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大手メーカーと大手小売りの直接取引が広
く普及する欧米市場とは異なり、日本では卸
経由の流通が今も主流を占めている。 ただし
各分野の大手卸のビジネスモデルは過去一〇
年の間に大きく変化した。 激しい淘汰を勝ち
残った大手卸は、メーカーの特約店から、小
売りのバックヤード機能に役割を転換すると
同時に、自らを軸とした日本型SCMを主導
しようとしている。
卸の描く日本型SCM
卸売業の衰退が続いている。 経済産業省の
商業統計によると、日本の卸売業の市場規模
は、バブル崩壊の一九九一年をピークとして、
その後一貫して縮小し続けている。 一九八三
年を一〇〇とした時の卸売業の年間販売額、従
業員数、事業者数は、今日いずれも二〇年前
を大きく割り込んだ水準まで落ち込んでいる
(
図1)。
ところが各分野の大手卸の事業規模は、全
体の市場規模と反比例する形で拡大を続けて
いる。 過去一〇年にわたり、食品や日用雑貨
品、医薬品などの主だった卸売業界では、大
手卸が地方卸を吸収する形での業界再編が進
んだ。 これに伴い、各分野とも上位数社の大
手卸で過半のシェアを握るほど上位集中が顕
著になっている。
一方、メーカーや小売業の階層では、依然
として小規模分散が続いている。 これまでのと
ころ日本では同業界のメーカー同士の合併や
吸収が例外的にしか起こってない。 小売市場
でも組織化されていない単独店が、いまだに販
売額で約六割のシェアを占めている。 全国の
小売店約一三〇万店のうち半数は年間売上高
二五〇〇万円以下の零細店だ。 林周二東大名誉教授が「流通革命」を出版
し、「現在問屋を通過している消費財中の相当
部分は、メーカーから巨大小売連合の倉庫な
どへの直卸形態へと移行するようになるだろ
う」と予測してから、既に四〇年以上が経過
した。 この?問屋無用論〞は、中間流通機能
を備えたチェーンストアの台頭する、当時の欧
米市場の動向を背景にしたものだったが、今
も日本では卸経由の流通が主流を占めている。
現状を見る限り、予測されたほど大手チェ
ーンストアのシェアは伸びず、卸の中抜きも拡
がっていない。 むしろ近年は大手卸による流通
支配が目立つようになってきている。 淘汰を勝
ち残った大手卸は、圧倒的なシェアを武器に
して、卸の主導による日本型サプライチェーン
の構築に挑み始めている。
これまで日本の主要な卸は、大手メーカー
が指定する特約店という立場で、メーカーの販
売会社機能を代行してきた。 特約店は担当地
域で独占的に卸売販売する権利を持つ代わり
に、メーカーのシェア拡大に協力し、メーカー
のマーケティング戦略に則って末端価格をコン
トロールする義務を負っていた。 事実上、大手
メーカーの下請的な存在だった。
これに代えて今日、大手卸はメーカーの販
社機能と決別し、小売業のバックヤード機能
を代行するロジスティクス企業として事業構造を転換しようとしている。 そこではフルライン
の商品を品揃えする調達機能と並んで、小売
りの注文に応じてピッキングした商品を、店舗
別・棚別に仕分けて素早く納品する、精度の
高い物流システムが求められる。
実際、大手卸はいずれも九〇年代以降、物
流拠点の建設や機能の高度化に巨額の投資を
断行している。 ただし、具体的な物流の仕組
みは同じ業界であっても各社で違いが見られる。
例えば食品卸業界では、国分と菱食の「二強」
がそれぞれ異なるコンセプトでネットワークを
第7回卸のロジスティクス戦略
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設計している。
菱食モデル
VS
国分モデル
最初に動いたのは菱食だった。 同社は九〇年
に取扱商品のフルライン化と物流機能の強化を
柱とする長期経営計画を策定。 従来の拠点網
をゼロベースで見直し、同社が「RDC
―FD
C構想」と呼ぶ、全く新しいアイデアに基づい
た物流ネットワークの構築に乗り出した。
全国を九つの経済ブロックに分割して、各
ブロックの中央に商品単品単位のピース・ピ
ッキングを集中的に処理するRDC(Regional
Distribution Center)を設置。 そのRDCを
衛星上に取り巻く形で主要納品先の近接地に、
ケース商品を仕分けるFDC(Front Distribu
tion Center)を配置するという設計だ。
加工食品の物流は、物量では約二割に過ぎ
ないピース・ピッキングの処理に、コストの約
八割を費やしている。 そこで手間のかかるピー
ス・ピッキングを最新のマテハン機器をフル活
用して自動化・省力化を徹底したセンター(R
DC)で集中処理することにした。 ピッキング
した商品は、ケースと同じサイズの折り畳み式
コンテナに投入。 それをFDCに横持ち輸送
して、他のケース商品と同じラインで店舗別・
棚別に仕分けて一括納品する。
この構想は当初、業界関係者の間では、R
DC
―FDC間の横持ち輸送が発生するため、
コスト効率が悪いと評価されていた。 しかし、
菱食は第一号拠点となる岡山RDCを九〇年
に稼働させたのを皮切りに、その後運用面で
の改善を重ねながら構想通りの拠点展開を進
めていった。
一方の国分は、九四年に「3OD(One
Order One Delivery)システム」を発表して
いる。 汎用型のインフラで全国を網羅する菱
食のネットワークとは対照的に、特定のチェー
ンストア専用の一括物流センターの構築・運
営を、案件ごとに請け負うという3PL的な
アプローチだ。 このほかにも国分は、食品スー
パーやコンビニなど、小売りの業態別に機能を
特化させた業態対応型のセンターや、従来型
の汎用型センターも展開しているが、ピース・
ピッキングを集中処理するという発想には立っ
ていない。
こうした物流の仕組みの違いには、両社の
経営戦略が如実に反映されている。 菱食は直
近決算まで一九期連続で実質的な増収増益を
達成しているが、基本的には施設回転率の向
上と、物流オペレーションの改善による継続的
なコスト削減を利益の最大の原資としている。
そのモデルは純粋な物流企業に近い。 それに対
して国分は「帳合い」と呼ばれる商流の確保
を重視し、物流サービスはそれを補完する機能
と位置付けている。
いずれのアプローチにも一長一短がある。 サ
プライチェーンの全体最適化という視点ではフ
ルラインの商品を品揃えした汎用型インフラで中間流通を処理する菱食モデルに分がある。 し
かし、過去一〇年続くチェーンストアによる一
括物流ブームは、むしろ国分の3PL的アプ
ローチのほうに追い風になっている。
SCMの舵取りは、ビジョンだけでは決めら
れない。 いかに大手卸といえども同じサプライ
チェーンを構成するパートナーを、意のままに
操ることはできない。 現実のマネジメントでは
サプライチェーン改革の時間軸に対する読みと、
それに裏付けされた的確な打ち手が問われるこ
とになる。
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