ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2010年1号
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第56回 商船三井

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2010  54 経常利益予想はさらに減額   商船三井が二〇〇九年一〇月二七日に発表 した一〇年三月期中間決算は、売上高が前年 同期比四三・〇%減の六二四五億六二〇〇万 円、経常損益が一〇〇億一一〇〇万円の赤字 (前年同期は一八五九億九九〇〇万円の黒字) と大幅に悪化した。
同時に、一〇年三月期の 経常利益予想は五〇〇億円から一〇〇億円に まで減額修正された。
芦田昭充社長は決算説 明会の席上、コンテナ船事業(Container)、自 動車事業(Car)、および油送船事業(Oil)の 主要三部門、すなわち「C2O」が業績の著し い悪化を招いた、と総括した。
 みずほ証券では同決算発表後、商船三井の 業績予想を見直し、一〇年三月期の経常利益 予想を一五五億円とした。
会社予想を僅かに 上回る結果となったが、?ドライバルク(ばら 積み)船におけるスポット収益の増加、?自 動車船における積み取り台数の増加、等を加 味したものである。
ただし、?コンテナ船の 北米航路運賃、?油送船市況、?為替並びに 燃料油価格、等について懸念が残り、収支動 向は総じて楽観し得ない状況と認識している。
特にコンテナ船事業は事業存続の意義が問わ れかねない惨状にあるといえそうである。
 妥当株価については「五七〇円」から「五 〇〇円」に引き下げた。
これは一定の業績予 想前提の下、一〇年三月期みずほ証券予想P BR(株価純資産倍率)一・〇倍に相当する 五四〇円を基に、コンテナ船簿価(〇九年三 期末約九一〇億円)の全額減損損失に伴う自 己資本毀損額(税効果後で約五五〇億円)を 反映させたものである。
減損対象資産はコン テナ船事業総資産(〇九年三月期末簿価約三 六三〇億円)の約二五%に相当する規模であ る。
コンテナ船事業については、収支予想等 を踏まえ、減損リスクを織り込む必要がある、 と判断した。
 株価はなお、ばら積み船の運賃指標である BDI(バルチック海運指数)の動向に左右 される可能性もあるが、船腹需給等からドラ イバルク市況の持続的高騰局面は想定し難い、 との立場を維持している。
株式市場では主要 企業の増資が相次いでいるが、商船三井につ いては財務構造等に鑑み、増資に伴う株式希 薄化の可能性は低いとみている。
海運業が内包する収支変動リスク  商船三井を含めた大手船社は現在、?期間 損益(経常利益)、?キャッシュフロー(FC F)、?財務体質(DER)、などの悪化リス クに直面している。
海運業には一般的に、荷 動きの拡大する好況時に船隊拡充策を実行す る傾向があるが、好況時に手当てした船舶は 通常、?竣工までの期間が長く、需給の不適 合化を招き易いこと、?船価が高く、コスト 商船三井 世界経済の変調と共に利益が大幅に縮小 「市況変動利益」は「安定利益」をも侵食  商船三井の二〇一〇年三月期中間決算は、株 式市場の事前予想を超える非常に厳しいものと なった。
同社が海運市況に左右され難い利益と 定義する「安定利益」は、以前の好業績の原動 力となっていた「市場連動利益」の赤字転落で 吹き飛ばされた格好だ。
株式市場からは市況変 動への対応やコンテナ船事業の再編等、海運業界 が直面する課題への対応が求められている。
國枝 哲 みずほ証券 エクイティ調査部 運輸セクター シニアアナリスト 第56回 55  JANUARY 2010 競争力の欠如を招き易いこと、?テールヘビー な船価払いのため、キャッシュフローの逼迫を 招き易いこと、などがあり、業況急変に応じ た操舵は容易ではない。
結果、一部の船社で は自己資本の増強が重要な経営課題に浮上す ることになる。
 また海運業は市況産業とグローバル産業と いう二つの側面を併せ持つため、収支変動リ スクは?海上運賃、?為替レート、?燃料油 価格、?金利、など広汎多岐にわたる。
貸借 対照表に目を向ければ、?新造船価格、?中 古船価格、?解撤船価格、等もリスク要因と いえる。
さらに最近では運賃安、円高、船舶 経費高等から、?用船契約先などに対する与 信リスク、も見逃せない要素になりつつある。
こうした中で商船三井固有のリスクとしては、 鉄鋼原料船(大型のケープサイズ船等)をスポ ット市場に多く投下していることが挙げられ る。
同社は世界最大級のケープサイズ船隊を擁 していることから、海運市況の変動に伴う収 支変動幅が相対的に大きくなり易い。
 株式市場は業界が高収益に沸いていた〇七 年三月期前後にも、収支変動リスクへの懸念 を払拭しきれずにいたが、商船三井は「安定 利益」という概念を打ち出し、自らの企業価 値を説いてきた。
商船三井に拠れば、「安定利 益」とは「一年を超える中長期契約により確 定している利益、および安定性の高い事業の 利益」となる。
 さて、一〇年三月期中間決算発表時、一〇 年三月期会社予想経常利益が一〇〇億円にま で急速に縮小したのは既述の通りである。
商船 三井は〇九年四月二七日に公表した一〇年三 月期の経常利益予想八〇〇億円における「安 定利益」を一二〇〇億円としていた。
つまり、 「市場連動利益」はむしろ、「安定利益」を大 3200 2800 2400 2000 1600 1200 800 400 0 商船三井の経常利益と経常利益率の推移 20 15 10 5 0 -5 -10 (%) (億円) 91/3期 経常利益率(右軸) 経常利益(左軸) 93/3期95/3期97/3期99/3期01/3期03/3期05/3期07/3期09/3期11/3期予 JANUARY 2010  56 きく食い潰す性格のものに転じたのである。
コンテナ事業は抜本的対策が必要   株式市場は改めて、「安定利益」とは必ず しも損益計算書に残り得る利益に相当するも のではないことに、気付かされたと思われる。
一〇年三月期中間期は、「海運業は市況産業で ある」ということを再認識するに十分な決算 であった可能性がある。
中間決算発表後、海 運株は不冴えな展開を示しているが、「安定利 益」に対する株式市場の信任が後退したこと も要因の一つと考えられる。
 斯かる状況下、商船三井を含む海運大手が 取り組むべき当面の課題を三点、挙げたい。
 第一は、安定収益と市況変動への対応であ る。
経営者は改めて安定収益源の積み上げに 地道に努力する一方、市況変動に対して時と して果敢に、迅速に、そして適正に立ち向か う必要がある。
そのためには、?リスクキャ ピタル(事業リスクを負担する資本)の拡充、 ?リスク管理体制の構築、?調査分析能力の 向上、などが必要不可欠と思われる。
邦船社 が持つ固有の事業ポートフォリオや契約形態を 維持発展させつつ、市況産業としてあるべき 経営の構造的転換に向けて地道にかつ強力に 進めていくことが期待される。
 第二は、コンテナ船事業のあり方である。
コ ンテナ船事業はアジア諸国を中心とする新興船 社の台頭で激しい運賃競争にさらされ、辛酸 をなめ続けてきた歴史がある。
ドライバルクな どの不定期専用船事業の活況に隠れ、「問題 児」への風当たりは暫時緩和していたものの、 今般俄かに噴き出した感がある。
 直面するコンテナ船不況は、これまでにも増 して深刻と思われる。
荷動きが大幅に収縮し ているにもかかわらず、数年前の好況時に大 量発注された超大型船の竣工が予定されてお り、数年にわたって船腹需給が悪化し続ける 見込みである。
運賃水準の「安定的回復」は 容易ではなく、営業赤字からの脱却には四年 前後を要するとの見方もある。
仮に短期間で 黒字化したとしても、コンテナ船事業は今後 も運賃の乱高下に起因する収支変動を繰り返 し、全社収支に大きな影響を与え続ける可能 性がある。
 コンテナ船事業については、全社的な位置 付けを改めて問い直す時期にあると思われる。
M&A等を通じた事業の拡大と撤退、その両 方の選択肢を真剣に検討する必要性が認めら れる。
今のままでは国際競争で主導的役割を 担うことは難しく、経営の自主性を担保でき ない事態を今後も甘受せざるを得ないものと 危惧される。
 第三は、人材の育成である。
国際貿易が一 段と拡大する中、船舶以外に比較的安価で大 量な輸送モードは見当たらない。
海運の役割 は時代が移り変わろうとも不変であり、今後 も成長産業であり続けると思われる。
また既 述の通り、グローバル産業と市況産業という 性格を併せ持つことから、海運業には各種市 況や国際情勢、さらには海運政策などを十分 に踏まえた経営判断と、物心を伴うかたちで 現地に根ざした国際展開が求められる。
その 原動力となるのが人材である。
リスク管理と 人事評価の体制整備を進める一方、進取の気 性と鋭敏なリスク感覚を具備する次代の人材 の育成を怠ってはならない。
くにえだ さとる 一九九〇年日本興業銀行(現みず ほコーポレート銀行)入行。
産業調 査部、市場投資調査部、株式投資 室でガラス・土石製品、運輸、自 動車産業などを担当し、ポートフォ リオマネジメント部で債券流動化を 推進。
二〇〇三年より現職。
一橋 大学商学部卒。
商船三井の過去10年間の株価推移 《出来高》

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