契約条件にこれは含まれておら ず、簡単に実現できることではない。
 配送業務を効率化し、物流管理のコストパ フォーマンスをさらに高めていくためには店 着時間の柔軟な組み替えなど店舗の協力が欠 かせない。
今後はコストパフォーマンスにも配 慮した物流サービスの落とし所を、店舗側と 折衝しながら模索していくことになる。
 まずは構内作業を安定させて、定時納品の 約束を守れる体制を徹底する。
そのうえで仕 入先・3PLパートナー・店舗といった関係 者の間の利害調整を物流部門がこなしていく 必要がある。
改革の手腕を本当に問われるの は、むしろ今後なのかもしれない。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 域の配車をトータルに管理することで車両の 利用効率を高めていく考えだ。
 大手配送業者などに呼びかけて物流コンペ を開催し、低温センターの委託先と同じロジ ネットをパートナーに選んだ。
同社のネットワ ークと輸送能力を評価した。
センター運営と 配車業務を外部委託したことで、近畿圏の新 たな物流インフラがほぼ完成した。
関係セクションの利害調整に課題  現在は首都圏の物流改革に着手している。
こちらは近畿圏と違って、ライフが要件を設 定する段階で、南北二カ所にセンターを分散 首都圏120 店舗のための物流構想 (センター3 カ所を2 カ所に集約) PC機能 通過型 PC機能 (低温・常温) 通過型 (低温・常温) 預託在庫 通過型 (常温) (低温) 「栗橋総合物流センター」「栗橋プロセスセンター」  首都圏の120 店舗に対応 「川口安行物流センター」 通過型 (低温) 「大田物流センター」 「北部総合物流センター」(仮称)  2010 年10 月稼働予定  首都圏65 店舗まで対応  運営:菱食 通過型 (低温・常温) 預託在庫 (常温) 「南部総合物流センター」(仮称)  物仲を模索中  運営:未定 現状 将来 物流センター経由で 店舗へ PC 専用へ 移管 移管 移管(予定) (千葉県松戸市)

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