ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年1号
SOLE
SaaS・クラウドコンピューティング──ロジスティクスで使えるか

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics JANUARY 2010  78  
咤錬味兎本支部十一月度のフォ ーラムでは、最近盛んに新聞紙上等 に登場するようになってきた「Saa S・クラウドコンピューティング」を 課題に挙げ、現状の理解とロジスティ クス・ビジネス領域への利活用につい て議論した。
SaaSとクラウドコ ンピューティングについては利用が進 む一方でさまざまな解説があり、課題 はまさに「雲の中」にあるとの印象 を受けたが、新たなロジスティクス・ サービスの方向性が見えてきた。
(SOLE日本支部幹事・瀬良光弘) 情報システムのサービス化  情報技術の進化のスピードは、ま ことにすさまじいものがある。
これ に合わせて企業は情報機器を導入し、 業務アプリケーションを開発し、競争 力ある情報システムを自社内に構築し てきた。
企業経営における情報技術 の活用領域は業務の効率化、業務プ ロセスの簡素化・効率化を目指した 業務体制の改革から顧客サービス・ 顧客満足度の向上、さらにビジネス プロセスの見える化による経営スピー ドの向上、競争力のあるビジネスモデ ルの開発へと広がった。
また情報シス テムは単なる業務処理の効率化ツール ではなく、多くの業務アプリケーショ ンを実装し、経営戦略の実現を目指 す経営の中枢機能となっている。
 コンピューターの利用形態をみると、 システムセンターでの大型コンピュー ターの集中活用からオンラインシステ ムへ、各事業拠点での分散処理から 各事業拠点のコンピューターを繋ぐネ ットワーク化へと発展してきた。
この ように開発されてきたコンピューター システムは、今日では複雑で大規模 になり、経営革新のスピードに合わせ て改修していくことが非常に困難に なっている。
こうしたシステムは「レ ガシーシステム」と呼ばれ、大きくて 保守的で、小回りが利かない古臭い システムの代名詞になってしまった。
 そこでコンピューターシステムを SaaS・クラウドコンピューティング ──ロジスティクスで使えるか 再構築するための技術手法として提 唱されるようになったのが「SOA (Service Oriented Architecture)」で ある。
SOAは業務処理アプリケーシ ョンをモジュール化し、それらのモジ ュールを提供する、すなわち「業務処 理サービスを提供する」という概念で あり、必要に応じてさまざまな組み合 わせで業務プロセスを効率良く再構築 していくアーキテクチャーである。
こ れにより、経営革新の要求にモジュー ルの修正・開発というかたちでスピー ディに対応できるとされている。
「ビジネスWeb」への拡大  一方、インターネット上では「W ebサービス」が爆発的に普及した。
「ブロードバンドの普及」、即ち通信 回線・ネットワークの高速化・低料 金化と常時接続が可能になったこと がトリガーの一つと考えられる。
同時 にWebブラウザ技術・情報検索技 術の急速な進化・高度化が多様多量 なWebサービスを発達させてきた。
 
廝紕皀機璽咼垢鯆鷆,垢襪里魯ぅ ターネットのネットワーク上にあるコ ンピューター:サーバーである。
イン ターネットではWebサーバー、DN Sサーバー、メールサーバー等があり、 ネットワークで発生するさまざまな業 務を内容に応じて分担し、集中的に処 理している。
Webサービスの普及に 伴い、これらのサーバーがネットワー ク上で大量に稼働するようになった。
 そうしてサーバー上の情報資源を効 率よく利用する必要に迫られ、そのた めの技術が登場した。
一台のサーバー を複数台があるかのように使う、サー バー仮想化技術である。
これにより、 サーバーの稼働率は飛躍的に向上した。
 
廝紕皀機璽咼垢稜発的な普及は、 グーグル、ヤフー、アップルのi T unes、アマゾン・ドット・コム、 ネットオークションのイーベイ等の 「コンシューマーWeb」といわれる 領域が牽引してきた。
利用者はWe bサービスの提供を可能にしている情 報システムの技術基盤をまったく気に することなく、インターネットに接続 さえすれば多種多様なWebサービス を利用できる環境ができあがった。
 現在、コンシューマーWebのサー ビスはさらに進化し、オフィスツール の領域にまで拡大している。
これらに 刺激され、企業における業務処理プロ セスの改善・構築にWebサービスの 技術を活用する動きも出てきた。
「ビ ジネスWeb」の幕開けである。
「あちら側」は「雲の中」  「コンシューマーWeb」と「ビジ ネスWeb」を支える技術は、クラウ ドコンピューティングと解説されてい る。
データサービスやインターネット 79  JANUARY 2010 技術等がネットワーク上のサーバー群 にあり、ユーザーは自分のコンピュー ターでデータを加工・保存することな く、それらの機能を「どこからでも、 必要な時に、必要なだけ」利用でき る新しいコンピューター・ネットワー クの利用形態である。
そのネットワー クはイメージ図で雲(クラウド)のよ うに描かれるため、クラウドコンピュ ●オンデマンドコンピューティングは 必要な時に必要な情報やITによ るサービスの提供を得られる状態 ●グリッドコンピューティングは多く の個々のコンピューターを結び付け、 一つの大きなコンピューターとして リソースを有効に利用すること ●ユーティリティコンピューティング は電気やガスの公共料金のように 使用した分だけ支払う形態 ●ユビキタスコンピューティングは多 くのコンピューターがネットワーク で繋がり、世の中のあらゆるところ でコンピューターが利用される社会 という意味である。
 クラウドコンピューティングはこれ らすべての要素を含んでいるといえ、 ネットワーク上に存在するサーバーが 提供するサービスを、サーバー群を意 識することなく利用できる形態とも いい表わせる言葉である。
「Web進 化論」の中で表現される「あちら側」 の世界はネットワーク、即ち「雲」の 中にある。
それを利用する!︰︰「雲 をつかむような話」ではないか? クラウドサービスの三階層  雲の中を気にせずサービスを利用で きるのがクラウドコンピーティングの よさではあるが、サービスを利用する ーティングと呼ばれるようなった。
 「必要な時に、必要なだけ」利用す ることができるコンピューティング技 術については、これまで「オンデマン ドコンピューティング」、「グリッドコ ンピューティング」、「ユーティリティ コンピューティング」、「ユビキタスコ ンピューティング」などともいわれて いる。
図1 SaaS 概念図 ユーザーが各アプリケーションの 運用・保守をしなくてよい データベース 顧客マスター商品マスター社員マスター売上マスター APL(1) 経由で基幹 システムと連携できる 商談 管理 顧客 管理 SaaSプラットフォーム(マーケットプレース) ハードウェア、ソフトウェア・プラットフォーム (ディザスターリカバリ、ヘルプデスク等) サービス & サポート 採用 管理 Web 金融 システム管理 経営 管理 EAI(2) APL(1) 経由でWeb サービスと連携できる CRMアプリケーション Salesforce.comが 提供 ユーザー開発 アプリ サードパーティ製 アプリ アプリ (パッケージソフト) サードパーティ製 インターネット サードパーティ製 アプリ (Webサービス) 500アプリケーション (ユーザー開発は除く) ユーザー (サブスクライバー) ユーザー (サブスクライバー) 646,000サブスクライバー ユーザー (インターネットを経由しない) カスタマー(29,800) APL (アプリケーション・ベンダー) パートナー 出所:情報処理推進機構「先進的「ウェブ・サービス」を中心とする情報技術ロードマップ 策定〜ソフトウェアサービス化及び情報の高付加価値化への潮流〜報告書」 (1)Application Program Interface (2)Enterprise Application Integration に当たっては、やはり理解しておか なければならないこともある。
雲の 中は多種のサーバーとストレージ群を 稼働させるデータセンター群、その中 で働くアプリケーション群、それらを 繋ぐネットワークという三つの階層で 構成されることを理解しておこう。
  1.クラウド基盤層:サーバーやスト レージ群のハードウェア機能を提 供 2.クラウドサービス提供層:アプリ ケーション基盤 3.クラウドアプリケーション層:ユ ーザーが利用するアプリケーショ ンを提供  サービスは各層ごとに提供され、そ れぞれ?IaaS(Infrastructure as a Service)、?PaaS(Platform as a Service)、? S a a S (Software as a Service)と表現され ている。
SaaSの典型的事例とし て、CRM(顧客管理)サービスで知 られる米セールスフォース・ドットコ ムのSaaS基盤がある(図1)。
  ソフトを「所有」から「利用」へ  「どこからでも、必要な時に、必要 なだけ」利用することができるアプリ ケーションソフトをクラウドアプリケ ーション層:SaaSで提供する世 JANUARY 2010  80 スフォース・ドットコムのようにクラ ウドコンピューティングサービスを提 供する会社が急成長している。
これ は企業が利用を開始するまでのスピー ドの速さ、拡張性、低コストという メリットを評価したものだが、企業に とっては今度はクラウドサービスの活 用方法で差別化を競う段階に入った ことを意味する。
 
R Pのような基幹システムも、 クラウドサービスの利用には向かない とされていた。
しかし成長著しいベン チャー企業やIT予算に限りのある中 小企業ではクラウドコンピューティン グのメリットは大きく、この分野でも 利活用を強く進めていくと考えられる。
こうした動きを見据えて経済産業省は、 財務会計を中心としたアプリケーショ ンをSaaSで中小企業に普及させ る政策「J─
咤瓧瓧咫廚鮨覆瓩討い襦
三井倉庫はSOAでITを刷新  これに対してロジスティクスサービ スの領域では、ASP事業者がWM S単体をインターネットを通じて提供 する事例があるが、クラウドコンピュ ーティングの技術を使ったものはまだ ないようである。
 ただしSOAを採用し、システム を刷新している事例として三井倉庫 が挙げられる。
同社の顧客数は六〇 〇〇社あまりに及ぶ。
個々の顧客に きた。
 この形態を「企業内クラウド(プラ イベートクラウド)」といい、 インタ ーネット経由で多数の企業が利用でき る利用形態を「パブリッククラウド」 と呼んでいる。
企業内クラウドにおい ても、各部門・拠点に散在するサー バーなどの情報システム資源を集約・ 共用すれば、機器のコストを低減でき、 システム担当者を複数拠点に配置す る必要がなくなる。
運用の手間とコ ストも省けるため、情報システムコス トを大幅に削減でき、クラウドコンピ ューティングのメリットを享受できる。
なお且つ、業務データを外部に置くと いうリスクを避けられる。
中小企業でもSaaSを利活用  企業はこれまで競争力を高める、 差別化を図るための高度なITシステ ムを開発し、自社内に装備してきた。
しかし今では他社との差別化が不要 なシステムは自社で持つ必要はないと 考える企業が多くなっている。
ネッ トに接続さえすれば、どのパソコンで もメールを送受信できるメールサービ スが低料金で提供されていたり、ワ ープロソフト、表計算ソフトまで利用 可能になった。
 さらに差別化の最先端ともいえる顧 客満足度を高めるためのCRMアプリ ケーションの領域においても、セール ●拡張性:必要な時に必要なだけのリ ソースを確保できる ●可用性:クラウド内に分散している ITリソースを利用するのでトラブ ルが発生しても柔軟かつ即座に対応 でき、システムダウンタイムを最小 にできる ●利便性:ネットワークへの接続機器 にはさまざまな種類があるので利便 性が高い ということである。
ただしトラブル発 生時の対策の策定や、予めサービスレ ベルを取り決めておくことも忘れては ならない。
企業内クラウドでコストを削減  クラウドコンピューティングはオー プンなインターネットで発展してきた ため、「ビジネスWeb」の利用にお いては「あちら側」、つまり「雲の中」 に業務データを置くことに不安を感じ る企業もある。
しかしクラウドコンピ ューティングの仮想化、システム連携 技術はインターネットでなくとも活用 できる。
特に内部ネットワークで大量 のサーバーが稼働し、多くのアプリケ ーションを運用しているようなところ では大きな効果を見込むことができる。
実際、企業内やグループ内の複数シス テムを統合し、社員の利用に限定して 社内ネット経由で使用する企業も出て 界が「ビジネスWeb」といわれる領 域である。
アプリケーションソフトは 一般にはライセンスで購入し、自社の コンピューターにインストールして利 用するものであるのに対し、Saa SではビジネスWebで提供されるア プリケーションをWebブラウザで利 用し、利用料金を支払う。
これがソ フトウェアのサービス化といわれる所 以である。
 
咤瓧瓧咾魯▲廛螢院璽轡腑鵑痢崕 有」から「利用」への転換であり、コ ンピューターの利用方法を根底から 覆すことを意味する。
インターネッ トを通じてビジネス用アプリケーシ ョンソフトを顧客に提供するASP (Application Service Provider)の 形態もあるが、これまではWebブ ラウザではない技術で提供されていた という点で異なる。
 
咤瓧瓧咫Εラウドコンピューテ ィングを利用するメリットは、 ●スピード:短期間で使用を開始で きる ●低コスト:コンピューター資源への 新規投資がなく、新規の運用費用 も発生しない ことである。
 拡張性、可用性、利便性にも優れ ている。
81  JANUARY 2010 ムであるかのように利用できる。
顧客 の営業情報や受注情報と在庫情報・ 輸配送情報を同一画面上でロジステ ィクスサービス情報を提供できるとい うことだ。
 日本には世界最速のブロードバンド と、モバイル環境と、優秀なGPS 技術とがある。
これらを活用するこ とで、本当の意味でのリアルタイムで の「見える化」など、ロジスティクス サービスの新たな差別化領域が見えて くる。
ドコンピューティングを進化させた技 術の一つ、「マッシュアップ技術」(図 3)をフォーカスしたい。
 マッシュアップは複数のサービスを 組み合わせて利用者に提供する技術 であり、身近なところでいえばグー グルマップ上で追加表示されるホテル やレストランの案内情報がある。
マッ シュアップ技術を使えば顧客のCRM システム・受注システムとWMSやT MSを連携させ、あたかも同一システ 要素機能をサービスとして切り出し、 既存システムの再構築に際してサービ ス(モジュール)として組み込んでい った(図2)。
マッシュアップ技術を物流で活用  ロジスティクスサービスの効率・効 果は、顧客のデマンド/サプライチェ ーン・マネジメントとどこまで一体に なってサービスできるかにかかってい る。
この視点からSaaS・クラウ 対応するために類似システムが数多 く生まれ、システム全体が膨張・複 雑化し、限界に近づいていた。
そこ で基幹業務を「倉庫業務」、「運輸」、 「輸入荷捌き」、「輸出荷捌き」、「海 上貨物」、「航空貨物」の六つに分類 し、それぞれの業務ごとに機能を展 開。
これ以上は不可能という業務単 位レベルにまでビジネスプロセスを細 分化した。
その上で細分化された業 務プロセスから共通に利用される業務 図2 現行の基幹システムイメージと新しい基幹システムイメージ 出所:情報処理推進機構「先進的「ウェブ・サービス」を中心とする情報技術ロードマップ策定〜ソ フトウェアサービス化及び情報の高付加価値化への潮流〜報告書」 基幹システム 荷捌航空 機能 在庫管理 基幹システム 機能 輸入荷捌 機能 輸出荷捌 機能 運送 機能 在庫管理 基幹システム 機能 輸入荷捌 機能 輸入荷捌 輸出荷捌 機能 輸出荷捌 海上貨物 機能 NYO 運送 機能 運送 在庫管理 機能 X在庫 A社A1商品 在庫管理 機能 Y在庫 X社X1商品 在庫管理 機能 Z 在庫 海外 関連会社 三井倉庫 基幹業務支援機能部 基幹システム 倉庫業務機能部荷捌業務機能部航空業務機能部運送業務機能部 サービスデータコンポーネント s s c c c d s c c s d s s c c c d s s c c c d s c d 三井倉庫 関連会社 海外 図3 API 公開とマッシュアップサービス 出所:情報処理推進機構「先進的「ウェブ・サービス」を中心とする情報技術ロードマップ策定〜ソフト ウェアサービス化及び情報の高付加価値化への潮流〜報告書」 API 公開 WebサービスA API 公開 WebサービスB マッシュアップ サービス提供者 ?サービス呼び出し ?生データを返す ?サービス呼び出し ?生データを返す マッシュアップして 新たなWebサー ビス提供 ユーザー API:Application Program Interface 次回フォーラムのお知らせ  次回フォーラムは1月8日(金)「米 軍横須賀補給センター見学」を予定し ている。
このフォーラムは年間計画に基 づいて運営しているが、単月のみの参 加も可能。
1回の参加費は6、000円。
ご希望の方は事務局(sole-j-offi ce@ cpost.plala.or.jp)までお問い合わせ ください。
※ S O L E(The International Society of Logistics: 国際ロジスティクス学会) は一 九六〇年代に設立されたロジスティクス団体。
米国に本部を置き、会員は五一カ国・三〇〇 〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日本支部では毎月 「フォーラム」を開催し、講演、研究発表、現 場見学などを通じてロジスティクス・マネジメ ントに関する活発な意見交換、議論を行って いる。

購読案内広告案内