ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年1号
現場改善
第84回 投資ファンドA社の出資先テコ入れ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

75  JANUARY 2010 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 第84 回  倉庫会社に出資した投資ファンドから支援の要請を受け た。
効率の悪い施設の使い方をしているので、現状を評価 して改善して欲しいという。
ところが実際に現場を視察し てみると、ムダに見えるようなスペースにもそれなりの理 由があった。
投資ファンドA社の出資先テコ入れ 保管効率を二倍にしたい  弊社日本ロジファクトリー(NLF)のホ ームページ経由で、投資ファンドA社から問い 合わせのメールが入った。
投資を実施した倉 庫会社の保管効率を向上させたいという。
つ いては、どのようなコンサルテーションを受け ることができるのかという質問だった。
ひと まずメールを返信し、後日打ち合わせするこ とになった。
 我々のような物流専門のコンサルティング 会社でも、昨今は投資ファンドとのやり取り が珍しくなくなってきている。
物流用地や倉 庫設備などのアセット、あるいは物流会社そ のものが、投資対象として定着してきたため だ。
しかし、A社とコンタクトを取るのは今 回が初めてだった。
 問い合わせのメールをくれた担当者から、A 社の投資方針をヒアリングした。
それによる とA社は不動産投資をメーンとし、物流は得 意分野としていないという。
物流不動産への 投資実績はあるものの、当時の担当者は既に 退職しており、社内には物流分野の問題に対 応できる組織がなく、また人材もいなかった。
 
措劼箸靴討禄仍饑茲料匕鵬饉劼北戮る仕 組みを定着させたい。
具体的には主力施設 の保管効率を二倍にしたいという。
そのため に株主として口は出すものの、専門外の倉庫 運営に直接手を出すこともできない。
そこで 我々NLFが外部の専門家の立場からその施 設の現状評価と課題の抽出を行い、それを倉 庫会社にぶつけることで改善を進めていきた いという。
ファンドとしては正攻法の進め方 と言えた。
 その担当者と現地の視察を行った。
東京か ら電車で約一時間半。
さらに駅からタクシーに 乗り換えて約二〇分。
ようやく倉庫のある現 地に到着した。
広大な敷地に六〇〇〇平方メ ートル規模の真新しい倉庫が三棟並んでいた。
 (首都圏からここまで距離があれば、地価は 相当に安いのだろう。
それにしてもバカデカ イものを作ったものだ。
一体、何を保管する つもりで建てたのであろうか。
ひょっとする と、建ててしまってから空きを埋めるつもり だったのではないか)──筆者の脳裏を様々 な想いが駆け巡った。
 倉庫の壁面にはA社の出資先の「L社」の 名前がペイントされていた。
筆者が以前から JANUARY 2010  76 知る倉庫会社である。
その現場責任者に案内 を依頼し、我々は庫内を視察して回った。
 
措劼涼甘者からは「無駄な倉庫の使い方 をしているんです。
棚を入れるなり、工夫を すればもっと荷物が入ると思うのですが」と 事前に聞かされていた。
その言葉通り、確か に高さが活かされていない。
パレットの二段 積みを一部で行っている程度で、ほぼ平置き の状態であった。
見た目は非効率なようでも‥‥  現場責任者にそのあたりの事情を聞いて みた。
するとダンボールの耐性(強度)から、 そのままでは二段積みが限界であること、ま た「ネステナー」などの段積みを可能にする 器具を使っても、庫内の高さが六メートルに 満たず、天井から照明がぶら下がっているこ とから三段積みはできないという。
 しかも、その荷主の使っているパレットは 普及型の「T11型」(一・一メートル×一・ 一メートル)ではなく、一・一メートル×一・ 四メートルの特殊サイズだった。
保管棚を導 入するには、特注する必要があり高価なもの になってしまう。
荷重もあって、リフト操作 の効率が落ちるため、導入しても効果は期待 できないという判断だった。
 空きスペースについても、現場責任者にと れば借置場として使用しており、朝の入荷時 や午後の出荷時には目一杯使われているとい う。
庫内の通路もフォークリフトを使用する 上では必要な幅であった。
 
措劼涼甘者には非効率に見えたスペース の使い方にも必然性があった。
そのことをA 社の担当者に伝えたところ、担当者は落胆し たようだった。
続いて他の二棟も見に行こう と促しても「こことほぼ同じ状況です」と半 ばあきらめ顔だ。
 しかし、同じ会社の倉庫であっても庫内の 状況は一つひとつ違うものだ。
ましてや三棟 はそれぞれ荷主が違うという。
しかもA社の 担当者が倉庫の見学に来たのは半年ぶりだと 聞いている。
その間には品目の入れ替えも発 生し、格納されている物量も変わっているは ずだ。
 筆者は「せっかくここまで来たのだから、 ?念のため?見ておきましょう」と、A社担 当者を誘い出した。
 案の定、庫内の状況は先ほどとは全く違っ ていた。
次に見た棟では、雑貨や常温食品な どが天井近くまでぎっしりと保管されていた。
そして最後の棟には、木枠に入った重機や動 力エンジンなどが平積み状態で一面に広がっ ていた。
 こうして視察を終え、日を改めてA社に報 告を行った。
効率化の追求には限界があり、 保管効率を二倍にするという当初の目標は相 当に高いハードルであることを説明した。
 それを実現しようとすれば、倉庫で扱う荷 物(品目)のセグメント自体を設定し直す必 要がある。
対象となる新規荷主の獲得に改め て奔走しなければならない。
L社の営業活動 そのものにもメスを入れる必要が出てくるだ ろう。
 今の荷主には別の拠点に移ってもらうこと になるため、当然移転コストもかかる。
しか も通常の倉庫では、床荷重やフォークリフト の種類などの制約からハンドリングできない 荷物も出てくる。
現場のオペレーションも再 構築しなければならない。
 筆者の説明を聞いて、A社の担当者は?思 うようにならない?と天を仰いだ。
高い買い物を避けるには  この手の話はA社に限ったことではない。
投資ファンドや金融機関絡みの案件では、よ くある話と言ってもいい。
庫内を見て素人は 「もっと積み込める」と思う。
しかし、実際 には保管効率を上げられないそれなりの理由 が存在する。
現場が努力を全く放棄している わけではないのだ。
 今回のケースでは、荷主を現状のまま動か さないとすれば、保管効率の向上は三〇%増 が限界ラインだった。
それ以上の改善効果を 狙うのであれば、保管効率以外に新たな利益 源を見出す必要があった。
そこで我々NLF は善後策として、協力輸送会社のコストの見 直しなどの一般的な施策のほかに、次のよう な選択肢を提案した。
●賃貸に回す。
六〇〇〇平方メートル規模の 倉庫三棟という規模と立地を考えると、L 社単独で全て受託し、庫内も自社スタッフ で運営するという体制自体にそもそも無理 がある。
他の物流会社への坪貸しや一棟貸 しを検討する。
77  JANUARY 2010 ●引き合いの内容次第でメザニン(中二階) の導入を検討する。
●不況のなか比較的荷動きのある食品業界の ニーズに対応するため、冷蔵庫の増設棟の 改修も視野に入れる。
●この施設を単に荷物を保管する“倉庫”と 位置付けるだけでなく、組み立てや流通加 工も対応する?工場?としても活用する。
●L社の現場と営業の定例ミーティングを月 一回実施する。
「精密機械が入るかもしれ ないが現場では対応できるか」といった営 業からの相談や、「B棟の右奥スペースが三 〇〇坪程度空けることができるので入る荷 物を探して欲しい」といった現場の要請な ど、双方の連絡を密にして、情報を共有化 する。
 こうして新たな方針の下で現在、L社の収 益性改善活動が進められている。
既に食品業 界などから新規の引き合いが来ており、スポ ット的な仕事ではあるが、ギフト品の業務を二 社から受託したという連絡を受けている。
し かし不況の折、まだ苦戦を強いられているの が現状だ。
 今や投資会社や金融機関は、物流市場に大 きな影響力を持っている。
しかし、彼らの投 資プロセスを見ていて著者は、危うさを感じ ることが少なくない。
 土地、建物への投資ならまだしも物流会社 そのものへの投資であれば、投資を判断する 前にもっと物流事業の構造を理解しておくべ きだろう。
その知見を持ったスタッフや協力 者を社内外に確保しておく必要がある。
 それを怠れば、自分たちが高い買い物をし てしまうというだけでなく、物流業界自体が かき回されることにもなってしまう。
やはり ?餅は餅屋?と、筆者は感じている。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp

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