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FEBRUARY 2010 24
日水物流
──独自判断で先行投資を断行
日本水産の100%子会社でありながら外販比率7 割を誇る。
経常利益率は約14%に上る。 採算の取れない仕事は親会社か
らの依頼だろうと受け付けない。 2007 年にグループ内に分散し
ていた冷蔵倉庫事業を統合、財務基盤を強化して独自判断に
よる積極投資を展開している。 (聞き手・石鍋 圭)
外販比率は七割
──親会社の日本水産(ニッスイ)以外の荷主向け
売り上げ、いわゆる外販比率の現状は?
「約七割です」
──一〇〇%子会社としては極めて高い比率ですね。
「他の物流子会社と同様に、当社ももともとはニッ
スイの荷物が一〇〇%でした。 当時のニッスイは漁
労部門を持っていて、トロール船なんかで自ら魚を捕っ
ていた。 実は私も最初は船に乗っていた口なんです。
その捕った魚を保管するために冷蔵倉庫事業が立ち
上がった。 しかし、時代と共にニッスイの漁労部門
が先細りになっていき、ニッスイの荷物だけでは倉
庫が埋まらなくなってしまった。 そこで、外へ打っ
て出て他社の荷物を預かる戦略に段々とシフトして
いったのです。 外販の顧客層は流通系や冷凍食品メー
カーなどがメーンです」
──日水物流は売り上げも利益も安定的に伸びてい
ます。 連結経営の下では、物流子会社は儲けなくて
いいから親会社に貢献しろ、とするケースが多いが。
「うちの場合は自分達で儲けることがミッションで
す。 ニッスイの荷物が一〇〇%だった時代にはそう
いったこともありましたが、今は採算の取れない案
件ならたとえ親会社からの依頼であっても断ります。
もちろんニッスイもそのスタンスを認めている」
「二〇一一年はニッスイの創業一〇〇周年に当た
ります。 それに向けて現在、中期経営計画の『新T
GL計画』をグループで進めているのですが、われ
われ日水物流としては売上高一五〇億円、経常利益
二〇億円を目標として掲げています。 それを達成す
るためには親会社の分も含めて案件一つひとつの収
益性を厳しく精査する必要がある」
──外販の顧客である冷凍食品メーカーは親会社で
あるニッスイとはライバル関係にあります。
「メーカー同士、店頭では競争をしても、物流で
は互いに協力するという業界のコンセンサスができ
つつあります。 ニッスイが味の素冷凍食品やニチレ
イフーズと共同配送を進めていることが良い例でしょ
う。 かつては一緒のトラックに荷物を載せると、ど
の地区に何万ケース卸しているといった情報がライ
バルに筒抜けになってしまうという恐れから共同化
が敬遠されていました。 しかし現在はコスト効率を
重視するようになっています。 物流費が二割減、三
割減といった大きな効果が上がるのだから、やらな
い手はありません。 冷蔵倉庫事業にしても同じです。
ライバルの倉庫に荷物を預けるということにも、ほ
とんど抵抗は無くなっています」
──今回の本誌のランキングで日水物流が上位に入っ
たのは、子会社の統合による売り上げの拡大も大き
く影響しています。
「〇七年四月にニッスイの一〇〇%子会社である
東部冷蔵食品と西部冷蔵食品を合併しました。 さら
に存続会社である東部冷蔵食品に日本水産本体の冷
蔵倉庫事業を分割委譲し、社名を『日水物流』に
変更しました。 また、冷蔵倉庫事業ではありませんが、
〇八年には同じくニッスイ一〇〇%子会社の日水サー
ビスを解散させ、そのうち3PL事業を日水物流に
統合しました。 翌〇九年四月にはグループ内で配送
を行っているキャリーネットを日水物流の一〇〇%
子会社にするなど再編を進めています」
──再編・統合の狙いは?
「主にキャッシュフローの観点からです。 『大きい
ことは良いことだ』ではありませんが、合併して投
資のためのキャッシュフローを生み出そうというこ
御手洗一宇 社長
注目企業 トップが語る強さの秘訣
25 FEBRUARY 2010
とになったのです。 以前は冷蔵倉庫事業を行う会社
や部門がグループ内に三つありましたが、一社当た
りの年間のキャッシュフローの黒字は五億円ほどで
した。 冷蔵倉庫を作るのには大体一〇億から二〇億
くらい必要なのですが、単体ではその設備投資がな
かなかできない。 統合によってキャッシュフローが
二〇億円規模にまで大きくなりました」
不況下でも成長
──それで実際に投資も増やしたのですか。
「はい。 我々の業界では施設の規模を設備トン数
で表すことが多いのですが、〇八年四月には約一七
億円をかけて川崎物流センターに一万三六四〇設備
トンの施設を増設し、営業を開始しています。 また、
同じく〇八年八月には約三〇億円を投じて二万三
〇〇〇設備トン規模の大阪港物流センターを共同建
設しました。 今は建設費もピーク時に比べるとある
程度安くなっているので、条件の良い用地を取得で
きれば設備投資するには非常によい環境です。 今年
も一万二〇〇〇設備トンから一万三〇〇〇設備トン
ほど増強する事を検討しています。 日水物流の冷蔵
倉庫の総設備トン数は現在合計で約三五万設備トン
ですが、中長期計画を達成するためには当面は五〇
万設備トン規模にまで増やす必要があると考えてい
ます」
──何故それほど設備投資が必要なのですか。
「冷蔵倉庫事業は積極的に投資し庫腹を増やして
いかないと先がない商売です。 というのも、昔建て
た冷蔵倉庫の償却が順次進んでいて、二一年の法定
償却が終わっても、そのまま建設後四〇年から四五
年使っているのが現状です。 だからタイミングを間
違うと一挙に建て替えが来てしまう。 その時に代替
となる冷蔵倉庫が無ければ、顧客は逃げてしまいます。
同じ土地に建て替えるにしても、建て替えが終わる
のは二年、三年先になってしまうので、そんな長い
期間を顧客が待ってくれるはずがありません。 そこで、
代替の冷蔵倉庫を意識しながらの投資が必要なので
す。 資金があるうちに積極的に投資をして、持って
いる冷蔵倉庫全体のパイを増やしておかないと、ど
んどん尻すぼみになっていく」
──条件の良い投資先には事欠かないのですか。
「それがなかなか難しいところです。 先般、建て
替えが予定されている仙台の冷蔵倉庫の近くにある
二〇〇〇坪の土地を取得しましたが、この案件のよ
うにタイミングも立地も良い投資先というのが一番
望ましい。 既存の顧客をスムーズに取り込めますか
らね。 ただ現実にはこういった投資先ばかりではな
く、顧客ニーズの見えない先行投資も少なからず行っ
ているというのが現状。 先述した川崎物流センター
の増設分も、採算ベースの庫腹状態にするのに一年
ほどかかりました」
──建て替えではなく修繕という選択肢は?
「普通倉庫と違って、冷蔵倉庫は必ず一度潰さな
ければいけません。 冷凍による負荷が強く、あらゆ
る部品が著しく劣化します。 その上、冷媒を通すパ
イプは壁、天井に埋め込まれています。 そんな訳で
躯体や部品の大規模修繕・交換だけでの再生は現実
的には不可能です」
──一連の事業統合はプラスだった?
「はい。 一〇年三月期の業績は不況による影響で
当初の予算にこそ及びませんが、前年比で売り上げ・
利益共にプラス成長できる見込みです。 統合によっ
て体力がついていなければ、得られる結果ではなかっ
たと思っています」
地域子会社の統合で財務基盤を強化
日本水産の100 %子会社だった東部冷蔵食品と西部冷蔵食
品が合併し、さらにニッスイの冷蔵倉庫事業を統合して07年4
月に誕生した。 外販比率7割、経常利益14%を誇り、不況下
においても力強く成長している。
現在の同社の設備トン数は約35万トン。 ちなみ冷蔵倉庫1位
のニチレイグループが約130万トンでシェアの10 %を握ってい
る。 次いで横浜冷凍、マルハニチロ、東洋水産と続き、同社は
業界第5位、シェアは2 %強。 11年までに40万トンまで増強す
る予定だったが、グループ内での更なる統合などが一時頓挫し
たことなどから、この目標は遅れる模様。 ただし、御手洗社
長は当面50万トン規模の設備が必要だと判断している。
冷蔵倉庫事業は既存物件の減価償却などを念頭に置きながら、
タイミング良く好立地に投資することが求められる。 統合によっ
てキャッシュフローは得られたが、今後はどれだけ優良な投資
先を見出せるか、また、荷量の十分ではいない物件においては
どれだけ早く荷物を獲得し、回転数を上げられるかに成長のス
ピードが左右される。
日水物流業績推移
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
《売上高》 (単位:百万円)《当期利益》
06年
3月期
07年
3月期
08年
3月期
09年
3月期
売上高
当期利益
本誌解説
《平成22年版》
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